世界一小さい「10億分の1サイズの車」。ナノカーレースの話を聞いてきた!

世界一小さい「10億分の1サイズの車」。ナノカーレースの話を聞いてきた!

紳さんねぇ、飛影くん。突然だけどさ、車って良いよね。

飛影そうだね、紳さん。速いし、カッコいいよね。

 

紳さん(しんさん)
紳さん(しんさん)

純真無垢なフリーライター。好奇心のかたまりで何にでも興味を持つ。

飛影(ひえい)
飛影(ひえい)

純真無垢な科学コミュニケーター。科学と人を繋げることが唯一の趣味。

 

紳さん最近は電気自動車とかもあるけど、どんな車が流行ってるんだろうね?
飛影あ。そういえば、世界一小さい車があるんだけど、見たことある?
紳さん世界一小さい車? 軽自動車? コンパクトカーってこと?
飛影実際に見た方がわかりやすいかも。よし、見にいこうか!!
紳さん胸の高なりを感じる!!

 

というわけで、茨城県つくば市にある国際ナノアーキテクトニクス研究地点(MANA)を訪れました。

紳さんなんで研究所?
飛影フフフ。ここは日本で最も優れた研究機関の一つで、世界の優れた研究者達がナノテクノロジーの研究を進める、とにかくすごい施設なんだよ。
紳さんナノテクノロジーって何さ?
飛影僕もよくわかってないけど、人間の目に見えないめちゃくちゃ小さいものをどうにかする技術のことさ。
紳さんなにそれ怖い。

 

飛影はい。これがナノテクノロジーで作った車だよ。
紳さんえっ!? どれが車?
飛影このビンの中に車がたくさん入ってるんだ。
紳さんはぁ!? なんなの? トンチ?

 

紳さん中に入ってるのは、白い粉だけど……

 

紳さんあ、わかった! この粉がクスリになってるんだね。 軽くキメれば、幻覚で世界一小さな車が見えるようになる。
飛影違うよ。そんなヤバイ遊び、国際的な研究所でやるわけないよ。

 

飛影実は、その粉の一粒一粒が車なんだよ!
紳さんえぇ〜!? どういうこと!?

 

中西先生ご説明しましょう。
紳さん誰!?
飛影超分子グループMANA研究者の中西和嘉博士。この車の開発者さ!
中西和嘉(なかにしわか)博士
中西和嘉(なかにしわか)博士

物質や材料の研究をしているスペシャリスト。最近は超分子という、特殊な結合をした分子の研究に熱中している。

 

というわけで、世界一小さな車とは何なのか、中西和嘉博士のお話を聞くことになりました。

 

「博士」って言われるとなんだか背筋が伸びてしまうのですが、中西博士は優しそうな女性で、写真では常にどこかがブレてしまう不思議な人でした。こういうところがすでに超分子っぽい。

すごく表情が豊かで、オーバーリアクション。見ていて飽きない、そんな人です。

そんな中西博士が研究している分野が何かと言うと……

 

分子を操る技術。

そう。中西博士は人間の肉眼では確認できない極めて小さな物質を「操る」という技術を研究しているのです。

面白そうですね! 早速、話を聞いてみたいと思います。

 

分子の世界に飛び込む

紳さん中西博士、そもそも分子ってどれぐらいの大きさのモノなんでしょうか? 僕は分子を見たことないので、まったく想像できないのですが。
中西先生はい。分子は極めて小さな粒(つぶ)同士がくっついて成り立っているものです。ナノテクノロジーのナノとは10億分の1という単位を表す言葉なのですよ。
中西先生分子の大きさは構造にもよりますが、10億分の1メートルくらいですかね。
紳さん10億分の1メートル!!!  って言われてもイメージできないのですが……  小麦粉の1粒よりも小さいですか?
中西先生目に見える小麦粉の粒のことを言うのなら、それより遥かに小さいですね(笑) 小麦粉の1粒も突き詰めていくと分子ですけど。
中西先生分子を野球ボールにたとえると,私たちは地球くらいの大きさになってしまいます。
紳さんなにそれ!? テロじゃん!?
飛影テロではないだろ。
紳さんとにかく、分子はヤバイぐらい小さいってことですね?
中西先生そうなんです。 実は数十年前までは1つの分子を見るだけでもすごいと言われていたんですけど、今は分子を操ることができる時代になったんですね。
飛影その大きさのものを操ろうって発想がヤバい。

 

飛影博士。ところで分子を操るとは、具体的にどんな技術なんでしょうか?」
中西先生良い質問ですね。実は最近、分子で車を作って競争をする分子カーレース(ナノカーレース)という競技に挑戦してきたんですよ。
紳さん分子の車!? あ、もしかして世界一小さい車って、その分子の車のことなのかね、飛影くん?
飛影ふふん。そういうことさ。

 

分子カーレース(ナノカーレース)とは?

中西先生分子カーレースとは、その名の通り分子で車を作ってレースをする競技のことなんですね。
中西先生一般的に馴染みは薄いのですが、1982年に走査型トンネル顕微鏡(STM)と呼ばれる装置が開発されました。
中西先生この装置は、非常に鋭どい針を物質の表面に近づけることで流れるトンネル電流から表面の電子状態、構造を観測できるという装置で……
紳さんもうすでに理解できない。中西博士、申し訳ないのですが昆虫でも分かるように説明してもらえませんか?
中西先生ウフフ。昆虫と会話したことが無いのでわかりませんが。
中西先生まぁ、つまりは特殊な装置で分子の表面を針でなぞることにより、分子の運動を操ることができるようになったっていうことなんですよ。なぞると言っても、物理的接触があるわけでは無いのですが。
飛影STMはすごい装置なんですね。分子を触るとか、これまで考えられなかったことを実現するとは。

 

中西先生外から電気エネルギーを加えることで物質が変化する、つまりは車輪が回転するかのように分子が形を変えるわけなんですね。その運動を利用して分子の車を動かすということをやってみたんですよ。
飛影ナノサイズの分子で車をデザインし、分子のごく小さな運動のエネルギーを利用して、とある方向へ分子を走らせる技術、というわけですね。
紳さんすごい世界だ。 分子自体はめちゃくちゃ小さいけど、話のスケールが大きい。
中西先生ただし、針でなぞった時になぜ分子がそういう運動をするのかっていうのは詳しく分かってないのですけどね。
飛影それでも、分子を操ることはできている、と。
紳さんなんだか分子が生き物みたいに思えてきた。

 


▲日本代表チームと、ナノカーのモデルイメージ

中西先生2017年4月にフランスでナノカーレースの大会がありまして。私、日本代表チームとして参加してきたんですよ。TOYOTAさんがスポンサーになってくれました。
紳さんTOYOTAも車として認知したのか。ナノカー恐るべし。
中西先生日本、アメリカ、ドイツ、フランス、スイス、オーストラリアとアメリカの混合チーム、の計6チームが参加しました。
紳さん想像してたよりも参加者が多い。

 

中西先生さて、私たちが持ち込んだナノカーですが、ビスビナフチルデュレンという分子構造だったのですよ。
紳さんほほう。ビスビナなんたらは自然界に存在するものですか?
中西先生いいえ。人工的に作り出した化学物質なんです。
飛影あ、そうそう。さっきのビンに入ってた粉がそうだよ。
紳さんはっ!? そうか、あの粉がビスビナなんたら!!!
紳さんで、そのビスビナなんたらはどれぐらい速かったんですか?

 

中西先生それが…… レース当日、装置を制御するためのPCが不具合を起こしてしまって……
中西先生残念ながら途中棄権となってしまったんですよね。最初の10分で私たちのレースは終わりました。
飛影悲しい……
紳さん分子は操れるのに機械を操れないとは、これいかに。
飛影おい、やめろ。
中西先生それでも!!! 最初の10分間で1ナノメートル進んだことは確認できたんですよ!!!
紳さんすごい! ちゃんと車として動いたんだ、ビスビナ。

 

中西先生レースができること自体、貴重な体験でしたのでね。なんとかレースに復帰できないものか、いろいろと頑張ったのですが……
中西先生ナノカーレースは6つのチームが同時に1枚の金の上で競技を行うものですから、やりすぎると他チームへの悪影響が出ちゃうんですよ。なので、あえて途中棄権という道を選択しました
飛影譲り合いの精神は日本人の誇りですね。
中西先生そういう姿勢が認められて、私たちのチームはフェアプレイ賞をいただきました。
紳さんそれは素晴らしい。 次回、ぜひともリベンジして欲しいです!!
中西先生余談ですが、ビスビナフチルデュレンはとても柔らかい分子なので、すぐに曲がったり、折れたりするんですよ。操作するのがとても難しい車なんです。
中西先生あえて操作が難しい分子構造でチャレンジすることは、とても意義のある研究だったのですよ。
紳さん分子に対する愛を感じますね。

 

中西先生ちなみに優勝したオーストラリアとアメリカの混合チームの車は、めちゃくちゃ速かったんです。もうね、ビュン!って感じで一瞬でゴールしちゃってました
飛影全力で勝ちに来てたんですね、そのチーム。
中西先生金の表面を走ると速すぎて観測できなかったので、最終的に銀の表面でレースをしていました
紳さん金と銀ってそんなに違うものですか?
中西先生ナノカーのコースとして考えると、ぜんぜん違いますね。金はツルツルしているイメージで、銀はベトベトしている感じです。
紳さん分子レベルだと、銀はベトベトしてるんだ…… 面白いですね、世界一小さな車の世界。

 

ナノテクノロジーの未来

紳さんあれ? そういえば中西博士は、この分子を操るという技術を研究しているんですよね。
中西先生まぁ、そうですね。物質とか材料の研究をしています。
紳さんあの…… 分子を操る技術は、私たちの生活にどう役立つんですか?
飛影(いきなりブッ込んできたな……)
中西先生素晴らしい質問ですね。その答えはまさに、私たちがナノの世界で研究を続ける理由とも言えるでしょう。

 

中西先生正直なところ、この研究はすぐに何かの役に立つというものではないわけですよ。
紳さんめちゃくちゃ正直ですね!?
中西先生どんな分野でも研究を続けることはお金がかかります。その出資元は国だったり企業だったりしますが、思うような成果が出せないと予算を打ち切られることもあるんです。
飛影当然、シビアな世界でもありますよね。
中西先生それでも、将来的には必ず役に立つ、はずだと。これは必要な研究だと信じて続けるのが信念ですね。
中西先生特にナノテクノロジーは、すでに色んな分野でも成果をあげている注目の研究ですしね。

 

中西先生それと、これから起きるかもしれない問題に備えるのも、研究を続ける理由の一つです。
中西先生例えば、100年後に人類の存亡を脅かすような大問題が起きるかも知れない。その時、解決できるのがナノテクノロジーしかない場合だって考えられます。
紳さん確かにそうかも。ごく小さい者(物)にしかできないことってあるよなぁ……
中西先生医療の現場でも大きな成果をあげそうですよね。分子を思い通りに操れるようになったら、人間の体の中を動き回って病気や怪我を治療できる可能性もあります。
飛影未知の病原菌とかウイルスが誕生して、人類がピンチになった時にナノテクノロジーで撃退できたりね。
紳さんガンとか、現代の医学では治せない病気や怪我が治せるようになるかも!?
中西先生ウフフ。まだまだ遠い未来の話かも知れませんけど……
中西先生ナノテクノロジーには、あらゆる可能性がある! これだけは間違いありません!
紳さんよくぞ言ってくれました、中西博士!
飛影パチパチパチパチ(拍手)

 

中西先生まぁ、とはいえ、今はもっと分子のことを知りたい!っていう気持ちが強いです。
中西先生1つの分子を見る、操る、ということが出来るようになったのはごく最近のことですから。まだまだこれからなんです。
飛影走査型トンネル顕微鏡(STM)の誕生がとにかくすごいですもんね!
中西先生今起きている問題の解決、これから起きる問題の解決。世の中を変えるような新しい製品の開発。
中西先生そういったことに役立つ成果をあげられるよう、研究を続けていきたいと思います!
紳さんワクワクする話ですね! 応援しています!
飛影中西博士、貴重なお話をありがとうございました!

 

まとめ

ナノ。10億分の1という単位。

世界一小さな車の話から、紛れ込んだナノテクノロジーの世界。

それはめちゃくちゃ小さな小さな世界の話で、なかなかすぐにはイメージできません。

僕は中西博士の話を聞くまでは、分子とか自分とは関係のないものだと思っていました。

でも、そんなめちゃくちゃ小さな分子でも、見ることができ、操ることができると聞いて、今はとても身近な存在だと感じます。

そして、新しいものを生み出すために続けられるナノテクノロジーの研究はとてもクリエイティブな挑戦だと思いました。

これからはもっともっと分子のことにも注目しながら、生活をしていきたいです。

肉眼では見えないけど、その小さな粒たちは確実に僕らの近くに存在するのだから。

 

中西博士、国際ナノアーキテクトニクス研究地点(MANA)のみなさま。貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました!

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