【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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失業時の収入保障としてよく知られている「失業保険」。会社員なら貰えるイメージはありますが、フリーランスの場合は失業保険をもらえるのでしょうか。また、もしも不正受給してしまった場合はバレてしまうのでしょうか……?
今回は、「フリーランスと失業保険」というテーマで、失業保険受給資格の有無や再就職手当、不正受給のペナルティなどについて紹介します。
社会保険労務士(フェリタス社会保険労務士法人)。1973年、福島県生まれ。青山学院大学経済学部経済学科卒業。フェリタス社会保険労務士法人代表。特定社会保険労務士、産業カウンセラー、セクハラパワハラ防止コンサルタント。労働・社会保険手続き代行、就業規則作成等の他に、中小企業から上場企業まで、様々な企業の労務相談を受けている。また、障害年金請求手続きや、産業カウンセラーとして、企業のメンタルヘルス対策などにも携わる。著書:「あなたの隣のモンスター社員」(文春新書)、「モンスター部下」(日本経済新聞出版)
目次
まず、ハッキリ結論から言ってしまいます。開業届を提出してフリーランスとして活動している場合、たとえ収入が0円でも、失業保険を受給することは原則できません。
フリーランスであることを隠して失業保険を受け取った場合、言うまでもなく不正受給になります。
しかし、「収入0円の状態は実質失業状態では……? なんで失業保険をもらえないの!」と思う方もいるかもしれません。
その答えは、「失業保険」のシステムを知ればわかるでしょう。
失業保険とは、正式名称を「雇用保険」といい、原則企業は雇用した社員全員を強制的に加入させる義務を負っています。
以下2つの条件を満たしている場合、社員はもちろん、アルバイトやパートでも対象となります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日(1か月)以上の雇用見込みがある
失業保険を管理するのは国(ハローワーク)であり、保険料は企業と従業員がそれぞれ負担します。「えっ、そんなの払ってないけど」と思う方もいるかもしれませんが、給料からサッ引かれているのでご安心ください。
では、雇用保険はなんのために存在するのか。いくつかある使い道のうち、従業員が万が一失業した場合の収入保障にあてる制度がよく知られているため、「失業保険」と呼ばれるのです。
従業員が失業した場合、収入を保障して再就職まで安定した生活を送れるよう、「基本手当」がもらえます。「失業保険がもらえる」みたいな言い方をされている時は、この基本手当のことを指している場合がほとんどです。
基本手当は、以下の条件を満たすと離職の理由(自己都合/会社都合)や被保険者期間(就職期間)に応じて、原則1年間、離職前6か月の日割り給料の45%~80%が支払われます。
- 離職日以前の2年間に被保険者期間が12か月以上ある(会社都合の場合は1年間に6か月以上)
- 就職しようという意思がある(ハローワークで求職申込を行った)
- いつでも就職できる能力がある
- 積極的に仕事を探しているが、職業に就けていない
つまり、失業保険は単純に「失業した人をサポートするための保険」ではなく、「ある程度の期間において雇用保険に入っており、かつ就職の意思がある人の生活をサポートするための保険」なのです。
失業保険の概要を整理したところで、フリーランスや副業ワーカーに関連しそうなケース別に「こんな人は基本手当をもらえるのか」を見ていきましょう。
※支給の判断はハローワークが行うため、以下のケースはあくまで原則および一般論です。下記にあてはまっても本記事の見解とハローワークの見解は異なる可能性があります。
コロナ禍でフリーランスの収入が大きく減少したことは、フリーランス協会の統計調査などでもよく知られています。もし仮に、コロナ禍の直撃でベテランフリーランスの収入が激減し、廃業した場合は基本手当の対象になるのか。
これは基本手当の対象にはならないケースとされます。
基本手当の支給条件の1つである「離職日以前の2年間に被保険者期間が12か月以上ある」という条件にあてはまらないためです。フリーランスはそもそも失業保険の被保険者ではないので、たとえ廃業しても失業保険は支給されません。
会社員からフリーランスに転身するケースは多いですが、この場合は「会社の退職」を経由します。そのため、支給要件を満たしていそうな気がしますが、実際はどうなのでしょうか。
残念ながら、この場合も支給対象にはならないでしょう。確かに保険料自体は納めていますが、フリーランスになっている状態は「失業中」と認められない(個人事業主なので、事業を運営していると判断される)ので、対象から外れてしまうと考えられます。
上記のパターンと似ていますが、開業届は出さずにフリーランスになることもできます。ただし、その場合も残念ながら支給対象にはならないと考えられます。
そもそも、ハローワークは開業届の提出という「形式」だけでなく、フリーランスとして業務を行っているかという「実態」も踏まえていると判断するのが自然です。小手先のごまかしは通用しないと考えていいでしょう。
フリーランスは失業保険をもらえるの? 不正受給はバレる?【社労士監修】
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まだフリーランスにはなっていないものの、開業準備を進めている人に受給権はあるのでしょうか。
これはハローワークに相談して許可を得た場合を除き、基本的に支給対象にはなりません。開業準備を進めている状態は、「就職する気がない」ともいえます。そのため支給対象にならないのです。
ただし、求職活動を経て、新たな選択肢として開業準備を始めた場合、基本手当は支給されるという考え方もあります。この場合、開業準備が完了するまでの不安定な期間、求職も視野に入れていることになるので、基本手当が受給できるというロジックになっているようです。
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会社をクビになった後も、会社員時代からの副業を続けていた場合はどうなるのでしょうか。じつはこの際は判断が非常に難しく、「ハローワークの判断次第」になるとされています。
本業を失った副業ワーカーは、確かに「就業していない」状態ともいえそうです。仮に会社員時代から半分趣味だったハンドメイド作品の販売を続けているからといって、離職後の生計を立てられているとは言いづらいでしょう。
そのため、小額・小規模の副業であれば基本手当はもらえると考えてもよさそうです。なお、ハローワークは「就業」の有無を以下の基準を参考に判断すると公表しています。
- 1日に4時間以上働く
- 1週間に20時間以上働く
これらのルールはアルバイトに関して判断材料とされることが多いですが、副業にも同じ条件が適用されると考えていいでしょう。この条件に引っかかると基本手当の受給が難しくなり、基本手当受給中であれば該当する日の手当てが減額されるなどの事態が想定できます。
ここまでの内容から、「フリーランスになったことを隠してもハロワにバレないんじゃない?」「仮にバレた場合はどんなペナルティがあるんだろう……」と気になった方もいるハズ。
ここでは、不正受給に関連した内容を確認していきます。
ハローワークを管轄する厚生労働省は、「不正受給をした場合は必ず発見されます(原文ママ)」と強い口調で警告を発しています。
具体的には以下の手法で不正受給を発見していると宣言しています。
- コンピュータによる発見
- 事業所調査や家庭訪問などによる発見
- 関係官庁との連携による発見
- 投書や電話などの通報による発見
幸い、筆者の周りで基本手当の不正受給をしている人の話は聞いたことがないものの、ネット上で「不正受給がバレるケース」として言及が多いのは、「受給者が就職した旨をハローワークに隠していた」「不正受給を知った人がハローワークに通報した」の2点です。
不正受給がバレた場合、悪質度に応じて以下5点のペナルティが発生します。
- 支給停止:
不正発覚後の支給がストップされる- 返還命令:
受給金額の全額返還- 納付命令:
受給金額の2倍を納付(返還命令と合わせて、受給額の3倍の納付が必要に)- 滞納金の発生:
不正発覚翌日から、年率5%の滞納金が発生(支払いが滞ると財産の差し押さえも)- 刑事告発:
詐欺罪などによる逮捕の可能性
制度の勘違いから不正受給になってしまった場合はともかく、意図的な不正受給を行った場合は「3倍返し」になると覚えておくといいでしょう。
会社員からフリーランスになる場合、基本的に失業保険(基本手当)をもらえないことはご理解いただけたと思います。しかし、基本手当はもらえなくても、再就職手当はもらえる可能性があるのです。
以下では再就職手当についても解説していきます。
再就職手当とは、失業保険の受給期間中に受給者の早期再就職を促すための制度。受給者が「安定した職業」に就いた場合、残りの受給金額の一定割合の金額を受け取ることができます。「就職お祝い金」のようなイメージですね。
再就職手当は、早くに再就職すると金額が多くなります。基本手当の給付日数の3分の1以上が残っていると残日数分の合計支給額の60%、3分の2以上残っていると70%が支給されます。
なお、ここでいう「安定した職業」には、フリーランスとしての独立や創業なども含まれます。
会社を退職してフリーランスになる際、再就職手当を受け取るためには下記の条件を満たす必要があります。
- 基本手当の受給条件を満たしている
- 7日の待機期間を経て、そこから最低1か月後に開業届を出す(リストラなどの場合は7日が経過すればOK)
- 基本手当の支給日数が3分の1以上残っている
- 1年以上事業を継続できる見込みがある
- 過去3年以内に再就職手当を受けとっていない
- 独立を前提に退職していない
注意すべき点は「開業届を出す時期」「1年以上働く見込みの証明」の2点です。
待機期間中は失業の事実を判断する期間で、その後の1か月間の就業はハローワーク経由のものに限定されるため(自己都合退職の場合)、この期間に開業届を出すと再就職手当どころか基本手当の受給資格も失うおそれがあります。
1年以上の勤務を証明する方法ですが、1年以上の長期契約を前提としたクライアントとの契約を結べれば、それが証明として活用できます。ただ、開業していきなり長期契約を結ぶのは現実的ではないため、ハローワークに相談してみましょう。
実態としては、領収書や業務委託契約書などを見せることで、事業の実態や継続見込みを判断されるケースが多いようです。
再就職手当を受給するためには、それなりの工程と期間を必要とします。以下では再就職手当を受給するまでの流れ(自己都合退職の場合)を簡単にまとめてみました。
- 会社から送付される離職票を入手
- 離職票を持参してハローワークへ向かい、求職申込と離職票を提出(基本手当の受給資格入手)
- 7日間待機
- ハローワークで雇用保険説明会、職業講習会などを受講
- ハローワークで初回の失業認定を受ける
- 求職活動の実施
- 開業届の提出
- ハローワークで再就職手当の申請
- 審査が下りれば受給
上記の手続きにはハローワークへ直接訪問して行うものも多く、初回の失業認定を受けるまでに約1か月、再就職手当の給付までには申請から最低でも1か月はかかるといわれています。
フリーランスが雇用保険の対象にならないことは分かりましたが、雇用保険に代わる民間のフリーランス向け失業保険はないのでしょうか。
残念ながら、筆者が調べた限りでは失業保険に代わる商品はまだ提供されていないようです。なんとなく、イメージとして民間の保険商品はありそうな気がしていたので、少々意外でした。
したがって、フリーランスは廃業/収入激減に自分で備えるしかありません。基本的なことですが、「十分な貯金」を確保したうえで、万が一の際には国や地方自治体が準備しているフリーランス向けの給付金/貸付制度などの利用を検討することになるでしょう。
(2023年7月追記:以下、Workship MAGAZINE編集部による解説です)
ここまで、フリーランスは失業保険の対象にならないことを解説してきました。失業保険をもらえない以上、フリーランスにできることは「案件が途切れない状態をつくる」しかありません。
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(執筆&編集:Workship MAGAZINE編集部、齊藤颯人 監修:石川 弘子社会保険労務士)
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