【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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会計入力、請求書の処理、社会保険料の支払い、納税、決算、確定申告……。フリーランスや経営者になった方は、これらのバックオフィス業務が想像以上に多いことに驚いたことと思います。
バックオフィス業務には法律で義務づけられたものや専門的な知識を求められるものもあるため、いくら調べても「何が正しいのか」「どうすればいいのか」がいまいちわからないものです。「もう誰かにぜんぶ任せたい!」と思う人も少なくないはず。
法人成りして4期目、私は1backofficeという会社と出会い、多くのバックオフィス業務をお任せしています。その中でわかってきたのは、誰に何を任せるのか、自分は何をすべきかというバックオフィス業務における適切な役割分担です。
今回は1backofficeの担当者である室本さんにお話をうかがい、フリーランスや経営者がバックオフィス業務を外部に依頼するときのあれこれについてまとめました。「バックオフィス業務のストレスから解放されたい」「でも誰に何を頼めばいいのかわからない」と頭を抱えている方は、ぜひ参考にしてください。
広告系の企画制作会社、教育事業会社での企画職を経て、2017年ライターとして独立。ビジネス領域のインタビュー記事執筆を中心に実績を重ね、2020年株式会社宿木屋を設立。チームで言葉を軸にした企業の発信支援を行う傍ら、個人名義でのコラム執筆や創作活動もしている。(X:@yuki_yadorigi)
2020年社労士試験合格。IT系企業の人事部、社労士法人の勤務を経て、1backofficeへ。バックオフィスの無駄をなくすため、窓口担当なし、部門境界なし、時間課金なしの小規模事業所向け事務代行サービスを提供する。
目次
会社員として各種事業部で働いているとあまり気にならないことなのですが、経営にはじつに多くのバックオフィス業務があります。個人事業主として独立、あるいは起業して経営者になると、はじめはその量の多さに驚きますよね。
まず税務申告は、法律で義務づけられている業務です。事業者は年間の所得に応じて納税をするため、税務申告が適切に行われないと、納税義務を果たせなくなります。
この税務申告に紐づいて必要なのが、帳簿の作成と領収書などの証憑の保管です。これに加えて、取引に応じた請求書の発行・受取、その後の消込と振込といった支払い関係の業務が発生します。
こうしたお金に関わるところが、バックオフィス業務の大半を占めます。さらに、契約書の作成、そのリーガルチェック、締結、保管、管理といった契約書関連の業務も、個人事業主、法人双方で発生するバックオフィス業務のひとつです。
法人のみの業務としては、起業するときに定款作成と登記申請が必要です。株式会社の場合は、株主総会を開くことも義務付けられています。これは一人で経営する会社にも求められることなので、私の場合、一人で株主総会を開いて一人で承認する、という不思議な儀式を毎年行っています。
さらに、従業員を雇用する場合は、公的な保険の手続きや勤怠管理、給与計算のほか、雇用契約書や就業規則、労使協定などの作成もしなければなりません。当然、採用もしなければなりませんし、人材育成のための研修も必要です。
……こうして列記しただけでも、ずいぶんたくさんやるべきことがありますね。ある調査によると、経営者は1日の業務時間のうち20%を、こうしたバックオフィス業務に割いているそうです。
もちろん、バックオフィス業務はすべて自分でやることもできます。一方で、事業に専念したいからこそ「誰かに任せたい」と思うのは自然なことですよね。室本さんの所感では、事業規模の大小を問わず、すべてのバックオフィス業務を一人でやっている経営者は、全体の10%にも満たないそうです。
では、バックオフィス業務を外部に依頼するとき、誰に何を頼めばいいのでしょうか。
バックオフィス業務を誰かに依頼するときは、業務内容に応じて相談相手が変わります。まず、資格保持者が対応するよう法律で定められている「士業独占業務」は、業務に応じて下記のように分類されています。
上記以外の請求書関連の業務、従業員の勤怠管理や給与計算などの業務は、誰に頼んでも問題ありません。
こうして並べるとわかるように、すべてのバックオフィス業務を誰か一人に任せることはできません。相談窓口が多くなるとコストもかかるので、自分でできることは自分で済ませてしまうほうがいいとも考えられます。
たとえば定款は、必要事項を入力すると自動で作成してくれるサービスがあります。行政書士が監修しているものも多いので、安心して利用できます。複数の創業者がいるなどの特殊なケースでなければ、こうしたサービスを利用するのもひとつの手段です。
また、雇用契約書や就業規則については、厚生労働省や労働局がひな形を提供しています。フレックス制度をはじめとした独自の取り組みがある場合を除いて、ひな形を利用すれば自分で対応するのもそれほど難しくありません。
こうした業務ごとの相談窓口や、手軽に利用できるサービスを理解したうえで、外部に依頼する必然性が高い業務は何か、自社の課題やリソースに応じて検討するといいでしょう。
どのバックオフィス業務を外部に依頼するか決めたら、次はその業務を誰に依頼するか検討していきます。依頼する前に、まずどんな人であれば相談しやすいかを考えてみましょう。「レスポンスが早い」「ミスが少ない」「人柄がいい」など、相手に求める基準は人によって異なります。事前にどんな人が理想かざっくりでもイメージしておくと、相談相手の選択肢を絞りやすくなります。
バックオフィス業務に関わる業務は、一度相談先を決めると、途中からほかの相談先に移行するのが難しいものです。できるかぎり複数の相談先を比べて、慎重に選ぶことをおすすめします。
私の場合、近場に住んでいて安いという理由で安易に税理士を選んだことを、いまだに後悔しています。あとあと納税に関するトラブルが起こって契約を終了したものの、過去のミスを指摘したり、指定されて使っていたツールから移行したりするのには、多くの心労がかかりました。
個人的に、契約前のやりとりの中で特に着眼したいのは「言いづらいアドバイスも伝えてくれそうか」です。長い付き合いになることを考えると、専門知識を持つ立場からメリット・デメリットを伝えてくれる人を選ぶことが大切です。
インターネットを検索すると、各士業やバックオフィス業務の代行業者などの情報がたくさん出てきます。中には「合法的に税金や社会保険を減らす」「助成金や補助金の受給をサポートする」といった魅力的な売り文句を掲げるところも多いでしょう。
しかし、これらを全面に押し出しているところが、必ずしもいい対応をしてくれるとは限りません。個別の事情によっては、節税対策が違法と判断されるケースもゼロではないので、堅実な対応をしてくれるところを選ぶほうが賢明です。
また、士業の事務所が相談料の安さを売りにしている場合は注意が必要です。安いということは、その事務所で働く人たちの給与も低いので、日ごろの業務のミスが増えるかもしれません。実際に依頼してみたら最低限の対応のみで、質問や特定のトラブル対応には別途費用がかかってくることも想定されるので、安さだけに注目しないようにしましょう。
とはいえ、業務効率化によって価格を抑えられている優良な事務所もあるでしょうから、安いところに頼む場合は、その安さの理由をストレートに質問してみるといいと思います。
資格を持つ士業やバックオフィス業務を代行するプロに対しては、「ミスがないのが当たり前」と考えてしまう人も多いと思います。しかし、どんなに専門知識があっても相手は人なので、ミスをすることはあります。それを踏まえて、丸投げするのではなく、コミュニケーションを取りながらよりよい在り方を目指せる相手を探すことを、心構えとして忘れないようにしてください。
私の場合、はじめは税理士に税務申告に関わる業務を依頼していましたが、丸投げしていたことで起こったトラブルや、相手のミスにすぐ気づけなかった失敗を経験してから、1backofficeと契約することを決めました。理由としては、月1回の定例会議で進捗を確認できること、バックオフィス業務全般の疑問について窓口ひとつで相談できること、そして適切ではない対応はきちんと都度指摘してくれることから、バックオフィス業務の負担を減らしつつ、自分も現状を把握して適切な対応を続けられると感じたからです。
税務申告に紐づく毎月の会計入力や給与計算などの業務はお任せしつつ、その最終的な確認や請求書周りの業務は自身が担っています。これまでツールを使いこなせず、アナログな方法で対応していた納税などの業務は、1backofficeに相談しながらオンライン対応へと切り替えることができました。
人によって判断基準はそれぞれなので、これはあくまで一例ですが、あとあと後悔がないよう、はじめの段階で慎重に相談相手を選ぶことをおすすめします。
バックオフィス業務の代行業者を探していると、よく「全部丸投げできる」という売り文句を見かけます。しかし、実際バックオフィス業務のすべてを丸投げするのは現実的ではありません。
というのも、請求書発行などの取引先が関わる業務は、現場で状況を理解している人が対応するほうが早いですし、どんな業務であっても、最終的な確認をするのは経営者です。毎月ルーティンで発生する顧客が関わる業務や、予算配分や採用基準の設計など経営判断に関わる業務は、自分(または自社内)でやるものだと認識しておいたほうがいいでしょう。
そのうえで、自分が担う業務を効率化する方法はあります。たとえば、帳簿の作成、請求書発行、経費計算、給与計算などの業務については、これらを効率化するツールが多くあります。正しく使うことができれば、税理士の力を借りることなく決算や確定申告といった業務を問題なく進めることもできます。
ただし、現状多くの会社がつかっているバックオフィス関連のサービスは、汎用性が高い機能を充実させているからこそ、業界・業態ごとの特殊なニーズに応じられなかったり、小規模事業者にはオーバースペックであることも珍しくありません。「誰もが簡単に使いこなせる」とは、まだ言いきれない状態です。そのため、こういったサービスを利用するにしても、一定の知識は求められます。
昨今はこうしたバックオフィス関連のサービスの月額・年額が引き上げられることも多くなってきているので、「何も知らなくてもこれを使えばどうにかなる!」と考えてサービスを利用するのであれば、一度自分がそれを使いこなせる状態なのかを考えたほうがいいかもしれません。小規模な事業であれば、Excelなどの表管理ツールで事足りることもあります。
ここまで読んでくださった方は、「結局バックオフィス業務って丸投げできないのかぁ」と肩を落としているかもしれません。これについては、正直その通りです。個人事業主や経営者としての道を選んだからには、事業・経営に関する重要な判断は自分以外にはできません。バックオフィス業務の多くはそれらの判断と密接に関わってきますから、「丸投げ」の姿勢で外部に依頼したり、サービスを利用したりすると、結局トラブルが起こってしまいやすいのです。
今回、お話を聞かせていただいた室本さんは、「バックオフィス業務の相談相手には、わからないことをどんどん質問してほしいし、改善点があれば教えてほしい」とおっしゃっていました。
専門知識を持つ相手だからと丸投げするのではなく、チェックしながらよりよい在り方を模索する姿勢を経営者が持っていると、依頼される側としてもモチベーションがあがるそうです。互いにチェックしあえる関係性を築くことが、ミスなく、健全なバックオフィス業務を続ける一番のコツかもしれません。
個人事業主や経営者は、士業の資格を持つ人たちや、バックオフィス業務の代行をするプロの人たちのように、各業務の細かな専門知識や業務スキルを高める必要はありません。一方、事業の責任を持つ立場として、バックオフィス業務そのものからは逃げないことが大切です。要所となる基礎知識は押さえたうえで、バックオフィス業務の依頼先や利用するツールを検討していきましょう。
これから税理士や弁護士に依頼しようと考えている方、バックオフィス業務の代行業者を利用しようと検討している方、あるいはこれから会計ソフトを導入しようと考えている方は、ぜひ今回の記事を参考に、バックオフィス業務との向き合い方を考えてみてください。
(執筆:宿木雪樹 取材協力:室本真希(1backoffice) 編集:少年B)
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