職務経歴、少し盛るか、そのまま書くか。僕らが職務経歴書に力をいれるワケ

BUSINESS

僕らが、職務経歴書に力を入れるようになったのは、いつからだろう。25年ほど昔、僕が大学3~4年にかけて就職活動をしているときには、「職務経歴書はきちんと書きましょう」といろいろな人から言われた記憶がある。僕は利用しなかったので詳細は知らないけれども、「職務経歴書、こう書けばオッケー」的なマニュアルも出回っていた気がする。

その流れは25年経った今も続いている。いや加速している。職務経歴書を指南する人や本は25年前とは比較にならないほど盛況である。働き方も変わり、転職が当たり前になったので、中途採用時等々で職務経歴書を使う機会が増え、重要度は増しているのだ。

転職する際、中途採用を狙う際には、職務経歴書は自己アピールする大きな武器になる。極端な言い方をすれば、履歴書や職務経歴書で自己アピールに成功しなければ面接にたどり着くことさえかなわないからだ。履歴書は個性を出しにくいために、おのずと自己アピールは職務経歴書にかかる比重は大きくなる。そのため、採用担当者の目を引く職務経歴の書き方が求められて、ノウハウが持てはやされるのだ。

フミコ・フミオ
フミコ・フミオ

大学卒業後、営業職として働き続けるサラリーマン。食品会社の営業部長サンという表の顔とは別に、20世紀末よりネット上に「日記」を公開して以来約20年間ウェブに文章を吐き続けている裏の顔を持つ。現在は、はてなブログEverything you’ve ever Dreamedを主戦場に行き恥をさらす。2019年9月にKADOKAWAより「ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。」を発売。

盛って書くことの必要性

職務経歴書にリアルをそのまま味気なく書けばいいのだろうか。

「平成10年A社入社。営業担当として関東エリアを担当。平成19年。営業部課長。後輩育成に尽力。平成26年。退職。B社入社。営業部平社員として再出発……」と平々凡々な経歴を、時系列で淡々と書かれても、インパクトがなく、採用担当者の目に止まる可能性は低くなってしまうだろう。

平々凡々の経歴に磨きをかけて、光輝くものに変えて、採用担当者の目に止まるようにしなければ次のステップには進めない。だから、職務経歴指南的なものが求められるのだ。

もちろん、職務経歴書は事実でなければならない。嘘は書いてはいけない。だが、目をひくために少々華麗に見せることは必要だろう。デタラメ=経歴詐称はダメだが、事実を綺麗に見せる=経歴化粧はオッケーだ。僕も数年前の転職の際に経歴化粧をした。

「営業課長として、上席の指示命令に忠実に従いつつ、後進の育成に尽力した」と職務経歴書に記したのだ。

僕が上席の指示命令に忠実に従っていたかというと………疑わしい。上席の「マトモな」指示命令には従っていました、などと現実をつづっていたら、採用担当者に良い印象を与えられず採用されなかったかもしれない。嘘ではない。都合のよろしくない現実を少々ファンデーションで隠したのだ。

とはいえ盛りすぎは要注意

このような経歴の装飾にも限度はある。行き過ぎはよろしくない。関わった人間が全員不幸になるからである。最近、僕が働いている会社では「モリモリ君」が話題の中心である。

モリモリ君は、中途採用される際に、職務経歴書をモリモリに盛った疑惑を持たれている。同業他社から転職してきたモリモリ君の職務経歴書を、僕は実際に目にしていない。モリモリ君は僕の所属している営業部ではなく、事業本部の社員なので、中間管理職の権利を行使すれば閲覧は出来るけれども、そこまでして見るまでもないと思ったからだ。

モリモリ君を採用した人事担当者と事業本部の責任者が、面接におけるハキハキした受け答え、光り輝く瞳、彼の語る仕事に対するビジョンと、輝くような華麗な職務経歴書に魅了されて、「とんでもない逸材が入社することになった」と浮かれていたのを記憶している。数か月前の話だ。

モリモリ君の華麗なる職務経歴書を閲覧した人間は、異口同音に「スーパーエースが来る!」「マネジメントの猛者」といって褒め讃えていた。僕は違和感を覚えていたけれども、水を差すのがイヤだったので意見しなかった。違う部署の中間管理職から、期待の中途採用者について意見されるのはイヤだろう。僕だってイヤだ。

職務経歴書は周りの期待値を上げる

サラリーマンのイメージ画像

▲出典:さくマガ

入社したモリモリ君は、30代半ばの真面目そうな青年であった。挨拶程度の会話しか交わしていないが、一般常識はあるように見えたし、言葉遣いや気配りもできる「ザ・好青年」という人物であった。周囲の期待は高まるばかり。スーパーエースが変革をもたらして、部署の業績を爆上げしてくれる……そんな期待感があった。

結論からいってしまうと、モリモリ君入社から数か月経った現在、モリモリ君が業績を爆上げしてくれそうな雰囲気は皆無である。彼の責任ではない。周囲が無責任に期待を膨らませていただけである。即戦力とされたモリモリ君は、入社早々に、実戦配備された。

「これくらいは余裕だろう。スーパーエース候補だから」という周囲の思い込みからの慣らし運転なしでの実戦投入であった。入社して数日経った頃、事業本部の同僚に「モリモリ君どう?」と尋ねたら、彼は「う~ん。まだ慣れていないからだと思うのだけど」と煮え切らない言葉で、その場を濁して立ち去ってしまった。

入社1か月。僕の違和感は現実になりつつあった。社内のモリモリ君の評価は「あれ? もしかしたらたいしたことない?」という疑問視と「まだ慣れていないだけ。これからだろう」という期待感で二分されていた。

モリモリ君に同行して一緒に働いた人たちは、マネジメントの知識は間違いなくあるが、それを現場で活かしきれていないという印象を持っていた。「経験不足はありえない。慣れていないだけだろう。そのうち力を発揮するよ」という同僚たちの根拠は、モリモリ君自身が書いた職務経歴書しかなかった。

盛った経歴を見極められないのは採用する側の力不足

入社2か月経過。「もしかしたら、たいしたことない」という評価から「もしかしたら」が消えていた。「慣れれば力を発揮する」はずが「慣れても力を発揮しない」事態に陥っていた。

救いは、経験豊かなスーパーエースという見方をしなければ、真面目に仕事をこなしてくれる社員であることだった。試用期間を終えた彼に責任はない。頑張ってほしい。

デキる感をアッピールしたのはモリモリ君の職務経歴書だが、そこからスーパーエース像を見出して期待バルーンを膨らませて破裂させたのは採用した側である。僕の違和感は現実のものとなった。

モリモリ君が職務経歴書に記した華麗なキャリアと経験と実績と能力があれば、同じ業界ならヘッドハンティングされる機会もあって然るべきであるし、自分から売り込みをかけて自分の望む職場を見つけられるはずだ。それがなぜハローワーク経由なのか。

「スーパーエース候補」「マネジメントの猛者」と称される超有能人物とハローワークとがどうしても一致しなかったのだ。偏見を自覚していたので口に出さなかったけれども、結果的に僕の見方は正しかったのだ。

職務経歴書を盛るのは悪いことだろうか。そうとも言い切れない。先述のとおり、多少盛って書かなければ、平々凡々な僕らの経歴は採用担当者の目に止まらないからだ。正直にありのままを書いていては、勝率は上がらないだろう。

経歴詐称はダメだが、経歴化粧はオッケーという僕の考えはモリモリ君を経た今も変わらない。モリモリ君も不幸である。職務経歴書を少々盛って書いただけで、期待値を勝手に上げてしまった人たちと実態とのギャップを埋めるために苦労しているのだから。

営業経験者を採用担当者にしてみるのはいかが?

採用する側には、職務経歴書は盛って書かれているものだという認識が必要だ。盛られた職務経歴書の先にあるリアルを見極める力が求められるだろう。どの程度盛っているのか。事実はどこになるのか。面接の際に質問を浴びせて明らかにしていく……。

僕は、採用担当者に営業経験者(ベテラン)を入れることが有効ではないかと考えている。見極める力とは疑う力である。そして、営業という仕事を長く続けてきている人間は、間違いなく、疑う力を持っているからだ。

営業という仕事を続けられるかどうかを分けるポイントは「話せる/話せない」というイメージがあるのではないだろうか。はっきりいって「話せる」という要素は些末である。

営業という職種において不可欠な要素は「疑う力」である。営業という仕事は相手が意識していない、気が付いていない課題をいち早く察知して、あたかも相手が自身の力で気が付いたように誘導して「そういえばこんな問題があるんですよ」と言わせる仕事である。長く営業を続けている営業職は、例外なくこれが出来ている人である。

そのベースにあるのは「この客が問題だと考えていることは問題ではないのではないか」「もっと根本的な課題があるにちがいない」と常に疑うことである。それさえ出来れば、話が出来なくても、企画提案が苦手であっても、営業という仕事はできる。

採用担当に営業経験者(ベテラン)を入れれば、疑う力をフルに活かして、職務経歴書の先にあるリアルな経歴を見つけ出せるのではないか。モリモリ君のようなケースに困っている企業には検討していただきたいものである。

つい先日、モリモリ君と話す機会があった。「どうして同業他社を狙って転職したの? 経歴を盛っても同じ業界だったらすぐわかってしまうよ」と単刀直入に質問してみた。彼の返事は新鮮で薄汚れた心をもった僕に刺さった。

「この仕事で何とか頑張ってみたいのです」と彼は答えた。彼がどうしてそう考えたのか、僕は知らない。「この仕事を頑張ってみたい」。この言葉さえ聞ければ、モリモリ職務経歴書がなくても十分だと僕は思った。

今、僕は彼が、スーパーエースになれると確信している。予定より時間はかかるかもしれないが、それはそれである。以上。

(執筆:フミコ・フミオ 編集:川崎 博則 提供元:さくマガ

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