採用ミスマッチはなぜ起こる?企業が陥りやすい原因と改善ポイントを解説
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ねぇ、飛影くん。キノコって美味しいよね。鍋にして食べると。
そうだね、紳さん。鍋にするとダシが出て、最高に美味いよね。

純真無垢なフリーライター。好奇心のかたまりで何にでも興味を持つ。

純真無垢な科学コミュニケーター。科学と人を繋げることが唯一の趣味。
ところでさ、キノコは「菌」なんだよね?
うん。キノコは完全に「菌」だね。
僕さ、足に水虫を飼っているんだけどさ……
水虫は「飼う」とは言わない。
水虫も菌、キノコも菌。同じ仲間って言われてもイメージが湧かないよね?
確かに。 大きさも全然違うよね。
そもそも菌ってなんなんだろう? 誰か詳しい人に話を聞けないかな?
行こう、つくばへ。僕たちが知りたいことは大体、つくばにある。

というわけで、茨城県つくば市にある筑波研究施設 国立科学博物館の植物研究部を訪れました。

ここには、世界各地から集められた様々な生物の標本が保存されています。

たくさんのキノコやカビの標本。
国立科学博物館はあらゆる動物&植物に関する研究を行なっていますが、今回はとりわけ、「菌類・藻類」の研究をしている方のお話を聞く機会をいただけました。

色々と謎が多い、菌の世界。菌とは一体、なんなんでしょうか?

国立科学博物館の植物研究部「菌類・藻類研究グループ」でグループ長を務める細矢剛博士に話をお伺いしました。

菌類の系統分類学的研究を行う。菌類の中でももっとも多様化した菌群、チャワンタケ類の研究を専門にしている。生物多様性情報を発信するスペシャリスト。
細矢博士。本日はよろしくお願いします。
どうぞ、よろしくお願いします。

早速の質問なんですが、菌ってなんなんでしょうか?
一言で表すと「微生物」ですね。非常に小さな生き物です。
キノコは微生物でもあるのか〜
まぁ、「菌」ってひとくくりにされてますが、姿形、大きさ、とても多様ですよね。パッとイメージするだけでも、キノコは日常的に食べてるアレで、カビは風呂場で見かけるアレか、酵母菌はパンを作るアレか……
はたまた、菌という名前のつく生き物は他にもいる。納豆菌はネバネバしてるアレか、乳酸菌は飲み物の中によく入ってるアレか……
こいつら全部同じ仲間なのか、どうなのか、よく分からない人の方が多いと思うんだよね。
先生、まさにそれです!!! 僕もその感覚です!!!
子供向けにわかりやすく、こういう本もあるけど。

スッ、と差し出された本のタイトルは、「わくわく微生物ワールド」でした。
先生!!! 菌はどんな能力を持った微生物なのでしょうか?
菌は「地球の掃除屋」とも呼ばれるぐらい、優秀な分解者なんですよ。
この世界は生産者(植物)、消費者(動物)、分解者(菌類、細菌類)の3者による生態系で成り立っているんですよね。
もし、この世に菌がいなかったらどうなるんですか?
例えば、並木道なら路面が葉っぱで覆い尽くされるでしょうね。会社まで、落ち葉の海をかき分けて行くハメになる。
なるほど。微生物がいないと落葉がいつまで経っても分解されないのか。
植物は無機物(水や二酸化炭素など)を取り入れて、光合成をすることで有機物(デンプン、たんぱく質など)を生み出すことができます。(生産)
そして、動物は有機物を食べて生きています(消費)。菌は、植物や動物の持つ有機物を分解して無機物にするんです。(分解)
なるほど、その無機物をまた植物が有機物に。この永久ループが食物連鎖と呼ばれるものか。
本当によくできているよね、生態系って。

ちなみに栄養を体に取り込む方法ですが、私たち動物は「食べること」で栄養を摂取しますが、菌は自身の周りに分解酵素を出して、低分子状態にまで分解された糖などを吸収して栄養を摂っているんです。
ほほ〜、偉大な能力を持っていますね。 ……あれ? ということは?
博士。僕は足が水虫なんですが、僕の足も菌によって分解されかかっているということになりますか?
皮膚や爪、毛などのたんぱく質が分解されてますね。ゆるやかに。
(分解されてるんだ……)
アハハ。でも、そういう菌がいるおかげで生態系が成り立っているということだから。水虫ぐらい、大目に見よう。
まぁ、確かにね。水虫って無害なことが多いからね。※水虫が無害というのは、紳さんの個人的な意見です。

菌のことが少しわかって、親近感が湧いてきました。いや、むしろ親菌感が湧いてきました。
文字じゃないと伝わらない表現。
それは良かった。ただ、細かい話になるけど、実はキノコなどの菌類と納豆菌や乳酸菌は違う生き物なんだ。
えっ!? 菌って名前が付いているのに違う生き物?
真菌(キノコなど)と細菌(納豆菌、乳酸菌など)という区別のされ方をしているんだけどね。細胞の構成からして違う生き物なんだよ。
その昔、まだそこまで微生物の研究が進んでいない段階では、菌という言葉がアバウトに使われていたんだね。
ということは、やっぱり! キノコと水虫は違う生き物なんだ!
いいや、水虫は白癬菌だから真菌だね。キノコと同じ。
(ガーン…… 水虫、細菌じゃないんだ……)
あの美味しいキノコと、僕の足を分解する水虫が…… 仲間……
勉強になって良かったじゃん。

そういえば博士。こちらの施設ではどうしてあんなにたくさん、様々な菌類の標本を保管(コレクション)しているんですか? 何かの役に立つのでしょうか?
すぐに何かの役に立つかどうかはともかく、網羅的に多くの種類の菌類をアーカイブしておくのが大切だと思っていますね。
例えば、世界初の抗生物質、ペニシリンを発見できたのはアオカビのおかげ。ペニシリンは医療の現場で大活躍し、多くの人を感染症の脅威から救いましたね。
ブドウ球菌を培養中に、カビの胞子をペトリ皿の中に落としてしまったんですよね。偶然だけど、アオカビが抗菌物質をつくり出せるということを発見することができた。
このペニシリンの例もそうでしたが、これからも将来的に菌類が人類にもたらすものはとても多いと考えます。これらは、人類の叡智となりえるでしょう。
そこで、生物多様性情報(どこに、何が、いつ、いたか)を記録して、優秀なデータベースを構築するための活動を続けているんです。その情報を提供することで、様々な分野で役立てるように。
なるほど、素晴らしい活動です。

そうやって考えると、水虫たちも何か僕のために役立つようなことをしている可能性もありますね。
なんでもポジティブに考えることが大切だね。
病気や食中毒の原因となる場合もあれば、発酵食品を作り出したり、美容や健康に役立ったり。菌類は多種多様で、研究次第で様々な発見をすることができるんです。
ちなみに現在、世界中で発見されている菌類はおよそ8万種と言われていますが、未知なる菌類がまだ150万種ほどいるのではないかと言われているんです。
とんでもない数だ…… 全部の標本を集めようとしたら何年かかるのか。
少しでも多くの菌類を見つけて研究し、新しい発見を世に残し、人類の発展に役立つような成果を挙げたいですね。
頑張ってください、応援しています! 貴重なお話、ありがとうございました!
菌はとても小さい生き物ですが、生態系において「分解」というとても大きな役割を担っていることがわかりました。
菌も、細菌も、その働きによって人類にとって有害の場合もあれば、有益な場合もある。これからの研究次第で、人類の発展に大きく寄与する偉大な菌の働きが新たに見つかる可能性もあります。
そのために、なるべく多くの標本、情報、研究資料が必要だし、国立科学博物館のような施設や細矢博士のような研究者が必要なんだと思います。
今までまったく勉強してこなかったけど、菌の話は奥が深く、とても興味深いものでした。
とても身近にいる存在だし、なんなら皆さんの体の中にも超たくさん住み着いてますけど、改めて「菌」ってすごいなぁって思いましたね。
(キノコと水虫が仲間だったのは若干ショックでしたが)
それではまた!