スーパーボール25万個を使ったソニーのCM(2006年)は、デジタルマーケティングの可能性を切り開いた

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2006年、ソニーは新しいハイビジョンテレビ「SONY BRAVIAシリーズ」のグローバルキャンペーン展開の準備をしていました。

当時、ハイビジョンテレビは新しいスタンダードな家電となりつつあり、多くの家電メーカーはこの新しい市場をリードしようとマーケティング施策を打ってきました。一方で一般の消費者たちは、スペックを一目見ただけではその凄さがよく分からず、多くの人は価格だけを見て購入していました。

そこでソニーは、ハイビジョンの一番の特徴である「鮮明な色の表現」に焦点を当てたキャンペーンを行うことに決めました。

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25万個のスーパーボールが、サンフランシスコ市中を舞う

ソニーはBRAVIAシリーズの「色の解像度の高さ」を強調したいと考えました。ソニーは代理店であるTonicに、この色の美しさを消費者に伝えるため、ありふれたジェネリックな画像を使う以外のやり方で表現する方法を考えて欲しいと頼みました。そこで、Tonicの設立者であるRanzie Anthonyが、スクリーンを通じて「色」をコミュニケーションする、子供心溢れるアイディアを思いついたのです。

そのアイディアは、25万個のスーパーボールをサンフランシスコの坂道に解き放つというものでした。アイディアはとてもシンプルですが、実施するのは現実的にとても難しいことです。10年以上前のことですが、そんなアイディアが会議で検討されたということ自体が素晴らしいと思います。ソニーは最初、このアイディアをCGによって表現するのだろうと考え、このアイディアは素晴らしいと感嘆しました。一方で、Ranzjeがこれを現実世界において実施したいと言ったときは、少し躊躇しました。

116日、イギリスのマンチェスターユナイテッドとチェルシーの有名なサッカーの試合のキックオフの直前、ソニーは自身で一足先にボールをスタートさせます。試合が始まる前の休憩時間のコマーシャルで、視聴者を催眠状態に導くような2分半の映像を放映しました。心地よいフォーク音楽とともに、サンフランシスコの坂道に一斉に踊り飛び跳ねる25万個のカラフルな球体。ロンドンに拠点を持つFallon制作MJZ’s Nicolai FuglsigにディレクションされたこのCMは、最後にSONY BRAVIAの新しいタグラインが出てくるまでは一切プロダクトのイメージを出しませんでした。これはCMというよりも、アートフィルムに近いような映像であり、まさにソニーのキャッチフレーズである”Like no other”(他とは全く違う)にぴったりのコミュニケーションを生み出したのです。

Fallonのクリエイティブディレクター Richard Flinthamはこのように語っています。

「それぞれの詳細カテゴリについて、”Like no other”を追求して考えることにしました。例えば、音であったら聞いたこともないような音、写真撮影であったら見たこともないような撮影の仕方、という風に考えるようにしたんです。」

BRAVIAの新しいテレビを伝えるためには、最初から最後まで全てパーフェクトな画素で仕上げなくてはならないという信念がありました。そして、”色”というところにフォーカスすることにしたのです。イラストレーションで見る色よりは、お祝いや催事で見る色のようなものを生み出したいと考えました。一度見ても、速く忘れてしまうようなイメージではなく、見た人の心にずっと残るようなものをつくりたかったのです。」

これに関連して、ディレクター兼コピーライターであるJuan Cabralは、CMが放映される前年の12月のプレゼンテーションにおいて、シンプルに話し始めました。

「サンフランシスコに行きましょう。そして100万ものスーパーボールを道路に解き放ち、撮影しましょう。それが”Color like no other”(他とは全く違う色)そのものなのです。」

それは、8ヶ月もの試行錯誤の末にたどり着いた結論でした。Flinthamは、「我々はなんとしてでも、実際にこれをやらなくてはいけないと考えています」とソニーに対し言いました。Tonicは、ボールを放つための大きな機関砲装置(テニスボールシューターのようなもの)を設計するように、Fuglsigに頼みました。彼らは当初、100万個のボールを使用する予定でしたが、世界中の工場に問い合わせた後にその個数はどうやっても撮影日に間に合わせることができないということがわかりました。その代わり、Fuglsigは国中の催事業者に問い合わせ、スーパーボールを買い集めました。

「アメリカの子供たち、しばらくの間、スーパーボールは手に入らないぞ、という気持ちでボールを集め回りました。」AdAgeより)

2006年当時、デジタルマーケティングとブランドマーケティングを一度に実現した天才的事例

サンフランシスコの市民たちは、道にあふれる25万個のスーパーボールに困惑しました。時代の動向を物語っているのは、彼らはこのおかしな現象を住人同士で話すだけではなく、Flickr、YouTube、iFilm等を通じて世界中の人に知らせようとしたのです。

ソニーはこれを見て、このCMが編集される前に口コミでこの広告の話題が伝わるチャンスがあると考えました。この発想により、ビデオの編集作業を早め、ウェブサイト(Bravia-advert.com)をリリースすることにしました。これは直ちに大きな反響を呼び、即座の決断だったにもかかわらず安価で簡単に広告効果を生み出すことができました。

実際にこのウェブサイトでは、高解像度のイメージ、CMメイキング映像を見ることができるだけでなく、壁紙やスクリーンセーバーをダウンロードしたり、共有したりすることができました。これらは、クリエイティブエージェンシーのFallonによって製作されました。

1週間後、60秒のTVコマーシャルがBravia-advert.com に追加されました。その後、テレビCMがリリースされ、フルレングスバージョンのビデオがこのサイトにも投稿され、FlickrYouTubeでも公開されたのです。このBRAVIAのサイトはCMに関することだけでなく、BRAVIAのハイビジョンテレビに関するウェブサイトへのリンクも掲載されました。

トラッキング情報によると、17,500のウェブサイトがBravia-advert.comにリンクを貼り、1000万人以上の人がサイトを訪れ、サイト内のテレビCM動画は180万ビューを獲得し、4万回もダウンロードされたとのことです。またさらに、700万ビューものGoogleビデオ、YouTubeなど、その他のメディアからも数多くの視聴があったと推測されています。

ソニーは、この広告によって期待を上回る売上成果が出たことも報告しており、また、このテーマを今後も継続して利用していきたいと言いました。この広告を作ったチームは、まだデジタルマーケティングが主流でなかった時代に、デジタルマーケティングとブランドマーケティングを組み合わせることを一度に実現したのです。そして、当時のウェブを利用して消費者発信メディアをうまく利用したことも、まさに天才的な発想でした。

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テーマを継続したふたつめのCMは「7万リットルの塗料」

テーマの継続にあたり、この映像の後にもうひとつのCMが制作されました。スーパボールの代わりに使われたのは、7万リットルの塗料、そして撮影後に解体予定の建物です。

下記がその動画になります。美しい作品ではありますが、見てわかるように、建物やエリア全体に大きな損害をもたらし、ソニーは多額の賠償費用を支払わなくてはなりませんでした。

(著者:Kag Katumba 翻訳:Akiko Ogita)

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