ディーセントワークとは?「働きがいのある人間らしい仕事」10の条件

ディーセントワーク
BUSINESS

ディーセントワーク(Decent Work)とは「働きがいのある人間らしい仕事」を指す言葉です。

この記事では、ディーセントワークという言葉の概要をはじめ、ディーセントワーク実現のために必要な戦略や、日本における現状について解説します。

「自分の仕事がディーセントワークに該当するか?」のチェックリストもついていますので、ぜひ参考にしてみてください。

ディーセントワークとは

ディーセントワークという言葉が初めて使われたのは、1999年の代67回ILO(国際労働機関)の総会。当時の事務局長ファン・ソマビア氏の報告書に記載されていたものです。それ以降、ILOはディーセントワークの実現を活動の主目的としました。

上記の報告書では、ディーセントワークを以下のように説明しています。

「ディーセントワークとは、権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事を意味します。それはまた、全ての人が収入を得るのに十分な仕事があることです」
(引用:ILO

要約すると、ディーセントワークとは「収入・権利・社会的保護が保証され、それらが十分に与えられる仕事」のこと。

ILOの公式HPでは「人間として尊厳を保てる生産的な仕事」「ディーセントワークは人権そのもの」とも説明されています。

ディーセントワーク実現に向けた戦略目標

ディーセントワークの実現には、国や企業としての動きが求められます。

この言葉が提唱されたILOの総会では、その実現のため、国や企業を対象とした4つの戦略目標が打ち出されました。

  1. 仕事の創出 – 必要な技能を身につけ、働いて生計が立てられるように、国や企業が仕事を作り出すことを支援。
  2. 社会的保護の拡充 – 安全で健康的に働ける職場を確保し、生産性も向上するような環境の整備。社会保障の充実。
  3. 社会対話の推進 – 職場での問題や紛争を平和的に解決できるように、政・労・使の話し合いの促進。
  4. 仕事における権利の保障 – 不利な立場に置かれて働く人々をなくすため、労働者の権利の保障、尊重
    なお、ジェンダー平等は、横断的目標としてすべての戦略目標に関わっています。
    (引用:ILO

これらの戦略目標は世界共通。どの国におけるディーセントワーク実現の取り組みも、この4つの戦略目標に基づき行われます。

日本におけるディーセントワークの現状

では日本におけるディーセントワーク実現に向けた現状と、解決すべき課題は何なのでしょうか。

この項目では「労働時間」「雇用機会の安定性」「ジェンダー平等」の3つの観点から考えます。

労働時間

OECD(経済協力開発機構)によれば、日本の実労働時間/年は、平均1598時間。

長いのか短いのかを判断するため、世界各国の実労働時間と比較してみましょう。日本の平均が赤い線、OECD加盟国の平均が青い線です。

ディーセント・ワーク

▲出典:OECD

上記の表により、日本の実労働時間/年は世界平均よりも短いことが分かります。1位のコロンビアと比べると、574時間も短い結果が出ているのです。日本に対する長時間労働のイメージを覆すデータなのではないでしょうか。

しかし、この調査は全就業者が対象のもの。正社員だけでなく、非正規雇用や短時間労働のパートタイマーも含まれています。

では正社員だけの実労働時間を見てみましょう。

一般労働者の実労働時間は1972時間/年。単純な比較はできませんが、先ほどの世界の実労働時間を示したデータでは、3位に位置する数値です。また長時間労働が問題視され続けるなか、1995年から20年以上の間で実労働時間がほとんど変わらず約2000時間と横ばいなのも、深刻な状態と言えるでしょう。

ディーセント・ワーク

▲出典:厚生労働省

また着目すべきなのが、パートタイマーの比率。2021年時点で23.3%を記録しており、非常に高い数値です。2020年度のパートタイマー比率の調査(OECD)では、加盟国のなかで4位に位置するほど。

この結果を踏まえたうえで、労働機会の安定性について考えてみます。

雇用機会の安定性

日本において安定した雇用機会がどの程度実現されているか、失業率をもとに見てみましょう。

前提として、日本は一般的に失業率が低い国と言われています。実際、2021年8月時点での世界各国の完全失業率を比較した表でも以下のとおり。韓国と並び、完全失業率は直近2.8%と低い数値です。

では「日本の雇用機会は安定している」と言えるのでしょうか。コロナ禍で炙り出された現状を振り返ると、決して安定しているとは言い切れないのが実情です。

2021年3月に発表された調査データ『パート・アルバイトの中で「実質的失業者」は、女性で103万人、男性で43万人と推計』(野村総合研究所)を見てみましょう。

主な調査結果は以下です。

  • コロナ以前と比べてシフトが減少している
    男性:33.9%
    女性:29.0%
  • コロナ以前と比べてシフトが5割以上減少している
    男性:48.5%
    女性:45.2%
  • シフト減のパート、アルバイトのうち、休業手当を受け取っていない
    男性:79.0%
    女性:74.7%

野村総合研究所は、シフトが5割以上減少した、かつ休業手当を受け取っていないパート・アルバイトの方を「実質的失業者」と定義。この調査結果と、総務省「労働力調査」を用いて推計したところ、2021年2月時点で「実質的失業者」は、女性で103.1万人、男性で43.4万人にのぼるとされています。

ここで定義された実質的失業者は、一般的に統計上の「失業者」や「休業者」にも含まれていない、隠れた存在です。

野村総合研究所の調査が行われた2021年2月時点の、日本の労働人口(15 歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は6840万人。このうち完全失業者数は194万人、完全失業率は2.9%で低い数値といえます。

しかし先ほどの実質的失業者数をふくめて計算し直すと、約5.0%。消して少なくない数値です。

フリーランスの場合でも、新型コロナウイルスの影響で85%が「仕事が減少した」、16%が「まったく収入がない」とINTLOOP株式会社の調査で報告されています。また「正社員だから安心」というわけではありません。コロナ禍の2020年4月には597万人の休業者を記録しています。

緊急事態が示すこういった数値からも、日本の雇用機会が安定しているとは言い切れないのが現状です。

ジェンダー平等

最後に、ディーセントワーク実現に必須と考えられている「ジェンダー平等」について見ていきましょう。ここでは、身体の性のうち「男」と「女」の区分の差を取り上げます。

WEF(世界経済フォーラム)が公表した、男女格差を示す指標「ジェンダー・ギャップ指数2021」の結果は以下のとおり。

順位は156か国中120位。これは先進国やアジアのなかでも最低レベルです。

日本の分野ごとのスコアは以下。0に近いほど不平等で1に近づくほど平等とされています。

以上のデータから、日本は「教育」「健康」においてはジェンダーギャップが少ないものの、「政治」や「経済」におけるジェンダーギャップはまだまだ大きい国だと分かります。

経済はいわゆる「仕事」を表す部分。現状では、ディーセントワークは実現できていないかもしれません。

ディーセントワーク、10の条件

ところで、はたして自分の仕事は「ディーセントワーク」を実現できているのでしょうか。

ILOが定める「ディーセントワーク10の指針」をもとに確認してみましょう。

  1. 雇用機会は安定していますか
  2. 十分な収入は得られていますか。やりがいは感じられますか
  3. 労働時間は正常ですか
  4. 仕事のほか、家族との時間、プライベートな時間はとれていますか
  5. 廃止すべき仕事だと感じていませんか
  6. 仕事は安定し保証されていますか
  7. 雇用における機会均等と待遇は保証されていますか
  8. 職場環境、作業環境は安全ですか
  9. 十分な社会保障は得られていますか
  10. 雇用者と対話する機会はありますか。手段はありますか

達成できているか不安を感じる項目が一つでもある場合、ディーセントワークにはあたらない可能性があります。

一見、達成が難しい条件のように感じてしまうかもしれません。ILOがこれらの条件を人権そのものと考えていることは覚えておきたいポイントです。

(執筆:泉 編集:北村有)

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