「Instagramで発信してたら、仕事になった」カリグラフィーがビジネスになるまで - 本 秀也

InstagramをはじめとするSNSや、結婚式のウェルカムボード、おしゃれなお店の内装……いたるところで「美しく書かれた文字=カリグラフィー」を見かけるようになりました。

手書きの魅力に注目が集まっている昨今。とはいえ「興味はあるけれど何から始めたらいいの?」「練習のコツは?」「仕事にするにはどうしたらいいの?」などなど、カリグラフィーの世界はまだまだ謎に包まれています。

そこで本記事では、カリグラフィー作家として活動されている本秀也さんにこれまでの歩みをお伺いしました。プロの目から見たカリグラフィーの面白さや、それがビジネスになるまでの歩みをひも解いていきます。

本秀也サムネイル

本 秀也(Hideya MOTO)
本 秀也(Hideya MOTO)

1987年宮崎県生まれ。SNSや動画サイトを見たのがきっかけで、自らもレタリング(カリグラフィー)に取り組み始め、現在はロゴデザインや看板デザインも手掛けている。 ハンドレタリングのワークショップの講師としても全国各地で活躍している。Instagram

きっかけはInstagram。カリグラフィーが仕事になるまで

まずは本さんの簡単なご経歴と、どんな経緯でカリグラフィーを始めたのか教えていただけますか?
3〜4年前、社会人になってから夜間の学校でデザインを学んでいたときに、たまたまInstagramに流れてきた海外のアーティストがカリグラフィーを書く動画に感銘を受け、自分も書けるようになりたいと思ったのが始めたきっかけです。あと当時、スティーブ・ジョブスがカリグラフィーに強い興味を持っていたことが話題にもなっていたのも理由のひとつですね(笑)。
それから独学で練習を重ねるうちにハマっていった感覚があって。小学生の頃に習字教室に通っていたこともあり字を書くおもしろさを経験していたことも繋がっている気がします。以来、自分でもInstagramにカリグラフィーを投稿するようになり、現在まで続けてきました。
日本ではまだまだロールモデルや学びの場も少ない中、どうやって腕を磨いていったのですか。
ほとんど独学なんですが、僕は主にSNSからカリグラフィーの手法を学びましたね。たとえばYouTubeには、カリグラフィーが盛んなヨーロッパやアメリカのアーティストがチュートリアル動画を上げているので、それらを見て勉強しています。やっぱり動画だと、止めたり巻き戻したりできてわかりやすいですね。カリグラフィーの勉強をしながら英語の勉強もできて一石二鳥なので、おすすめです。
あとはInstagramで、ツールや書き方、魅せ方を学んでいます。他のアーティストが制作した最新の作品を見て刺激を受けることが多いです。他にもPinterestを活用していますね。カリグラフィーの作品はもちろん、さまざまな書体のアルファベット手本を見られるのが魅力です。気になった作品の関連画像が次々に出てくるのも気に入っています。

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またカリグラフィーの基礎トレーニングとして、まずは「ながら練習」をオススメします。テレビや動画などを見ながら、要らない紙に楕円や ∞ を描き続けるんです。これでカリグラフィーの上達に必要な筆圧や字形の感覚を、手に覚えさせることができますよ。
そうして上達していくうちに、どんな流れから仕事に繋がっていったのでしょうか。
最初は友人の結婚式で使うウェルカムボードや写真にメッセージを書くなど、あまり予算にはこだわらず、まずは実績作りの仕事を受けていましたね。
そして公開できるものはInstagramに投稿するようにしていたら、DMで制作の依頼が来るようになりました。それからは企業とのお仕事も増えて、全国各地でワークショップ講師の仕事をするようになりました。
他にカリグラフィーに関わるお仕事としてどんなものがありますか。
飲食店やアパレルブランドのロゴ制作やファッション誌の表紙、飲食店の壁画や個人レッスンの依頼を受けています。最近では、ミュージシャンのMVのタイトルと歌詞を書く仕事をさせてもらいました(以下参照)。

フリーランスでアートやデザインを生業にする方の中には、クオリティと予算のバランスで悩んでいる方もいると聞きます。本さんが普段の仕事受注の中で意識していることや工夫していることがあれば教えてください。
文字数や書体、またクライアントの予算と熱量にもよりますが、僕はいまのところ、まずはどこまでもクオリティを追求するようにしていますね。お題に対して数パターンを提出して選んでもらうことが多いですが、喜んでもらえるなら何度も直す姿勢で向き合っています。幸い、このやり方でトラブルになるようなことはいままでありませんでした。
ただ、お互いのイメージを事前にすり合わせておくことでよりよい作品を早く提出できると思うので、僕のInstagramなどを事前に見てもらって、近いイメージを教えてもらうようにしています。
本さんのInstagramをポートフォリオ代わりにイメージを共有しておくことで、両者のイメージの齟齬がないようにされてるんですね。
そうですね。ちなみに予算に関しては、クライアントの予算次第で仕事を受けているので、あんまり単価交渉とかはしないです。

広がるカリグラフィーの輪。本さんが考える”手書き”の魅力

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本さんはカリグラフィーをお仕事にされていますが、カリグラフィーの価値はどこにあると考えていますか。
僕は「手書き」という部分に価値があると感じています。
一口にカリグラフィーと言っても、表現の幅は無限大にあるんです。筆圧の強弱で線の太さが変わるので、ペンをコントロールして線の太さを変えていく過程や、線と線の間隔、文字としての形、単語としてのまとまりなど、たくさんのポイントがあります。
そして特に、筆のテクスチャが出るところが、手書きらしくて僕は好きです。フォントにも手書き風のものはありますが、それと本物のカリグラフィーとは「ふぞろい感」「生っぽさ」といった点で大きく異なります。例えば同じ「a」という文字でも、何度も書くと全部微妙に違う形になる。綺麗に揃わないところが魅力なんです。
また、そういったカリグラフィーの魅力を伝えることにも価値を感じています。
ワークショップやレッスンを開催すると、参加者の多くは他にお仕事をされている方や主婦の方で、9割程はカリグラフィーが初めてなのですが、みなさん真剣に書かれており、楽しんでいただいています。思い通りに書くのはなかなか難しいですが、自分が気に入った字が書けると達成感を感じられて楽しいんです。そんな姿を見ていると一番やりがいを感じますし、今後も続けていきたいと思いますね。
ちなみに2017年から『HAND-WRITTEN SHOWCASE(ハンドリトゥン ショーケース)』という、有志による手描きアーティストたちのイベントを開催しているのですが、2年連続で1,000人程のお客さんが来場されました。当日のライブペインティングやワークショップ、グッズ販売など、かなり盛り上がっていましたね。
1,000人はすごいですね……! まだまだプロとして活動している方は少ない業界かと思いますが、カリグラフィーの世界にはどんな方がいらっしゃるのでしょうか。
SNSを見ていると、プロでなくとも手書きをしてる方はすごく増えてきている印象ですね。ここ1年半程で、ワークショップに参加される方も増えています。また商品のパッケージデザインなど、生活している中でも手書き文字をよく見かけますよね。プロダクトデザインに関わる場面でもカリグラフィーが活躍していると思います。
自分のまわりでは「カリグラフィー×◯◯」といったように、何かと掛け合わせて作品にしている方もいらっしゃいますね。自分で撮った写真にカリグラフィーを重ねたり、イラストと組み合わせたり、空間デザインの中に落とし込んだり。

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カリグラフィー単体だけではなく、自分の他の作品と組み合わせることでオリジナリティーが無限大に広がりますね。
では、これから日本のカリグラフィー業界にはどんな展開が待っていると思いますか。
個人的な希望としては、日本でもカリグラフィーとか手書きの価値がもっと浸透していったらいいなと思いますね。歴史的背景もあるかと思いますが、海外ではすでにそういった文化があるので。たとえば日本では習字や書道などの文化がありますが、カリグラフィーもそれくらいの立ち位置が確立されたら素敵だなと思います。

まずは書いて、発信しよう

これから同様の分野に踏み出したい人に向けて、アドバイスはありますか。
ひとことで言うなら、「まずはやってみて」ということでしょうか。
僕も始めたばかりの頃は全然思い通りに書けなくて、自分の中にある完璧を追い求めるあまり、何度も挫折し、書かない時期もありました。
過去の自分にも伝えたいことですが、完璧なものができなくても、まずは続けること。そしてなんでも発信してみることが大切だと思います。というのも、自分の作品の価値は、自分だけでは分からないから。自分では完璧と思っている作品にあまり反響がなかったり、逆にこれは改善の余地ありと思う作品が周りから好評価を受けたりすることも多いです。そしてとにかく書き続けて発信していると、しばらく会っていなかった知り合いから依頼が来たりと、嬉しいこともあります。
それから、カリグラフィーは書くものと紙があれば始められるのでお金もかかりませんし、ハードルは限りなく低いと思います。僕がよく使っている筆ペンも100〜300円と安価なものですが、表現の幅は十分にあります。書くツールや塗料の種類も沢山あるので、SNSから探し、気になったものを真似して書いてみると良いと思います。
カリグラフィーはさまざまなスタイルがあるので生涯続けられる趣味にもなりますし、上手い下手に関係なく、「手書きは価値がある」と僕は思っています。興味を持ったらまずやってみるという姿勢が大事ですし、僕もそれを忘れずに続けていきたいです。

最後に、本さんにお願いして『Workship』を書いてもらいました。ありがとうございます!

本秀也:Instagram

 

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