「AIが人を減らす」時代。フリーランスエンジニアの正社員転職にいま何が起きているのか

「AIが人を減らす」時代。フリーランスエンジニアの正社員転職にいま何が起きているのか

「フリーランスでも、スキルがあれば余裕で転職できるでしょ?」

……そんなふうに思っていませんか?

現実は、想像以上にシビアです。コロナ禍で一気に広がった「自由な働き方」の波が落ち着いた今、企業はむしろ採用を絞り込む時代に突入。

不景気感とAIの進化で人を減らす方向へシフトしたこともあり、未経験や中堅層には容赦ない逆風が吹いています。

「フリーランスは契約上リスキー」「条件にうるさい」「社会人基礎力に不安がある」

企業側がそう感じているという、耳の痛い現実も。

というわけで今回は、20社以上の採用支援を手がけるフリーランスエンジニア採用のプロ・久松剛さんに突撃取材。

AI・人件費・カルチャーギャップ……いま、フリーランスエンジニアを取り巻く採用市場の厳しい現実を、全部聞いてきました。

果たして、「フリーランスから正社員」という道は、まだ残されているのでしょうか?

話し手:フリーランスエンジニア採用のプロ 久松 剛
話し手:フリーランスエンジニア採用のプロ 久松 剛

エンジニアリングマネージメント株式会社 代表取締役。「レンタルEM」としてスタートアップから老舗企業まで幅広く組織改善を支援。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で研究職を経て、ネットマーケティング上場時に情シス部長を務める。その後レバレジーズで開発部長・技術顧問、LIGで海外開発拠点EMや採用コンサルを担当。現在はエンジニア採用・研修・評価制度構築やブランディング支援などを行い、セミナー登壇も多数。

聞き手:夏野かおる
聞き手:夏野かおる

フリーランスの編集者・ライター。コンテンツマーケティングやディレクション、マネジメントに仕事の幅を広げ、2021年7月に1人会社を設立。博士(人間・環境学)(←って何???)。趣味はゲームと放浪。(X:@Natsuno_Kaoru

「在宅で稼げる」の先に待ち受ける壁

夏野:
まずは、久松さんが普段どのようなお仕事をされているのか教えてください。

久松:
私は現在、採用支援や制度設計を行っており、人材紹介会社やRPO(採用代行)、フリーランスエージェントなどの顧問を務めています。相談内容は主にエンジニア採用に関するものが多いですね。大手からスタートアップまで幅広い約20社とお取引があります。

夏野:
まさに「エンジニア採用の裏側をよく知るプロ」ですね。ではさっそくですが、フリーランスエンジニアの正社員転職について伺いたいです。ズバリ、難航するケースも多いのでしょうか?

久松:
そうですね。この話をするには、まず「今フリーランスエンジニアとして活動しているのはどんな人か」を整理する必要があります。少し長くなってもよろしいですか?

夏野:
ぜひお願いします。

久松:
実は、「フリーランス的な働き方」は2000年代以前から存在していました。社内の年功序列的な給与制度では評価しづらいけれど、特定の分野で大きく貢献している人に、別の契約形態で報いる――そんなスペシャリスト型の人材が、今でいう「フリーランス」の始まりでした。

2010年代になると、ソーシャルゲームのバブルが起きました。この時期に大手フリーランスエージェントが躍進し、ハイスキル層だけでなく、一般的なメンバー層のエンジニアもフリーランスへ転身するようになります。

そして2019〜2020年には、コロナ禍に伴って様々な業界が不安定に。なおかつリモートワークが普及したことで、「IT業界で安心して働ける」「在宅で稼げる」を売りにしたプログラミングスクールがブームになりました。

▲「ビーチを眺めながらリモートワーク」みたいなイメージ画像、あの頃、たくさん見ましたよね…

久松:

ところがこのプログラミングスクールのなかには、問題があるスクールもありました。「エンジニア転職」や「転職保証」といった謳い文句で人を集めているものの、実態としては「数えきれないほどの企業に無理筋の応募をさせる」「それでも3ヶ月以内に決まらなければ、提携するSESに送り込んで終わり」といったスクールもあったのです。

これではさすがに、受講者側も「なんか違う」と気づきます。そこでイメージが下がった結果、スクールは方向転換して「フリーランスになろう」というメッセージを打ち出し始めました。

フリーランスなら、開業届さえ出せば誰でも名乗れます。「自由」「フルリモート」「ワーケーション可能」といったワードも相まって、急速にポジティブなイメージが広まりました。

そして、情報商材やプログラミングスクール、過激なLP(ランディングページ)が組み合わさり、「フリーランスで年収1000万」といった、一種ミーム化したようなキャッチコピーがあちこちで見られるようになったのです。

……こうした流れが、IT業界におけるフリーランス隆盛の大まかな経緯なのですが……この“自由ブーム”のツケが、いま転職市場で表面化しているんです。

どういうことかというと、今「正社員を目指しているフリーランス」は、コロナ禍を機に独立した層が中心。スキル的にこれから伸びていく段階の人も多いわけです。

一方で、このあとに詳しくお話しするのですが、企業が新たに採用するエンジニアに求めるレベルは年々高まっています。そこにミスマッチが生じやすいのが、いまの現状だと思います。

夏野:
そんなことが起きていたのか……。

“自由人”では通用しない。企業が警戒するフリーランス像とは

久松:
スキル面とは別に、カルチャー面でも「(元)フリーランスはリスキーだ」という印象を持つ企業が増えています。

コロナ禍をきっかけに独立した方の中には、フルリモートへの強いこだわりを持つ人も多いです。こうした方は応募の際に、最初の一文から「フルリモート希望」と記載してしまうこともある。企業としては「条件にこだわりが強そう」という印象を受け、慎重になる傾向があります。

それから、ご本人の行動に波があるパターンですね。もちろん、正社員以上に責任感を持って働く方もたくさんいます。ただ一方で、トラブルが発生すると、必要な対話すらせずに最初から弁護士を立ててくるようなケースもあります。企業からすれば非常にリスクが高い存在に映ってしまうのです。

また、仕事の選り好みも懸念点のひとつです。契約時に仕事内容が明示されていなかった場合は企業側の落ち度ですが、明確に示しているにもかかわらず「これはやりたくない」「この進め方は好きじゃない」と言って着手しないのは問題です。企業からすれば、扱いづらい印象になりますね。

夏野:
労働者として権利を守ることはもちろん大切ですが、最初から対話を拒むような姿勢だと、企業側もやりづらいですよね。担当者も人間ですし。

久松:
まさにその通りです。そこに関連して、「社会人基礎力」という話も挙げたいと思います。

夏野:
社会人基礎力?

久松:
はい。たとえば、古くからあるWeb制作会社や受託開発企業の中核層には、就職氷河期世代の方が多くいます。彼らの多くは、最初から今の会社に勤めていたわけではなく、契約社員や非正規として働いたあとにエンジニアへ転身しているんです。

そのため、新卒研修のような教育を受けていない人が多く、一般的なビジネスマナーを知らないケースも少なくありません。エンジニア業務に関しても、タスク管理の方法が自己流で、精度が低いという話を見聞きします。

実は、フリーランスから転職を目指す人も、同じ部分でつまずくことがあるんです。もし心当たりがある場合は、信頼できるビジネスマナー本を一冊読むだけでも印象が変わりますので、やって損はないでしょう。

夏野:
耳が痛い〜〜〜。でもすごく分かります。私もいまだに、もらった名刺をどこにどうしまえばいいのか分からなくて、横目で他の人の動きを盗み見てごまかしています。

久松:
(笑)。でも、笑い事ではなくて。そうした積み重ねの結果、企業側がどう動くかというと……フリーランスではなくSES(エンジニアの派遣会社)を利用するんです。

夏野:
ほうほう。

久松:
SESの場合、在籍しているエンジニアは、失礼な言い方をすれば「在庫」です。働いてもらわないと給料の払い損になるため、企業側が教育や管理を行いますし、トラブルが発生すれば、クライアントに迷惑をかけないよう代替人員をすぐに派遣します。

一方、フリーランスにはそうした「ケツ持ち」がいません。問題が起きても誰も代わりに対応してくれない。これも、「フリーランス=リスクが高い」という認識の一因です。

夏野:
厳しい〜〜〜。どんどん滅入ってきた。

人件費は削減フェーズ。事業会社の台所事情は「かなり厳しい」

久松:
そもそもの話になりますが、いま、事業会社の経営状況はかなり厳しいんです。コロナ禍で一時的にIT需要が急増しただけで、現在はニーズが落ち着いているので。

しかも、コロナ期にはエンジニアの待遇が大幅に上昇しました。その結果、人件費が経営を圧迫しているので、むしろ削減フェーズに入っている企業も少なくありません。

そんな状況の中で新たに採用してもらうには、それ相応のスキルや実績が求められる。これは現実として理解しておいたほうが良いと思います。

▲ITバブル時代に採用したエンジニアの人件費が、企業の経営を圧迫しているケースも

夏野:
確かに、いっときよりも「ITバブル」感は薄れたような気がします。

採用を絞るとなると、冒頭でおっしゃっていた「企業が求めるレベルが上がっている」という話にもつながりますね。

久松:
まさにそうです。

一般論として、20代であればどの業界でも「ポテンシャル採用」を狙えます。未経験や経験が浅くても、正社員を目指せるでしょう。

しかし、20代も後半になると採用のハードルが非常に高くなるんです。即戦力であることは前提で、さらにリーダー経験やマネジメントスキルが求められるケースが多いですね。

ただ、コロナ禍を機にフリーランスになった方々は、経験年数こそ5〜6年あるものの、チームを率いた経験がないことがほとんど。しかも「フルリモート希望」が条件にあると、なかなかマッチングしづらい状況です。

年齢が上がると、さらに厳しさは増します。

50〜60代の場合、かつてSIerなどで働き、役職定年や早期退職を経て独立した方が多いのですが、事業会社での転職はかなり難航します。

リファラル(知人紹介)で入社できれば理想的です。人材紹介会社を経由する場合、会社によっては70社以上に応募することを強要されます。

最終的にはSES(システムエンジニアリングサービス)での就業に落ち着くことが多い、というのが現場感です。

夏野:
そうなんですね……。30代中盤の私、たいへん身が引き締まります。

「未経験を育てる余裕はない」AI時代にシフトする採用現場

夏野:
それと、気になるのはAIの影響です。先日、Workship MAGAZINEで公開したAI関連の記事もかなり反響が大きくて。エンジニア界隈ではどうでしょうか?

▼大きな反響を呼んだ「AIに仕事、奪われてね?」企画


久松:
影響はかなりありますね。特にジュニア層やミドル層には、かなりの逆風が吹いています。

思い出して欲しいのですが、少し前まで「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が流行っていましたよね。ただ、このときは「業務が便利になる」「残業が減る」といった効率化がスローガンで、経営者も「DXで月20〜30時間の削減です」と聞けば満足していました。

ところがAIの場合、そのレベルの業務改善では通用しません。「100時間削減しました」と言っても、「それくらいじゃ従業員は減らせないな」と不満顔になる。つまり、経営者側には「やっと本格的に人を減らせる時代が来た」という期待感があるわけです。

夏野:
分かりやすく言えば、「問い合わせ部門を丸ごとなくして、AIに置き換える」くらいのインパクトが求められているんですね。

久松:
そうなんです。こうなると「未経験を採用して育てよう」という発想には到底なりません。

実際、ある大手メガベンチャー企業が、数か月前に人材紹介会社向けに出したアナウンスではこう書かれていました。「今後はシニアエンジニアを継続的に採用し、AIを活用して業務に当たってもらいます。ジュニアおよびミドル層の採用は行いません」と。

さらに「採用数は絞りますが、当社は引き続き成長を続けています。経営状態を誤解しないでください。シニアエンジニアのご紹介はいつでも歓迎します」とまで明記されていました。これが、成長企業の採用方針なわけです。

夏野:
「お金はあるけど、未経験はいらない」と。本音が鋭すぎるだろ。

でも、業務効率化となると、業務の全体像を把握して改善をリードするのは、どうしてもジュニア層には難しいですもんね。そうなると採用を絞ることにつながりそうです。

久松:
おっしゃる通りです。

ジュニア層を採用するケースは、人手が足りすぎてどうにもならないときか、将来を見越して育成目的で採用する場合、あるいはリファラルで「この人なら信頼できる」「自分が面倒を見ます」といった推薦がある場合に限られます。

夏野:
「尖ったスキル」か「人柄への信頼」、どちらかがないと厳しいってことですね。

久松:
そう言わざるを得ません。ここで冒頭の話に戻るのですが、今のフリーランスエンジニアについて、スキルのボリュームゾーンはというと……。

夏野:
なかなか厳しい方もいる、という話でした。

久松:
そうなんです。だから、リファラルが頼れない場合、なかなか苦戦してしまう。

そもそもフリーランスというのは、クライアント企業から「頼んだ仕事だけやってくれればOK」と見られがちな就業形態です。

新卒正社員であれば、少しずつ難易度の高い仕事を与えたり、先輩社員が面倒を見たりしてスキルの向上に努めるわけですが……。

フリーランスとなると、企業側にとっては育成する義理がないので、スキルが初級レベルのまま5〜6年経過してしまうことも多い。結果として「スキルは初級、でも希望条件は高い」という印象を与えてしまうんです。

夏野:
うわぁ……それは確かに、企業から見れば採用をためらってしまいますね。ここをどう乗り越えるかが、成否を分けるんですね。

まとめ:自由の裏にあるリスクを正しく理解して、次の一歩へ

フリーランスとして自由に働くことは、間違いなく魅力的です。しかし、その自由には覚悟も求められます。

採用市場の変化、AIの進化、企業の人件費削減……。

こうした外部要因が重なり、今のフリーランス市場はかつてないほど厳しい環境になっているようです。

けれども、悲観する必要はありません。企業が求めるポイントを理解し、信頼を積み重ねていけば、フリーランスでもチャンスは十分にあります。

実際、採用の最前線では「決まる人」と「決まらない人」の違いがはっきり見えてきているのだとか。

その分かれ道はどこにあるのか?

後編では、フリーランスエンジニア採用のプロ・久松剛さんに「フリーランスでも正社員転職を叶える人の共通点」を詳しく伺います。

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▲出典:Workship CAREER

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(執筆・編集:夏野かおる)

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