【漫画】フリーランスは“103万円の壁”にどう向き合うか?
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「ベーシックインカム」という福祉政策をご存知でしょうか。生活保護や年金とは異なり、年齢や健康状態、現在の所得額などの条件なく、すべての人に一定額が支給される夢のような制度です。財源や他の福祉制度の兼ね合いなど多くの問題を抱えており、実現には程遠いと考えられています。
しかし、そこから名前を取った「ベーシックインカム社員」という制度を運用している会社があります。その名も、70seeds株式会社。最初のベーシックインカム社員に与えられた働き方は「週2勤務だけど正社員」というものでした。
一見すると「どこがベーシックインカムなの?」と感じるこの制度。そこで今回、70seeds代表・岡山史興さんに、ベーシックインカム社員の仕組みや制度に込められた思いをお伺いしました。見えてきたのは、岡山さんの「幸せな働き方」を追求する姿でした。
「次の70年に何をのこす?」をコンセプトとする70seeds株式会社の代表取締役編集長(Chief Editorial Officer)。PR・ブランディング・事業開発支援やコンテンツ運営事業に取り組んでいる。
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きっかけは、社員ライターから独立の相談を持ちかけられたことだったそう。
「小さな会社ですから、社員が独立となると仕事のリソースの問題もあるし、僕自身も寂しいので(笑)、なんとかもう少し良い関わり方がないかなと。それに、いきなり独立よりも、安心してそこに向かえるステップを用意してあげたかったんです」
そんなお互いの想いをすり合わせた結果に誕生したのが「ベーシックインカム社員」という働き方でした。
▲岡山さんのnote(「ベーシックインカム社員」を始めた理由とその結果)より
「週2勤務だけど正社員待遇」「社会保障あり」「最低限の給与とコミット」「追加の仕事は成果or発注連動」といった、従来の正社員や業務委託とはまた違った働き方を提案。フリーランスになる前の準備期間としてベーシックインカム社員という働き方が誕生しました。
その後、会社初のベーシックインカム社員は半年の勤務を経て、満を持して独立。現在までに累計4人のベーシックインカム社員が誕生したそうです。
最近は、これまでの「週2日」という働き方ではなく、Googleの20%ルール(業務時間の20%を普段の業務とは異なるものに充てる)のような制度も導入しているとのこと。
「正式名称ではないですが、『ネオ・ベーシックインカム社員』と呼んでいます。簡単にいうと、給与を変えずに時短勤務を認めるという制度です。もともと副業もしながら、チームにすごく貢献してくれていた方を対象にしています。そのような人に対して単に昇給・昇格という選択肢だけを提示するんじゃなくて、時間の使い方の自由度を広げてあげるほうが、お互いのためになるんじゃないかなと考えまして」
一般的に、副業のために時短で働くのであれば、その分給料を削る方向に話が進みがちです。しかし岡山さんはそうは考えませんでした。時短でもパフォーマンスが落ちないように努力できればその人の成長にもつながるし、それが会社の利益にもなる。であれば、わざわざ給料を削る必要はないのです。
そもそも、なぜ「ベーシックインカム社員」という名前にしたのでしょうか? そう岡山さんに尋ねると、「会社員っていう制度自体が、ベーシックインカムみたいなものだなって思ったんです」と返ってきました。
固定給があり、保険や税務周りをあまり気にしなくていいのが会社員という立場。その基盤があるからこそ、自分が本当にやりたいことへ安心して挑戦できます。そう考えると確かに、正社員という立場はセーフティネットとして機能するように思えます。
「やりたいことにフタをしないで済むとか、自分の人生を自分でコントロールできている実感があるとか、そういうことが自分の人生の幸福感や満足感に直結していると思うんです。やりたいことができていなくて、自分の中で『うまくいってない』って感覚があると、人と比べて落ち込んだり、環境のせいにしちゃったり、『世の中が悪い』に帰結しちゃったり。それってすごく不幸なことじゃないですか」
独立すると、仕事が不安定な時期やお金にならない時期もあります。すると結局、食べていくための仕事に終始してしまい、やりたかったはずのことができず、「あれ、なんのために独立したんだっけ」……という本末転倒な状況に陥りかねません。そうならないための、お互いが幸せに働ける関わり方として岡山さんがたどり着いたのが「ベーシックインカム社員」だったそうです。
いろんなプロジェクトが動いていると、その社員が活きるとき・活きないときがどうしても出てきます。それなら、「正社員だから我慢しなきゃ」という感覚に縛られなくて済むような、自分にあった働き方や生き方が選べる状態を作っておきたい。それが岡山さんの考え方です。
社員に対して、独立やベーシックインカム社員制度の利用を岡山さんから提案することもあります。
「究極的にはみんなどんどん独立していってほしいな、と考えています。たとえ70seedsのビジョンに共感して集まってくれた社員でも、僕が共感することと、その社員が共感することって、ちょっとずつズレてくると思うんですよね。それに気づいたときに、社員が自分の力でどんどん動けるようになっていれば、別に僕のものさしに合わせる必要はない」
会社で力をつけ、社内外でつながりを作った人がどんどん独立して、自分のチームを作る。そのチームからもまたどんどん新しい人が生まれ、新しいビジョンが世に生まれる。岡山さんが目指したのは、そんな流れが社会に生まれることでした。
ひとつの会社、ひとりの人にできることはたかが知れていても、それら一つひとつの点が本質的につながっていけば、社会のビジョンはより多様になります。そしてその数だけ、幸せな働き方が世の中に生まれるのです。
社内の流動性だけでなく、社員の価値観にも「流れ」がある、と岡山さんは言います。趣味や副業から多くの価値観を取り入れ、自身の中にも常に新しい流れを作り続けることを推奨しているのだそうです。
とはいえ、言うは易し、行うは難し。大言壮語で終わらないために、きちんと成果を伴う必要があると岡山さんは考えます。
「考え方がよくても事業はうまくいってないよね、って言われるような状態だとダメで。数字上の結果を出すこともそうですけど、それ以上に僕らが世の中に必要とされる存在になることが大事だと思ってます」
一緒に働きたいと言ってくれる相手に合わせた制度設計、社員にとって過ごしやすい環境、そして独立していった人の活躍。それらを経て、「こういうことやっててよかったよね」「こういう会社があってよかったね」と、自分たちが思える組織。そして周りからもそう言ってもらえるような、幸せな組織。その実現に向けて、岡山さんは日々走り続けています。
「独立という選択肢が、スリリングなことだとか、一大決心しないとできないことという印象はなくて。もっと当たり前にあるものになるといいですね」
そう語る岡山さんですが、一方で「みんな独立・起業すべきだ」とは考えません。あくまで大事なことは、個々人の中にあるビジョンを達成できるか。会社のビジョンに心から共感して、その会社のために働くことが自己実現になるのであれば、会社員だっていいのです。
だから岡山さんは、独立を提案することはあっても、会社員か独立かの二者択一を迫ることはしません。あくまでも、本人のビジョンと合った仕事ができているか、それは70seedsだけに関わっていて達成できることなのか、ということにお互いに気付くための提案です。
「例えば『世界平和を達成したい』っていうビジョンがあったら、たくさんの選択肢があるわけですよ。青年海外協力隊に参加して地雷撤去をしてもいいし、世界中の人に安価な食事を届けるために食品メーカーに勤めるのでもいい。視点が高ければ高いほど、生き方の自由度は広がるんです」
一方で、視点がビジョンでなく自分に向いている人ほど、「自分が輝くためにはどうしたらいいんだろう」という思いに苦しみ、迷ってしまうかもしれません。そんなときほど「これが正しいんだ」という安易な言葉に誘われて、それがポジショントークであることにも気づかず、その人の利益に巻き込まれてしまう……そんな悪循環に陥ることもあります。
「個の時代」に求められているのは、「独立しなければいけない」「インフルエンサーにならなければいけない」ではなく、一人ひとりが自分の頭で考え、自分で道を選ぶことです。
そんな環境を実現するために、経営者は何ができるか、そして一人ひとりは何ができるか。「ベーシックインカム社員」という制度は、その問いに対する岡山さんの答えでした。そしてこの制度は、「自分のビジョンに向かって、自分の足で歩ける幸せ」を手にするための福祉でもあります。
「幸せに働くって、どういうことだろう」と足が止まってしまうこともあるでしょう。そんなときに思い出してほしい、岡山さんの言葉があります。
「まずはあまり難しく考えずに、自分で決めたことや目の前の人が喜ぶことをやってみる。そこから見えてくることがあると思います」
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