【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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2024年の元日、能登半島地震が起きました。その時ふと思ったんです。フリーランスが被災して働けなくなったらどうなるんだろう……と。
いままで考えてこなかった、「被災」というリスク。フリーランスが被災してしまった場合、どのように対応すれば仕事への影響を最小限にできるのでしょうか。
今回は、企業向けの安否確認サービス『安否確認サービス2』の提供や、防災・BCP関連のノウハウ発信メディア『みんなのBCP』の運営を行うトヨクモ株式会社の石井さんにお話をうかがってきました!
新潟県佐渡市出身。2003年にサイボウズ株式会社に入社し、数社の執行役員などを経験。2015年サイボウズスタートアップス株式会社 取締役 就任。2019年トヨクモ株式会社 取締役 経営管理本部長に就任(現任)。能登半島地震で被災した地元・佐渡島のビジネスコンテスト審査員を務めるなど、地方創生にも尽力している。
介護士→建築士を経て2018年からフリーライターとして働く。東日本大震災のボランティア活動に参加していたことがあるが、震災への備えはまったくといっていいほどしていない。
目次
少年B:
実際に災害が発生した後、我々フリーランスがまずやるべきことは何ですか?
石井:
災害発生後の対応は、発生から数日間で行う「初動対応」と「緊急対応」、そして落ち着いてから行う「復旧対応」に分かれます。
石井:
初動対応としては、まずは家族の安否確認が最優先になるでしょう。次に、取引先・顧客状況の確認です。ビジネスの観点だとお客様の信頼もすごく重要なので、家族だけでなく取引先にもできるだけ早く連絡したほうがいいと思うんですよね。
少年B:
なるほど、家族に連絡がついたらすぐに取引先にも連絡をすると……。
石井:
被害や周辺の状況や、仕事が終わっていない場合はどれぐらい遅れる見込みなのかをあらかじめ伝えておきましょう。物理的に連絡がつかないなら仕方ないんですが、報告できる状況ならしておいたほうが絶対いいですよね。
石井:
そして、事業への被害があれば、関係者へ連絡し、緊急対応を検討します。
少年B:
初動対応を行って、必要があれば緊急対応をするんですね。緊急対応はどのようなことを?
石井:
まずは関連する資料の収集を行うことです。数日経つと国や都道府県などが被害状況を集計して発表するので、その情報を集めること。SNSではデマも多いので、ちゃんと信頼できる公的機関の情報に当たってください。
少年B:
たしかに、今回の能登半島地震でも多くのデマが散見されました……。
石井:
被害状況の集計を行ったら、それをベースに事業の計画を立てます。理想としては、事前に万が一の際の備えとして、以下の5点をまとめた「LCP(生活継続計画)」を策定し、これをもとに復旧までの計画を策定するといいでしょう。
石井:
復旧に向けた計画が用意できたら、関係者に「○週間後には事業が再開できる予定です」などと復旧計画を伝えましょう。その後は、復旧計画に沿って事業復旧に取り組む、という順番になります。
少年B:
LCPが策定してあれば、それをもとに復旧計画を立てやすくなる、ということですね。
少年B:
でも、同じ「被災した」場合でも、自分が負傷してしまった場合や、仕事道具やインフラが完全に破壊されてしまって働けない場合は、また対応も変わってくる気がします。
被災して、しばらく働けないことが分かった時点でまずやるべきことは何ですか?
石井:
対応としてはこのようになりますね。
①家族への報告
②取引先・顧客への報告
③保険の申請
④補助金・助成金の確認
①と②はすでに初動対応で行っているはずですし、④は少し先になると思うので、すぐに連絡したほうがいいのは③でしょうか。
少年B:
大事ですね。自分がどんな保険に入ってるかも確認しておかなきゃ。
石井:
もらえるものはもらっておかなきゃ損ですし、自分から言わなきゃ教えてもらえませんからね。だから情報の整理や情報収集は大事なんです。
少年B:
支援制度や保険の話もありましたが、災害から復旧するために、フリーランスが活用できる具体的な制度を教えてください。
石井:
大きく分けて、公的な社会保障制度、労災保険、民間の任意保険の3つがあります。例を出しておきますね。
石井:
なお、このうちの労災保険の特別加入制度とは、労災保険がない中小企業の社長やフリーランスも、自己負担で労災保険に加入できる制度です。現状では「ITフリーランス」など職種に一定の制限があるものの、2024年秋の法改正で全フリーランスが対象になる見込みと報じられています。
少年B:
おお、これは加入を検討してみたいですね……。
少年B:
ひとつ気になったんですが、もし被災して働けなくなった場合って、「納期に遅延したから損害賠償!」のように、訴えられたりする可能性はあるのでしょうか?
石井:
弊社に限った話ではないと思いますが、「被災したから仕事ができませんでした」となった場合、いきなり訴える、契約を解除すると言われるケースは考えにくいです。
民法にも「履行遅滞があなたの責めに帰することができない事由によるものであるときは、損害賠償責任を免れることができる(民法415条1項)」という条文がありますね。もちろん、契約状況などによるので断言はできませんが。
少年B:
たしかに、フリーランスとしての立場からすると、それで契約切りますって言われたら「おまえ人の心ないんか???」って思いますね。
石井:
そうですね。やはりビジネスといっても人と人との信頼関係は大事ですから。
石井:
でも、企業側から見れば、どんな事情であれ契約は履行されていないんですよね。裏を返すと、訴えられることはなくてもお金がもらえることもない、つまり「基本的に報酬は払えません」っていうのが大前提にはなります。
少年B:
うーん、まぁ確かにそうなっちゃいますよね……。
石井:
ビジネスですし、契約は履行できてないので、災害からの復旧状況次第では契約終了のリスクもあります。企業側も、頼んだ仕事をやってもらわないと困る状況なので。
現実問題として「生活が落ち着くまで、いつまでも待ちます」とは言いにくいんです。気持ち的にはそう言ってあげたいところなんですけどね……。
石井:
僕は契約書を作るのが仕事なんですけど、契約書には「フォース・マジュール」って条項があって。想定外の災害が起きたときにどうするか、みたいなことをいくつか定めています。
少年B:
なるほど。
石井:
そこの内容は、一般的には「全く想定してない災害が起きた場合は自動的に契約を終了できる」みたいなものが多いと思います。
少年B:
フリーランス側から見ると、たとえばそれまでにできている分の仕事を渡して、その対価をいただいて、契約終了みたいな感じですか?
石井:
そうでしょうね。いったん契約を解除して、落ち着いたらまたお願いします、というパターンになると思います。
少年B:
違ったケースをお聞きします。たとえばフリーの編集者など、クライアントから受けた仕事を他のフリーランスに仕事を外注するケースもありますが、外注先が被災した際の対応を教えてください。
石井:
推奨したい対応は以下の通りですね。
被災された方は、仕事先まで連絡が回らないこともあるので、こちらから状況を確認してみるといいでしょう。メールや、もしわかっていればLINEで聞いてみるのもいいと思います。
少年B:
電話だと回線が混みあうから、文章で連絡したほうがいいんですね。
石井:
後は納期の延期や、先ほど言ったように、半分終わっているなら半額の対価を支払って巻き取るなど、柔軟に対応することですね。巻き取るほうも大変だとは思いますが……。
少年B:
困った時はお互い様ですもんね。大変だけど、一緒に災害を乗り越えていくというか。
石井:
フリーランスだけど、一緒に仕事をしてるってことは結局チームと同じじゃないですか。他人事と思わずに、真摯に対応するってことが一番重要だと思います。
石井:
逆に、このような対応は避けたほうがいいですね。
少年B:
これはひどい。こんなのSNSに書かれたら絶対炎上しますよ。
石井:
自分が被災してるのに、いきなり契約がどうだとかっていう人って、やっぱり信頼できないじゃないですか。
だから、まず被災状況や影響を正確に把握し、状況に応じて対応を検討する必要があるということですね。被災した外注先との信頼関係を築き、共に困難を乗り越える気持ちが大切です。必要に応じて、行政機関や支援団体への相談も検討しましょう。
少年B:
お話を通じて、石井さんから「信頼関係」というキーワードを何回か聞きました。被災した後のクライアントの対応は、両者の信頼関係で変わってくるものですか?
石井:
それは間違いないです。たとえば、先ほどの「一時的な契約解除」についても、ずっと長く付き合っていて、実力や人間性を信頼されているなら、事態が落ち着けば仕事に戻れる可能性は高いと思います。
ただ、もともとトラブルが多いとか、仕事の質が悪いとか……。そういう人の場合、落ち着いたあとにまた仕事をお願いするかというと、ちょっと怪しいかもしれませんよね。
少年B:
あっ……。たしかに、被災する前の関係性はめちゃくちゃ大事そうですね……。
石井:
ビジネスって、フリーランスに対しても社員に対しても、信頼関係で成り立ってますからね。「この人はこういうもの期日までに作ってくる」と思ってるから仕事を頼むわけで。
少年B:
これは法律を超えた話ですね……。確かに法律も大事だけど、信頼関係が何より大事という。
石井:
一方で、先ほども言ったように、企業として何もしていない外注先に報酬を払い続けるのは難しいものです。普段の仕事ぶりでしっかり信頼を勝ち取っておくのはもちろん、被災した場合の備えを行い、素早く生活を再建していく姿勢も大事になってくると思います。
(執筆:少年B 編集:齊藤颯人 取材協力:トヨクモ株式会社)
フリーランスと防災
いまこそ知っておきたいフリーランスの“生存戦略”