【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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フリーランスとして成功するためには、専門スキルを伸ばすべき?
それとも幅広い領域に挑戦して、できることを増やしていくべき?
フリーランスとして働く人、あるいはこれからフリーランスになろうと考えている人は、この悩みを一度は抱えたことがあるのではないでしょうか。仕事を獲得しやすいのはどちらか、自分がやりやすいのはどちらか。どちらがよいか考える軸がいくつもあることも、この悩みを深める要因のひとつかもしれません。
今回はそんな悩みを抱える皆さんのヒントになる本音を語っていただくべく、それぞれのキャリアを歩んでいる4名のフリーランス(と経営者)に集まっていただきました。メリット・デメリットの比較や、実際にそのキャリアを歩んでみてわかったこと、さらには仕事を獲得するために心がけていることや考え方などを聞いていきます。
2004年からフリーランスとしてウェブメディア制作・運営を始め、2016年よりWebライターとしても活動を開始。トラベル系コンテンツの取材・執筆を多く経験。近年はビジネス系のコラム記事や取材・執筆も行う。(X:@warashibe)
デザイン系、ゲーム系の会社でイラスト・デザインの経験を重ね、2022年イラストレーターとして独立。アニメや漫画の既存キャラクターの版権イラスト案件や、懸賞くじのイラスト制作などのキャラクターコンテンツを中心に活動。(X:@tig0106)
大学時代のフリーペーパー制作経験をもとにフリーランスの編集者・ライターとして活動後、2022年、展葉社を設立。幅広い領域のクリエイティブ制作をはじめ、コミュニケーションデザイン、イベント運営も行う。自社D2Cブランド「ANONYM(アノニム)」運営。(X:@seramayo)
映画学科卒業後、広告制作会社や大手音楽番組制作・配信会社などで経験を重ね、独立。舞台公演の撮影、YouTubeチャンネルの動画撮影・編集、ポートレート写真撮影など幅広い領域で活動。そのかたわら、家族が運営するカフェに店員として立つことも。(X:@CashmereBear)
広告系の企画制作会社、教育事業会社での企画職を経て、2017年ライターとして独立。ビジネス領域のインタビュー記事執筆を中心に実績を重ね、2020年株式会社宿木屋を設立。チームで言葉を軸にした企業の発信支援を行う傍ら、個人名義でのコラム執筆や創作活動もしている。(X:@yuki_yadorigi)
目次
フリーランスは「何ができるか」が自身の市場価値に直結します。専門的なスキルがひとつないと、なかなか仕事をもらうことはできませんよね。一方で、スキルの幅が狭いと、活躍できる場も狭まると不安に思う方もいるかもしれません。
専門スキルを伸ばすか。あるいは、幅広い領域に挑戦していくか。この2つのキャリアパス、どちらを選んだらいいのかは、非常に悩ましいものです。それに、仮に幅広い領域に挑戦するとしても、どのように幅を広げていくか悩んでいる方もいるでしょう。今回は、そんな悩みを解決するヒントを、4名のフリーランス(と経営者)から紐解いていきます。
───まず、「専門スキルを伸ばす」派のayanさん、たいがさん、そのメリットを教えてください。
たいが:
何をしているのかわかりやすいことですね。僕の場合は「イラスト」と言えば「たいが」と認識してもらいやすいですし、自分を宣伝しやすいです。
ayan:
飲食店でたとえると、いろいろメニューがあるレストランでコーヒーを出すよりも、コーヒー専門店のほうが「おいしいコーヒーが飲めそう」と想像してもらいやすいですよね。あと、専門スキルをひとつ決めていたほうがそこに集中してスキルアップしやすいですし、クライアントに自信をもって価値提供ができます。
───逆に「幅広い領域に挑戦する」派の大口さん、瀬良さんはどうですか?
大口:
ayanさんの飲食店のたとえに乗ると、僕は“蕎麦屋のカツカレー”だと思います。
ayan:
あ、おいしいイメージがありますね!
大口:
ですよね? 僕が立てている看板は「映像屋」なんですけど、写真も撮れますし、ライブ映像、インスタレーションなどにも対応します。映像という表現手段にはさまざまな技術の要素が混ざり合うからこそ、幅広いことに対応できるほうが強みになる機会が多いんですよ。
瀬良:
私の場合は大学時代にフリーペーパーを作っていて、その活動の中で企画、編集、デザイン、ライティングなどを経験しました。その経験が現在の仕事の原点でもあるので、各業種の専門性は、誰かに何かを届ける手段だと捉えています。
だからクライアントのニーズやゴールに応じて手段を広げていくのは自然なことですし、そのほうが「何かと何かの間にあるもの」を扱えるので、自分の興味関心にも合っています。
───幅広い領域に挑戦するほうが、お客様のニーズに応じた提案ができるメリットがありそうですね。これは裏返すと、専門スキルを伸ばすデメリットになるかも?
ayan:
確かに専門スキルを伸ばすキャリアだと、お客様から専門範囲以外のニーズが生まれた場合は、対応できる誰かを紹介することしかできません。
たいが:
あと、一度看板を出してしまうと、新しいジャンルの仕事に挑戦しづらくなることもあります。たとえば、絵本作家として名前が売れている人が大人向けのイラストの仕事をすると、ブランディングが崩れてしまいますよね。
ジャンルごとに名義を変えて活動することもできますが、昨今はSNSでバレてしまったりもするので、一度「この分野の人」というイメージがつくと、なかなかそれ以外に広げづらくなります。
───なるほど……。幅広い領域に挑戦するほうのデメリットはありますか?
瀬良:
専門スキルを伸ばすメリットを裏返すと、幅広い領域に挑戦することのデメリットになると思います。
たいがさんが看板のわかりやすさをメリットに挙げていましたが、私は自分が何をやっている人なのか、一言で言えないんですよ。看板に何を書けばいいのかわからないんです。
大口:
わかります。それに、幅広い提案ができることも、場合によってはデメリットになります。「映像を頼んだはずなのに、それ以外の方法もいろいろ提案されちゃった」と、逆にクライアントを困らせることもあるかもしれません。
───専門スキルを伸ばすほうも、幅広い領域に挑戦するほうも、それぞれメリット・デメリットはおなじくらいありそうですね。
───どちらもメリット・デメリットがあるなら、自分の性質や強みに応じて生存戦略を選ぶと良さそうです。皆さんはどんな性質や強みがありますか?
ayan:
先日ストレングスファインダーを受けたところ、一番の強みは『最上志向』でした。ひとつの仕事に集中して、磨いて最高の仕上がりにしたい。そういう性質があるからこそ、専門スキルに特化しているのが合っているのかもしれません。逆に全体の設計図を描くのが苦手なので、ディレクションはしないほうがいいと思っています。
大口:
僕は昔から雑学が好きでした。いろんな知識を取り入れて、それを表現に活かしたいんです。だから仕事でも幅広いことに挑戦できるほうが向いていると思います。
瀬良:
大口さんと同じで、私もいろいろ収集するのが好きです。あと、クライアントに口を出したがる癖があるかもしれません。「そもそもそのやり方を選ぶ意味がありますか?」なんて言っているうちに、いつの間にか自分の仕事のバラエティが増えていく……。
大口:
わかる! つい口を出しちゃって、言い出しっぺだから自分がやることが多くて。クビになることも多いですけど(笑)。
たいが:
提案の仕方さえ間違えなければ、とても有能なフリーランスですよね(笑)。僕は一つひとつの案件を長く続けることを重視しているので、まずは言われたことを忠実に、求められていることを確実にやろうと考えます。クライアントが求めているものがAであれば、そのAに注力しつつ、BとCも見せる、という提案の仕方です。
大口:
すごい……落ち着いてる……。
一同:
(笑)。
───こうして聞いていると、それぞれが持つ性質や強み、クライアントへの向き合い方が、専門スキルを伸ばすか、幅広い領域に挑戦するかに大きく影響を与えているのがよくわかりますね。
───それぞれのキャリアを選んでよかったと感じた瞬間はありますか?
瀬良:
「何かやってみたい」という抽象的な段階で、プロジェクトやチームに入れてもらえるのがうれしいです。自分の専門分野をあまり限定していないからこそ、何をやるかすら決まっていない段階でも頼ってもらえます。
大口:
今の自分には関係ないジャンルの仕事にも積極的に挑戦できるし、そこで今まで培ってきたスキルを活かせるのが面白いですよね。
たいが:
そういった声のかかり方はないですが、専門スキルを持っているからこそ間接的な相談を受けることがよくあります。イラストレーターであることがわかりやすいから、あらゆるところから「イラストで困っている人がいるよ」という話が集まりやすくなるんでしょうね。
ayan:
そうですね。あと、専門スキルを伸ばしつつ、それ以外のこともできると、クライアントの期待値を上回れるというのもあります。
私の場合はライターですが、取材時には写真を撮影することもあります。ライターがカメラも扱えるということが、クライアントに重宝してもらえるオプションになるんです。
───それぞれうまく仕事につながるポイントがあるんですね。ちなみに、それぞれのキャリアを伸ばす戦術や考え方はありますか?
ayan:
ライターは扱う記事の内容まで見ると、専門性がさらに細分化されます。私はトラベル系を長年強みとしてきましたが、最近はビジネス系の仕事の割合が多くなってきました。
専門スキルと一言で言っても、文章など汎用性のあるスキルを軸にしていれば、扱うジャンルを変えてさらにキャリアを伸ばしていくこともできるし、キャリアの選択肢は意外と広いと思います。
たいが:
僕は常に活動していることがわかるよう、SNSなどで発信することを心がけています。毎回絵を描いて出すとなると大変ですが、趣味や日常の話であれば、毎日続けられますよね。目に留まって、印象に残れば勝ちです。
それにクライアントが求めているのは、スキルだけではないかもしれません。僕の場合は、共通の趣味から仲良くなって、仕事を依頼されたことが何回もあります。
───専門スキル“だけ”で勝負しないのがポイントですね。幅広い領域に挑戦する場合は、どういう考え方をするといいでしょうか。
大口:
新しい技術は、仕事を通じて学んでいくことですかね。もちろん勉強時間をつくるのも大事ですが、まとめて時間を作って技術を習得しようとすると後回しになりがちなので、仕事の中で新しいことに挑戦して、自分のものにしていくのが大事かもしれません。
瀬良:
わかります。経験のないことを相談されたときは、「やったことがないから」という理由ですぐに断らず、むしろチャンスとして捉えるようにしています。
予算に余裕があるプロジェクトなら信頼できるパートナーをアサインして一緒に取り組みますし、予算が少なくてもクライアントとの信頼関係が築けているなら、「私、素人ですけどやってみましょうか」と提案して、そこから幅を広げていくこともありますね。
───なるほど。二人の話から、幅広い領域に仕事を広げていくプロセスが垣間見えますね。
───最後に、今後の展望についてお聞かせください。専門スキルを今後も伸ばし続けたいか、幅広い領域に挑戦し続けたいか。それぞれのスキルをどう考えているか。ぜひ聞かせてください。
たいが:
子どもの頃から絵で描いて生きていくことが夢でした。一生、絵で飯を食っていきたいです。昨今は絵をAIが生成できる技術も進化しつつありますが、時代に置いていかれないよう、日々イラストレーターとして生き残っていく戦略を考え続けたいです。
ayan:
私も、変わらずライティングスキルを軸にしていきたいです。ただ、書くジャンルの幅はこれからもっと広がっていくのかな、と考えています。
文章で価値を提供することは変わらないけれど、「こんな文章も書けるんだ」と思ってもらえるような挑戦はしていきたいですし、「文章のことならayanさんに任せておけば大丈夫」と思ってもらえることを目指しています。
大口:
僕は映像というスキルに、それほどこだわっていません。クリエイティブな仕事をすることは変わりませんが、その中でこれからもいろいろなことに挑戦していきたいです。
家族や周囲にいる人たちの手助けになるなら、最終的には自分の看板やキャリアの形が変わってもいいなと思っています。
瀬良:
あらゆる領域の仕事をして、最終的には言葉が出発点になるということを再認識し始めています。デザインでもイベント運営でも、さらに経営戦略の策定でも、大事なのはコンセプトの設計であり、そこには必ず言葉があります。
私の仕事のモチベーションは、色々な人を支えたい、面白いプロジェクトに携わっていきたいという想いです。手段を制限せずたくさんのプロジェクトを成功させるためにも、言葉の力をもっと磨いていきたいです。
今回はayanさん、たいがさん、瀬良さん、大口さんに、専門スキルを伸ばすキャリアと、幅広い領域に挑戦するキャリアについてそれぞれ聞かせていただきました。
その中で見えてきたのは、一人ひとりの考え方や性質、強みが、フリーランスとしてどのようなキャリアを歩むかにリンクしていることです。専門スキルを伸ばすこと、幅広い領域に挑戦することのどちらがいい・悪いではなく、自分に合ったキャリアを選ぶことこそが、フリーランスの生存戦略として重要です。
今後どのようなキャリアを描いていくか悩んでいるフリーランスの方や、今後フリーランスとして働くうえでキャリアビジョンが見えないという方は、今回の対談で語られたそれぞれの想いや考えをもとに、ぜひご自身に合ったキャリアを考えてみてください。共感できたポイント、自分に似ていると感じた考え方が、それぞれのキャリアのヒントになるかもしれません。
【この記事のまとめ】
■専門スキルを伸ばす
・メリット:わかりやすくPRして案件を獲得できる、集中的にスキルアップしやすい
・デメリット:自身の専門領域以外のニーズが出てきたときに対応しづらい■幅広い領域に挑戦する
・メリット:ニーズに合わせた提案ができる、仕事からさまざまなスキルを獲得しやすい
・デメリット:仕事の内容を説明・PRしづらい
(執筆:宿木雪樹 編集:少年B)
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