「大切なのは、まず声を上げること」最年少の“フリーランス”新宿区議が、政治家目線でフリーランスを語る

伊藤区議 アイキャッチ

フリーランスといえば「自由」なイメージがありますが、会社員と同じく「その場所の住人」であることは変わりません。仕事も生活も、住んでいる市区町村や都道府県、さらに国の動きに大きく左右されることになります。

しかし、私たちフリーランスは、どれだけ「政治行政」のことを理解できているでしょうか? 彼らがフリーランスをどう認識しているのか、聞きたくないですか?

今回お話を伺ったのは、学生時代にITベンチャー企業を立ち上げ、その後に最年少で新宿区議会議員となった政治家の伊藤陽平区議。企業でフリーランスとかかわる傍ら、当選後に自身もフリーランスを経験したという伊藤区議に、政治家目線でフリーランスを語ってもらいました。

伊藤陽平
伊藤陽平

1987年生まれ。大学在学中に学生起業し、IT企業立ち上げに参画。卒業後も会社代表として事業を拡大させつつ、2015年に新宿区議選挙で初当選。政治家に転身し、現在まで起業家として培った経験を活かして最年少区議として活躍。その傍ら、日本暗号資産協会の正社員エンジニアとなり、お掃除ボランティア団体のグリーンバード新宿チームを運営するなど、活動は多岐にわたる。

聞き手:齊藤颯人
聞き手:齊藤颯人

新卒フリーライター。社会の右も左も分からず独立してしまったので、政治のことはよく分からない。

世の中をもっと自由にしたかった

齊藤:
まず、伊藤区議の独特な経歴についてお伺いします。大学を卒業する前にIT企業の役員になったとのことでしたが、学生時代の活動を教えてください。

伊藤:
大学1年生の頃にベンチャー企業でインターンをはじめ、3年生で仲間たちと学生起業をしました。立ち上げ当時はプロダクトがつくれず苦労しましたが、やがて受託でシステムを開発したり、Webマーケティング全般を担当したりする、いわゆる「IT企業」になりました。

伊藤区議 ベンチャー企業時代

▲ベンチャー企業に勤務していたころの伊藤区議(左から2番目)

齊藤:
なるほど……! 政治活動とは縁がなさそうなのですが、どうして政治家に?

伊藤:
もっと世の中を自由にしたかったんです。ベンチャー企業にいたからこそ分かるんですが、現状では規制が多すぎて自由なビジネスができない。また、日本はICT教育が遅れている一方で、若い世代が払う税金は多い。こうした現状を変えるには、政治家になるしかないと思いました。

伊藤区議 画像①

齊藤:
しかし、「政治家になる」というと、どこかの政党に所属したり、議員さんの秘書になったりして人脈をつくるイメージがあります。伊藤区議もそうした準備はされましたか?

伊藤:
いえ、私はひとりで選挙に挑戦し、賛同してくれる人を集めていきました。そのため、「フリーランス的な政治活動」をしたといえますね。政党に入ったり、団体票をもらったりすると制約が生まれてしまうので、信念を貫くためにはこれが一番だったんです。

あと、国政や都政では難しくても、地方選なら現実的に当選を狙えるというのもありました。しかし、もちろん楽に当選したわけではありません。選挙期間中は1日1時間睡眠で、朝4時に駅に立って深夜1時に帰宅するような生活を送っていました。

齊藤:
1時間睡眠……! 無所属で政治家になるのはやはり大変なんですね。

フリーランス議員として働く

齊藤:
議員活動が大変なことはなんとなく分かるのですが、具体的にどんなスケジュールで動くものなのですか?

伊藤:
議会のある時期は日中に参加しますが、それ以外は日によってぜんぜん違います。働く時間や量は議員に任されているので、土日も夜も活動していますね。ボランティア活動に参加したり、公園を視察したり、街の皆さんと交流したりと、仕事の幅も広いです。

伊藤区議 議会での発言

▲議会で発言する伊藤区議

齊藤:
働き方について聞いていると、「フリーランスと似ているな」という印象を受けました。

伊藤:
そうですね。党に所属していると党務などがあるのでフリーとはいかないのですが、私の場合は「フリーランス議員」と言っていいかもしれないです。

一方、じつは最近、時短正社員としても働いています。いままで普通の会社員として働いたことはなかったので、未知の分野にチャレンジするつもりで話を受けました。しかし、正社員は制約が多くて困っています……。

齊藤:
というと?

伊藤:
正社員だと、働ける時間に制約があるじゃないですか。私はガツガツ働きたい派なので、時間制限があるのはキツイですね。自分の裁量でいくらでも働ける点は、フリーランスの長所だと思います。

齊藤:
議員の仕事をしつつ、正社員としてもっと働きたいと……。毎日「働きたくないよ~」と言っている私にはとても真似できません(笑)

政治にフリーランスが一切考慮されていない時代もあった

齊藤:
2015年の初当選以来、約5年間の政治活動のなかで、周りの政治家はフリーランスのことをどう捉えていると感じましたか?

伊藤:
最近は解消されてきましたが、そもそもフリーランスのことを一切考慮に入れない政治が行われていたこともありました。政治家にとって、フリーランスなんて視界にも入っていなかったんです。ただ、意図的に無視していたわけではなく、存在を知らなかったという感じでしょうか。

齊藤:
なんとも残念な話ですね……。結局、どうしてそうなってしまったんでしょう。

伊藤:
やはり、自分がフリーランスじゃないからというのが大きいでしょうか。私も当選時はフリーランスではありませんでしたが、IT企業の経営者として多くのフリーランスの方とお仕事をしていました。だから、フリーランスの働き方はよく分かっていたんです。その点、普通の政治家の周りにいるのは同じ政治家と公務員ばかりなので、周りにフリーランスがいる環境がなく、実態がよく分からない。

伊藤区議 画像②

齊藤:
そうなると、最年少議員でフリーランスの立場をよく分かっている伊藤区議のもとには、フリーランスからの陳情なども来ましたか?

伊藤:
ありましたね。たとえば、ママさんフリーランスの方から「子どもを保育園に入れられないのは自分がフリーランスだからかもしれない」というような話は聞きました。

ただ、区のフリーランスの方からは、「もっとフリーランスに手厚い支援を!」のように“優遇”を求める声はほとんど挙がらないんです。優遇ではなく、「会社員と平等に扱ってほしい」と不平等の是正を求められています。

齊藤:
たしかに。「フリーランスを優遇してくれ!」と思うより、「会社員と同じように扱ってくれ!」と思うほうが多いかもしれません。

伊藤:
私たち政治家もそうした思いは汲んで活動しており、たとえば保育園の入園審査なども以前ほどの格差はなくなってきたと思います。社会全体でフリーランスの働き方が理解されつつあり、政治的な取り組みもそれに貢献してきたと自負しています。

フリーランス支援策の周知には「紙」も大切

齊藤:
先ほど「フリーランスの支援」について触れられていましたが、現状の支援体制についてはどう感じられていますか?

伊藤:
個別の支援策はともかく、支援策の周知が不足していると感じます。たとえば、商店街の皆さんに支援策を周知するなら商店街経由で知らせればいいですが、フリーランスにはそうしたネットワークがない。支援策は平等だと仮定しても、周知が難しいんです。

齊藤:
すると、やはりインターネットやSNSなどを活用した情報発信が重要になってくるのでしょうか。

伊藤:
たしかに、そうした手段も欠かせません。しかし、インターネットの欠点は「主体的に情報を集める人にしか情報が届かない」こと。仮に新宿区がいくら支援策を用意しても、ネット上にしか情報がなければ「新宿区 フリーランス 支援策」と調べてくれた人にしか情報が届かないですよね。

ただ、支援策の情報は受け身な人にも届けなければなりません。結局、そうなると一番役に立つのは地道な紙のポスティングなんです。DX、デジタル化と言われますが、すべてインターネットに頼ってはダメだと思います。これはIT企業で働いていたからこその意見ですね。

伊藤区議 画像②

齊藤:
結局、最後は紙なんですね! では、肝心の中身であるフリーランス支援はどうあるべきだと考えていますか?

伊藤:
世間で言われているような「フリーランスだから支援する」という考え方には同意できないですね。なぜなら、フリーランスは会社員のようにある程度枠組みがあるわけではないので、一人ひとり働き方も暮らし方も違うから。もっと働きたいからフリーランスになる人もいれば、ぜんぜん働きたくないからフリーランスになる人もいる。ひとまとめに支援するには多様すぎるんです。

一方、不平等が生じてきたらそれは変えないといけない。だから、政治がやるべきなのは市民が声をあげやすい環境をつくり、現状を改革していくことです。

フリーランスと会社員の垣根はなくなるべき

齊藤:
将来的に、フリーランスは社会の中でどのように位置づけられるべきだと思いますか?

伊藤:
「フリーランス」と「会社員」の垣根はなくなるべきだと思います。仕事をするという点では、フリーランスも会社員も変わりません。本来、両者に有利不利があってはいけないんです。

伊藤区議 画像④

伊藤:
実際、私の会社ではフリーランスも正社員も時給制になっています。ほかの部分でもフリーランスと社員を一切区分していないので、言われなければ違いに気づかないほど。フリーランスは社外で事業をやっている場合が多いので、その人に合った働き方になっています。

齊藤:
なるほど……! その点でいえば、私たち取材班も同じ会社の社員のように振る舞っていましたが、じつはカメラマンが正社員で、私はフリーランスです。

伊藤:
そうだったんですね、全然分かりませんでした(笑)。でも、それでいいと思います。あくまで契約形態や法律上の違いがあるだけで、自分で口にしなければフリーランスか正社員か分からないようなあり方がベストではないでしょうか。

齊藤:
私もそのほうがいいと思います。しかし、世の中には社員を強制的に業務委託にしたり、フリーランスになることを強く勧めたりと、外部からの力で強制的にフリーランス化しようとする動きもありますよね。労働条件が変わってしまう場合もあると聞きます。

伊藤:
強制的にフリーランスを生み出す動きには賛同できません。あくまでフリーランスは向き不向きのあるものだと思うので、自分の意志で選択できることはマスト。そのうえで、条件の有利不利が出ないような策を講じる必要があります。

政治家に声を届け、世論を形成しよう

齊藤:
フリーランスと会社員の垣根をなくすためには、フリーランスが声をあげる必要がありますよね。

伊藤:
はい。フリーランスがしっかりと声をあげれば、よほど無茶なことを言わない限り世の中は変わっていきます。「政治家なんて私の言うこと聞いてくれない」「団体で交渉しないと意味がない」と思われている方もいるかもしれませんが、まずはひとりでも政治家に思いを伝えてみてください。

伊藤区議 画像⑤

齊藤:
しかし、「政治家に陳情する」といっても、なかなか方法が分かりません。どのように声を届けたらいいですか?

伊藤:
街で直接声をかけたり、事務所に行って陳情したりという方法もありますが、私の場合はSNS経由で陳情を聞くことが一番多いですね。実際、そうした陳情から事態が動いたこともあります。政治家は皆さんの困りごとを吸い上げて活動していくので、小さなことでも、SNS経由でも構わないので、理不尽を感じたらすぐ政治家に言ってほしい。

伊藤区議 Twitter

▲伊藤区議のTwitter

伊藤:
国や都道府県では難しくても、地方自治体なら事態は変わりやすいです。少なくとも、新宿区はそういう街だと思っています。同時に、陳情がもっと気軽にできる文化や風習をつくりたいですね。

齊藤:
SNSでもいいんですね! それなら、私でも行動に移しやすいです。では、政治家に声を届ける以外で私たちにできることはありますか?

伊藤:
まずは選挙にいくこと。さらに声を上げ続けて前向きな世論の形成に貢献するとベストです。持続化給付金や定額給付金も、世論を反映して実現したもの。皆さんの声が政治に届くことを実感できる時代だからこそ、余裕があればぜひ取り組んでみてください。

齊藤:
ありがとうございます! では、最後にフリーランスへのメッセージをお願いします。

伊藤:
私は、フリーランスを含めすべての人にとって働きやすく、「自由な街」をつくることにすべてを賭けていきます。「都政や国政への関心」を尋ねられることもありますが、いまはまったく考えていません。住民に一番かかわり、ダイレクトに影響を与える基礎自治体の利点を活かし、しっかりと政治を行っていきます。

私が政治活動にまい進するように、皆さんも「フリーランスがいい」と思うなら、同じようにフリーランスとして働き続けてほしいです。ただし、「政府がフリーランスを推進しているから」というように政治の方面を向きすぎず、自分の性格や価値観とよく相談してください。

(執筆:齊藤颯人 編集&撮影:泉知樹)

SHARE

  • 広告主募集
  • ライター・編集者募集
  • WorkshipSPACE
週2日20万円以上のお仕事多数
Workship