AIライターは人間の仕事を奪うか? AIライティングの著作権争奪戦【弁護士解説】

AIライターは人間の仕事を奪うか?

突然ですが、筆者は働くのが嫌いです。「あー、いっそAIが原稿全部書いてくれないかな~!」と思うこともしょっちゅう。最近は、ライティング分野でもAIの進歩が著しく、AIライティングツールを使えばプロンプトを打つだけで「いい感じの文章」が生成できるとか。実際すでにAIに記事や広告文を書かせている企業もあるようです。夢みたいな話ですよね。私も使ってみたい……!

というわけで、今回は「AIライター」について出井弁護士に伺ってきました! でも、どうやら「面倒な執筆作業は全部AIに任せて、人間は左うちわ」というわけにはいかないようで……?

出井 甫(いでい はじめ)
出井 甫(いでい はじめ)

骨董通り法律事務所弁護士。内閣府知的財産戦略推進事務局参事官補佐。エンタテインメント法務が専門。主にアニメ、ゲーム、AI、ロボット、VR業界の方をサポートしている。実はドラマーでもある。(Twitter:@hajime_idei

聞き手:紀村まり(ぽな)
聞き手:紀村まり(ぽな)

こたつとお布団、コーヒーをこよなく愛するフリーライター。法学部出身のはずが、なぜか卒論のテーマは村上春樹であった。やれやれ。(Twitter:@ponapona_levi

文章に著作権が発生するのはどんなとき?

ぽな:
AIライターの話を伺う前に、文章や言葉に著作権が発生する場合について教えてください。自分で書いた文章なら、間違いなく著作権は発生するんですよね?

出井:
通常はそのように考えたいところです。ただ、文章に著作権が発生するのはそれが「創作的な表現」といえる場合です。事実や単語、ありふれた表現、データなどの場合は著作権が発生しません。

たとえば、「おはようございます」「行ってらっしゃいませ」といった文章は短すぎますし、ありふれたあいさつの表現なので、著作権は認められません。これが独占されたら、世の中はかなり不便になるでしょうね。

ぽな:
データというのは?

出井:
気温や株価といった情報を羅列しただけの文章ですね。著作権の対象となるのは「創作的な表現」なので、ただ単純に事実を並べるだけではだめで、そこに自分の意見や評価が加わってくると、著作権がだんだん生じてくるというイメージです。

ぽな:
なるほど……以前の取材で、画像生成AIのプロンプトのような単語の羅列でも、ある程度の長さがあって、単語の配置にその人の個性があれば著作権が認められるという話もありましたが。逆に、あまりに短すぎる文章だと著作権が認められない可能性があるんですね。

出井:
表現の幅や選択肢が狭いと、それだけ個性を発揮できる余地も限定されますね。たとえばニュース記事のタイトルについて著作権が否定された裁判例がありますよ。一方で、5・7・5の俳句(17文字)に著作権が認められた裁判例もあるほか、単語の語呂合わせにも著作権は認められる可能性はありますね。

ぽな:
そう考えると、かなり守備範囲が広いですね。

出井:
語呂合わせなんかは極度に文字数を切り詰めた表現だと思うんですけど、特定の単語をうまく連想させるように語句の選択や表現を工夫しているはずです。それは短いがゆえに、作者の力量が詰まっている表現だといえる。こうした事情は著作権を認める方向性で機能するんだと思います。語呂合わせで覚える単語集もありますし、これが著作権で保護されなくなると、売り物にならなくなってしまいますね。

「まとめ記事」は著作権侵害?

ぽな:
うーん、表現の工夫ですか……。それでは私たちWebライターがふだん書いている「まとめ記事(※)」はどうなるんでしょうか。これを言うと他のライターさんやメディアさんに怒られちゃうかもしれないんですが、こういうまとめ記事って、検索結果の上位に上がっている記事を研究して、その内容を全部盛り込んでまとめて……みたいな作り方をすることもあるんですね。

しかも、ネット記事だとレギュレーションというか、書き方も決まったルールがあることが多くて。その結果、誰が書いても同じような内容・表現になってしまうことが多々あるんじゃないかと……。

※まとめ記事
特定のテーマについて、既出情報を整理し直してまとめた記事のこと。

出井:
既存の記事を元にしていたとしても、ライターさんが自分で考えて書いた文章であれば著作権で保護される可能性はあると考えていいと思います。というのも、記事で扱うテーマが同じであったとしても、その説明の仕方や説明の順序などには書いた人の個性が出るからです。

たとえ参考URLにある内容をまとめたものであっても、そのままコピペをしたわけじゃないでしょう。ライターさんなりに、より分かりやすく、より読者の目を引き付けるよう工夫しているはずです。そうなると、元の記事との違いが出ると思うんですよ。違いがあるということは、そこに作者の個性が表れて、別個の著作物と評価される可能性があるのではないかと。

ぽな:
なるほど……。ちなみに既存のまとめ記事を参考にして、新たなまとめ記事を作る手法は、著作権侵害になったりはしないんですか?

出井:
この部分は、以前お話した「類似性」の問題になります。既存記事と新たな記事とが「創作的な表現」において共通しているかという問題です。たとえば、丸暗記した記事をそのまま出力したら当然、そうでなくとも既存の記事の諸所の文章や具体的な言い回しなどを多用する場合は、「創作的な表現」が共通していると評価される可能性は高まるでしょう。

他方、ストックした情報を元に、文章自体は自分で書いているのでしたら、既存の作品と似てはいるけど、具体的な創作的表現の部分は違うということで、著作権侵害にならない。そう判断していいと思います。

AIライターの書いた記事に著作権は発生する?

ぽな:
最近ではAIを使ったライティングツールも精度がものすごく上がっているみたいです。キーワードをいくつかを打ち込むだけで、いい感じの記事が作れるとか。

でも、これまでのお話を踏まえると、こうしたAIが書いた記事には著作権が発生しないということになりそうですよね。

出井:
そうですね。AIにほぼ全部書かせている場合は、「(人間の)思想または感情を創作的に表現したもの」とはいえないので、著作権も発生しないかと。

ぽな:
うーん……。でも、まとめ記事の場合は人間とAIで「やっていること」自体はあまり変わらない気がします。AIだってネットに落ちている記事を学習しているんでしょうし、人間もネットの情報をまとめて記事にしているわけで。

と、いうことは、やってることは同じでも、人間の書いたものには著作権が発生して、AIが書いたものには著作権が発生しないってことになりませんか?

出井:
確かにそうですね。AIもいろんな記事をたくさん食べて(※)学習しているんですけど、その学習プロセスは人間と結構似ているのではないかと思います。アウトプットもそうですね。学習した記事をネタとして使って、新しい作品を作っていくと。

※食べさせる
文章などのデータをAIに学習させること。SNS等ではこのような言い回しをする人が多い。

ぽな:
それなのに、書き手がAIか人間かで、作品に著作権の有無が変わっちゃうんですよね? なんか違和感があるような……。

出井:
そうなんですよ。中国では『Dream Writer』というAIの書いた記事を会社の職務著作として認めた裁判例もあることはあるんですが、これはどちらかというと異例なケースかもしれません。

現状、日本ではイラストと同じように考えるのがいいんじゃないかと思います。

ぽな:
コンテンツを作る際に、人間が創作的表現に寄与すると著作権が発生するということですね。

出井:
おっしゃるとおりですね。AIが生成した文章の場合、人間の関わり方としては、事前・事後の2パターンが考えられます。事後の場合はわかりやすいですよね。AIの生成した文章に対して加筆修正や編集を加えていくと。

特殊なのは事前の場合です。というのは、人間が文章作成のための事前準備に関わっていたとしても、AIから最終的にアウトプットされるものがどんなものになるか、予想できないからです。

ぽな:
た、確かに……。

出井:
ただ、アウトプットされる内容が予想できないからといって、著作物性が絶対に否定されるというわけでもないと思います。たとえばバケツに入れたペンキを壁にぶちまけたものを「アート」として展示しているアーティストがいるんですけど、その方が作っているものは立派な著作物だと思うんですよね。

ぽな:
ペンキをぶちまけるパフォーマンスと、そのパフォーマンスによって壁にできた模様が作品になる、ということですよね。現代美術だとそういう作品もありますよね。

出井:
ペンキのまき方やペンキの選び方といった事前準備はあるかもしれないですけど、アウトプットされた作品そのものは、一般的な絵とは違って予測できない。でも、創作性はあると思うんです。

そういう意味で、予測できないからといって必ずしも著作権が発生しないわけではない。文章をAIで書いた場合にも同じことがいえると思います。

ぽな:
ううん、つまりそうなってくると……?

出井:
事前・事後問わず、そして予測の有無を問わず、客観的にみて創作的な表現のアウトプットを決定づける重要工程にどれだけ人間が関わっているのか、という評価の問題になってくるとのではないかと。

ぽな:
AIライターを使う際に事前準備をするとなると、おそらく「AIに入力するプロンプトを工夫する」ということになると思うんですけど……。たとえばまとめ記事を書くライターがふだんやっているように「上位記事の見出しを抜き出して」とか「キーワードを盛り込んで」みたいなことをしても、「思想または感情を創作的に表現した」とはみなしづらいですよね?

となると、事前準備をしてAIの出したものをそのまま使うより、AIの作ったものを加筆修正・編集して使った方が法的には安心ということなんでしょうか。

出井:
私はそのように考えています。前者による保護の可能性を全く否定するわけではありませんが、後者は、人間が作品全体にダイレクトに手を加えることができるわけです。そのため、著作権が発生しているかの判断は比較的しやすいのではないかと思います。

ぽな:
ただ、実際、Webメディアの中にはすでにAIライターに記事を書かせているところもありますし、これからライティングにAIを活用しようとしているライターや企業も増えてくると思います。

となると、ネット上には、一見同じように見える著作権のある記事と著作権のない記事が混在するということになりませんか?

出井:
まさにおっしゃるとおりで、現状では同じような記事でも、AIが書いたか人間が書いたかで、著作権が発生したりしなかったりするという結論になってしまいます。

なので、外見上は著作権があるかどうかわからないという時代になってきていますね。

ぽな:
AIの書いた記事って、ほぼ人間が書いたのと遜色ない記事ができることも結構あるんですよね……。でも、仮に私たちがAIが書いた記事をまるまるコピペしても著作権侵害にはならないけど、それが人間の書いた記事になるとダメで……うわああ、ほんとややこしい!!

AIライターが「まとめ記事ライター」を駆逐する!?

ぽな:
ライターとして気になるのは、AIが自分の文章を勝手に学習して、その結果、自分の書いたものと似た記事ができてしまった場合です。出井先生は以前の取材で、「AIがアウトプットした画像が既存の画像と類似している場合は、著作権侵害になる可能性がある」とおっしゃいましたよね。

出井:
はい。

ぽな:
でも、文章の場合はそれを訴えづらいんじゃないかと思うんです。とくに、まとめ記事だと顕著なんですけど、ネット記事の場合はすでに人間が似たような内容、似たような構成、似たような文体の記事を量産してしまっている現状があります。

すでに他に似たような記事がたくさんある以上、学習元に自分の記事が含まれているかなんてわからないじゃないですか。

出井:
そうですね。そこは文章ならではの問題かもしれません。画像だったら、作者特有の作風が非常に似ているというところから、元ネタの推論がなんとなくできる場合がありますけど、文章の場合は他の著作物に比べて特定が難しいかもしれませんね。

ぽな:
知識解説やまとめ記事のように、もともと文章にバリエーションを出しにくいタイプの記事もありますしね……。

出井:
おっしゃるとおり、このあたりはAIが乗っ取りやすい分野かもしれませんね。

ぽな:
ひええ! ライターとしては、今後のコンテンツ制作のありかたをまじめに考えた方がいいかもしれません……!

AIが著作権を封じる!?

出井:
AIがどんどんコンテンツを出している状況で、AI作品と人間の作品をちゃんと区別する方法がないまま、「AIの作品は著作物ではない、人間の作品は著作物である」、という理論的な区別だけを維持していていいのかという議論が出てくる可能性もありそうです。

ぽな:
AIの作ったコンテンツと人間の作ったコンテンツって、見た目では区別つきにくいですしね。そもそも人間の書いたものとはいえ、まとめ記事が本当に創作的かといわれると……。ライターがいうのもどうかと思いますが、正直疑問です。AIが得意な情報の組み合わせ作業を、人間が手動でやっているだけというか。

出井:
そうなんですよね。それに、AIがいろんなパターンの文章を大量生産した結果、個性的なものが世の中になくなっちゃうんじゃないかという懸念もあります。

たとえば、米国のある弁護士は、680億以上のメロディーをアルゴリズムで作曲して、全てをパブリックドメイン(誰でも利用できる状態)で公開しています。AIにあらゆる音符の組み合わせをアウトプットさせて、その範囲ではもう著作権訴訟を発生させないようにしよう、という企画みたいです。

ぽな:
えええ、どういうことですか?

出井:
まず、12拍(3小節程度)の中で考えられる1オクターブの範囲内で想定される音色のパターンをアルゴリズムを使って全部作ってしまう。

で、後で誰かがこれと同じ音楽について盗用疑惑で裁判を起こしても、「いや、これはすでにあるもので、パブリックドメインだから、私が使っていても著作権侵害ではありません」と。相手の音楽に対する「依拠性」を否定しようとしているようにも思えます。

ぽな:
著作権封じじゃないですか……。いやあ、すごいことを考える人がいますね。

出井:
これが文章やイラストだと、データの組み合わせ方っていろいろあるので、あまり現実的な話ではないかもしれません。ただ、この企画自体の是非は別として、世の中にはすでにこういったことを考えている人もいるよ、ということですね。

ぽな:
ううむ、深いです。創作性の定義そのものが揺らぐ時代が来るかもしれませんね……。

AIライターをめぐる法的な問題

ぽな:
ここまで著作権の問題を中心に伺ってきましたが、ほかに法的な問題としてはどのようなものがありますか?

出井:
AIが出力した作品によって他者を傷つけてしまうことも懸念されています。AIは出力した作品の倫理的な是非や、情報としての真偽を判断できないからです。

ぽな:
そういえば、以前にもSNS上で公開されたAIがユーザーに変なデータを学習させられて、ヘイト発言をまき散らすようになってしまった……というニュースがありましたよね。

出井:
あとはフェイクニュースですね。世界中で問題になっています。それこそ何が本物なのか、外見だけではわからない時代が来ています。

ぽな:
確かに……。じゃあ、AIが内容的に問題のある記事を書いて、それが世に出てしまった場合って、誰が責任を負うことになるんですか? 人間のライターであれば、ライターが納品物について責任を負うことになるケースが多いと思うんですが……。最近は広告やセールスライティングのように、法規制が厳しい分野にもAIライターが進出しているので、心配です。

出井:
これはケースバイケースだと思います。たとえば広告の分野で法律違反があった場合には、AIを使った記事を書かせているショップ側が責任を負うケースが多いと思います。世に出す判断をしたのもショップ側であることが多いと思いますので。

他方、たとえばAIが問題のある記事を書くのみならず、勝手にその記事を世に出してしまっていた場合、AIを開発した業者の責任になりそうです。いわば運転操作ミスというよりも、欠陥によって事故がおきたというイメージでしょうか。

ぽな:
うーん、でも、やっぱりコンテンツを出す前に人間がチェックしたかどうかって、責任追及のあり方に関係したりしませんか? たとえば、AIを開発した側が「うちの製品はさておき、おたくがきちんとファクトチェックしていれば、こんなものは世に出なかったんだ」と反論するとか。

出井:
AI開発側だったらそう言いたいですね、弁護人もそう言うでしょう(笑)。

AIが何を作るかはもともと予測できないのだから、「AIが生成した作品」を利活用した結果についてはユーザー側の責任ではないかと。私が開発業者側の弁護士だったら、サービスを販売する時点で契約書にその旨を書かせるかもしれません。

ぽな:
「作ったものでトラブルが起きた場合はユーザーがなんとかしてください」と。あー、ライティングツールの場合も、すでに同じような規約が置かれている可能性がありますね。

出井:
その可能性はあると思います。

転機を迎えるWebライティング

じつは筆者も実際にAIライティングツールを使ってみたのですが、いわゆるネットの情報をまとめた「まとめ記事」や、広告などの一定の形式がある文章については、AIライターに強みがあるように感じます。

いわばこれまで人間が人力でやっていた作業を、AIが一瞬で「いい感じ」に仕上げてくれるわけで、これからWebライティングの世界は確実に転機を迎えることになるのではないでしょうか。AIに置き換えられてしまうジャンルの仕事も増えてくると思います。

ただ、それでもファクトチェックやコンプラチェックをはじめ、人間がやらないといけない作業はどうしても残ります。ライターとしては、そのあたりも踏まえて、今後の生き残り策を考える必要がありそうです。

ちなみに今回の記事タイトルは、AIライティングアシスタントツール『Catchy』で生成したものをベースに付けてみたんですが、いかがでしょうか。

AIライターは人間の仕事を奪うか? AIライティングの著作権争奪戦【弁護士解説】

タイトルって記事の顔ですよね。作成時にはいつも悩むんですけど、今回AIに一瞬でいい感じのものを作られてしまって、ちょっと悔しいです……。

(執筆:紀村まり(ぽな) 編集:少年B 監修:骨董通り法律事務所 出井甫

SHARE

  • 広告主募集
  • ライター・編集者募集
  • WorkshipSPACE
週2日20万円以上のお仕事多数
Workship