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プロダクトデザイナー・秋田道夫の言葉は、なぜバズり続けるのか?

フリーランスニュース
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2022年、急激にTwitterのタイムラインに現れるようになったアカウントがあります。その名は秋田道夫さん。信号機やセキュリティゲートなど、さまざまな工業製品のデザインを手掛ける、フリーランスのプロダクトデザイナーです。

2022年10月現在のフォロワー数は9.9万人。デザインやスケッチもありますが、人気のツイートのほとんどは秋田さんの「言葉」によるもの。70歳を目前にして書籍の発売も決まるなど、いま最も波に乗っているフリーランスといっても過言ではありません。

そんな秋田さんはいったい、どのようにして言葉と向き合っているのでしょうか。ライターとしてもぜひ参考にしてみたいと思い、今回取材をお願いしました。

秋田道夫
秋田道夫

フリーランスのプロダクトデザイナー。代表作は信号機やセキュリティゲートなど。Twitterで発信する言葉が大きな話題となり、本の出版が決まるなど、70歳を目前にしてさらに活躍の場を広げている。

聞き手:少年B
聞き手:少年B

介護士→建築士を経て、32歳でフリーライターに。2022年には37歳になるが、年齢の割にはライター経験が浅いため、自分が若手なのかベテランなのかいまいち立ち位置が分からずにいる。将来が不安。

正直に書くのはやめた

少年B:
秋田さんのことはTwitterで初めて知ったのですが、いつもツイートがおもしろいです。柔らかい表現でありつつも、本質を突いた言葉が多くて、フォロワー数もすごい勢いで増えていますよね。

秋田:
ありがとうございます。わたしはいま69歳なんだけど、まさか70手前で知名度が上がるとは思わなかったですよ。

少年B:
その年齢でいきなり波が来ることもあるんですね……! 昔から文章は得意だったんですか?

秋田:
「ブログ」って言葉が流行った20年くらい前から文章は書いていましたね。「文章なんか書けなくても、画さえ描ければいい」って時代を生きてましたが「デザインを言葉にする事は大事だと思っていました。

当時は、「頼まれもしないのに自ら文章を書く」ことに対して懐疑的な人はいましたね。「デザインではなく、ブログで有名になった」なんて言われたりして。

少年B:
そんなことを言う人がいたんですね……。

秋田道夫さん

秋田:
まあその通りの部分はありますが(笑)。でも「工業デザイナーが文章で有名になるほうがよっぽど難しいですよ」って内心では反論していましたけどね。

少年B:
(笑)。確かに、本業のデザインとはまったく別のスキルですもんね。

秋田:
ただ、当時のブログの文章は結構辛めだったなと思います。もうすっかり証拠は残っていませんが……(笑)。正直に感じたままを書きすぎたかなと反省しております。

というのも、正直と素直は違うんですよね。

少年B:
……? どういうことでしょうか。

秋田:
正直とは、自分に対して正直であること。素直っていうのは、相手の言うことを受け入れることなんですよ。正直というのはいい表現だけど、自分が中心の考え方で、相手に対する慮りがないですよね。

だからわたしも20年前はきっと、周囲から怖そうに思われてたんだろうなと思います。まあその時代を経て、いまの「表現形式」に落ち着いているわけです。

少年B:
秋田さんはすごく温和な印象だったので、それは意外でした……。今とはぜんぜん違っていたんですね。

秋田道夫さん

秋田:
ありがちだけど「これから世に出てやるぞ」と思うと、爪痕を残したくなるのかもしれません。だからエキセントリックなことを言いたくなってしまう。

今はもう、「エキセントリックなわたし」である必要がないので、誰かを傷つけるようなことは書きたくないんです。そりゃ今でも、書こうと思えばそういう内容はいくらでも出てきますよ。でも、書いてない。書いてないから「柔和な人」と思ってもらえるんです。

少年B:
なるほど……。

見たことを見たまま書かない

秋田:
わたしは信号機をはじめ公共機器の製品デザインが多いのですが、その「公共性」と言葉の公共性には通じるモノがあると思っています。

少年B:
と、言いますと……?

秋田:
今は具体的には小学生でもわかるような文章を心がけています。たとえるなら、NHKの文字放送のような文章を書くような気持ちです。結果的に今多くの人に伝わっている理由にはその文章のわかりやすさがあると思います。

プロダクトデザインも、手に取ってくれる人、使ってくれる人がどう感じるかを考えないと、仕事はできませんから。

少年B:
公共性の高い仕事をしているから、公共性の高い言葉を使うってことなんですね。

秋田:
あと、もうひとつ大事にしているのは、嘘をつかないこと。きれいな事は書いても、きれい事は書かない。

少年B:
うまい……。ほかに、発信をする上で気を付けていらっしゃることはありますか?

秋田道夫さん

秋田:
わたしは「文章をロングライフにするために、それがいつ書かれた文章か分からないようにしたい」と思ったんです。だから、時代や季節が分からないように、ニュースには触れないし、流行についても触れない。とにかくタイムリーな話題を書かないようにしています。タイムレスな文章にしたいんです。

少年B:
そういう話は年数が経っても色あせないですよね。たしかに、Twitterを読んでもnoteを読んでも、時事の話はなく、ただ「秋田さん」という人がそこにいる感じがします。

秋田:
わたしは外山滋比古さんの『思考の整理学』って本が好きで、そのなかに「メタ」って表現が出てくるんですよね。

たとえば富士山を見たとします。そしたら見ただけではなく、どこにあるとか、標高はどのぐらいだとか、そういう情報を加えていって……まぁ富士山の標高は有名ですが(笑)。さらには「富士山はどのような火山なのか」「どうしてあのような美しい形になったのか」とか、どんどん情報を掘り下げていく。

少年B:
はい。

秋田:
それはつまり、見たことを見たままだけで書かないということなんですね。見て思ったことを考えて、それを一旦保留してもう一段階上げて書くという作業が必要だと思います。

わたしの言葉も実はニュースがヒントになっていたりもするのです。たとえば50年前に起こった出来事だって、「これはいま起こっててもおかしくないよな」と思うようなこともあるでしょう。その共通性の発見が、ツイートを興味深いものにしているのかなと思ったりします。

少年B:
なるほど……。勉強になります。

はみ出た部分は消せるけど、足りない部分は足せない

少年B:
すごく失礼な言い方にはなってしまうんですが、年齢を重ねると、若い人たちとのギャップを感じることも増えていくと思っていて。秋田さんからは、そういうものを感じないんですよね。若い人が素直に受け取れるような言葉を使っているというか。

秋田:
わたしはいまだに20歳の自分が最高に「感性が高かった」と感じています。それゆえに、授業を受けている学生のみなさんに『今の感性を大事にしてほしいし、今考えつくこと以上をこれから考えつかないと思ってほしい。』と伝えるようにしています。

少年B:
なるほど……。正直、「今の若いやつは」みたいなことを思うことはありませんか?

秋田:
まったく思わないですね。「今のおじさんは」とは思ったりしますが(笑)。

だから「今時の若者は」って言ってる人は、子どものころは「大人はわかってくれない」と言っていたかもしれないと思ったりします。「気に入らないことを世間のせいにしたがるタイプ」なんじゃないかと。(笑)

少年B:
その発想はありませんでした……!

秋田道夫さん

少年B:
では秋田さんにとって、過去とはどのようなものなんですか?

秋田:
以前ツイッターに「過去はこれからつくる」と書いたことがあります。ようは、今次第で過去はよくも悪くもなるし、今があるから過去の意味も変わっていくと。

逆に言えば、未来のことは今はどうしようもできないんですよね。つい未来の自分に期待してしまうけど、それはものすごく自分に負荷をかけることになってしまう。だからわたしは将来成功するイメージをしないんですよ。

少年B:
未来の自分に負担をかけたくないから、過去と今しか見ないという。

秋田:
「これからどう積み上げるか」じゃなくて、「過去をしっかりやっていれば、今はもう積み上がっている」という感覚ですね。だから、若い人には「将来の自分を楽にする為に今頑張ってほしい」と思います。

少年B:
秋田さんは無理せずにフラットに物事を見ているけど、ポジティブですよね。

秋田:
別段ポジティブじゃないけど、機嫌が良いだけかなと思ってます。ただ、言葉を扱う上で大事なのは、はみ出た部分は消せるけど、足りない部分は足せないということですね。

だから、そういう意味では結局、相当努力はしなきゃいけないかもしれないな、と思います。もちろん、これからもですよ。

少年B:
うっ、厳しくもごもっともなお言葉……! ありがとうございました!

(執筆:少年B 編集&撮影:じきるう)

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