69歳で現役フリーランス、それでも活躍し続ける方法

フリーランスニュース

2022年、急激にTwitterのタイムラインに現れるようになったアカウントがあります。その名は秋田道夫さん。信号機やセキュリティゲートなど、さまざまな工業製品のデザインを手掛ける、フリーランスのプロダクトデザイナーです。

2022年10月現在でフォロワー数は9.9万人。デザインやスケッチもありますが、人気のツイートのほとんどは秋田さんの「言葉」によるもの。70歳を目前にして書籍の発売も決まるなど、いま注目のデザイナーの一人といっても過言ではありません。

フリーランス歴30年を超える大先輩の秋田さんですが、長年仕事を続けて来られ秘訣はいったい何なんでしょうか。今年で37歳になり、将来が心配なフリーライターの少年Bがお話をうかがってきました。

秋田道夫
秋田道夫

フリーランスのプロダクトデザイナー。代表作は信号機やセキュリティゲートなど。Twitterで発信する言葉が大きな話題となり、本の出版が決まるなど、70歳を目前にしてさらに活躍の場を広げている。

聞き手:少年B
聞き手:少年B

介護士→建築士を経て、32歳でフリーライターに。2022年には37歳になるが、年齢の割にはライター経験が浅いため、自分が若手なのかベテランなのかいまいち立ち位置が分からずにいる。将来が不安。

自分を出して、先人に学ぶ

少年B:
秋田さんは現在69歳ですが、働いていて、年齢を感じたことはありますか? 仕事相手が年下になって、仕事を振られにくいとか、新たな発想が乏しくなるとか、「フリーランス 40歳の壁」なんて話もよく聞くので、最近心配で……。

秋田:
好奇心が強くて、色々な事に関心があるので、おかげさまで仕事相手が年下になっても話題に困る事もないし、アイディアに困る事もないですね。

わたしは、40歳になった頃「60歳になっても人から手伝ってほしい言ってもらえる存在になっていたい」と思っていました。それが実際にその年齢になり、さらにそこから10年が経っても「手伝って欲しい」と言われていることを、とても嬉しく思っています。

少年B:
それはすごい……! 年を重ねてから、なにか変えたことはありますか?

秋田:
コロナの影響で様々な仕事の予定が保留になったり、中止になったりして、結果として時間の余裕が生まれたので、その時間を使って新たな3Dソフトを使い始めました。そして3Dプリンターも購入して簡単な模型を作るようになりました。

そのソフトのおかげで仕事先の設計データを使ってデザインが出来るようになりましたし、わたしのデザインしたものを設計者がデータとして使えるようになって作業がとてもスムーズになりました。仕事ってやっぱり「柔軟性」と「適応力」が大切ですからね。言葉にも流行があるように、仕事のやり方もどんどん変化していますから。自分から進んで「新しい言葉」を覚える事は大切ですね。

少年B:
なるほど……。

秋田道夫さん

秋田:
たとえば40代で将来が不安になったりするのは、自分よりずっと年上で活躍している人のことを知らないからじゃないかな?と思いますよ。

自分からしたら、先輩のプロダクトデザイナーには80歳を超えても活躍されている方も多いですから。過去には90歳を越えても仕事をされていた柳宗理さんや渡辺力さんや長大作さんがいますし、現在で言えば黒川雅之さん、川上元美さん、喜多俊之さんなどそれこそ50年以上ご活躍されています。40代なんて、まだまだですよね。

少年B:
あの人みたいになろうという目標を持つというか……。

秋田:
まあそんな大御所の方達を目標というにも不遜な気もしますが、年齢に関係なく仕事を続けられるという気持ちでいることは大切だと思います。そうすれば年齢を重ねることを楽しみすら思えます。

少年B:
自分は「みんな仕事相手の年齢なんて気にしないだろう」と思うようにしているんですが、そういう考え方もあるんですね……。

秋田:
年齢の話で言えば、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツが2つ下なんです。

自分よりも年齢が近い人が世界を変えたわけです。そのことがじつはすごくショックでした。そんな遠い巨人を見てショックを受けるのもおかしいと言えばおかしいですけどね。

秋田道夫さん

秋田:
自分と年の違わない当時20代の人達が、パーソナルコンピューターという新しい道具を使って、世界的大企業に勤める60代、70代の重役たちと対等に交渉をして、大きな壁を越えていく様を目の当たりにしたのは、カルチャーショックでしたね。

しかし、同時にコンピューターを使ってデザインをする事によって、新しい造形や文化を想像できるようになった事に対して同時代的に体験できた事は大きな収穫ですね。

少年B:
その時代に一緒に生きてきたことで見えてきたものも大きいのかもしれませんね……。

仕事の取り方は聞かれないほうがいいし、聞かないほうがいい

少年B:
秋田さんは長年フリーランスで仕事をされていますよね。それだけずっと仕事が来ているという。

秋田:
いやわたしは「これしかない」ので、生きる為に仕事をしている感じです。「生活感がないですね」と昔から言われていますから、「生きる為」なんて深刻な言葉は不似合いかも知れませんが、内実はそうです。

「仕事が向こうから来るか」ということで言えば、これまでの仕事の多くが会社員時代の知り合いや高校時代の友人の紹介です。ありがたいことに、そこで生まれた製品が評判になって次の仕事が来るようになりましたが、元を正せばそういう人間関係で大いに助けてもらっています。ただ「ちゃんと仕事をする」という評価をしてくださってのことだとは思います。

少年B

少年B:
そうなんですか!? 有名になって色々なところから話が来るように見えていました。わたしはそんなに自信がないのでつい色んな人に「どうやって仕事を取っているんですか?」と聞きたくなってしまうんですが……。

秋田:
実は、わたしのちょっとしたプライドは「これまで仕事の取り方を聞かれたことがない」だったりします。

少年B:
えっ、そうなんですか!?(いまその質問をしなくてよかった……!)

秋田:
その理由のひとつが、年齢だと思います。人に知られるようになった時、すでに50歳を過ぎていたので、さすがにその歳までやっているなら仕事は向こうから来るだろうと思ってもらえたからでしょうね。

少年B:
年齢を重ねることは不利なことばかりじゃないんですね。

秋田道夫さん

秋田:
現実的にはそういう図式ではなくて、知り合いの助けがあってここまで来れていますが、60歳を過ぎて、70歳に近づいても仕事を続けられていることはかなり稀有ですね。未だに不安は大きいのですが。

少年B:
秋田さんでも不安なんですね……。仕事の取り方を聞かれたことがないのがプライドになるのはなぜなんでしょうか。

秋田:
たとえば「どういうことに気を付けてデザインをしているんですか?」と聞かれて、その答えを聞いて相手の方が「そういう心構えだから仕事が来るんだな」と思ってくれる分にはいいんですよ。

幾つになっても笑顔と愛嬌は大事なことなのですが、仕事の取り方を聞かれて「やっぱり笑顔と愛嬌が大事です」なんて言ってしまうのは、デザイナーとしてはちょっと違うんじゃないかな。

少年B:
仕事術を駆使して営業している時点で、デザイナーとしてはまだまだだと。なるほど、深いです……!

秋田:
さらに言えば「いい仕事をしているデザイナーだから自ずと仕事はくる存在」と世間的に思われる方がいいですね。仕事の取り方を人に聞くのもあまり良くないんじゃないかと思います。

少年B:
えっ、そうなんですか!?

秋田:
仕事の取り方を聞くってことは、現状の仕事に満足していないか、苦手を自身で晒すようなものだと思っています。

独立してすぐに、色々な人に聞いて回るのが良いかもしれません。でも、いつまでも「それが聞ける立場」でいるのは困りますね。そもそも聞かれた相手に重荷を背負わせてしてしまうかも知れませんし。

少年B:
うっ、確かに言われてみれば……!

秋田:
それがホワイトボードに書いた「仕事を欲しいといったら仕事はこない」に集約されるわけです。

素直に「いい」と伝えていたら、仕事が来た

少年B:
長きにわたって活躍するコツはあるんですか?

秋田:
何十年も続けられるのは「続けられるような形でしか仕事をしていないから」だと思います。身体に負担の少ない方法を取っているからでしょうね。

なにせ、フリーランスになってからの35年間で徹夜をした記憶が無いんです。朝9時に来て夜の8時には帰るのがルーティンでした。その代わりに土曜も日曜もだいたい事務所に来て仕事をしています。まあ、それで収まる程度にしか仕事が来ていないのかなと思いますが(笑)。

少年B:
徹夜も残業もしない!? めちゃめちゃ理想的ですね……! では、仕事について具体的にお伺いすることはできますか? たとえば、秋田さんの代表作は信号機だと思うんですが、どのような経緯でデザインすることになったんでしょう。

秋田:
信号機の仕事をさせていただくきっかけは、高校時代の友人が「大阪にプロダクトデザイナーを探している会社がある」と教えてくれて、その会社が企画していた大型の照明器具をデザインすることになったことからはじまりました。

少年B:
そこが信号機の会社だった……?

秋田:
いえ、まったく関係のない会社なんです。ただ、その照明器具を製造するには、大きな設備のある会社でなければ作れないということで、「信号機メーカーでなら作れるかもしれない」と。

そこで、照明器具の開発チームで福岡県の大牟田にある「信号電材」に見学に行ったんです。

少年B:
なるほど。

秋田道夫さん

秋田:
そばで見ると、信号機って思ったよりかなり大きくて、赤・黄・青のランプの直径は30cmもあるんです。それが間隔を置いて三つ並んでいますから、幅は1mになるんです。その大きな存在感に魅了されて、子どものように「おもしろいな〜! これほしいな〜!」って工場の人に言いながら帰りました。

少年B:
その気持ちはわかります。大きいものはカッコいいですもんね。

秋田:
そしたらその後、社内で「信号機にもデザインが必要なんじゃないか」って話になったようで、「この前来たデザイナーが興味を持ってたから頼もうか」ということになったそうです。

少年B:
「見学でおもしろがってた」って理由で仕事が来るんですね!?

秋田:
もちろん、その照明器具のデザインに好感を持ってもらえていたことが前提だとは思いますが、いいものはいいと気持ちを積極的に伝えることは大事なポイントだと思います。

しかし知り合うきっかけになったプロジェクトは製品にならずに、思ってもいなかった信号機のデザインが広く世の中に普及するというのは面白いものだなと思います。

素直であれば、体に負担がかからない

少年B:
もうひとつ、代表作であるセキュリティゲートについてもおうかがいできますか? 六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズでも導入されたとお聞きしています。

秋田:
たしか1997年の事だったと思いますが、「これからは福祉の時代だ」と思って、ビッグサイトで開かれた国際福祉機器展というイベントに、自己紹介の資料を携えて売り込みに行ったんです。いま思うと当たり前のことですが、全然手応えがありませんでした。

少年B:
秋田さんにもそんな時代があったんですね。

秋田道夫さん

秋田:
「これはだめですね」という気持ちで福祉機器展を後にして、通路に出たら反対側の展示場で「自動機器展」というイベントが開催されていたんです。

「面白そうだな」と好奇心だけで覗いたら、会場の入り口近くで自動改札のデモンストレーションがやられていて、その機械の側にいらした説明員の方に「これかっこいいですねえ」と話しかけたんですよ。その「自動改札」が、じつはセキュリティーゲートの試作品だったんです。

少年B:
そうなんですか! その言葉は、純粋にかっこいいなと思って?

秋田:
そうです。仕事とは一切関係ないつもりだったので、作ってきた資料もお見せしなかったように思います。

ところが、その説明員の方に「そう言えば設計者がデザイナーを探してるんですよ」と言われて、びっくりしました。そしたら、数日後に設計担当者から本当に電話がかかってきたんです。

少年B:
うそみたいな話ですね。

秋田道夫さん

秋田:
だから、やっぱり素直に褒めるのって大事だと思うんですよ。仕事を欲しいと言うのがよくないって思うのはそこなんですね。

もしあの時、説明員の方に「わたしならもっとカッコよくできます」みたいなことを言ってしまったら、たぶん仕事の紹介はして下さっていないように思います。

少年B:
仕事がほしいと思うと、自分の優位性をアピールしたくなってしまうというか……。

秋田:
そうなんです。だから、長く続けるには自分の気持ちに素直にやっていくのが一番いいと、わたしは思うんです。

少年B:
ありがとうございました。自分も素直にがんばります……!

(執筆:少年B 編集&撮影:じきるう)

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