採用ミスマッチはなぜ起こる?企業が陥りやすい原因と改善ポイントを解説
- 働き方
ねぇ、飛影くん。突然だけどさ、車って良いよね。
そうだね、紳さん。速いし、カッコいいよね。

純真無垢なフリーライター。好奇心のかたまりで何にでも興味を持つ。

純真無垢な科学コミュニケーター。科学と人を繋げることが唯一の趣味。
最近は電気自動車とかもあるけど、どんな車が流行ってるんだろうね?
あ。そういえば、世界一小さい車があるんだけど、見たことある?
世界一小さい車? 軽自動車? コンパクトカーってこと?
実際に見た方がわかりやすいかも。よし、見にいこうか!!
胸の高なりを感じる!!

というわけで、茨城県つくば市にある国際ナノアーキテクトニクス研究地点(MANA)を訪れました。
なんで研究所?
フフフ。ここは日本で最も優れた研究機関の一つで、世界の優れた研究者達がナノテクノロジーの研究を進める、とにかくすごい施設なんだよ。
ナノテクノロジーって何さ?
僕もよくわかってないけど、人間の目に見えないめちゃくちゃ小さいものをどうにかする技術のことさ。
なにそれ怖い。

はい。これがナノテクノロジーで作った車だよ。
えっ!? どれが車?
このビンの中に車がたくさん入ってるんだ。
はぁ!? なんなの? トンチ?

中に入ってるのは、白い粉だけど……
あ、わかった! この粉がクスリになってるんだね。 軽くキメれば、幻覚で世界一小さな車が見えるようになる。
違うよ。そんなヤバイ遊び、国際的な研究所でやるわけないよ。
実は、その粉の一粒一粒が車なんだよ!
えぇ〜!? どういうこと!?
ご説明しましょう。
誰!?
超分子グループMANA研究者の中西和嘉博士。この車の開発者さ!
物質や材料の研究をしているスペシャリスト。最近は超分子という、特殊な結合をした分子の研究に熱中している。

というわけで、世界一小さな車とは何なのか、中西和嘉博士のお話を聞くことになりました。

「博士」って言われるとなんだか背筋が伸びてしまうのですが、中西博士は優しそうな女性で、写真では常にどこかがブレてしまう不思議な人でした。こういうところがすでに超分子っぽい。
すごく表情が豊かで、オーバーリアクション。見ていて飽きない、そんな人です。
そんな中西博士が研究している分野が何かと言うと……

分子を操る技術。
そう。中西博士は人間の肉眼では確認できない極めて小さな物質を「操る」という技術を研究しているのです。
面白そうですね! 早速、話を聞いてみたいと思います。

中西博士、そもそも分子ってどれぐらいの大きさのモノなんでしょうか? 僕は分子を見たことないので、まったく想像できないのですが。
はい。分子は極めて小さな粒(つぶ)同士がくっついて成り立っているものです。ナノテクノロジーのナノとは10億分の1という単位を表す言葉なのですよ。
分子の大きさは構造にもよりますが、10億分の1メートルくらいですかね。
10億分の1メートル!!! って言われてもイメージできないのですが…… 小麦粉の1粒よりも小さいですか?
目に見える小麦粉の粒のことを言うのなら、それより遥かに小さいですね(笑) 小麦粉の1粒も突き詰めていくと分子ですけど。
分子を野球ボールにたとえると,私たちは地球くらいの大きさになってしまいます。
なにそれ!? テロじゃん!?
テロではないだろ。
とにかく、分子はヤバイぐらい小さいってことですね?
そうなんです。 実は数十年前までは1つの分子を見るだけでもすごいと言われていたんですけど、今は分子を操ることができる時代になったんですね。
その大きさのものを操ろうって発想がヤバい。

博士。ところで分子を操るとは、具体的にどんな技術なんでしょうか?」
良い質問ですね。実は最近、分子で車を作って競争をする分子カーレース(ナノカーレース)という競技に挑戦してきたんですよ。
分子の車!? あ、もしかして世界一小さい車って、その分子の車のことなのかね、飛影くん?
ふふん。そういうことさ。

分子カーレースとは、その名の通り分子で車を作ってレースをする競技のことなんですね。
一般的に馴染みは薄いのですが、1982年に走査型トンネル顕微鏡(STM)と呼ばれる装置が開発されました。
この装置は、非常に鋭どい針を物質の表面に近づけることで流れるトンネル電流から表面の電子状態、構造を観測できるという装置で……
もうすでに理解できない。中西博士、申し訳ないのですが昆虫でも分かるように説明してもらえませんか?
ウフフ。昆虫と会話したことが無いのでわかりませんが。
まぁ、つまりは特殊な装置で分子の表面を針でなぞることにより、分子の運動を操ることができるようになったっていうことなんですよ。なぞると言っても、物理的接触があるわけでは無いのですが。
STMはすごい装置なんですね。分子を触るとか、これまで考えられなかったことを実現するとは。

外から電気エネルギーを加えることで物質が変化する、つまりは車輪が回転するかのように分子が形を変えるわけなんですね。その運動を利用して分子の車を動かすということをやってみたんですよ。
ナノサイズの分子で車をデザインし、分子のごく小さな運動のエネルギーを利用して、とある方向へ分子を走らせる技術、というわけですね。
すごい世界だ。 分子自体はめちゃくちゃ小さいけど、話のスケールが大きい。
ただし、針でなぞった時になぜ分子がそういう運動をするのかっていうのは詳しく分かってないのですけどね。
それでも、分子を操ることはできている、と。
なんだか分子が生き物みたいに思えてきた。

▲日本代表チームと、ナノカーのモデルイメージ
2017年4月にフランスでナノカーレースの大会がありまして。私、日本代表チームとして参加してきたんですよ。TOYOTAさんがスポンサーになってくれました。
TOYOTAも車として認知したのか。ナノカー恐るべし。
日本、アメリカ、ドイツ、フランス、スイス、オーストラリアとアメリカの混合チーム、の計6チームが参加しました。
想像してたよりも参加者が多い。

さて、私たちが持ち込んだナノカーですが、ビスビナフチルデュレンという分子構造だったのですよ。
ほほう。ビスビナなんたらは自然界に存在するものですか?
いいえ。人工的に作り出した化学物質なんです。
あ、そうそう。さっきのビンに入ってた粉がそうだよ。
はっ!? そうか、あの粉がビスビナなんたら!!!
で、そのビスビナなんたらはどれぐらい速かったんですか?

それが…… レース当日、装置を制御するためのPCが不具合を起こしてしまって……
残念ながら途中棄権となってしまったんですよね。最初の10分で私たちのレースは終わりました。
悲しい……
分子は操れるのに機械を操れないとは、これいかに。
おい、やめろ。
それでも!!! 最初の10分間で1ナノメートル進んだことは確認できたんですよ!!!
すごい! ちゃんと車として動いたんだ、ビスビナ。

レースができること自体、貴重な体験でしたのでね。なんとかレースに復帰できないものか、いろいろと頑張ったのですが……
ナノカーレースは6つのチームが同時に1枚の金の上で競技を行うものですから、やりすぎると他チームへの悪影響が出ちゃうんですよ。なので、あえて途中棄権という道を選択しました
譲り合いの精神は日本人の誇りですね。
そういう姿勢が認められて、私たちのチームはフェアプレイ賞をいただきました。
それは素晴らしい。 次回、ぜひともリベンジして欲しいです!!
余談ですが、ビスビナフチルデュレンはとても柔らかい分子なので、すぐに曲がったり、折れたりするんですよ。操作するのがとても難しい車なんです。
あえて操作が難しい分子構造でチャレンジすることは、とても意義のある研究だったのですよ。
分子に対する愛を感じますね。

ちなみに優勝したオーストラリアとアメリカの混合チームの車は、めちゃくちゃ速かったんです。もうね、ビュン!って感じで一瞬でゴールしちゃってました
全力で勝ちに来てたんですね、そのチーム。
金の表面を走ると速すぎて観測できなかったので、最終的に銀の表面でレースをしていました
金と銀ってそんなに違うものですか?
ナノカーのコースとして考えると、ぜんぜん違いますね。金はツルツルしているイメージで、銀はベトベトしている感じです。
分子レベルだと、銀はベトベトしてるんだ…… 面白いですね、世界一小さな車の世界。

あれ? そういえば中西博士は、この分子を操るという技術を研究しているんですよね。
まぁ、そうですね。物質とか材料の研究をしています。
あの…… 分子を操る技術は、私たちの生活にどう役立つんですか?
(いきなりブッ込んできたな……)
素晴らしい質問ですね。その答えはまさに、私たちがナノの世界で研究を続ける理由とも言えるでしょう。

正直なところ、この研究はすぐに何かの役に立つというものではないわけですよ。
めちゃくちゃ正直ですね!?
どんな分野でも研究を続けることはお金がかかります。その出資元は国だったり企業だったりしますが、思うような成果が出せないと予算を打ち切られることもあるんです。
当然、シビアな世界でもありますよね。
それでも、将来的には必ず役に立つ、はずだと。これは必要な研究だと信じて続けるのが信念ですね。
特にナノテクノロジーは、すでに色んな分野でも成果をあげている注目の研究ですしね。

それと、これから起きるかもしれない問題に備えるのも、研究を続ける理由の一つです。
例えば、100年後に人類の存亡を脅かすような大問題が起きるかも知れない。その時、解決できるのがナノテクノロジーしかない場合だって考えられます。
確かにそうかも。ごく小さい者(物)にしかできないことってあるよなぁ……
医療の現場でも大きな成果をあげそうですよね。分子を思い通りに操れるようになったら、人間の体の中を動き回って病気や怪我を治療できる可能性もあります。
未知の病原菌とかウイルスが誕生して、人類がピンチになった時にナノテクノロジーで撃退できたりね。
ガンとか、現代の医学では治せない病気や怪我が治せるようになるかも!?
ウフフ。まだまだ遠い未来の話かも知れませんけど……
ナノテクノロジーには、あらゆる可能性がある! これだけは間違いありません!
よくぞ言ってくれました、中西博士!
パチパチパチパチ(拍手)

まぁ、とはいえ、今はもっと分子のことを知りたい!っていう気持ちが強いです。
1つの分子を見る、操る、ということが出来るようになったのはごく最近のことですから。まだまだこれからなんです。
走査型トンネル顕微鏡(STM)の誕生がとにかくすごいですもんね!
今起きている問題の解決、これから起きる問題の解決。世の中を変えるような新しい製品の開発。
そういったことに役立つ成果をあげられるよう、研究を続けていきたいと思います!
ワクワクする話ですね! 応援しています!
中西博士、貴重なお話をありがとうございました!
ナノ。10億分の1という単位。
世界一小さな車の話から、紛れ込んだナノテクノロジーの世界。
それはめちゃくちゃ小さな小さな世界の話で、なかなかすぐにはイメージできません。
僕は中西博士の話を聞くまでは、分子とか自分とは関係のないものだと思っていました。
でも、そんなめちゃくちゃ小さな分子でも、見ることができ、操ることができると聞いて、今はとても身近な存在だと感じます。
そして、新しいものを生み出すために続けられるナノテクノロジーの研究はとてもクリエイティブな挑戦だと思いました。
これからはもっともっと分子のことにも注目しながら、生活をしていきたいです。
肉眼では見えないけど、その小さな粒たちは確実に僕らの近くに存在するのだから。
中西博士、国際ナノアーキテクトニクス研究地点(MANA)のみなさま。貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました!