【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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社長といえば、会社で一番の権力者で、お金持ちで、なんかえらそうでそんなに働かない……みたいなイメージを持っているのは、わたしだけじゃないハズです。
初っ端から、偏見にまみれた書き出しですみません。フリーライターの少年Bと申します。社長、なりたいですよね。えらそうに「ちょっと君、あれをやっておいてくれたまえ」とか言いたいです。
ところが、わたしの知人の松澤さんは、社長でありながら、単発バイトアプリで働きまくっているそうなんです。社長ならそんなに働かなくてもいいんじゃないの? いったいどうして? というわけで、実際に話を聞いてみることにしました!
1982年東京都生まれ。国内旅行業務取扱管理者。「合同会社別視点」「マニアな合同会社」の2社経営。2011年より日本中の変わった観光地(珍スポット)を紹介するサイト『東京別視点ガイド』を始める。1,000ヵ所以上巡った珍スポットマニア。(X:@matsuzawa_s)
ぶどうマニアのフリーライター。これまで経験したアルバイトは郵便配達とファミレスの厨房、それから「コンビニ弁当配達用の大きなトレーを、朝から晩までひたすらクソデカ洗浄機にぶち込む仕事」。(X:@raira21)
少年B:
松澤さんはご自身でも合同会社別視点やマニアな合同会社など、2社の代表として活動している立場ですが、どうして単発アルバイトを始めたんですか?
松澤:
まず一番はお金目的ですね(笑)。経験したいことがある、身体を動かしたい……理由はたくさんあるんですが、お金をもらえるからやりがいがあります。
僕が使ってた単発バイトアプリは、バイトが終わったら即入金されるんで。RPG感覚で経験値とゴールドを稼げるのが、なんかおもしろかったんですよね。
少年B:
おもしろかった?
松澤:
指示されたことを黙々とこなしていくのが楽しくて。言うならば「サウナに入ってる感覚」や「マラソンをやってる気持ち」に近いっていうか……。単純作業を繰り返すのが気持ちいいって感じですね。
企画を考えたり、各所への調整をしたり、プレゼンして仕事を取ってきたり……。いわゆる社長業は、仕込み段階に使う時間も長いんですね。
少年B:
自分は社長経験はないんですが、確かに何となくそんなイメージはあります。
松澤:
ところが単発バイトって、その日来て速攻働き始めるので、いきなりプレイヤーとしてバリバリ働ける。特に、単発バイトアプリを使い慣れてる会社さんは、キレイに作業をシステム化・単純化してるので、指示に従って身体を動かせば、すぐ現場のお役に立てる。これが嬉しいんです。
少年B:
「今日ここだけやっといてくれればいいから」的な感じですね。
松澤:
はい。僕、元々めっちゃ黙々とやる作業が好きなんで楽しいです。
あと、体を動かしたいって気持ちもすごくあって。当時はジムに通っていたんですけど、自分でお金を払って、自分のタイミングで通うのって、強制力が少ないんですよ。「お金もったいないけど、今日はダルいからいいか」になっちゃって。
少年B:
ああ……。その気持ちは本当によくわかります。
松澤:
じつは単発バイトをしながら、フードデリバリーサービスの配達員もやってたんです。お金をもらって働くんだったら、もう動かざるを得ないじゃないですか。
だから、とくに最初のころはチラシ配りとか、ファーストフードの食材搬入・ゴミ搬出作業、あとは清掃スタッフみたいな、短時間の肉体労働を集中的に入れてました。
少年B:
運動不足も解消できるし、お小遣いも入ってくるから一石二鳥だと。
松澤:
はい。ジムだと行かないし、入会金や会費を払わなきゃいけないので、単純にマイナスが2つあるんですけど、単発バイトにはプラスしかないなと。
フードデリバリーも達成感があるから、ゲームみたいなんですよ。配達の依頼が来て、自分で受けて、取りに行って届けるという。終わるとミッションクリア! みたいな気持ちになるので。
少年B:
それは自転車で、ですか?
松澤:
そうですね、自転車を買って。今年は本業が忙しすぎてできないんですが、しばらくはずっとやってました。
少年B:
肉体労働を選んでいたと言っていましたが、ほかにバイトを選ぶポイントはあったんですか?
松澤:
自分はだいたい3時間以内の仕事を選んでました。最大でも4時間までですね。短く新しいことを体験したいって感覚だったので。
あと拘束時間が長いと、本業と両立できないんですよ。なので、時間も早朝か夜の仕事が多かったですね。
少年B:
じゃあ、あんまり同じバイトをリピートはしないんですか?
松澤:
1個だけ、浅草のコンビニだけは3回ぐらいやりましたね。朝6時から9時までの3時間だけ。僕、コンビニバイトを6年ぐらいやってたので、割と余裕だと思ってたんですね。
少年B:
それが、実際は?
松澤:
行ってみたら、ブランクのあった十数年の間にコンビニってとんでもなく進化してて。やることが超いっぱいあるんですよ。
最初の1回はもうパンクしそうで……。完全に舐めてましたね。とにかく早くレジ打ってお金もらうってだけなんですが、それが大変で。あんなに集中した3時間はないなって思いましたよ。一瞬たりともほかのことを考える隙がないぐらい。本業よりも集中したかもしれません(笑)。
少年B:
本業よりも集中を!? コンビニ店員さんに対する目が変わりそうです。
松澤:
たとえるなら、レベルMAXのドクターマリオをやってるときと同じ感覚だったんですよ。一瞬でも目を離したら、レジの前にすごい渋滞ができるっていう。
何がきつかったかっていうと、僕が以前バイトしてたときって、ほとんどの方が現金で払ってたんです。でも、いまって現金で払う人の方が少ないんです。
少年B:
そうなんですか!
松澤:
浅草なんで高齢者の方も多いんですけど、PayPayとか使いこなしてて。しかも決済手段って死ぬほどあって、アプリの種類もめちゃくちゃ多いし。
少年B:
確かに。
松澤:
そのうえ、ポイントも貯めるじゃないですか。最初にカードを出されると、それがポイントカードなのかクレカなのかがわからない。
しかも、先に支払いを済ませちゃうとポイントってつけられなくなっちゃうし、今日来てるだけだから、そうなったときに直す方法もわからないじゃないですか。だからもう、絶対に間違えられないパズルゲームをやってるようなものなんです。
少年B:
店員さんにやってもらおうにも、すごい数のお客さんが来てるわけですもんね。レジが2台止まっちゃったら大変だ。
松澤:
もう「俺のミス1発で終わる!」ぐらいの感覚です。「レジ袋いりますか」とか「ポイント付けますか」と声をかけても、はっきり返事をしてくれない人もいるので、店員さんの立場を経験したことによって、お客さんのときも自分からはっきり言うようになりました。
少年B:
自分はクレジットカード機能付きポイントカードを使ってるんですが、これからはちゃんとわかりやすく「ポイントお願いします」って言うようにします……。
松澤:
松澤さんといえば、単発バイトで特殊清掃をやったというツイートがバズってましたけど、そういう変わった体験をしたかったのかなと思っていました。
隙間バイトアプリ「タイミ―」にハマってて、気になる仕事見つけてやってる。遂に遺品整理バイトやれた。散らかったマンションの一室を6人3時間で片づける。たまたまエレベーターで鉢合わせた隣人の「挨拶を欠かさない上品な方でした」の言葉に「人からもらえる最期の評価、これで最高だよな」と思った
— 松澤茂信 (@matsuzawa_s) December 17, 2023
松澤:
たしかに特殊清掃も変わった体験としてやりたくはあったんですけど、元々普通に仕事として掃除をやりたかったんです。
なんていうか、掃除って終わりが見えてるというか、確実な達成感があるじゃないですか。「自分がこれだけやった」という成果が目に見える仕事なので。
少年B:
そうなんですね、結構意外でした。ほかに心に残った単発バイトはありましたか?
松澤:
ティッシュ配りはおもしろいですよ。チラシ配りはつらいんですけど。
少年B:
すみません、「同じでは……?」って思っちゃったんですが、何が違うんですか。
松澤:
受け取ってもらえる率がもう全然違うんですよ。チラシって1時間で10枚とかなんですけど、ティッシュは受け取ってもらえるんで、とんでもない数がはけるんですよ。
少年B:
へぇ。確かに、数がどんどん減っていくと楽しいかもしれませんね。掃除と一緒で成果も見えるし。
松澤:
そうなんです。配り方にもコツがあるし、タイミングも大事ですね。受け取ってもらう人に心の準備をしてもらわないといけないから、結構遠くから目を合わせておいて、「あなたに配るぞ」って。
少年B:
そんな技術が!
松澤:
とくに若い女性に多いんですけど、まったく受け取らなさそうな雰囲気だから、手前まで来たときにティッシュを引っ込めちゃったんです。そしたら、取ろうとしてたみたいで、空振りさせてしまったことがあって。そういう人、結構いるんです。
少年B:
どうしてそんなことになるんでしょうね。
松澤:
「ティッシュもらうぞ!」ってガツガツした感じを出すのが恥ずかしいのかな。受け取る直前まで澄ました顔で、通り過ぎながら目も合わせずにもらう、みたいな人がすごい多かったんです。
だから、「あなたに渡します」をずっと出し続けるのが重要なんだとわかりました。
少年B:
松澤さんのティッシュ配りの才能が開花している……!
松澤:
あとは塾講師もおもしろかったですね。バイトで行って、いきなり「先生」って呼ばれる経験、ないじゃないですか。
少年B:
それはないですね。
松澤:
いきなり「今日は教科書のこのページを生徒に教えてください」で先生になるんですよ。国語はライターもやってるから大丈夫だろうと思って行ったら、「数学もできませんか」って言われて、いやいやそれは無理ですと。
少年B:
国語だって勇気がいりますよ。怖くないですか?
松澤:
いや、大変でしたよ。受験の過去問を解かせたんですけど、僕も初めて見る問題だから、生徒に解かせながら自分でもまったく同じ問題を並行して解いて、ある程度わかったところで答えを見て……。先回りしてわかっておかなきゃいけないので、これもめちゃくちゃ集中しましたね。
でも、この機会を逃したら、自分の人生で一度も「先生」って呼ばれることはないなと思って。
少年B:
好奇心が勝ったんですね。ほかにはどんなバイトが?
松澤:
あとはクリスマスイブに高級ホテルの清掃をやりましたね。妻と。
少年B:
奥さまと!?
松澤:
10人ぐらいの募集があったので、「これやろうよ」って。
少年B:
クリスマスイブに高級ホテルで過ごしたって聞くと、素敵だなぁと思いますが、まさか清掃のバイトだとは。奥さまも寛大だ。
松澤:
ありがたいですよね。各階に分かれて水回りの掃除をしたんですが、自分と妻の階がたまたま早く終わって。バイトが終わるまでの1時間ぐらい、2人でスイートルームみたいなところで話しながらシーツを畳んで過ごしました。
バイトが終わったあとに、ちょっと高いご飯を食べに行きましたね。あれも楽しかったなぁ。
少年B:
まさか、そんなクリスマスの過ごし方があるとは。
少年B:
単発バイトを通じて感じたことや気付いたことはありますか?
松澤:
自分の場合は本業が特殊なので、参考にならないかもしれませんが……。僕は「マニアなツアー」っていう会社をやってるんですけど、結構そのツアーに近いものがあるなと思いました。
たとえば銭湯の開店前に掃除をして、一番風呂に入るツアーとかを開催してるんですけど、「そうかこれ、普通はこっちがバイト代を払わなきゃいけないんだ」と。
少年B:
(笑)
松澤:
でも、銭湯を経営している方にとってはルーティンとしてやってることでも、1日だけとか、切り取り方によってはお金を払ってでもしたい特別な体験とか非日常的なことになるんだなと改めて思いまして。
バイトでも人気のものがあるとか、自分でやってみたいと思って応募するわけじゃないですか。お金もらってるけど、むしろ払ってでもやってみたいことだってあるなと思うんですよ。
少年B:
確かに、塾講師で「先生」って呼ばれるなら、1回数千円だったら払ってでもやってみたいかもしれません。責任がないならですけど……。
松澤:
だから、これって仕事なんだけど、切り口次第では体験型コンテンツになるような、絶妙なさじ加減だなと思って。切り取られたものだと、すごく楽しいんですよね。
少年B:
いろんな仕事の、ちょっとおいしいところだけを味わえるみたいな感じというか。
松澤:
僕みたいに楽しんでる人は珍しいかもしれないですけど、人によってはそれがおもしろいと思える気がするんですよね。違う視点で物事を見るチャンスでもありますし。
あとは、責任が大きすぎない、タスクが難しすぎない部分もいいと思います。役に立ってる実感をほどよく味わえるのが嬉しいんです。
少年B:
社長と比べると、そりゃ単発バイトなら責任は軽いですよね。
松澤:
でも、単発バイトだけやってたら多分、それはそれでつらくなっちゃう気もするから、結局はバランスなんですよね。僕は社長業ですけど、フリーランスの方々も多分、責任感のある人たちが多いと思いますし。
少年B:
責任感のないフリーランス、もしいたらめちゃめちゃ嫌ですね。
松澤:
だから、そういう人にとってはいいんじゃないかって気がしますね。こう言ったらよくないかもしれないんですけど、いつもやってる仕事って慣れてしまって、あんまり感情が動かなくなってくることってありませんか?
少年B:
あー、まぁわかります。わたしはライターですが、また取材行って帰って書いて……みたいなルーティン化してしまうというか。同じジャンルの仕事ばっかりだったら「あー、またこういう感じね」ってなりそうな気はします。
松澤:
そこに新しい刺激が入って、精神的に違うみたいなところはあると思いますね。
自分は反対に、本業では最近あんまり慣れてない仕事ばかりやってたから、気持ちの揺らぎが常にあり続けてたんですけど、単発バイトは毎回「これをやればいい」ってものだから、安定した気持ちでできたりもして。
少年B:
本業がどうであれ、気分転換になると。
松澤:
でもやっぱり単純に、体を動かす仕事っていうのがデカかった気もしますけどね。肉体的な仕事って、終わったあと充実感もありますし。
(執筆:少年B 編集:北村有 撮影:遠藤宏)