「元フリーランス」は正社員で活躍できる?→ちょっと社の答え
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「フリーランスは自由で気楽」。そんなイメージがある一方で、実際には収入が不安定だったり、スキルの伸び悩みに悩んだりするフリーランスも少なくありません。とはいえ「正社員になるのもなぁ」と、なかなか決断できない人も多いのではないでしょうか。
一方で企業も、「元フリーランス人材は頼りになるけど、長くは一緒に働けないんじゃないか」と不安を抱えています。正社員を採りたいけど採用難。元フリーランスは定着しない印象。そんなジレンマがあるのが現実です。
そこで注目されているのが、フリーランスから正社員へシームレスに移行するトランジション採用。でも本当にそんな仕組みがうまくいくのか?リアルな声を聞いてみたいですよね。
今回は、フリーランスから正社員へと転身したエンジニア・平山さんと、元フリーランスをはじめ、幅広い人材を受け入れている「ちょっと株式会社」代表の小島芳樹社長にインタビュー。実際に「越境」した人と受け入れた側、両者の本音に迫ります。
ちょっと株式会社 代表取締役社長。gloops、Goodpatch、TORETAを経て、2018年に独立。フリーランスとしての活動を経て2019年にちょっと株式会社を設立。現在は代表取締役社長として、フロントエンド開発支援や独自CMS「Orizm」(オリズン)の開発を推進し、多様な人材が活躍できる組織づくりを牽引している。
ちょっと株式会社 フロントエンドエンジニア。地方在住・フルリモート勤務。地元のWeb制作会社でコーダーとして勤務した後、フリーランスとしてWeb制作や個人開発に従事。2025年3月、ちょっと株式会社に入社。
博士(京都大学)。研究活動の傍ら編集プロダクションを経営し、Workship MAGAZINEの編集長も務める。Webメディアの運営やコンテンツ制作に携わる。趣味は放浪。
目次
――ちょっと株式会社はどのような事業を展開されているのでしょうか?
小島社長:弊社の事業内容は大きく2つあります。
1つは「モダンなフロントエンドの開発支援」です。フロントエンドエンジニアは、多くの企業で急に人手が必要になったり、優秀な人材がなかなか見つからなかったりという課題があります。そうした企業様に対して、弊社が業務支援として入る形でサポートしています。
もう1つは、独自CMS「Orizm」(オリズン)の開発です。Next.jsといったモダンなフロントエンド技術を活用し、使いやすいCMSを自社開発して提供しています。初期開発からデザイン、構築までをワンストップで支援するほか、パートナー企業を募って開発体制を拡大しているところです。
――勢いのある会社だということがよく分かりました。そうすると、エンジニア採用はやはり「いくらでも欲しい」という状態だったのでしょうか?
小島社長:はい。「モダンなフロントエンドに特化」している開発会社はかなり珍しいこともあり、この2年ほどは、常に案件の数がエンジニアの数を上回る状況が続いています。
場合によっては自社の社員だけで足りず、他社をご紹介したり、フリーランスの方にお声がけしたりすることもありました。
現在もその状況は続いていて、毎月2〜3名ほど新しい仲間に入社いただいています。年間で20〜30名規模の採用計画を立てていて、今回インタビューに登場いただく平山さんも、その中でジョインされた一人です。
――平山さんは元フリーランス人材ですが、フリーランスを迎えることに不安はありませんでしたか?
小島社長:全然なかったですね。私自身も1年間フリーランスを経験しており、多くの方から仕事をいただいていましたので、「フリーランスだから」という先入観で不安視することはありませんでした。
――意外です。先日公開した調査では、入社前に「チームワーク」(48.3%)、「組織適応」(43.1%)、「離職リスク」(36.5%)を懸念する企業が多いという結果でしたが。
小島社長:そもそも会社を立ち上げたきっかけが、子育てや家庭と仕事を両立するためだったんです。働き方の柔軟性は、むしろ自分が積極的に確保したい立場でした。
そこで弊社では、時短勤務やフレックス、リモートワークを取り入れることで、誰もが働きやすい環境を整えてきました。その結果として、多様な人材が集まってきたという流れですね。
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――多様な人材が集うとなると、マネジメント面に懸念はなかったのですか?
小島社長:ありませんでした。弊社の採用方針は、とにかく偏りをなくして多様な価値観を持つ人を集めること。それによって、これから世の中で必要とされる価値観を会社として育てていきたいと考えています。その一環として、フリーランスから正社員になった人もいる、ということなんです。
――なるほど。会社の思想として、もともと広い視野を大事にされていたんですね。
小島社長:その通りです。元フリーランスだからといって、悪い意味で特殊なことは何もありません。
――とはいえ、一般的な「生え抜きの社員しか採用しない」会社とは違い、制度づくりには工夫が必要だったのでは?
小島社長:そうですね。振り返ってみると、創業して10〜20人規模の頃は、資金が少なく採用に十分な投資ができませんでした。その一方でお客様が求めるレベルが上がり、優秀な人材を獲得する必要も出てきたんです。
ちょうどそのとき、子育てを理由に仕事を休んでいた知人や元同僚が復帰を考えていたこともあって、「どういう制度があれば入ってもらえるか」を真剣に考えました。率直な話、べらぼうな高給で引き寄せるのは難しい(笑)。それなら制度面を整えるしかなかったんですよね。
そこで導入したのが、時短勤務やフレックス、リモートワークでした。たとえば現在エンジニア部門のトップを務めるメンバーは子育ての事情から1日6時間勤務ですし、別のマネージャーは家業を手伝うために週休3日で働いています。
――1日8時間・週5日勤務に縛られないだけで精神的にラクですね。フリーランスは「人生で優先したい・こだわりが別にある」という人も多いので、両立できる制度は大きい。
小島社長:その通りです。
付け加えると、フリーランスから正社員に転身するきっかけに「結婚」や「出産」といったライフステージの変化を挙げる方って多いんですよ。
弊社ではそうした背景にも合わせるべく、不妊治療への対応も進めています。たとえば、「にしたんARTクリニック」という専門クリニックと提携し、社員やその家族が無料で検査を受けられる制度を設けました。2〜3000円程度の検査ではありますが、無料で受けられるとなれば、若いうちから自分の体質を知るきっかけになるかなと。
――確かに。「タダなら受けておくか」となりそうですね。
小島社長:そうです。加えて、休暇制度を含め治療への協力も積極的にしています。世の中では「不妊治療は女性だけが受けるもの」という誤解が根強いですが、実際には男性も一緒に病院へ行く必要がある。にもかかわらず現状では有給休暇を使うしかないんです。
少子化対策の文脈で、金銭的な補助は徐々に整いつつありますが、理解や相談のしにくさといった課題はいまだに残っています。そこへ、制度として対応している形ですね。実際にこの制度を利用して子どもを授かった社員もいるんですよ。
――今のお話はワークライフバランスの「ライフ」寄りの制度でしたが、「ワーク」面についてはいかがですか。
小島社長:もちろん注力しています。前提として、優秀なフリーランスエンジニアの方が正社員への転身を考える理由の一つに、「個人でのキャッチアップに限界を感じて」というものがあります。
――あるあるですね。
小島社長:その課題をカバーするため、弊社では社内で定期的に勉強会を開催しています。さらにはVercel社と提携し、2カ月に一度のNext.jsキャッチアップ会議も実施。新しい知見を組織全体で取り込める仕組みを整えています。
――そういう活動は個人では取り組みにくいですよね。明確なメリットだ。
小島社長:さらには、「困りごとがあればいつでもSlackに投稿してほしい」と積極的に呼びかけています。質問が上がれば誰かがすぐに答えてくれる。これはフリーだと得にくい環境ですよね。
弊社は事業として売上をつくる場であると同時に、エンジニアにとっての「コミュニティ」でもありたいと考えています。そうした姿勢と環境づくりが、フリーランス出身者への価値提供につながれば嬉しいですね。
――ここからは、元フリーランスの平山さんにも質問します。改めて、正社員になろうと思った理由は?
平山さん:いくつかあります。まず1つ目は、収入が安定しなかったことです。フリーランスだった頃は請負の仕事だけをしていて、短期契約を渡り歩くような形でした。収入が多い月もあれば全然ない月もある。5年近くその状態を続けてきて、それはそれで楽しかったものの、続けるモチベーションが徐々に下がってきました。
2つ目は、技術的な成長を求めたからです。フリーランスではWordPress案件が中心で、Next.jsやReactといったモダンな技術は個人で学ぶしかなかった。仕事も同じような依頼が多く、スキルアップの機会を持ちにくかったんです。
3つ目は、独立初期から「自分のサービスを作りたい」という目標があって、それをリリースできたことで一区切りがついたことです。やり切った感があり、次の挑戦に進みたいと考えました。私はもともと「絶対にフリーランスでいたい」というタイプではなく、なんとなく続けていただけだったので、いい転機でした。
――キャリアチェンジを思い立ってからは、どんな流れで転職活動を?
平山さん:まずは、フリーランス向けの常駐や準委任案件を扱うサイトに登録しました。ですが案件を見てみると、結局は「1日8時間」のコミットを求められるなど、働き方の枠組みが正社員とあまり変わりませんでした。だったら正社員でいいのではと思ったんです。
そこで調べていく中で「ちょっと社なら、フリーランスと同じ感覚で正社員として働けそうだ」と思えたことが、大きな決め手になりました。もともとブックマークしていた会社で、ファンだったことも後押しになりました。結局、応募したのはちょっと社だけです。
フリーランスは自分のスキルを点検する機会が少ないので、「自分の技術力で本当に通るのか」と不安もありましたが、無事に採用していただけました。
――すばらしいご縁ですが、いざ正社員となると不安もあったのでは?
平山さん:はい。一番の不安は「朝起きられるかどうか」でした。
――わかる〜〜〜〜〜〜〜。私もそのへんはかなり不安です。決まった時間に起きるのがきついタイプなので……。
平山さん:それに、一般社会から5年近く離れていたので、社会復帰できるのかという不安もありました。
――それでいくと、正社員になるにあたって「譲った部分」と「譲らなかった部分」はどこですか? 例えば、早起きは頑張るけどフルリモートは守りたい、とか。
平山さん:譲れない部分はあまり多くありませんでしたが、強いて言えば「モダンな技術を扱えるかどうか」です。
以前はWeb制作会社でWordPress中心の案件をしていましたが、そこに戻るのは避けたかった。Next.jsなどのモダンな技術を使える会社がいいと思っていました。エンジニアとして成長できる環境で働きたい。それが最も重視した点です。
加えて、通勤なしやフルフレックス、フルリモートが叶えられれば理想的だと考えていました。
――実際に入社してみて、求めていた「成長」の面はいかがですか?
平山さん:かなり成長を感じています。フリーランス時代は小規模な案件を1人で担当することが多く、デザイナーとのやり取りがメイン。自分の他にコーダーがいない環境だったため、コードレビューなどの品質チェックを受ける機会もなく、自己完結で納品していました。
入社後はクライアント規模も大きく、開発体験がまったく違います。GitHubを複数人で運用するときの使い方を学んだり、コードレビューをしてもらったり、逆にレビューを依頼されたり。コードを書く際にも「引き継ぎやすさ」や「読みやすさ」を意識するようになりました。
そうした経験は新鮮で、スキル面でもマインド面でも大きな学びになっています。ちょっと社というエンジニア組織で正社員として働けて、本当によかったです。
――双方のお話を伺ってきましたが、トランジション採用を成功させるには、会社側とフリーランス側がそれぞれ歩み寄る必要がありそうですね。
小島社長:ええ、実際そうだと思います。私が以前勤めていた会社でも、採用がなかなかうまくいかない時期がありました。原因は、社内が内向きで「自分たちと同じ価値観を持った人でないと一緒に働けない」というマインドが強かったことです。
例えば、エンジニアを1人採用するのに10人全員の賛成が必要という仕組みでした。そうなると似た価値観の人ばかりが集まり、組織が偏って拡大できなくなる。こうした課題は現場の工夫では解決できません。ズバリ、経営判断にかかっているのです。
――なるほど。「人が足りないからフリーランスでも入れよう」という発想では摩擦が起きやすい。そうではなく、会社のスタンスとして多様性を受け入れる体制が必要なんですね。
小島社長:そのとおりです。経営者が「やりやすい人とだけ働きたい」と考える限り、採用は難しい。逆に「いろんな人がいていい」というマインドを経営判断として持てば、元フリーランスの採用は決して難しくありません。
――平山さんはどう感じますか?
平山さん:ITの世界って、自分より若くて優秀なエンジニアがどんどん出てくるので、将来に不安を抱える人は多いと思うんです。同じことを続けるだけでは成長できないし、今はAIの存在もある。
そういう状況のなかで、フリーランスを続ける人もいれば、正社員として組織に入って経験を広げるのもアリ。どちらも一つの選択肢だよ、と伝えたいですね。
自分もまさに今、周囲から刺激を受けながら「もっと成長しなきゃ」と仕事を楽しんでいます。正社員もアリかな?と感じているフリーランスなら、選択肢に入れてみるのもいいと思いますよ。とくにちょっと社なんか、おすすめです!(笑)
小島社長:嬉しいですね(笑)。私はこの会社を「エンジニアの推し活」だと思っているんです。いろんなエンジニアが活躍している姿を見るのが楽しいというか。
これからも個性豊かな人たちが活躍できる多様な会社にしていきますので、元フリーランスの方はもちろん、いろんな人に興味を持ってもらいたいですね。お互いにwin-winを実現していきましょう!
収入の不安定さ、スキルアップの壁、そして「この先どう成長していけばいいのか」という迷い。フリーランスとして活動していると、誰しも一度はぶつかる壁かもしれません。
今回のインタビューに登場した平山さんも、そんな不安や成長への渇望をきっかけに正社員へ転身しました。そして「チーム開発を通じて学びが増え、スキルもマインドも大きく成長できている」と実感しています。
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▲出典:Workship CAREER
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(執筆・編集:夏野かおる)