裁量労働制は「定額働かせ放題」?フレックスタイム制、みなし残業代制との違いも解説【社労士解説】
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最近、「裁量労働制」という言葉を聞くことが増えてきました。
きっかけは、高市首相が施政方針演説で「裁量労働制の見直しなど、柔軟な働き方の拡大に向けた検討を進める」方針を表明したことです。
裁量労働制の拡大には、「自由な働き方が広がりそう」と期待する声がある一方で、「残業代なしで合法的に働かされるのでは」と身構える声もあります。
特に、自律的な働き方を好むプロフェッショナル層や、人件費に頭を悩ませる経営者にとって、この制度の行方は重要な関心事です。
とはいえ、「そもそも裁量労働制って何?」という人も多いはず。
今回は、労務のプロである社労士の立場から、裁量労働制の正体と今後どうすべきかを整理します。

開業社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)、特にIT/Web業界を中心に支援している。趣味は同人活動で、評論同人サークル「さかさまダイアリー」より同人誌「村上春樹っぽい文章の書き方」シリーズなど発行。(X:@mo_himo)
目次

高市首相が「裁量労働制の見直し(拡大)」を打ち出した背景には、日本全体の「稼ぐ力」を引き上げたいという狙いがあります。
労働基準法(以下、労基法)が制定されたのは、戦後間もない時期。その後、改正がなされたとはいえ、根底にあるのは依然として「工場で労働者が一斉に作業をする」ような働き方でした。
しかし、そこから80年近い月日が流れ、
- 労働時間の長さで報酬を支払う形式が馴染まない仕事が増えた
- IT化が進み、時間や場所に縛られない働き方が可能になった
などの変化がありました。
「物理的な拘束時間をベースにした制度は、もはや生産性向上の足かせではないか」
今回の議論は、こうした時代の要請に応えるための「攻めの制度改革」と言えます。

この制度の本質は、実際の労働時間にかかわらず、労使間で事前に合意した時間を働いたものとみなす、という「みなし労働時間制」です。
たとえば「1日の所定労働時間が8時間で、月給40万円」と定められていた場合を考えてみましょう。
通常であれば、8時間を超えた日があれば、40万円に追加で残業代が支給されることになります。一方、8時間未満の日があれば、40万円から欠勤分として控除されます。
対する裁量労働制は、初めに「1日のみなし労働時間が8時間で月給40万円」と定めれば、仮に毎日5時間で仕事を終わらせても、逆に12時間働いても、どちらも「1日8時間働いた」とみなされて40万円のみが支払われることになります。

裁量労働制とよく混同されるのが、「フレックスタイム制」です。
フレックスタイム制は、「始業と終業の時刻」、つまり出勤時刻と退勤時刻だけを労働者に委ねる制度です。
たとえば所定労働時間が8時間で、通常は9−18時勤務(12−13時が休憩)の場合を考えてみましょう。
フレックスタイム制が導入されると、ある日は10−17時勤務(休憩を除いて6時間勤務)にし、代わりに他の日を8−19時勤務(休憩を除いて10時間勤務)にするような働き方が可能になります。つまり、一定の期間(通常は1ヶ月間)で合計労働時間の帳尻が合えばOK、という制度です。
そしてフレックスタイム制の場合、一定期間の合計労働時間を計算し、超過した分があれば残業代が支払われます。

さらに、裁量労働制と似ていて紛らわしい「みなし残業代(固定残業代)」は、あらかじめ決めておいた一定時間分(例えば月45時間分)の割増賃金を基本給と併せて支払う給与体系のことで、これを超過した場合の残業代は別途支払わなければなりません。
先ほども説明したとおり、裁量労働制では、労働時間が超過しても残業代を支払う必要がありません。そのため、裁量労働制の運用には厳しい制限がかけられています。
一方でみなし残業代制の場合、残業代は全額支払われるので、裁量労働制のような厳しい運用の規制はありません。

ちなみに、「残業代が出ない」と聞いて、「名ばかり管理職」(いわゆる「定額働かせ放題」)が想起された人もいるかもしれません。これは一体、どういう問題なのでしょうか。
労基法において、「労務管理について経営者と一体的な立場にある者(部長など)」は「管理監督者」と呼ばれ、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用除外になります。
つまり極端な話、管理監督者には残業代のみならず、休憩や休日を与えなくても労基法上は問題ないことになります(なお、年次有給休暇と深夜手当は管理監督者にも与える必要があります)。
このことを悪用し、例えば飲食店の「店長」を管理監督者としたうえで、他の店員と同様に接客をさせ、残業代などの支払いを行わなかったのが「名ばかり管理職」問題です。
本来の管理監督者とは、時を選ばずに経営上の判断が求められるような立場を指し、出退勤の自由度が高かったり、それ相応の待遇(報酬)を与えたりすることが前提として求められます。
そのため、先ほどの「名ばかり管理職」は、実態として管理監督者とは認められなかったのです。
「名ばかり管理職」については、厚生労働省も注意喚起をしています

違いを整理するとこうなります。
裁量労働制
事前に定めた時間数を「みなし労働時間」として、固定給を払う(超過しても残業代は支払わない)。
1日5時間しか働かなくても12時間働いても同じ給料なので、短時間で成果を挙げられる人にとっては有利となる。
フレックスタイム制
始業・終業時間を労働者側が決められるが、労働時間は一定期間(1ヶ月など)ごとに管理。超過すれば残業代も発生する。
日によっての労働時間も柔軟に調整できるため、ライフスタイルに合わせた働き方が実現しやすい。
みなし残業代(固定残業代)
あらかじめ一定の残業代を固定給と合わせて支給し、一定の時間を超えて残業をした場合は超過した分の残業代を追加支給する。なるべく定時に仕事を終わらせることがトクになる。
管理監督者
労務管理について経営者と一体的な立場にある者(部長など)が、それ相応の待遇(出退勤の自由や高額な報酬)を前提に、労働時間や休憩、休日に関する規制の対象外となること(残業代も発生しない)。
管理職だからといって、ここに該当するとは限らない。

裁量労働制には一定のメリットがある一方で、労働者を「残業代ゼロ」で働かせる制度なので、現行の制度には厳しい制限があります。
具体的には、大きく分けて2つの枠組みがあります。
専門業務型
コピーライターやシステムコンサルタント、証券アナリスト、インテリアコーディネーター、建築士、公認会計士など、業務の進め方を本人の裁量に委ねる必要がある、法令で定められた業務に限定されている人が対象。
企画業務型
これは、事業運営に関する企画、立案、調査、分析が対象。
「専門業務型」と異なり、会社の判断で対象者が広がりすぎることを避けるため、適用のハードルは高くなっている。
(たとえば「企画業務型」には、労働者からの個別の同意が必要である等)

裁量労働制が拡大すると、労働者にとっては、「生産性を高めれば労働時間を短縮でき、実質的な時給が上がる」メリットがあります。
その一方で、単に長時間働いても残業代は出ないため、業務過多の場合は時給が目減りするリスクがあります。
企業側にとっては、クリエイティブな仕事を労働時間ではなく成果で評価し、報酬に結びつけられるメリットがあります。
ただし、残業代を支払う必要がないとはいえ労働時間は管理しなければならず、労基署に報告すべき内容も多数に渡るなど、労務管理上の手間はむしろ大きくなるというデメリットがあります。

よく聞かれるのが「裁量労働制で働いているのに、毎週決まった時間の会議に出席しなければならないのは、(労働時間を実質的に固定される点で)違法ではないか」という声です。
結論から言えば、業務遂行に必要な定例会議への出席を指示することは違法ではありません。「業務遂行の方法を労働者の裁量に委ねている」からと言って、業務指示が全てできないわけではないからです。
とはいえ、朝から晩まで会議の予定を詰め込むような運用をしていると、本人にとっては「業務遂行の手段や時間配分について、具体的な指示を受けているも同然(裁量がない)」となり、制度の趣旨を逸脱した不適切な運用とみなされる可能性が上がります。
また、「深夜手当や休日手当を払わなくていい」「休憩を与えなくてもいい」というのも誤解です。
裁量労働制は労基法の「労働時間」の規定を限定解除するもので、休日や深夜業、休憩の規定は有効です。
そのため、深夜労働(原則、午後10時から午前5時)は25%以上、法定休日(日曜日であることが多い)の労働は35%以上、法定休日の深夜は60%以上の割増賃金を支払わなければなりません。

ここまで説明した裁量労働制ですが、今のところ、適用されている労働者はごくわずかです。労働者人数ベースで、専門業務型は1.1%、企画業務型は0.3%。合計しても1.4%ほどしか適用されていません。
なぜこれまで普及しなかったのか。
その理由は、「制度のハードルが厳格すぎて導入が進まない」ことにあります。
※統計のソース:厚生労働省「令和7(2025)年就労条件総合調査の概況」
とりわけ企画業務型の導入ハードルは高く、労使委員会の設置・議決や、対象者一人ひとりからの個別同意、さらには厳密な健康管理措置が必要です。
人事体制の整った大企業でないと導入が難しく、現に、適用労働者の人数比率は企業規模1,000人以上の大企業で2%、それ未満の規模の企業では約1%にとどまっています。
しかし、時間給の概念が強いままでは、「短時間で成果を出したところでもらえる金額は変わらないのだから、ダラダラと残業した方が手取りが増える」という構造が変わりません。
裁量労働制の拡大には、成果で評価する枠組みを広げ、報酬として還元する土壌を作ることで、日本全体の生産性を上げたい、頑張る人の賃金を上げたい、という狙いがあるのです。

裁量労働制の拡大という潮流に対し、どのような姿勢で臨むべきでしょうか。
労働者は、自らの働き方を「時間」ではなく「成果」で測る意識を強める必要があります。
「とにかく長時間働けば報われる」という価値観を改め、いかに効率よく価値を生み出すかをこれまで以上に意識しなければなりません。
その意味では、フリーランスで働くプロフェッショナル人材のような視点を身に付ける必要があります。
一方で企業は、裁量労働制を「残業代カットの手段」と考えてはいけません。
社員の自律性を引き出すための武器の一つと心得て、法令を遵守しながら生産性を高める手段として活用する。
こうした誠実な運用こそが、優秀な人材を引き寄せ、競争力を高める最善の道です。
2026年は、日本の働き方が大きく変わる節目の年になりそうです。
会社員もフリーランス同様、「成果を挙げて、正当な対価を勝ち取る」プロフェッショナルとしての自立が求められることになりそうです。
(執筆:もひもひ、編集:夏野かおる)

▲出典:Workship CAREER
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