マーケティングに欠かせない禁断の行動経済学 7理論。“おとり効果”で人は高い商品を選んでしまう?

おとり効果/相対性の理論
MARKETER

人間を非合理的な存在と考え、経済活動を分析する「行動経済学」。

その知識はマーケティングに活用できるものばかりです。この記事では、マーケティングを考えるうえで覚えておきたい行動経済学の理論を7つ、具体例とともにご紹介します。

1. おとり効果/相対性の理論

現在、あなたはお寿司屋さんに来ています。以下3つのメニュー「松竹梅」があったとしたら、あなたはどれを選びますか?

おとり効果/相対性の理論

松竹梅といった3つのメニューを用意すると、多くの人が真ん中の「竹」を選びます。これは、人間には物事の価値を関連性が高いものと比べ、相対的に判断する特性があるため。「松」は割高に見え、「梅」はほか2つより劣っていると感じ、結果的に真ん中の「竹」が魅力的に見えるのです。

このように、人間の価値判断が相対的であることを「相対性の理論」といい、その理論を応用し、選ばせたい物事より劣っている選択肢を用意することで、その物事が選ばれる可能性が高められることを「おとり効果」といいます。

「おとり」に使われるのは料金だけでなく、サービス内容の場合もあります。たとえば、イギリスの新聞社「The Economist」では過去、以下のようなプランが用意されていました。

  • Web版だけの購読:月額59ドル
  • 印刷版だけの購読:月額125ドル
  • 印刷版とWeb版のセット購読:月額125ドル

行動経済学者ダン・エリアリー氏が大学院生100人を対象に、「上記の3つのプランのうちどれを選ぶか」を調査したところ、84人がセット購読のプランを選びました。しかし後日、上記から印刷版だけのプランを無くし、「Web版だけのプランとセット購読のプランの2つの内、どちらを選ぶか」と聞いたところ、セット購読を選んだのはわずか32人。Web版だけのプランを選択した人が68人と結果が逆転しました。おとりの選択肢があったことで、高額なプランに誘導されていたのです。

2. アンカリング効果

以下、2つの炊飯器では、どちらが魅力的でしょうか?

アンカリング効果

もし、Aの炊飯器を魅力的に感じたなら、それはアンカリング効果によるもの。アンカリング効果は、最初に与えられた情報によって、その後の判断を決めてしまう傾向を表した言葉です。Aの炊飯器の「通常価格」である40,000円がアンカーとなり、値引き後の価格がお得に感じます。このような表記を、スーパーやオンラインストアで見かけたことのある方も多いのではないでしょうか。

アンカリング効果は商品/サービスが珍しい場合、知名度の低い場合にもっとも効果を発揮します。

たとえば黒真珠。黒真珠は販売当初、知名度が低くほとんど売れませんでした。そこで売り手は、著名な宝飾店に高価で販売するように依頼。同時にセレブ雑誌に掲載してもらえるよう頼みました。その結果、黒真珠は現在に至るまで、非常に高価な価格で売買されています。多くの人が黒真珠の値段を知らなかったため、宝飾店の販売価格でアンカリングされたのです。売り出す際、最初の価格設定が大切とわかるエピソードです。

3. ハーディング効果

お昼時、「お腹空いた」とあなたが思っていながら歩いていると、2つのラーメン屋さんを見つけました。どちらの店が「美味しそう」だと思いますか?

ハーディング効果 

このような場合、多くの人は行列ができるお店のほうに魅力を感じます。これはハーディング効果によるもの。他人の行動をもとに物事の良し悪しを判断してしまう人間の特性を表した言葉です。

しかし、上記のラーメン屋さんの例でいうと、行列があるからといってBのほうが人気とはいえません。なぜなら、店の大きさが異なり、実際の集客数はわからないためです。しかし、結果的にBのほうに惹かれてしまうのは、「多くの人がBを選んでいることがわかる」からでしょう。視覚的に「選ばれている」ことがわかるようにすることが大切です。

ちなみに、「自己ハーディング」という用語もあります。これは、過去の自分の行動に準じて物事を判断する人間の傾向を表したもの。高いと思っていたスターバックスも一度購入してしまえば、次も購入する可能性が非常に高くなるとされているのです。クーポンや無料キャンペーンなどは「自己ハーディング」を起こさせるための仕掛けかもしれませんね。

4. プラセボ効果/予測の効果

プラセボ(偽薬)効果は、偽薬を処方しても、患者が薬だと信じ込む事によって何らかの改善がみられることを指した言葉です。プラセボ効果は医療で使われる言葉ですが、マーケティングの世界でも似たような効果がよく使用されています。

それが予測の効果。商品やサービスの好意的な情報をあらかじめ消費者に伝えておくことで、消費者がより商品/サービスの価値を感じるようになるといいます。

この効果にまつわるエピソードとして、有名なのが「ペプシチャレンジ」です。

ペプシ社は、ブランドを伏せた状態でコカ・コーラとペプシを消費者に飲み比べさせ、どちらが美味しいか調査しました。結果、半数以上がペプシのほうが美味しいと回答。しかし、ブランド名を明らかにした状態で行ったコカ・コーラ社の調査では、コカ・コーラのほうが多く選ばれました。

プラセボ効果/予測の効果

▲コーラといえば赤色と思う方が多数ですよね

これは、コカ・コーラのブランドイメージによるものだと考えられます。ブランドを知って飲む消費者は、コカ・コーラのロゴを見るだけで業界No.1であることやCMの情報、これまで飲んできたコカ・コーラの思い出などが想起されます。

そうなれば味の感じ方もかわるでしょう。実際に、fMRI装置を使った神経科学者サム・マクルーア氏らの実験では、コカ・コーラとペプシを飲んだ時の脳の反応自体が異なっていました。

豪華なレストランでは、提供時に料理の説明などがされますが、あれも予想の効果を狙っての行為かもしれませんね。

5. 無料の効果

一定金額以上購入すると配送料が無料になるからと、とくに必要ないものを買ってしまったことはありませんか?

人間は「無料」に弱いため、無料と打ち出すだけで絶大な効力を発揮するのです。

無料の効果

▲後悔するのについ大盛りにしてしまったり……

Amazonで実際にあった事例でご説明します。

Amazonが世界各地で一定額以上の注文で配送料無料になるサービスを始めたころ、売上が急速に増加。ただし、フランスだけは売上にほとんど変化がありませんでした。

その理由は、Amazonのフランス支社は一定額以上の注文による特典を、配送料無料ではなく、1フランへの値下げとしたため。日本円でたった20円ほどでしたが、売上の伸び率は無料にした国と比べ歴然。しかし、その後、フランスでも送料無料キャンペーンを行ったところ、売上は劇的に伸びました。無料が与える影響は、ほかのどんな安い価格設定と比べても非常に大きいことがわかります。

無料の魅力は、「目に見えて何かを失う心配がない」こと。それが次にお伝えする現状維持バイアスともつながってきます。

6. 現状維持バイアス

現状維持バイアスとは、「有益だったとしても、現在所有しているものを手放す、または新しいものを受け入れることに心理的な抵抗が生じ、現在の状況に固執してしまう傾向」を指します。

この現状維持バイアスを活用したマーケティング施策の例が、期間限定の無料体験などです。無料で利用できるため、現状維持バイアスが働きにくいほか、無料体験が終了する頃には、「現在の体験を手放したくない」という現状維持バイアスが働いてくれます。その結果、利用者数/有料会員数を増やせるのです。

現状維持バイアス

▲フードデリバリーサービスが普及しだした頃は、期間限定の送料無料キャンペーンなどが行われていました

現状維持バイアスには以下のような人間の傾向が含まれています。どれも知っておいて損はないものばかり。マーケティング施策を考える際の参考にご覧ください。

  • 損失を回避したい傾向
    人間は、利益と損失が同じでも損失の方が心理的に大きく感じるため、リスクを負ってでも損失を回避したいと考える傾向がある。無料体験などで利用されている。
  • 規定の選択肢から変更しない傾向
    人間は、あらかじめデフォルトの選択肢が与えられると、変更できる場合でもデフォルトの選択肢を受け入れる傾向がある。アンケートで選ばせたい項目がある場合などで利用される。
  • 利用したことがある/知っているものを好む傾向
    人間は、不確実性の高いものに不安を感じる。そのため、知っていたり一度利用したりしたことのあるものを選ぶ傾向にある。広告露出などで消費者との接触回数を増やし、信頼・安心してもらうための施策ともいえる。

7. 社会規範のコスト

消費者に、ユーザーテストやアンケート調査、コミュニティ運営などを手伝ってもらいたい場合、報酬(金銭)を用意したほうがいいのでしょうか。

報酬について考えるうえで重要なのが、私たちが生きる世界には以下の2つのルールがあるということです。

  • 社会規範:人との関わりなどでのルール
  • 市場規範:金銭などが関わるなかのルール

イスラエルの託児所で行われた実験をもとに説明します。

実験内容は子どもの迎えに親が遅れた時、罰金がある場合とない場合では、どちらのほうが遅刻が少なくなるかを調査したもの。この実験で明らかになったのは、罰金制度はうまく機能せず、長期的にみると遅刻者は増える傾向にあることです。

なぜ、損をするのに遅刻者は増えたのでしょうか。それは罰金の有無によって、親と託児所の間で適用されるルールが変わったことが原因として考えられます。

罰金がない場合は社会的な取り決め(社会規範)で遅刻が制限されていたため、遅刻した親は罪悪感を感じ反省の意識を持ちました。その結果として、遅刻者数は抑えられていたのかもしれません。しかし、罰金制度が導入されたことで、適用されるルールが市場規範に切り替わったのでしょう。そのため、お金を払えば遅刻してもいいと思い、罪悪感を感じなくなった結果、遅刻者数が増えた可能性があります。

ほかにも、報酬や罰金を設けることで人のモチベーションが下がると明らかにした実験は数多くあります。そのため、ユーザーテストやアンケート調査などを商品/サービスへの愛着を持った人に依頼する場合、報酬の設定は熟慮するべきでしょう。同じように、コミュニティ運営に積極的に関わってくれる消費者への姿勢も、社会規範を意識した配慮が必要になるでしょう。

報酬を設定すれば人は動くという意識を捨て、何が必要とされているか、どうすれば喜んでもらえるかを考えることが大切になります。

参考図書

行動経済学の知識は、マーケティングから組織運営、日常生活にもいかせるもの。とくにマーケティングとの相性はよく、深く学習すれば必ず役立つ日がくるでしょう。

今回ご紹介した7つの知識や実験内容は、以下の本を参照したもの。この記事にあるものは行動経済学のほんの一部のため、興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。

予想どおりに不合理  行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

行動経済学 マーケティング

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(執筆:泉 編集:少年B)

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