厳しい時代でも「フリーランスからの転職が決まる人」の共通点は?採用のプロが語るフリーランスエンジニアの勝ち筋
- AI/人工知能
- インタビュー
- フリーランス
AIの進化や人件費削減、カルチャーギャップ……
前編では、フリーランスエンジニアを取り巻く転職市場の厳しい現実を聞きました。
「正社員になりたいけれど、今のスキルや働き方では難しいのかもしれない」——そう感じた方も多いかもしれません。
しかし、採用のプロ・久松剛さんは断言します。
「先回りして対策すれば、フリーランスでも十分チャンスはある」。
では、実際に決まる人と、決まらない人の違いはどこにあるのか?
スキル、マインド、人間関係、そして希望年収の決め方まで。後編となるこの記事では、フリーランスが採用を勝ち取るためのリアルな突破口を掘り下げます。
▼前編はこちら 「AIが人を減らす」時代。フリーランスエンジニアの正社員転職にいま何が起きているのか Workship MAGAZINE

エンジニアリングマネージメント株式会社 代表取締役。「レンタルEM」としてスタートアップから老舗企業まで幅広く組織改善を支援。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で研究職を経て、ネットマーケティング上場時に情シス部長を務める。その後レバレジーズで開発部長・技術顧問、LIGで海外開発拠点EMや採用コンサルを担当。現在はエンジニア採用・研修・評価制度構築やブランディング支援などを行い、セミナー登壇も多数。

フリーランスの編集者・ライター。コンテンツマーケティングやディレクション、マネジメントに仕事の幅を広げ、2021年7月に1人会社を設立。博士(人間・環境学)(←って何???)。趣味はゲームと放浪。(X:@Natsuno_Kaoru)
目次
夏野:
前回は、いろいろな面でフリーランスにとって逆風が吹いているというお話でした。
ぶっちゃけ、もうフリーランスから正社員転職は難しいんでしょうか?うまくいく可能性って、ほとんどないんですか?
久松:
そんなことはありません。
これまでお話ししてきたのは、あくまで企業が警戒しがちなパターンをすべて挙げただけです。
実際には、ハイスキル層の採用は今でも活発ですし、それ以外の層でも、先回りして対策できれば十分にチャンスはあります。
夏野:
先回り、とは?
久松:
たとえば、こんな感じですね。
【スキル面】
- 日々の自己研鑽を怠らない
- 可能であれば、マネジメントやリーダー経験を積ませてもらう
【カルチャー面】
- 初めから「フルリモート希望」と書かず、「オンボーディング期間のみ出社可」「徐々に出社を減らしていきたい」など、柔軟な姿勢を示す
- 「自宅近くの支社なら週2で通える」などの条件緩和で転職が決まったケースも。とにかく対話する意志を伝える
「これじゃないと無理です」と線を引くより、「こういう条件なら可能です」とポジティブに言い換えるだけで、企業側の印象は大きく変わります。
もちろん、人によって譲れない条件はあると思いますが、「コミュニケーションする気がありますよ」というサインを出しておくのは非常に大切です。
夏野:
なるほど。人格面で「扱いづらい」と思われないことが大事なんですね。結局のところ採用も、人と人との関係ですもんね。
久松:
そうなんです。スキル以前に「一緒に働けそうか」という感覚が採用の決め手になることも多いので。その点を意識するだけでも、結果はかなり変わりますよ。
夏野:
ちなみに、年収についても伺いたいです。
フリーランスと正社員では、就業形態も保険も全く違いますよね。同じ「年収1000万円」と言っても、実際の手取りや生活感はまるで別物です。
それを理解せずにフリーランス時代と同じ水準を提示してしまうと、前編で挙がっていた「単価ばかり高い」印象につながるのかなと……。
現実的な希望年収を考えるうえで、目安やアドバイスはありますか?
久松:
そうですね。以前は「フリーランス時代の半額くらいまでが許容範囲」と言われていた時期もありました。
たとえば、フリーランスで年収1000万円なら、正社員で年収500万円前後が「実質的に同じくらい」のイメージです。
ただ、最近は事情が変わっています。
フリーランスの中には節税を徹底して、家賃などを経費にしている人も多いです。一方で、企業によっては福利厚生が非常に充実していて、額面には表れないメリットも多い。こうなると単純な比較は難しいですね。
夏野:
分かりやすく言うと、「会社の福利厚生でジムが無料!」みたいなケースもありますよね。そういう要素を含めると、たしかに一概に比較できませんね。
久松:
まさにそうです。
だからこそ最終的には、「自分が楽しく暮らしていける金額はいくらか」を基準にするのが大事です。ファイナンシャルプランナー(FP)などに相談して、具体的にシミュレーションしてもらうのも良いでしょう。
夏野:
なるほど。
私、本業は研究者なんですが、周りの友人はみんな大学の先生なんです。そうすると「土日に学会に出たら手当や代休が出る」という世界で。「そんな制度があるのか!」と驚きました(笑)。私はポケットマネーで学会行って、もちろん代休もなしですからね。
久松:
分かります。私も大学院が長かったので、社会に出て初めて「健康診断」や「有給休暇」に感動しました(笑)。
夏野:
分かります!「お金をもらって休んでいいの!?」って衝撃ですよね。
久松:
「資格取得支援手当って何!?」って(笑)。
夏野:
ほんとに。そう考えると、額面だけで判断せず、福利厚生や安定性も含めて、トータルで見た生活をイメージしたほうが良いですね。そのためにも、FPに相談するのはすごく現実的な方法だな。
久松:
その通りです。数字の比較ではなく、生き方として納得できるかどうかを基準に考えるのが大事ですね。
夏野:
あと、前半では「年齢を重ねると転職が厳しい」という話も出ましたが、実際そのあたりはどうなんでしょうか?
久松:
年齢を重ねていても転職できる人には、明確な共通点があります。それは「現役感」「腰の低さ」「柔軟性」です。
特に後者2つは、意識して鍛える必要がありますね。IT業界は特に若いメンバーが多く、上司がかなり年下になるケースも珍しくありません。そのときに「指示を素直に受け入れられるか」は非常に重要なポイントです。
腰の低さとは、つまり「頼みやすさ」。相手の指示に対して「わかりました」と柔らかく応じられるかどうかですね。
柔軟性も同じで、「前職ではこうでした」と過去のやり方に固執するのではなく、新しい環境に合わせる姿勢が求められます。
夏野:
わかります。あまり言えませんけど、私も自分の会社でフリーランスさんとの面談をしていて、ご年配の方から、すごく居丈高な態度を取られたことがあります。やっぱりそういうのは良くないですよね。
久松:
そうですね。
コミュニケーションの温度感を間違えないためには、たとえば年齢に関係のない趣味コミュニティなどに参加して、若い世代とのやり取りに慣れておくのも良いと思います。自分の中にある「年齢の壁」をなくすことが大切です。

▲コミュニケーションの壁をなくすために、さまざまなバックグラウンドの人と関わる練習を積んでおこう
夏野:
これまでの話は「どうデメリットをカバーするか」でしたけど、逆に、年齢を重ねたフリーランスだからこそアピールできることってありますか?
久松:
もちろんあります。
フリーランスならではの強みとして、複数の企業と関わってきた経験が挙げられます。それぞれの会社で「うまくいった仕組み」や「課題になっていた部分」を理解している。これは一般的な転職者にはない貴重な視点です。
夏野:
確かに。私も「他社だと〇〇をどう管理していますか?」と聞かれることがあります。そういう部分が求められるんですね。
久松:
そうなんです。多様な企業での経験をもとに提案できる力は、年齢を重ねたからこそ生まれるものですから。ただしこれも、「上から話す」のではなく、あくまで「共有する姿勢」で伝えると好印象ですね。
経験やクライアント数の多さは、むしろ武器になる。そこは自信を持ってアピールしていいと思いますよ。
久松:
それと、年齢に関係なく転職がうまくいっている人には共通点があります。
それは、フリーランスとしてすでに信頼関係を築いたうえで正社員登用されるケースが多いということです。
分かりやすいのは、クライアントの会社にそのまま入社するようなパターンですね。この場合、スキルも人となりも理解されているので、スキルアセスメントもリファレンスチェックも不要です。
一次面接やカジュアル面談も、ポジションのすり合わせ程度で済むことが多く、社長と食事をしながら話すくらいの感覚で決まることもあります。
実際に、調子の良いスタートアップで、社内エンジニアが退職して困った際に、外部のフリーランスへ声をかけ、CTOとして迎え入れるようなケースも目にしました。
夏野:
なるほど。スキルを磨くのはもちろんですが、フリーランスにありがちな不安要素を、人柄を知ってもらうことで解消していくわけですね。
企業にとっても、エンジニアを転職エージェント経由で採用するのはコストがかかる。フリーランスから登用できれば、時間と費用を削減できると。
久松:
そのとおりです。
リファラル、つまり人的ネットワークの力は非常に大きいです。というのもリファラル経由の場合、求人に載っている枠に応募するというよりも、どんな仕事を任せられそうかを話し合って調整していく流れになるんです。いわゆるオープンポジションでの採用になるわけですね。
話を重ねる中で、既存の業務から一部を切り出して担当してもらう、ポジションメイクが発生するケースも珍しくありません。
夏野:
あ〜、分かります。
私もライターの知り合いと話しているうちに、動画制作が得意だと聞いて、「それなら、動画コンテンツに挑戦したがっているクライアントがいるので紹介しますね」とつないだことがあります。もともと存在しなかった役割が生まれたわけで、まさにポジションを作った形ですね。
久松:
まさにそれです。
やっぱり、人とのご縁って侮れないんですよ。だから、転職するしないに関わらず、なるべく幅広い人との関係性を温めておくことが大切です。いざ転職を考えたときに、気軽に相談できる相手がいると強いですから。
そしてもう一つ。どんなことがあっても、ネット上でネガティブな発信は避けることです。
業界は意外と狭く、「口が堅い」「自制できる」印象が信頼につながります。人脈は築くだけでなく、壊さない努力も同じくらい大切です。
夏野:
何度でも思い出したい教訓だ。
夏野:
とはいえ、人脈もつながりもない場合、もう正面から応募するしかないわけですよね。そんなときはどうしたらいいでしょうか。
久松:
その場合は、まずフリーランスとして参画してみるのがおすすめです。いきなり正社員として入るよりも、お互いのミスマッチを防ぎやすい。いわば「お試し期間」のような考え方ですね。
企業が感じる最大の懸念は「不安」です。それを取り除くためにも、まずはプロジェクト単位で一緒に仕事をしてみる。
フリーランス側にとっても、会社の文化やチームの雰囲気を確かめられる良い機会になります。3か月ほど試してみて、合いそうなら正社員として継続する。そんな進め方が健全です。
夏野:
たしかに、最初から「もう逃げられない」みたいな状況で始めるよりも、お試しで関われるほうが双方安心ですね。
久松:
ただ、これは企業に向けてお伝えしたいのですが、このときに大事なのは、とにかく気軽であることですね。
副業人材のケースでは、こんなことも起きました。企業側が「副業人材の活用を進める」と言ったものの、いざ制度を整える段階になると、「いずれ正社員として入社してくれるなら、副業として参画してもよい」といった条件を付けてしまったのです。これでは、柔軟な働き方とは言えません。
夏野:
あるある!友人の会社でも同じような話を聞きました。副業OKになったと喜んでいたのに、制度を見たら「誰が使えるんだこれ」と思うような制約が並んでいたそうです。「そこまでリスクを嫌うなら、やめておけばいいのに」みたいな。
久松:
そうなんです。新しい働き方を制度化する途中なので仕方ない部分もありますが、フリーランスの登用にも似た傾向がありまして。
企業が「いずれ正社員になってほしい」と強く求め、本人もそれに合わせる形で動く、みたいな。でもそれだと、企業側だけが「いつでも切れる」というメリットを得る構図になりますよね。
夏野:
そうなると非対称ですもんね。
久松:
はい。ですから本来は、フリーランスとして関わってみて、お互いに納得したうえで正社員化するのが理想だとお伝えしておきます。
色々と厳しいお話もしてきましたが、結局のところ、仕事探しはマッチングです。
まずは一緒に働いてみて、自分に合う会社を探す。そうやって柔軟にキャリアを設計していくのが、これからの時代に合ったやり方ではないでしょうか。
夏野:
リスクや現実は正しく認識しつつ、自分らしい働き方ができる場所をうまく探していけたらベストですね。久松さん、ありがとうございました!
フリーランスとしての経験は、けっして転職の妨げではありません。むしろ、多様な現場で培った柔軟性や視野の広さこそ、今の時代に求められる資質です。
大切なのは、「自分はこういう人間です」と壁をつくるのではなく、「一緒にやってみましょう」と対話する姿勢を持つこと。
人とのつながりを大切にしながら、まずは一歩踏み出してみるのが、結局のところ近道なのではないでしょうか。
フリーランスでも、正社員でも、どちらを選んでも間違いではありません。
どんな道であろうと、「経験としなやかさ」が次のステージへつながっていく——そう信じて、まずはひとつでもアクションしてみませんか?

▲出典:Workship CAREER
『Workship CAREER(ワークシップキャリア)』は、フリーランスや副業で培ったスキルを活かし、次のキャリアステージへ進みたい人のための“正社員転職プラットフォーム”です。
トランジション採用(業務委託から正社員転換)や、副業を認める企業、週3勤務の正社員など、柔軟なキャリア設計を実現できる求人を多数掲載。スキルやライフスタイルに合わせた新しい働き方を提案します。
また、リモートワーク・ハイブリッド勤務可能な求人に特化しており、全国どこからでも自分らしいキャリアを築けるのが特長。毎日の通勤に縛られず、成果にフォーカスした働き方を目指す方に最適です。
さらに、デザイナー・エンジニア・マーケターなど、IT・DX領域に精通した専門エージェントが在籍。業界動向や報酬相場を踏まえたキャリア相談・条件交渉を通じて、理想の転職をサポートします。
「Workship CAREER」は、これまでの経験を最大限に活かしながら、あなたの“次の働き方”を実現するための伴走パートナーです。
(執筆・編集:夏野かおる)
フリーランスから正社員転職「決まる人」「決まらない人」