「定年後フリーランス」が爆増する日本でどう生き残るか

少子高齢化が進んでいる現代、その波はフリーランス界隈にも影響を与えています。

引き上げられる年金受給年齢、高まる老後生活への不安……。定年後も働き続けなければいけない背景から、60代以上の「定年後フリーランス」が爆増する可能性があるのです。

年齢を重ねても、健やかに、若手と協働していくためには? 定年後フリーランスになっても、仕事を途切れさせないためには?

本記事では、フリーランスとして活動経験が長い・澤山モッツァレラさんと、定年後フリーランスとよくお仕事をされている医療系メディア編集責任者・まむしさんが、テーマ「定年後フリーランスの生存戦略」で対談された内容をお届けします。

澤山モッツァレラ
澤山モッツァレラ

関西学院大学を卒業後、大手ポータルサイト~フリーランスを経て2021年よりSNSマーケティング支援会社(現職)。100社近くのオウンドメディア支援に携わり、インタビュアーとしても1,200人以上を担当。高齢フリーランス予備軍として、50代以降の振る舞い方について考えている。(X:@diceK_sawayama

まむし
まむし

慶應義塾大学法学部卒業後、ネットニュースにて記者を務め、2013年には国内大手のメガベンチャーへ転職。編集部門を立ち上げ、責任者として10以上のWebメディアの立ち上げに携わる。2020年には経営学修士(MBA)を取得し、ビジネス領域での理論を応用した編集現場の知見を各地で講演・執筆している。著書『誰も教えてくれない編集力の鍛え方』(イージーゴー)(X:@mams428

定年後フリーランスはなぜ増えるのか

澤山モッツァレラさん(以下、澤山):
今回のテーマはこれです。「定年後フリーランス社会を乗り切れ!」。

45歳の僕にとっても、まったく他人事ではないんですよ。先日、このテーマについて軽くまむしさんにお話ししたら「そうですよね、こういう問題がありますよね」っていろいろ教えていただいたので、せっかくならと対談の場を組ませていただきました。

まむしさん(以下、まむし):
お声がけありがとうございます。僕は日頃から医療系メディアで編集業をしていて、いわゆる60歳以上の定年後フリーランスの方とやりとりをすることが多いので、興味深いテーマです。また、僕自身は37歳なんですが、70歳近くになる母がライター・編集業で現役フリーランスとして働いているんです。

澤山:
いやもう、すごすぎます。そのあたりも後ほど詳しくお話聞かせてください。

それではまず「なぜ定年後フリーランスが増えるのか?」といったところから、前提を共有させてください。

今後、定年後フリーランスが増えていく理由として、就労人口の減少が挙げられます。少子高齢化の影響を受け、若手の労働力が減っていく。その反面、60歳以上の「年金だけでは暮らしが担保できない層」は増えていく可能性が高い。年金受給年齢の引き上げもあり、定年後もしばらくは働く必要があると考えられます。

実際、内閣府の調査によると、9割以上が「65歳以上まで働きたい」と回答しているんです。

▲引用:厚生労働省「高年齢者雇用安定法ガイドブック」

まむし:
年金制度が維持しにくくなっているという時代背景はもちろんですが、シンプルに労働意欲の面から考えても、「まだまだ働きたい!」と思っている高齢の方は多そうですよね。

澤山:
出生率の低下を考えれば、若手の労働力は今後とも母数がどんどん減っていきます(2023年の出生数は前年比5.8%減の72.6万人、合計特殊出生率は過去最低の1.20)。人手不足を解消するためにも、定年後フリーランスが貴重な戦力になる可能性はあります。

ただ、「少子化になる=定年後フリーランスの需要が増える」といえるのかは疑問もあります。

まむし:
というと?

澤山:
まさに2024年のいま、生成AIが目まぐるしく進化していますよね。単純労働をはじめ、どんどん生成AIが活躍していく領域が広がっています。

福祉的な面からも、定年後フリーランスを雇用していこうと考えている企業もある反面、効率のことを考えたら「生成AIのほうが良いんじゃないか」と判断する経営者のかたも、結構な割合でいるんじゃないかと。

まむし:
なるほど。そういった意味でも、定年後フリーランスとして生き残っていくために、生成AIに代替されない付加価値をつくることが大事なのかもしれませんね。

定年後フリーランスとして仕事を得るには

澤山:
そこで、医療系メディアで編集責任者をされており、多くの定年後フリーランスとお仕事をされているまむしさんにお伺いしたいんです。ずばり「一緒に仕事をしやすい定年後フリーランス」の条件って、なんですか?

1. 機動力と人脈で貢献する

まむし:
まず「機動力」が高い人が多いな、という印象があります。「適応力」とも言えるかもしれません。年齢は関係なく、若手と同じ目線に立ち、等しく学ぼうとしてくださっている姿勢があると、とても助かります。

私が専門としている医療系メディアだと、Webよりも紙媒体で長く仕事をされてきた方が多いんです。やはりWebと紙媒体では細かいルールが異なる場合もあって、「紙媒体ではこうなのに」と思わず、柔軟に対応してくださる方だとありがたいですね。

澤山:
どうしても「Webより紙媒体のほうが立場が上」と思われている方も多いかもしれないですよね。経験が長く、ノウハウがある方だと、なおさら。

まむし:
そうなんです。ただ、紙媒体での経験が長いことが、Webでもプラスに働くことはあると思います。紙媒体での知見を生かして丁寧に記事を仕上げつつ、Webを意識してタイトルワークを工夫するだとか、培ったノウハウをうまく応用できる方は、やはり強いです。あと若手の方と比べて、取材が上手な方が多いですね。

澤山:
定年後フリーランスの方だと、仕事をしてきた期間が長い分、人脈も広そうですが。

まむし:
そのとおりです。ベテランの方にお願いすると、​​取材相手もご自身で探してきてくれて、取材交渉もしてくれて……。

いわば「0→1をつくる」という面で、馬力の強い方がとても多い印象です。この人に任せておけば安心だ、と思えますし、こちらの要望を受け止めてくださる度量の広さもありますし、本当にありがたいんですよ。

2. 20〜30年以上、同じ会社と仕事をする

まむし:
あとは「20〜30年以上、同じ会社と仕事をしている」定年後フリーランスの方も多いです。僕が普段やりとりさせてもらっている方々も、若手のころからずっと取引をしているクライアントと、いまも関係が続いているケースは多いですね。大手企業とやりとりをしていて、気づいたら30年近く続いている、といったパターン。

だから、僕の母からは反対に「自分から新しい会社の門戸を叩いて、売り込みをする人はすごい」と言われたことがあります。それくらい、一つの会社との繋がりを重視しているんです。

澤山:
理想的だと思う反面、いまの若手が再現できるかというと、難しそうですね。

まむし:
そうなんです。何十年と続いている老舗企業と比べると、ベンチャービジネスを行なっている若い企業が、何十年後も存続するとは考えにくい面もありますよね。そう考えると、また違った生存戦略が必要な気がします。

3. ゼネラリストとして活躍する

澤山:
生存戦略の一つとして、オールマイティに活躍できるよう、スキルを身につけることが大事かもしれないですね。

まむし:
実際、ディレクターというか、トップの右腕のような立場で活躍されている定年後フリーランスの方もいらっしゃいますよ。プロジェクトを進めるとき、ディレクションの要としてチームにいてもらえると、スムーズに進む場合が多いです。人脈が広く、発言権もある方がトップの横にいてくれると、助かります。

澤山:
「この人に任せておけば大丈夫だな!」と思える人がいてくれるのは、めちゃくちゃ大事ですね。

まむし:
仕事を進めるうえで、どうしても売上や数字の話になりがちだと思うんです。もちろん時期によっては、事業を成長させるために、ブーストをかけなきゃならないタイミングもあるんですけど。

でも、経験豊富な定年後フリーランスの方がいてくれると「お客様にとっての本質は何か?」と立ち返るきっかけを与えてくれる場合もあります。ミーティングの場で、目に見える数字をいかに良くするか、といった流れになりがちな議論を、そっと本筋に戻してくれる。そのたびに、ありがたく思っています。

澤山:
なんだかお話を伺っていると、定年後フリーランスって本当に「頼りになる人」ですね。『バットマン』シリーズでいう、アルフレッド執事のような。あれ、このネタ、どれくらいの人がわかるかな……。

定年後フリーランスとしてやってはいけないこと

澤山:
次に「定年後フリーランスとして気をつけたい言動」について聞きたいです。実際に、まむしさんが普段お仕事をされているなかで、気になったことってありますか? ちょっと言いにくいことかもしれませんが……。

1. 若手と張り合う

まむし:
あくまで、個人を想定した話ではなく、僕が思う「気をつけたほうが良い言動」についてお話ししますね。

まず、若手と張り合おうとしてしまうと、いろいろな面で上手くいかなくなると思います。若手と同じ目線に立つのは良いことかもしれませんが、たとえば変に数字で競い合ったり、若手を攻撃する方向に走ったりしてしまうと、どんどん本筋からズレていってしまうんですよね。

澤山:
確かにそうですね。そもそも経歴が長いっていうだけで、若手からは怖い存在になりかけていますし。

まむし:
求めているのは、先ほども言ったようなディレクター、ゼネラリスト的な立ち回りなんです。これまで培ってきた経験や人脈を生かしてほしい。私も日ごろから、議論の軸を戻してくれたり、0→1の案件を構築するうえでメンターとしての視点からアドバイスをいただいたり、とても助かっているので。

澤山:
定年後フリーランスは、上機嫌であることも仕事ってことですね。

まむし:
ある意味、楽しそうに仕事をしてくれている姿が、若手にとってのロールモデルになりますよね。

2. ご意見番になろうとしすぎる

まむし:
あとは、これまでお話ししたことと重なる点もありますが、ご意見番になろうとしすぎるのも避けたほうがいいかな、と思います。

上から目線でアドバイスをしすぎてしまうと、それが現場の状況にハマらなかったときに、コミュニケーションの齟齬が起きやすいんです。

澤山:
ただ思ったことを言っているだけでは「意見が強い面倒な人」になってしまいますもんね。

まむし:
定年後フリーランスには、経験や人脈を生かす意識が必要です。でも、いまの時代はスキルの賞味期限が「4to40」から「4to4」になっている、という見方があります。大学4年間で習ったスキルで40年は働けていた時代から、スキルの寿命が4年しか保たない時代に移り変わっている。

澤山:
なるほど、だからリスキリング(学び直し)が必要になってきているんですね。定年後は教える仕事をしようと思っても、学んだことはすぐ廃れてしまうという。

まむし:
ある意味、いまの時代ってそこまで「成熟を求められていない時代」なんでしょうね。未成熟であり続けることが、許容される時代になってきている、というか。

澤山:
年齢的にはベテランでも、メンタルがベテランじゃない人って、結構いますからね。自戒を込めまくりです、気をつけないと……。

3. モチベーションのムラが激しい

まむし:
仕事へのモチベーションのムラが激しい人も注意したほうがいいかな、と思います。そもそも、仕事へのコミットメントがそこまで高くないケースですね。

​​当たり前かもしれませんが、若手はこの先10年も20年も働いていく立場にいるので「年収を上げたい」とか具体的な理想のある人も多いと思います。その反面、定年後フリーランスの場合は二極化していて。若手と変わらないモチベーションで仕事をしている方もいれば、どこかで「若手を助けてやっている」といったマインドの方もいるのかな、と。

澤山:
余生を楽しみつつ、っていう感じですかね。そうなると、自分がやりたいことと、そうではないことへのモチベーションの差も開きそうですね。

まむし:
そうなんです。なので、定年後も仕事をする意味や働く理由について、しっかりヒアリングする必要があるな、と思っています。これから定年後フリーランスとして働いていくなら、あらためて「仕事をする意味」や「やりたい仕事とそうじゃない仕事」について考えてみるのも、良いかもしれません。

澤山:
「この人にはこの仕事を当てがったほうがいいな」といった調整が多すぎると、これまた「面倒な人」になってしまいますよね。もしかしたら、これが一番ハードルが高いのかも……。

「面倒くさい人」にはなってはいけない

澤山:
まむしさん、今回は貴重なお話をありがとうございます。定年後フリーランスとして持続的に仕事をしていくためには、若手にとって「面倒くさい人」になってはいけないということが、よくわかりました。あとやっぱり「組織にとっての追い風となるような存在」でありたいな、とあらためて思いましたね。

まむし:
4年で習ったスキルも4年しか保たない時代ですから。上に立って「物を教える立場になろう」としすぎるのではなく、同じ目線で、同じ目標にコミットメントできるかが大切だと思います。

澤山:
あと僕はシンプルに「体力の低下」も心配です。やっぱり基礎体力は大事ですよね。大きな病気を持っていたり怪我をしていたりするだけで、体力が持っていかれてしまいますから。

定年後フリーランスの生き方をまとめるなら「大きな病気や怪我をせず、基礎体力を維持して、若手と接点を持ち、上から目線にならないように自分を律しながら仕事にコミットメントする」といったところでしょうか。

まむし:
完璧なまとめ、ありがとうございます。まさに言うは易し、行うは難しかもしれませんが……。

澤山:
実践は簡単なことではないですが、それこそ生成AIの進化が物語っているように、これからどうなるかわからない時代ですからね。これからもともに、生き残り方を模索していきましょう!

(執筆:北村有 編集:少年B、じきるう)

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