本当に「こたつ記事」はダメなのか?元こたつ記事ライターが考える"良いこたつ記事"

こたつ記事 いかがでしたか記事
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冷え込む冬を乗り切るための相棒、こたつ。古くから日本人に愛されてきたこたつは、住居の西洋化が進む昨今でも、変わらぬ暖かさで人をダメにし続けています。

その名前は、Webメディアの世界でも「こたつ記事」という形で盛んに用いられるようになりました。

しかし、残念なことにポジティブな意味合いで使われることはほとんどなく、おもに「質の低い記事」を指す蔑称となっているのが現実です。こたつに罪はないんですけどね。

では、多くの人に愛される「こたつ」はなぜ悪い意味を持つようになったのか。こたつを愛する元・こたつ記事ライターの筆者が、自身の経験から「こたつ記事」を解説します。

こたつ記事とは

こたつ記事にハッキリした定義はありません。一般的には取材をせず、TVやSNS、インターネットなどから集めた情報と自身の脳内情報をもとに執筆された記事のことを指すことが多いです。

語源から言葉を補うと「こたつに入りながらでも書ける記事」となります。

こたつ

この言葉を作ったのはITジャーナリストの本田雅一さん。本人が「2010年から使い始めた自身の造語に間違いない」とITmediaの記事で語っています。

上記の記事によると、本田さんは「柔らかな言い方をすると “文献派” の方々」と分析しており、書籍や統計などを参照することも含めて「取材をしない記事」をこたつ記事と定義しています。

取材をしたからといって良い記事が生まれるわけではないことに留意しつつ、

ぬくぬくと暖かい部屋の中で労せず記事を書いている、とイメージしたことも否定しない。(引用:ITmedia

とも語っており、マイナスのイメージが付与された造語でした。

2021年1月には、NHKの深夜番組『ねほりんぱほりん』で特集が放送されるほど、社会に定着した「こたつ記事」。2010年代のインターネットでは、他人の口コミや記事のコピペ、酷い場合は根も葉もない妄想で書かれた記事が爆発的に増加し、「こたつ記事」は大きく批判されるようになりました

こたつ記事はなぜ生まれたのか

では、低品質なこたつ記事はなぜ生み出され続けてきたのでしょうか。おもにメディアやライターの視点から考えてみます。

理由1. 書くのが楽

取材をする記事の場合、

  • 取材交渉
  • アポ取り
  • 質問事項作成
  • 取材先への訪問
  • 原稿の取材先確認

など、取材そのものや執筆以外にも多くの手間と時間を要します。しかも、すべて相手あっての作業なので、自分の都合だけでは動けないんですよね……。

一方、こたつ記事の場合、多くは「調査」さえ済ませれば執筆にとりかかれます。この記事は事前に「構成案の作成」の工程を経ていますが、それでも取材に比べれば準備はかなり楽です。自分とメディアだけの都合で動けますし。

また、取材記事の場合はうかがった話の内容によって、記事の構成が変わることもありますが、こたつ記事は事前構想通りの記事ができやすいです。インタビューの文字起こしや、大量に撮った写真の選定やレタッチも不要です。

つまり、ライター的には「書くのが楽」というメリットがあるのです。取材記事を1日に複数本書くのはかなりハードですが、こたつ記事ならそれほど困難ではありません。実際、筆者も数年前にこたつ記事しか書いていなかった頃は、1日に複数本書いて生活していました。文章を書くのが好きだったので、「家の中でぬくぬく記事を書いてお金もらえるとか最高じゃん!」とも思っていました。

理由2. 完全在宅で、空いた時間に作業できる

こたつ記事ライターは完全在宅で仕事ができます。いまどき流行りのテレワークも朝飯前。

一方、取材の場合はそうもいきません。昨今はオンライン取材も普及してきましたが、たとえば観光名所をオンラインで取材するのは難しいですよね。

またこたつ記事は、他人の予定に左右されないので、自分の都合のいい時間に記事を書けます。たとえば取材時間を深夜2時に設定するわけにはいきませんが、こたつ記事なら深夜だろうが早朝だろうが、いつでも好きな時に記事が書けます。

つまり、ワークライフバランスだけを考えたらこたつ記事ライターは最強なのです。筆者もこの点に惹かれて、こたつ記事を「生産」していました。

理由3. 記事制作の費用を削減できる

ライターにとってのメリットは、そのままメディア側のメリットにもなります。

メディアはライターに記事を発注する際、原稿料を支払わなければなりません。メディアにもよりますが、基本的に取材のような手間のかかる記事は原稿料が高くなる傾向にあります。書くのが大変なのに原稿料が安ければ、書き手は見つかりませんからね。

そして、メディアの運営視点から考えれば、原稿料は安ければ安いほど儲かります。また取材となればライターだけでなく、編集者の時間や取材経費など原稿料以外のコストもかさみます。

こうした事情から、大した手間をかけずに書けるこたつ記事は、費用の割に一定のクオリティがある原稿を手に入れやすく、記事制作の費用削減につながるのです。筆者もあるメディアの編集長から「取材はコスパが悪いからやらない」と言われたことがあります。お財布にやさしい方法に飛びつくのは、メディアも同じなんです。

理由4. 大量に記事を用意し、PVを伸ばしやすい

1本あたりの手間や費用を削減できるので、こたつ記事は記事本数を増やしやすいです。個人的なイメージですが、取材記事を1本つくるのにかかる手間や費用があれば、ライトなこたつ記事なら3本は作れると思います。

こうして記事の本数が増えると、メディアの収益に直結するPVも伸びやすくなります。丁寧に作りこまれた取材記事1本より、そこそこに仕上げたこたつ記事3本のほうが総PVが多く、収益につながることもしばしば。

とくに、キュレーション系のニュースサイトや一昔前のGoogle検索では、この傾向が顕著でした。たとえばニュースサイトの場合、ユーザーは読み始める前にアイキャッチ画像とタイトルくらいしか確認できません。つまり、記事の中身は読んでみるまで分からないんです。裏を返せば、読みたくなるようなタイトルだけ付ければ、中身は雑なこたつ記事でも読者は読んでくれます。するとPVが増え、少ない投資で収益を挙げられます。

そのため「じゃあ記事を作りこむ必要ないじゃん」という風潮が生まれ、こたつ記事はブームになっていったのです。

なぜこたつ記事は批判されるのか

こたつ記事が流行する理由を考えてみると、メディア/ライターの双方に大きなメリットがあるとわかります。

……しかし、上記のメリットには、ある大切な視点が欠けていることにお気づきでしょう。

そう、「記事を読んだ読者の視点」です。ハッキリ言ってこたつ記事には質の低いものも多く、読者視点が欠けているため、これまで多くの批判にさらされてきました。具体的に、こたつ記事の問題点を見ていきましょう。

問題点1. 情報がスカスカで、画一的な記事になりやすい

こたつ記事はタイトルだけ読者ウケするものになっているものの、肝心の情報がスカスカな例も少なくありません。また、大量生産を目的にしている都合上、誰でも作業できるように記事の構成がテンプレート化し、画一的になりがちなのも特徴です。

こうした記事の代表例が「いかがでしたか記事」と呼ばれるものです。今回は、筆者(齊藤颯人)について、「簡易いかがでしたか記事」を以下に作成してみました。

皆さんもこのような記事を、どこかで見かけたことがあるのではないでしょうか。

筆者を題材にした「いかがでした記事」の例

▲筆者を題材にした「いかがでした記事」の例

……かなり省略しましたが、だいたいこんな感じ。筆者が結婚していることは色々なところで書いているので、新情報は何一つありません。

また検索エンジンのウケを意識しすぎてフルネームを繰り返し書いたり、日本語が怪しい部分も多く、読みづらい場合が多いです。「調べてみたけど分かりませんでした!」というような意味のない情報も、文字数稼ぎのために書かれがちです。

なお上記に加えて、ナゾの改行(読点を打つペースで改行しがち)や大量のSNSの埋め込みが入り、さらに凶悪になるケースもあります。

しょうもない……と思われるかもしれませんが、一時期はこうした記事が検索上位に多数ランクインしていました(Googleが対策を強化したことで見かける機会は減りましたが、今でも少しマイナーな芸能人やライバーなどを検索するとしばしば登場します)。

これを読まされた読者が、こたつ記事を批判するようになるのは納得ですね。

問題点2. デマや誤解を生みやすい

こたつ記事はテンプレートが決まっており、かつ詳細な取材を必要としない場合が多く、その分野の専門家以外でも簡単に記事が書けます。たとえば筆者はアイドルに一切興味がないのですが、「(アイドルの)〇〇がファンに愛される3つの理由」みたいなこたつ記事も、その気になれば書けます。

しかし、ファンでも何でもないライターがこの記事を書くと、詳しくない分野について調べながら書く必要があり、情報の読み違いや誤解が発生しやすくなります。すると、デマの含まれた記事を発信するリスクが高まるのです。

その最たる例が、DeNAの運営していた医療系キュレーションサイト『WELQ』で発生した問題です。このメディアでは医療に関する情報を素人に書かせ、デマを含んだ記事が多くの人に読まれました。その後、あまりの質の低さが話題になり、医療という人命にかかわる分野での問題だったことも相まって大炎上。DeNAは謝罪とメディアの閉鎖に追い込まれました。

一方、キュレーションメディアだけでなく、誰もが知っている大手ニュースサイトや新聞社の記事も、こうした問題と無縁ではありません。

朝日新聞の報道によれば、2020年の5月、中日新聞社は「高須クリニック」の院長として知られる高須克弥さんが、新型コロナウイルス対策で大村愛知県知事を激しく攻撃したツイートを引用して記事化。その際、高須さんの攻撃的な言葉をそのまま引用し、大村知事側の反論を掲載しなかったこともあり、大きな問題に。結局記事は削除され、謝罪と記事執筆ガイドラインの見直しを余儀なくされました。

同記事は素人ライターではなく、新聞社の記者が書いたものだったこともあり、「こたつ記事」問題の深刻さを世に知らしめることになりました。

問題点3. 「ライター」「Web記事」などのイメージを下げる

低品質な記事を書く「こたつ記事ライター」や、それを掲載する「こたつ記事メディア」も、肩書は「ライター」や「Webメディア」です。

一方で、たとえば世界中を飛び回って現地の貴重な情報を取材する人も、高品質で信頼できる記事を莫大なコストをかけて制作するメディアも、肩書上は同じ「ライター」や「Webメディア」。

もちろん、事情をよく分かっている人は彼らを同一視しません。しかし、Webメディアに詳しくない人からすれば、どちらも同じライターであり、Webメディアです。何より、やっかいなことに人は悪評に注目しやすいので、「こたつ記事」に引きずられる形で誠実に仕事をしているライターやWebメディアの評価も下がっていくのです。

そうなれば、損をするのは有能かつ誠実な人たち。優秀な業界人ほどこたつ記事を口酸っぱく批判しているように感じられますが、そう言いたくなるのはよく分かります。低品質なこたつ記事は、すなわち彼らへの名誉棄損ともいえるのです。

悪いのは「こたつ記事」ではなく「低品質な記事」

ここまで、こたつ記事の功罪について解説してきました。恐らく、読者の皆さんは「こたつ記事ってクソだな~」と思っているのではないでしょうか。

しかし、ここには大きな誤解があると言わせてください。なぜなら「悪いのは ”低品質な” こたつ記事」だからです。

こたつ記事への批判を整理してみると

  • 情報がスカスカで、画一的な記事になりやすい
  • デマや誤解を生みやすい
  • 業界の評判を下げる

という点。「こたつ記事そのもの」への批判ではないことが分かります。

つまり、こたつで記事を書こうが、「情報が詰まっていて、独自性があり、エビデンスや経験に基づいて書かれた質の高い記事」は良い記事で、反対にどれだけ取材に時間をかけても、これらがない記事は低品質な記事なのです。

「こたつ記事」には低品質なものも多いので、まとめて叩きたくなる気持ちも分かります。しかし、たとえば村上春樹がこたつで書いたエッセイがあったとして、それを「こたつ記事」と呼んで非難する人は少ないでしょう。

良いこたつ記事を作る方法

では、最後に「良いこたつ記事」の作り方を考えてみます。こたつ記事が低品質になりやすいことは否定しませんが、工夫次第で高品質なものも書けると思うのです。

また、コロナ禍で取材が制限される昨今、このスキルの有無がライターの収入を大きく左右するかもしれません。

方法1. 記事ネタはゆるく集め、記事の根拠はカッチリ集める

筆者は、普段記事の企画を立てる際に「人との会話」、とくに日常の会話からヒントを見つけることが多いです。

編集会議や取材のようにカッチリした会話だけでなく、

  • バーで何気なく始まった会話
  • 昔なじみの知人に再開した際のやり取り
  • 旅行へ行った際に会った人たちとの交流

など、ゆる~い空間の中でこそアイデアが浮かんでくる気がします。

しかし、コロナ禍ではそうした日常会話の機会も減ってしまうので、それをフォローするためにSNSやニュース、TV番組などあらゆるオンライン情報へ積極的にアクセスするようにしています。

こたつ記事を書く際にネットやSNSを使う方は多いと思いますが、こたつ記事を書く以前の企画/構成の段階から情報収集は始まっているといってもいいでしょう。

実際、筆者は編集部のメンバーやSNSのメディア関係者のリツイートで、さきにも触れたNHKの深夜番組『ねほりんぱほりん』の放送を知り、コロナ禍+番組放送でこたつ記事への注目度が高まる可能性が高いことと、「こたつ記事=悪者」ではないことを伝えようと企画を立ち上げ、この記事を書いています。

一方、こたつ記事を書くにあたっては、記事の論拠になるようなデータや資料は信用に足るカッチリしたものを得るようにしましょう。「素人がSNS/ブログで言っていたこと」「なんとなく世間にある風潮」を根拠にせず、なるべく公的な機関や専門家(官公庁や自治体などが理想)の、なるべく定量的な情報(データなど)を得たいところです。

こうした情報収集は、後に触れる「取材」の代わりになるので、情報源の質がそのまま記事の質を左右します。

方法2. 自分に書く資格のあるこたつ記事を作る

「資格を持っている記事しか書かない」というと、たとえば医師や弁護士、税理士などが頭に浮かび、「国家資格がないと、記事を書いちゃいけないの……?」と思われるかもしれません。記事よってはこのような資格がある人が書くべきものもありますが、ここで言いたいのはもっと広義の資格です。

たとえば、来る日も来る日も「とんかち」のことを調べ、考え、自宅に古今東西あらゆる場面で使われるとんかちを集める人がいたとします。周りからは「えっ、この人何やってるの……」と言われているかもしれませんが、この人には「とんかちの記事を書く資格」があるでしょう。なぜなら、たとえ実務経験や特定の資格を持っていなかったとしても、誰より詳しくとんかちのことを語れるはずだからです。

このように、こたつ記事では、自分に書く「資格」がある記事、もっと簡単に言えば「自分が詳しいジャンルの記事」や「自分にしか書けない記事」を書くべきなのです。

もっとも、誰にでも書く資格があるこたつ記事もあります。たとえば「自分の感じたこと、思ったこと」を書くこたつ記事。「今日私が思っていること」を書くのは、誰でもOKです。その記事で稼げるかどうかは別ですが、誰でも書ける低品質なこたつ記事より、その人だけの、その人にしか書けない価値ある内容になります。

方法3. こたつ記事を書きながら、取材もする

でも、「自分にしか書けない」「自分が書くべき」こたつ記事ってそんなに多くないですよね。「そんなに書くことないんだけど」「それじゃ生活できない」という声もありそうです。

そう思うのは極めて普通で、多くのフリーライターも同じことを思っているのではないでしょうか。

では、なぜ彼らが生計を立てられるほど多くの記事を書けているのでしょうか。それは、「取材をしているから」です。取材が必要な理由の一つは「自分には書く資格がないテーマや、自分の脳内だけでは情景を伝えきれないテーマについて、その道のプロに話を聞いたり、現地を訪問したりした知見、経験を記事に反映できる」から。

つまり、取材を通じて「書く資格」の部分を補っているのです。

正直、筆者は楽でコスパもいいこたつ記事を書くのが好きです。でも、ある時「こたつで書ける記事ネタには限界があること」「取材をすれば書ける世界が大幅に広がること」に気づき、取材記事に取り組むようになりました。いまでは、こたつ記事よりも取材記事を書く機会が多くなっています(取材は負担も大きいので、一定の割合でこたつ記事を書くのも、商業ライターの処世術であることは確かです)。

ただし、大変で面倒な取材を仕事のためにしぶしぶやっているわけではありません。取材を通じて自分とまったく異なる世界で生きている人、まったく違う価値観を持っている人に出会えたり、自分ひとりでは行こうと思わなかった場所に行けるので、人生経験が広がります。

あと、有名人や憧れの人に「取材」と称して話を聞けるのも魅力です。筆者も、過去には有名企業の社長や芸人、元日本代表サッカー選手やTVのコメンテーターといった方々に取材する機会がありました。普通に生きていたらまず会えない、話せない人とただ話すだけでも十分なのに、それが仕事になる。これって最高じゃないですか?

準備が大変で、トラブルに備えて気も抜けず、拘束時間も長い上、記事がボツになると原稿料はゼロ。たしかに取材は「楽」ではありませんが、一方で「楽しい」一面もあるのです。

さらに、取材で得た知識や経験によって、書けるこたつ記事の幅が広がり、質も向上します。取材経験はこたつ記事にも活きてくるのです。

こたつ記事だろうと取材記事だろうと、良い記事は良い記事

こたつ記事だろうと取材記事だろうと、良い記事は良い記事です。

大切なのは、どのようなスタイルで記事を書くかではなく、どれだけ質の高い記事を書くか。「こたつ記事しか書かない」「取材記事しか書かない」と一つのやり方こだわらず、テーマに応じてスタイルを使い分けられる柔軟性も、このご時世には求められてきます。

ぜひ、取材記事しか書いたことのない人はこたつ記事を、こたつ記事しか書いたことがない人は取材記事を書いてみてください。異なるスタイルで記事を書くことで、それぞれの良し悪し、向き不向きが見えてくるはずです。

(執筆:齊藤颯人 編集:少年B)

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