“いい記事”の定義とは?オウンドメディアに精通する3人の編集者の答え【#オウンドメディア2020】

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Web上に存在するコンテンツの膨大さから「情報 “砂の一粒” 時代」と呼ばれる現代。

何時間も費やして、やっとの想いで仕上げた記事も、世に溢れるコンテンツの中のたった一粒です。読まれることは奇跡に近い。それでも、だからこそ、 “いい記事” を作りたいと願うのは当たり前のことでしょう。

では、 “いい記事” とは、何なのでしょうか。

そんな書く人であれば一度は悩む問いを、日々、記事制作に向き合い続ける編集者の方々に聞くウェビナーを開催しました。

お呼びしたのは、年2000本以上の記事を制作する有限会社ノオト代表・宮脇 淳氏と、ローンチから半年も経たずに月間100万PVを超えるなどライターの間でも話題のオウンドメディア『となりのカインズさん』創刊編集長・清水 俊隆氏。

いい記事にまつわる4つの問いをもとに、これからの記事制作について意見を交わしました。

(本記事ではオンラインセミナー『2020年代、オウンドメディアにおける “いい記事” の定義とは? #オウンドメディア2020』のレポートをお届けします)

4問

宮脇 淳(有限会社ノオト)
宮脇 淳(有限会社ノオト)

編集者|有限会社ノオト代表取締役|品川経済新聞編集長。雑誌編集者(2年)→フリーランスのライター&編集者(6年)→コンテンツメーカー・ノオト(16年)。1973年3月、和歌山市生まれ。現在はオウンドメディアの企画・運営に携わる。東京・五反田でコワーキングスペース・コワーキングスタジオ「Contenz」を運営し、全国で計40回超の「#ライター交流会」を企画・主宰。

清水 俊隆(株式会社カインズ)
清水 俊隆(株式会社カインズ)

マーケター・コンテンツディレクター。株式会社カインズ デジタル戦略本部 デジタルマーケティング部 コンテンツグループ マネージャー。ホームセンターメディア『となりのカインズさん』創刊編集長。マーケティングテクノロジーとコンテンツを掛け合わせた事業課題の解決が強み。2020年より現職。早稲田大学本庄高等学院卒業(カインズ本社の隣)。

じきるう(GIG INC.)
じきるう(GIG INC.)

早稲田大学および同大学院でメディア表象にかんする研究に携わった後、2018年に株式会社GIG入社。編集者兼マーケターとしてクライアント企業さまのコンテンツ支援や採用支援を行うほか、フリーランス向けメディア『Workship MAGAZINE』の編集長を務める。業務外でもライター向けメディア『クレイジースタディ』を主宰するなど、根っからのメディア好き。趣味はダンス、作曲、イラスト制作など。

いい記事の定義

定義

じきるう:
お二人が考える “いい記事” の定義を教えてください。

宮脇:
「目的に届く記事かどうか」は大切な軸だと思います。

クライアントが求めていることが、短期間でたくさんの人に知られることなら、SNSで拡散される記事がいい記事ですし、長く読まれることを求められていたら、検索上位をとる記事がいい記事かもしれません。クライアントのオーダーに答えられるものが、“いい記事” のひとつかなと。

ただ、クライアントの要望を100%聞くかというと、そうではない。だいたい聞きません(笑)。申し訳ないのですが、クライアントの言うとおり記事を作っても、読者にとってのいい記事にはならないと感じます。

読者にとっての “いい記事” の定義も多様ですが、記憶に残る記事はいい記事といえるのではないでしょうか。時間がたっても覚えている記事ってありますよね。その記事は会社の宣伝だけではなかったはず。利己的な記事は読まれないんです。

クライアントと読者、両方にとって “いい記事” を作るために、編集者である我々が企画の段階から関わることを意識しています。基本は読者ファーストと理解してから、企業の目的も叶えるために、どう作っていきましょうかと。いい記事を作るためには、外の視点を持つ編集者やライターがリードして作っていく必要があると考えていますね。

ビール

▲有限会社ノオトがコンテンツ制作協力をしているオウンドメディア『PLUS THERMOS』の記事。ビールの上手な注ぎ方を専門家に取材している。THERMOSのタンブラーを紹介しつつ、読者の知りたい情報をおさえている

清水:
「クライアントの言うことを聞いてもいい記事は作れない」というのは、自社運営のオウンドメディアでもいえることですね。社内の意見を聞いて作っても、やっぱり違うよねって。そもそもテレビ広告やECサイトでできることをオウンドメディアでわざわざやる必要ないじゃんと思うんですよ。

となりのカインズさんでは、お手伝いしてもらっているライターさんや制作会社さんからご提案いただく企画は9割以上OKを出しています。なぜなら、彼らのほうが純粋な消費者目線を持っているからです。これまでにボツにしたのは公序良俗に反したり、新型コロナの影響で実現性の難しい企画だけ。

僕にとっての “いい記事” は、ライターさんが心からやりたい!と思った企画のなかにあると思っています。それはライターさんが抱いているホームセンター像やカインズ像とも密接に関係しているので、マーケティング的にも得るところが大きい。

作る人が「やりたい!楽しい!」と思いながら作ったものがいい記事になるのかなと今は実感しています。編集長としての僕にできることは、「ライターさんが好き放題できるように社内調整すること」「何かあったら責任をとること」じゃないかなと考えていますね。ヨッピーさん※1の記事も調整には苦労しました。

【※1】『オモコロ』『SPOT』『Yahoo!ニュース個人』『みんなのごはん』など、さまざまなWebメディアで活躍中のライター。となりのカインズさんでは『信長もビックリ! ホームセンターの野望2020』を執筆。

カインズさん記事1

▲カインズのオウンドメディア『となりのカインズさん』。題材はホームセンター全体からベンチ、マスク、ザスパクサツ群馬、台湾料理にマスキングテープ、はてはタイムマシンまで多種多様

いい企画の立て方

企画

じきるう:
いい記事になるかどうかは、企画段階でおおよそ決まるかなと思います。どうすればいい企画を立てられますか?

宮脇:
多くのメディアでは編集会議で企画を立てると思うのですが、いい企画を立てるにはその前の段階が大切です。

いい記事を書く編集者やライターは、常に記事のネタを探しています。たとえば、飲み屋の大将と話をして、いまの話おもしろいからとメモをとる。この話は、あのオウンドメディアで記事になるかなと考える。

企画は、身近な思いつきやネタが何より大切なんです。最初から企画に持っていこうとせず、ネタをとにかくいっぱい見つけることが重要かなと。

一人で企画を作ろうとしなくていいんです。思いつきやネタの数があれば、あとはチームや編集者と協力して、企画に仕上げられるので。

たとえば、弊社では社員間で面白かったことや気になった記事をオンラインで共有しています。そうすると、このネタは教育系のメディアで記事にできそうとか、食べ物系の記事にできそうとか、チームでネタを企画にしていく。個人でネタを集めて、チームで企画まで持っていくのが、いい企画の立て方かなと思います。

IE

▲有限会社ノオトがコンテンツ制作協力しているメディア『マイネ王』の記事。IE6の公式サポートが終了するというニュースを受けて、ウェブ制作者たちから歓喜の声が上がっていたため、この話を膨らまそうと考えた

清水:
メディアによってどんな企画が合うか、その良し悪しは変わってくると思うんですよ。自分の会社にとっての “いい企画” ってどんなものだろう?と考えることも大切ですよね。デジタルマーケティングにおけるオウンドメディアの位置付けは会社によって全く異なりますので。

他のメディアでウケた企画を自分たちのメディアでやっても、評価されるとは限らない。なので、となりのカインズさんでは「自分たちにとっての “いい企画”」を見つけるために、いまはいろんな企画を全部試している段階ですね

それから各記事のPVだけでなく、読了率や遷移率なども数字として取っています。店舗で商品を選ぶように、目的とは違う記事をどう読んでいただけているか、「カインズのお客さんが喜んでくれる記事」はなんだろうと探しています。

企画を立てるまえに、読者さんが求めていることを知るのも大切ですよね。

記事2

となりのカインズさんの記事。カインズで販売されている豊富なハンガーから、とくにおすすめなものを紹介してくれている

いい記事の書き方

書き方

じきるう:
記事の書き方のポイント・気をつけていることを教えてください。

宮脇:
ライターによって書き方が違うことは、前提として。

その上で普遍的に大切なのが「リード文に魂をこめる」こと。いい記事は例外なくリード文がいいんです。これは例外ありません。リードでどれだけ読者を引き込めるかによって、最後まで読んでもらえるかが決まります。

なので、リードに「〜〜はご存知でしょうか」とか「今回は〜」とか書いているとその時点で読む気をなくしますね。絶対に駄目ではないですけど、もう少し工夫の仕方ってもんがあるじゃないですか。

リードは記事の総括であり、読者への問いかけ。これがバチッと決まるかどうかで、いい記事とそうでない記事は大きな差が出るのではないでしょうか。やはり、リードが色っぽいと読みたくなりますね

清水:
タイトルやリードはライターさんの個性や作家性にプラスして、SNSやSEOなどWebの特性も意識して作るのが大切だと思います。

記事内容はすごく良くても、タイトルやリードが上手じゃないと読まれないんですよね。

なので、紙媒体出身のライターさんには、デジタルメディアにうまく順応いただくために自分がクリックした記事や最後まで読んだ記事をストックしてもらっています。その記事には自分が読んだ理由があるはずなので、その理由を考えることが、いい記事を書くトレーニングになるんじゃないかと思って。

記事構成やタイトルに悩んだ時も、ストックした記事を見ると、いいアイディアがひらめくこともあるのでオススメですよ。

いい記事の広げ方

広げ方

じきるう:
記事を広めるために、意識していることを教えてください。

宮脇:
「広める」ということに関して、オウンドメディアは不利です。ニュースサイトは、Yahoo!ニュースなどへの配信があって、記事が広まりやすいから。まず、オウンドメディアとして運営する限り、スタート地点は後方だと知っておく必要があるかなと。

ただ、読者は細分化されているので、ちゃんと読んでくれる読者にしっかり届いて好意を持ってもらえれば、メディアのファンになってくれる可能性は高い。なので、自分たちの記事を読みたがっている人に届けることを意識しています。

そのためには、不特定多数にバズる事を考えるのではなく、まず隣の人に見てもらうといいんじゃないかな、と。家族でも友人でも知り合ったばかりの人でもいい。自分たちの記事を求めている人が、どんな人で何を考えているのか知ること。本当に地道で小さな一歩かも知れないけれど、大切なことだと思います。

清水:
SNSでの拡散を考えて取材先やライターさんを考えたりもしますが、やはり一番重要なのは、気持ちの入っている記事をつくることですね。

となりのカインズさんでは、いわゆるインフルエンサーさんの記事よりも、有名ではないライターさんや素人さんが書いた記事のほうが読まれることも珍しくありません。内容が良ければ読まれることをデータで感じています。そういう方々を育てたいという気持ちも強いです。

でも、その上で読まれるための設計や戦略も大切ですよね。

となりのカインズさんはホームセンターのメディアだけに記事のジャンルをあえて定めていないので、同じ趣向のファンを集めるのは他の一般的なメディアより難しいと思っていて。

それでいま、読者一人ひとりの趣向に合わせて記事を出し分ける仕組みも構築しようと考えているところです。キャンプグッズを買ってくれた読者に、猫の記事をレコメンドするのではなく、キャンプの楽しみ方といった記事をオススメするようなイメージです。

その反面、たとえば料理の記事の横に害虫の記事があるのもホームセンターのメディアらしくて面白いと思うので、これからコンテンツ以外の部分も含めたくさん実験をしていきます。まだローンチから半年なので、記事を通してもっとカインズを楽しんでもらえるようにいろいろ考えているところです。

改めて……いい記事の定義

いい記事

じきるう:
改めて、いい記事の定義の教えてください。

ちなみに僕は、「読んでよかったな」と思える記事がいい記事だと思っています。オウンドメディアの記事には、SNSでシェアしてもらう、ブランドを認知してもらう、サービスに登録してもらうなどのさまざまな目的があると思いますが、大前提として「ああ、この記事読んでよかったな!」と思ってもらえないとその後の行動に繋がりません。

まずは自分の出す記事が、読者にとって良かったと思ってもらえる記事か、読者に得をさせられる記事かを意識したいと思っています。

清水:
文章の書き方やSEOなどの知識の奴隷にならず、知識を踏み越えて自分で何かしてやろうとする記事が、いい記事だと僕は思います。

文章は下手でも全然構わないので、自分がやりたい!おもしろい!と思える記事を書いてほしい。僕は、固定概念にとらわれず自分本位に記事を書いてくれる人が好きですね。

宮脇:
いい記事の定義は多岐に渡りますが、いい書き手の定義、いい編集の定義はあるのかなと。それは、“自分のスタイル” を持っているかどうかだと感じています。

ライターさんなら、たとえばヨッピーさんや與座ひかる※2さんって、どんなテーマについて書いてもその人っぽい記事になるじゃないですか。これは、作家性やユーモアが大切という話だけではなくて、たとえば難しいインタビューをまとめ上げるスキルもその人のスタイルになりうる

これは編集も同じで、ノオトが編集すればノオトの味が記事のあちこちにしみついている。いい記事作りを積み重ねていくことで、さらにいい記事の種がまかれて実を結んでいくみたいなイメージをもっています。

Webライターはこれから、もっといろんな人が出てくると思います。その中で、自分のスタイルがはっきりしていると、記事をお願いするときの期待値や安心感になる。「あの人に頼もう」という気持ちにつながる。なので、これからは、ライターや編集者、個人やチームが “いい記事” の定義を作る側になっていくのだと私は考えています。

【※2】BuzzFeed Japanに創刊から参加し「BuzzFeed Kawaii」の立ち上げや動画・記事制作に携わった。ライターとしてデイリーポータルZなどへの寄稿も行なっている。『100日間「自撮り」を送り合うとどうなるか』などの記事を執筆。

(執筆:イズミカズキ 編集:少年B)

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