Spotifyのユーザーデータを活用した、大胆かつウィットに富んだプロモーション戦略

BtoCビジネスでは、プロモーション戦略にデータ分析を上手く活用するのが大切です。しかし、どのように活用したら良いかわからないばあいも多いでしょう。

そんな人のために、今回は世界最大の音楽ストリーミングサイト『Spotify』が2017年末に打ち出した、ユニークなプロモーション戦略を紹介します。

2017年をかっこよく締めくくった、その名も 「2018 Goals(2018年の目標)」キャンペーン。一体どういったキャンペーンだったのでしょうか。

「2018 Goals」キャンペーンが始まった背景

まずはSpotifyのビジネス背景について少し触れたいと思います。

昨年2017年は、Spotifyにとって過去最高の成長を見せた年です。売上は40%増と快挙を成し遂げました。しかし、そのほとんどのお金は過去の損失返済に消えています。Spotifyの売上の多くはレコード会社などへの支払いに使われているため、Spotifyとしてはそこまで利益を上げていなかったのです。

そのような問題を抱えながらも、勢いの出てきているSpotifyは、これまで以上にリーチを増やしビジネスを拡大していくことを考えています。

そこで彼らが取った行動が、オンラインサービスのブランド力をオフラインに展開することでした。

思わずクスッと笑ってしまう、ユーザー目線の屋外広告

spotify-2018-goals屋外広告

▲トランプ政権になったアメリカで話題になったSnowflakesの人たちをもじっている

2017年の終わりに一年の締めくくりとしてとして打ち出された「2018 Goals」キャンペーン。企画から実施まで、全てインハウスで行われました。これは先述のコスト問題を抱える会社としては考えられないほどの、莫大な予算をかけた大胆なキャンペーンとなりました。

しかし、それは膨大なユーザーデータを持つSpotifyだからこそできる、ユーモア溢れるプロモーションでした。ユーザーの視聴履歴データを使って、ユーザーのユニークな行動を、冗談を絡めた屋外広告にしたのです。ユーザーデータを使っているといっても、もちろん匿名です。

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▲2017年、たったの10日でホワイトハウスから職を追われたスカラムッチ氏をからかってユーザーが作った長いプレイリストについて

このキャンペーンで出された屋外広告には、Spotifyユーザーの2018年の目標が掲げられています。

広告の中には、2017年に起こったことに対して特定のユーザー行動が引用されたりしています。

今回のキャンペーンは、特にBtoCビジネスにとって、冗談のわかる親しみの持ちやすい会社というイメージを上手く伝えられていたといえます。このような企業発信のユーモアはSNSを通してよくみられますが、屋外広告でされることは斬新なのではないでしょうか。

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▲赤毛であるEd Sheeranに親しみを込めてユーザーが作った「I Love Gingers」プレイリストについて

広告コピーの中には、Ed Sheeran(エド・シーラン)、Kendrick Lemar(ケンドリック・ラマー)、Adele(アデル)など豪華有名歌手が引用されたものもあります。

また、背景にはピンク、赤、緑などの派手な色使いで、目につきやすい広告となっています。

通り過ぎる人たちがクスッと笑えて、SNSにシェアしたくなるというのも、SNS全盛の現代にぴったりの広告戦略です。

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▲お酒を飲みながらブランチをする「Boozy Brunch」にかける用のプレイリストを、たくさんの人が水曜日に聞いていたことをからかっている

特に今回、この広告戦略をもう一つ上のレベルまで高めたのが、英語圏以外の国でもこのキャンペーンを展開し、その国の人たちに響くようローカライズしたことでした。たとえば以下の広告はタイ語で書かれたものです。

spotify-2018-goals屋外広告

また、Spotifyは新規ユーザー獲得のため、このキャンペーン期間中にプレミアムプランを3ヶ月間0.99ドルで楽しめるキャンペーンを同時に実施しました。

プレミアムプランは無料プランと違って広告が流れず、アクセスできる音楽の幅も増えます。通常のプレミアムプラン料金よりも非常に格安なため、新規ユーザー獲得には大変効果的な方法だったといえます。

何より、世界最大級の音楽ストリーミングサイトであるSpotifyがこんなにユーモラスで太っ腹となると、非の打ち所がありませんね。

プロモーションの結果は……大成功!

このプロモーションにより、Spotifyは新規ユーザーを大きく増やすことに成功しました。売り上げも2018年の第1四半期で3倍となり、第2四半期ではニューヨーク証券取引所に上場も果たしました。

spotify株式上場

またSpotifyは今回のキャンペーンにより有料会員数を大幅に増加させ、2018年8月までに会員数8300万人まで伸ばすことに成功しました。

アメリカだけで2500万人もの会員数を持つApple Musicと比べるとそこまで大きな数ではありませんが、Apple MusicはSpotifyよりも収益があり、iTunesやiPhoneと同期できる利便性というアドバンテージがあることを考えると、なかなか悪くない結果でしょう。

Spotify有料会員増加

今回のキャンペーンで大成功を収めたSpotifyは、Spotify自身の2018年の目標を達成したと言っても過言ではないでしょう。ブランド認知を高めただけでなく、ブランドへ好印象を抱かせることにもつながりました。一番肝心なサービスの部分でも、Spotifyは申し分のないほど高クオリティを担保することでユーザーの心を掴んでいます。

この戦略において私たちが特に注目したいのが、ユーザーデータを分析し上手に使うことの大切さです。音楽ストリーミングサイトではこういったユーザーデータを上手く使うことは大切ですが、Spotifyが実施したようなユーザーデータを利用した魅力的なキャンペーンを打ち出すことは簡単ではありません。

またSpotifyのデータの強さは、各個人にカスタマイズされたおすすめプレイリストのアルゴリズムにも表れています。このアルゴリズムは、Appleなどの他サービスに比べて遥かに良いものです。他にもSpotifyは、年代やジャンルを幅広くカバーするだけでなく、ポッドキャストやヒーリング関連など幅広い用途にも対応しています。

データを使ったパーソナライズ化が得意なSpotifyのユニークな性質を、今回のキャンペーンで世界中に上手く認知させられたでしょう。

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▲昨年人気だったSam Smithの” Too good at Goodbyes”の曲名を文字って、2017年への別れを惜しんだ言葉

(著者:Kag Katumba 翻訳:Reina Onishi)

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