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台湾を代表するグラフィックデザイナー・聶永真(アーロンニエ)に「28の質問」

台湾を代表するグラフィックデザイナー・聶永真(アーロンニエ)への「30の質問」
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DESIGNER

「Sure, why not!」

英語でメールを送信。ドキドキしながら返信を待つと、二つ返事でインタビューを引き受けていただいた。

インタビューをするのは、聶永真(アーロン・ニエ)氏。
台湾のクリエイティブ業界の人間であれば、誰もが知るグラフィックデザイナーだ。2016年には蔡英文大統領の大統領選挙ロゴデザインを担当。また彼が手掛けるCDのパッケージデザインは数々の受賞歴を持ち、2017年秋には東京で開催された「台湾のCDジャケットデザイン」展にも彼の作品が展示され、読者の中にも「アーロン・ニエ」という名前を知っている方がいるかもしれない。

そんな台湾が誇る巨匠 アーロン・ニエ氏であるが、お会いしてみれば非常に物腰が柔らかい方で、筆者に対してもとてもカジュアルに接してくださった。そこで最近のアーロン・ニエ氏の仕事内容やデザインについての考え、また日本と台湾のデザイン事情からアーロン・ニエ氏のプライベートのことまで、根掘り葉掘り質問をしてみた。

聶永真(アーロン・ニエ)さん自身について

―― Q01. 最近はどのような案件をやっていますか?

最近はアジア人アーティストの作品集のデザインを担当しているよ。クレイジーなアイデアが求められていて、いま考えているのはブックケースをガラスにするというもの。本をガラスの中に入れるんだ。
どういったガラスにするべきか、工場に足を運んではテストする、といった日々を送っているよ。羽目をはずしたデザインにしたいね。

 

―― Q02. 別のインタビューでは、 “派手すぎず、地味すぎない、ちょうどよさ” が優れた表現だとおしゃっていましたが、その考えはいまも同じですか?

考え方は変わっていないよ。ただ、クライアントが求めることによって変わる部分はある。

 

―― Q03. デザインを手がける際に、必ず心がけていることは?

自分のセンス、審美眼を信じてデザインをする、というのが僕の信念。もちろんクライアントの目的にあわせてデザインするけど、僕自身がやりたいデザイン、挑戦したいデザインというのがあって、それをクライアントニーズとのバランスをとりながら進めている。
そうじゃないと誰でもデザインできてしまうからね。僕にしかできないデザインを大切にしている。

 

―― Q04. クライアントニーズとのバランスを取ることは難しくないですか?

良いデザイナーは良いデザインをつくって、さらに世の中に広めることができる人のことだと思っている。それができれば、クライアントもデザイナーに権限を与えてくれるから、デザイナーは自分にしかできないデザインに挑戦できる。
そうやって挑戦することで、クライアントもデザイナーも共に成長していけると思うし、台湾のデザインがもっと自由になっていくと思っている。

 

グラフィックデザイナー聶永真(アーロンニエ)笑顔

―― Q05. 審美眼を磨くために大事にしていることは?

ちょっと過去の話になるんだけども、学生時代は自分自身のことを「スゴイ」と思っていて。学生のときからデザインの仕事をもらっていたし、機会があればいつでも自分の作品を世の中に見せたい!と思っていた。そして、そのときは “自分の内側から生まれてくるもの” に感動をしていたんだ。

だけど学校を出てから、これまで通り自分の内側から生まれるものを表現するのではなく、 “自分の外側のことから感じたり、学んだりした感動” を表現したいと思うようになった。審美眼を磨くために、というわけではないけれども、自分が見たり学んだりし続けること、そして様々な「美」の可能性を追求する姿勢が大事だなと思っている。

 

―― Q06. グラフィックデザイナーとして大切にしていることは?

僕が大切にしているのは、「価値観を壊していく」ということ。
グラフィックデザイナーは世の中にたくさんいる。そして、みんな綺麗な作品をつくっている。そんな中で、僕はいつもどうやって他人と差別化をするか、を考えているんだ。そのためにも成長し続けないといけないし、価値観を壊していき、ユニークな存在でありたいと思っている。

 

―― Q07. デザインのアイデアはどうやって生み出していますか?

基本的には、クライアントの目的は何かを明確にすることから始める。その案件自体が明確でないものは受けないこともある。そして目的を達成するためにどうすればよいか、方向性をどうしていくのかといったことを決めるために、徹底的にリサーチをする。過去のデザインやなんかね。
そしてその案件についてリサーチしたものをファイルにまとめて、みんなとディスカッションをしてアイデアをつくることが多いかな。

 

グラフィックデザイナー聶永真(アーロンニエ)スタジオ

―― Q08. アーロン・ニエさんのモットーとしている言葉はなんですか?

「膽大心細意堅」という6文字。大胆かつ慎重に、そして強い意志を持つという意味で、学生時代に尊敬していた先生が黒板に書いていた文字なんだ。この6文字は、デザインにおいて絶対に必要なことだと思っている。
疲れているときや迷っているときは、この6文字に立ち戻る。

 

―― Q09. アーロン・ニエさんにとって、デザイナーとはどういった職業ですか?

……難しい質問だね(笑)。

いままで僕はデザインのことしかやってこなかったから、他の職業のことがわからないけど、デザイナーは「人々の生活を変えられる仕事」だと思っている。
日常生活の消費活動もそうだし、デザインは人々の生活に影響を及ぼすもの。だからとっても大切な職業だと思っている。

 

―― Q10. 今後、台湾向けではなく、海外向けにデザインをすることに興味はありますか?

もちろん機会があれば挑戦したいなと思っている。しかし、言語や文化が大事だと思っている。僕は中国語を話し、台湾の文化を知っている。
そういった今まで育ってきた環境が自分のデザインに反映されると思っているから、これまでは海外向けのデザインをやったことはないね。

 

―― Q11. 今後チャレンジしたいことは?

実はビジネスとしての仕事をなくし、アーティストとしての仕事をしたいと思っている。自分のやりたいことを実現したいなと。具体的には「Visual art」と「Experimental communication」に興味があり、この2つをメインに遊び心を持って取り組みたい。

 

台湾そして日本のデザインについて、アーロン・ニエはどう考えているのか

―― Q12. 日本と違い、台湾のCDパッケージはとても装飾がリッチですが、その理由は?

僕は日本のシンプルなパッケージのほうが好きなんだ(笑)。だけど、チャイニーズソングは派手なデザインがトレンド。そして「派手にしないと売れない」という考えが強いし、買ってもらうためにも、どこか他と違うデザインにしないといけない。たまにすごい疲れるよ(笑)。

だから、クライアントから「シンプルでいいよ」ときたら嬉しいね。派手なことは悪いことではないが、シンプルでもディテールにこだわるようなデザインを僕はやりたい。

CD実績聶永真さんが手がけたCDパッケージの一例

 

―― Q13. 台湾のクライアントはデザインに何を求めていると思いますか?

多くのクライアントは、デザインを依頼するときにブランディングのことも考えて発注している。絶対売れるデザインというわけではなく、会社のイメージづくりであったり、商品のブランディングをデザインに求めている。

例えば、前に僕が手掛けた蔡英文大統領の大統領選の選挙ロゴ。話をもらった当初は、選挙にデザインは要らないのではと考えていた。なぜなら、選挙において大事なのはデザインよりも政策方針などが大事だから。
でも話を聞くうちに、蔡英文大統領の方針に賛同の気持ちが芽生えたんだ。それをみんなに伝えるべく、イメージアップにつながればと思い、結局デザインさせてもらった。

 

―― Q14. 蔡英文大統領のロゴについてチャレンジしたことは?

非常にリスクがあるデザインだったと思う。シンプルなロゴだから、「本当にデザインしたの?」と思われてしまいかねない。
しかしこの円にはいくつかのカラーが融合されていて、政党を問わず、台湾のために前進していきたいというメッセージを込めている。そういった想いをシンプルに表現すること自体がチャレンジだった。

ロゴ実績

蔡英文大統領選挙ロゴ

 

―― Q15. 台湾ではいま、どういったデザイントレンドがありますか?

なんでもグローバル化していく中で、「よりローカル色を出していく」という傾向にあると思う。様々な表現手法を用いて、台湾らしさを表現しようというムードがあるかなと。
しかし、これは台湾に限ったことではない。世界どの国でも同じような状況だと感じている。

 

―― Q16. 最近注目している台湾の若手デザイナーは誰かいますか?

Elf-19」のデザインがいいなと思っている。僕とはまったく逆のタイプのデザインだから好きだね。こういった複雑なデザインは誰にでもできるデザインではない。型にとらわれず、とても個性的なデザインが気に入ってる。

 

―― Q17. 日本のクリエイターと交流する機会はありますか?

特にないんだ。昨年パリで開催されたイベントで日本の方と会話をしたが、雑談レベル。

 

―― Q18. 日本のクリエイターで、誰か会って話してみたいという人は?

たくさんいるんだけど、僕は人見知りなんだ。だから、遠くから「あっ、あの人だ」と見れたらもう満足。イベントとかでも交流したいとはあまり思わなくて。ただその人の作品を見れれば満足なんだ。

 

―― Q19. 注目している日本人デザイナーは誰かいますか?

昔は服部一成さんが好きだった。いまは、高田唯さんの作品に注目している。ふたりはまったく別のタイプのデザインをつくるけれども、共通しているのは、 “主流ではないデザイン” を手がけていること。クールだなと思うし、わざと作られている感じがいい。

 

―― Q20. 日本のデザインについて良いところ、悪いところはそれぞれどう思いますか?

良いところは、やはりシンプルで洗練されているデザインが多いところ。むしろ、複雑なデザインってあるの?と思ってします。
悪いと思うことはないよ。ただ、必要ないと思うことはあるかな。ちなみに日本には面白いプロダクトがたくさんあるよね。シャンプーハットとか、本当に面白い(笑)。

 

プライベートの過ごし方、そして若手デザイナーへのメッセージ

―― Q21. 日本には何回来たことがありますか?

覚えていない。100回以上は行ったことがあるよ(笑)。

 

―― Q22. タトゥーの意味は?

これは基本的なネジのパターンを入れてみた。特に意味はないけれども、チベット文字を入れたりするよりもカッコイイと思って。

 

グラフィックデザイナー聶永真(アーロンニエ)タトゥー

 

―― Q23. 週末は何をして過ごしますか?

週末もこのスタジオに来ていることが多いかな。海外にいくこともあるけど、ほとんどが仕事。年末に長期の休暇を取って、海外でリフレッシュしようとは思っている。

 

―― Q24. 好きな映画は?

ホラー映画が好きなんだ。日本の作品も結構見ているよ!

 

―― Q25. 好きな音楽は?

JAZZが好きで。仕事中のBGMはほとんどJAZZを流している。

 

―― Q26. お気に入りの仕事道具は?

そうだね、最近はこの紙の厚さを図るやつ。いまの案件では、必需品だね。

 

グラフィックデザイナー聶永真(アーロンニエ)お気に入り

 

―― Q27. その眼鏡はどこのブランドのものですか?

どこのだったかな。フレームには「BABA」と書いてある(笑)。

 

―― Q28. 最後に日本の若手クリエイターへ何かメッセージやアドバイスはありますか?

うーん、特にない(笑)。なぜなら、僕のアドバイスが役に立つかどうかわからないから。時代はいつも変化していくから、僕が正しいと思っていることは未来では正しいとは限らない。そして人それぞれ違って経験も違うから、若いときはなんでも吸収していくことが大切だと思っている。

ただ1つ言えるとしたら、必ず自分のことをよくケアしてほしい。健康面もそうだし、心もそう。いい状態を保っていたら、まわりからどう思われようが気にせずに済むからね。

 

グラフィックデザイナー聶永真(アーロンニエ)本棚にて

聶永真 Aaron Nieh

1977年生まれ。国立台湾科技大学商業デザイン科卒業。国立台湾藝術大学応用メディアアート専攻、中退。手がけたCD作品は「Golden Melody Awards」にて幾度もベストアルバムデザイン賞受賞。他にも「REDDOT AWARD」「IF DESIGN AWARD」「APD(Asia Pacific Design)」「東京 TDC(Type Director Club)」など、多くの受賞歴を持つ。著書には『Re_沒有代表作』『FW永真急制』『不妥:聶永真雜文集』『#tag沒有代表作』などがある。

URL:http://aaronnieh.com/

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