文章よりも”興味のキャリア”をひろげよう。17年続くデイリーポータルZと、その先にあるクリエイティブ - 石川大樹

「クリエイティブでは食べていけない」

そんな声をたびたび耳にします。しかしその一方で、クリエイティブで生計を立てている人がいるのも事実。

今回お話を伺った石川大樹さんも、クリエイティブで食べているひとり。2002年に開設され、いまなお「面白」の最前線で人気を集める、月間1000万PVの面白系メディア『デイリーポータルZ』の編集部に勤務されています。

業務外で「面白」クリエイティブを発揮していた結果、スカウトされて本業で「面白」を追求するようになった石川さん。デイリーポータルZ加入秘話や、クリエイティブを仕事にするための「興味のキャリア」について教えてくれました。

石川大樹 デイリーポータルZ

石川大樹 (Ishikawa Daiju)
石川大樹 (Ishikawa Daiju)

読み物サイト『デイリーポータルZ』編集者。イッツ・コミュニケーションズ株式会社勤務。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変な音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。

最初は個人サイトから。デイリーポータルZ編集部加入のきっかけ

じきるう 顔丸 本日はよろしくお願いします。実はデイリーポータルZの大ファンです。中学生の頃から見ています。

石川大樹 顔丸 ありがとうございます(笑) どうぞよろしくお願いします。

じきるう 顔丸 石川さんはデイリーポータルZの編集者として、日々面白コンテンツを生産していますよね。そもそもインターネット上で面白コンテンツを作り始めたきっかけって何だったのですか?

石川大樹 顔丸 大学時代に友人とミニコミ(自主制作の雑誌)を作ろうってなったことがあったんです。で、まずはミニコミに載せるコンテンツを作ったのですが、「なんかミニコミって印刷が必要だし面倒だな」と思って。
そこで一度飽きちゃったんですけど、大学の授業でHTMLを習ったので、「ホームページを作ってそこにコンテンツを載せてみよう!」ってなったんです。1999年くらいの時ですね。

じきるう 顔丸 インターネット黎明期の頃ですね。

石川大樹 顔丸 ちなみにその時の友人っていうのが、いまもデイリーポータルZでライターをしている大北くんです。

じきるう 顔丸 なんと!(笑)

石川大樹 顔丸 なので、面白コンテンツを作り始めたのは大学生の頃からですね。
で、その後は面白コンテンツから一旦離れて、新卒で入ったソフトウェア会社で医療系のシステムエンジニアをやっていました。病院の物流管理システムとかを作っていましたね。いまの編集の仕事とは全く違う業界にいたんです。

じきるう 顔丸 わりとお堅い仕事をされていたんですね。

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石川大樹 顔丸 そうですね。そして社会人2,3年目くらいの時に、また大北くんとホームページ作ろうって話になって、個人サイトを作ったんですよ。

じきるう 顔丸 その後、どのようにしてデイリーポータルZと関わり始めたのですか?

石川大樹 顔丸 デイリーポータルZはたまたま仕事中に見つけたのがきっかけだったと思います。
昔、デイリーポータルZには「コネタ道場」っていう記事投稿コーナーがあったんですけど、個人サイトに載せていた記事をそこにいくつか送ったら、何本か掲載されたんですよ。で、デイリーポータルZ編集長の林から「面白いからウチで書きませんか?」って誘われて。
当時は大北くんとコンビで「ざんはわ」って名義で書いてました。

じきるう 顔丸 なんで「ざんはわ」ってコンビ名だったのですか?

石川大樹 顔丸 個人サイトの名前が「ざんはわ」だったんですよ。架空の航空会社の機内誌って設定のサイトでした。「残業後にハワイへ行くときに見るサイト」略してざんはわです(笑)。ちなみにいまはサイトは残ってないです。

▲「ざんはわ」に関するYouTubeアーカイブ

じきるう 顔丸 その後、どのようなきっかけでデイリーポータルZに編集者として加入したのですか?

石川大樹 顔丸 デイリーポータルZにライターとして加入後、編集長の林と何回か撮影する機会があったのですが、あるときポロっと「そろそろ仕事に飽きてきたんで辞めたいんですよね」って話をしたんです。そしたらちょうど編集部の一人が産休に入るってタイミングで人手が足りていなかったらしく。「じゃあウチに来なよ」って言ってくれて、転職することにしたんですよね。

じきるう 顔丸 なるほど、いろんなタイミングが重なった結果、編集部加入に至ったのですね。

石川大樹 顔丸 そうですね、うん。デイリーポータルZで書き始めたのが2006年の8月で、その1年後くらいに編集部に加入しましたね。

もともとお金を稼ぐメディアじゃない。企業の中でのデイリーポータルZの立ち位置

じきるう 顔丸 デイリーポータルZを運営してきて、「意外とこれがお金に繋がったな」といったエピソードがありましたら教えてください。

石川大樹 顔丸 えー……お金に繋がったものは何ひとつないんですけど(笑)

じきるう 顔丸 それ、言っちゃって大丈夫なんですか……?

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石川大樹 顔丸 まあ、普通にウェブサイトに広告バナーを掲載したのはお金に繋がりましたね。実は昨年末くらいから広告入れるようになったんですよ。

じきるう 顔丸 逆に、以前はほとんど広告入れてなかったのですか?

石川大樹 顔丸 そうですね。そもそもデイリーポータルZの位置づけとして、もともとお金を稼ぐ部署じゃなかったんですよね。いまでもメディア単体で言ったら、赤字ですよ。

じきるう 顔丸 そのようなウェブメディアが、なぜ17年も続けてこれたのでしょうか?

石川大樹 顔丸 デイリーポータルZは「会社やそのサービスのイメージを良くするためのウェブメディア」って位置づけで。いわば「ブランディング」としての役割が期待されてるんです。
たとえばいまのデイリーポータルZは、東急グループのイッツ・コミュニケーションズ株式会社(略称:イッツコム)が運営元なのですが、実は東急沿線のネタとかをシリーズ物としてデイリーポータルZ内で連載してたりします。
※2002〜2017年はニフティ株式会社が運営元

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▲うどんの多様性を食べ歩く〜東急沿線さんぽ(出典:デイリーポータルZ

じきるう 顔丸 なるほど。自社に関係のあるコンテンツを、記事の中に差し込んでるのですね。このあたりは一般的なオウンドメディアと近いものがありますね。

石川大樹 顔丸 こういうコンテンツを出していると、「イッツコムや東急のことをちゃんとブランディングしてますよ」って、会社に説明できるんですよね(笑)

じきるう 顔丸 メディア単体での収益ではなく、あくまで企業のブランディングとしての役割を中心に置いているんですね。

リアルイベントはクリエイティブの価値を説明しやすい

じきるう 顔丸 いままでで一番、面白い展開を生み出した企画って何ですか?

石川大樹 顔丸 『ヘボコン』という、技術力の低い人限定で行うロボコンですね。ロボコンというか、ロボット相撲なんですけど。私が知る限りでは世界で唯一の「ロボットを作る技術を持たない人が表彰されるロボットコンテスト」です(笑)
2014年に初開催したのですが、文化庁メディア芸術祭の審査員推薦作品に選ばれたのをきっかけに有名になりました。

じきるう 顔丸 ヘボコンは日本だけでなく、世界各国のメディアで言及されていますよね! なんでも現在は25ヶ国以上で開催されているとか。

石川大樹 顔丸 そうですね。ただ途中から数えるのをやめたので、少なくとも25という感じですね。あくまで公称ですけど。
元々は個人ブログで企画していたもので、10人くらいで公民館を借りてやろうかなと思ってたんですよ。でも募集したら40人くらい集まっちゃって、ちゃんとした会場を借りてデイリーポータルZの企画として行うことにしました。

じきるう 顔丸 それが5年経ったいまでも続いていると。もはや新しい文化を作り上げましたよね。

石川大樹 顔丸 最近は小学校に招待されて、ヘボコンの授業をさせていただくこともありまして……まさかね、こんなことになるとはって感じですけど(笑)
編集者のキャリアそのものとはちょっと違う気もしますが、ヘボコンが世の中に広がったのは、自分が記事で面白さをうまく伝えられたのはあるかなと思っています。

デイリーポータルZ2

▲ヘボコンレポート〜心に残る名試合12選(出典:デイリーポータルZ

じきるう 顔丸 ぶっちゃけ、ヘボコンは結構儲かってますか?

石川大樹 顔丸 いやいや、大して儲かってないですよ(笑)
デイリーポータルZのイベントは、基本的にはお客さんから最低限しかお金を取ってないので。
そこはやっぱり僕が会社員というのもあるのですが「自分の食い扶持を自分で稼がなきゃいけない」状況ではないからできることなのかも。会社的にも、バナー広告や記事広告の掲載でいまのところは言い逃れできてるので……。
僕らデイリーポータルZがここまで上手くやってきたのは、単純に欲がないからっていうのもあるかもしれません。

じきるう 顔丸 会社によっては「メディアを収益化しろ!」ってキツく言われるところもあると思いますが、イッツコムはそこまでではないんですね。
その辺りも含めて、会社と良い関係を保てている理由は何なのでしょうか?

石川大樹 顔丸 もちろん会社からお金もらって遊んでてOK!というわけではないので、いいもの作ってお金とは別の価値を生まねばと思っています。会社にそれを成果として見せる必要もあるし。
そういう意味だと、やっぱりイベントってすごく強くて。例えばイッツコムはIT企業ではないので、上の人に記事のPVとかを見せてもいまいちピンと来てもらえないんですよね。でもイベントを開いて、会場のキャパいっぱいまで人が入ってる現場を見せると、喜んでもらえます。

石川大樹 顔丸 例えば2018年末に、デイリーポータルZのシステム移行に関するイベントを開いたんですが、これなんて相当内輪の話じゃないですか。そんなイベントでもしっかり集客できたので、会社の上の人にはかなりインパクトがあったみたいですね。

じきるう 顔丸 確かに……顔の見える生身の人がイベントに集まるのは、ITをよく知らない人にも見栄えが良いですよね。

最近はコンテンツの寿命が短くなってきている

じきるう 顔丸 ちょっと話は変わるのですが、ここ10〜20年くらいで、面白メディア界隈で何か大きく変わったことがありましたら教えてください。

石川大樹 顔丸 そもそも昔は、企業がやっている面白メディアってなかったですよね。2000年前後はテキストサイトで、その後ブログで……っていうのはありましたけど、企業がやっているのはなかった。

石川大樹 顔丸 00年代後半あたりから『オモコロ』を筆頭に面白メディアが出てきたりもして。ちょっと前だと企業のオウンドメディアがすごく増えてきました。このへんは最近はちょっとピークを越えた感じがありますね。
あと最近は、コンテンツの寿命がすごく短くなってきたと思っていて。

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じきるう 顔丸 記事がSNSでちょっとバズって、その後全く伸びない……みたいな感じでしょうか?

石川大樹 顔丸 そうですね。デイリーポータルZの場合だと、評判がいい記事でも、だいたい公開3日後にはアクセスが落ち着きます。本当に良い時でも一週間くらい。

じきるう 顔丸 月間1000万PVレベルのメディアでも、消費スピードはそんな感じなんですね……!

石川大樹 顔丸 そうですね。ここのスピード感は、大手メディアも個人ブログも一緒ですね。
なんでこんなことが起こっているかというと……ちょっと昔はサイト単位で見てくれる人が多かったと思うんですけど、最近は記事単位でしか見てくれないんですよね。みんなSNSでシェアされた記事を読んでいる。わざわざ特定のサイトを毎日見たりはしない。これが良いとか悪いとかの話ではないけれど、昔とは変わったところではありますよね。

じきるう 顔丸 確かにそんな印象はあります。
ちなみに「面白」っていうクリエイティブで、その価値を会社に理解してもらうために心がけていることはありますか?

石川大樹 顔丸 そこはある程度、人気があるっているのをアピールしていかないとしょうがないですよね。例えば会社の担当者に「面白い記事を出してます」って言って、仮にその人が面白いと思っても、世間でどうウケてるのかはその人だけは判断できないと思うので。

じきるう 顔丸 ではやはり、PVや認知度をアピールすることになりますか?

石川大樹 顔丸 それもあるけど、決してそれだけではなく。それよりも「メディアのコンテンツをめちゃくちゃ面白がってくれる人」を見つけて、その人の声を会社に見せるとリアルに伝わるなと思っています。

文章はオワコンじゃない。でも文章にこだわるつもりもない

じきるう 顔丸 昨今はメディアの人気が、Webメディアから動画メディアに移行しているという話もよく聞きます。今後Webメディアが生き残っていくには、どうしたら良いと思いますか?

石川大樹 顔丸 例えばそうですね……「情報のパッと手に取りやすさ」で勝負するのは一つの手かなと。
人の表情だったり、周りの風景だったり、動きだったりとかは、確かに動画のほうが圧倒的に有利だと思います。一方で文章なら箇条書きで5行で説明できるものが、動画だと説明に数分〜数十分かかることがあります。

じきるう 顔丸 確かに。そういう意味だと、「時間が足らない」と言っている人が多いいまの時代、情報のピックアップ手段としては文章の方が強いかもしれませんね。

石川大樹 顔丸 そうですね。あと動画はビジュアルに依存しがちですが、一方で文字ベースのコンテンツなら「文章の読み上げ機能」を使った音声コンテンツへの転用が考えられるかなと。実はデイリーポータルZでも、記事を音声で読み上げるサービスを始めようかなと考えていて。

じきるう 顔丸 音声コンテンツ。これも最近よく耳にしますね。

石川大樹 顔丸 そうですよね。なので持っていきかた次第で、まだまだ文章は生き残るかなと。あとはまあ、なんだかんだで文章好きな人はいまでも多いので。

じきるう 顔丸 実はボクも、動画より文章コンテンツ派です(笑)

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石川大樹 顔丸 ただ僕は、別に文章にこだわるつもりはなくて。僕が十数年かけてつけてきたスキルは、もちろん「文章を書く力」っていうのもあるんですけど、それ以上に何かモノを作る上での基礎体力がついたかなと思っています。受け手に配慮した見せ方だったり、サービス精神だったり。そういう力は、文章に限らずいろんな場面で使えますよね。

じきるう 顔丸 良いコンテンツを作る力、って感じですかね。

石川大樹 顔丸 そうそう。それもあって、ヘボコンとかのイベントもやっていけるし、デイリーポータルZでもたまに動画コンテンツを作ったりしていますね。
なので文章だけでなく、動画を始めとしたさまざまなスタイルに挑戦した方が良いと思いますね。文章にこだわりすぎちゃうと、可能性を狭めちゃうので。

文章だけじゃなく、興味のキャリアをひろげよう

じきるう 顔丸 これから面白系ライターを仕事にしていきたいと思っている人にアドバイスするとしたら、どのような言葉をかけますか?

石川大樹 顔丸 面白系だけでなく、ライター全般になっちゃうかもですが……いくつかありますね。
ひとつめは、自分の名前を出すこと。僕はただの会社員なのですが、デイリーポータルZではちゃんと自分の名前を出して活動できているんですよね。本名じゃなくてハンドルネームでも良いのですが、とにかく名前を出さないとそもそも自分を売り込むことができません。

石川大樹 顔丸 ふたつめは、個人の活動をやること。例えば僕は今日、デイリーポータルZの人としてインタビューを受けてますけど、ヘボコンの人でもあるし、個人ブログで電子工作をやってる人でもあります。すると何が起こるかっていうと……例えば「ヘボコンの石川」で僕のことを知った人が、「あっ、デイリーポータルZの人なんですね!」となることがあるんです。つまり複数の活動を持つことで、デイリーポータルZだけだとリーチできない人にリーチできるのです。そこから相互に送客し合えれば、自分の可能性は広がりますよね。

じきるう 顔丸 個人の活動を行うことは会社にとってもメリット大きいし、嬉しいことずくめですね!

石川大樹 顔丸 そうですね。個人の活動と被りますが、個人サイトを持っておくのも大事かもしれないです。自分でサイト運営すると、Googleアナリティクスの使い方とか、アドセンスをどこに入れると効果的なのかとかも覚えていきますし、そこで得られた知見が仕事のメディア運営でも活かせるんですよ。いわば個人サイトは実験場みたいな感じですね。

じきるう 顔丸 プライベートで得られた知見を仕事に活かすのですね。

石川大樹 顔丸 そうですね。そしてみっつめは、「興味のキャリア」をひろげること。

じきるう 顔丸 興味のキャリア……とはなんでしょうか?

石川大樹 顔丸 興味の幅や深さとか、その移り変わりのことですね。例えば僕の場合は、電子工作とかの技術の話が好きで、得意なんですよね。その興味も、最初は小学生の時にゲームプログラミングをやってたのがきっかけで、学生時代にWebもできるようになって、大人になって電子工作もやり始めて、一時はDTMやCADもかじったり。
いろいろ通ってきたからこそ作れるコンテンツがある。ヘボコンも、技術への興味から生まれたコンテンツですし。

石川大樹 顔丸 ライターだと「文章だけ頑張ろう!」って人も結構多いんですけど、文章よりも興味の幅をひろげた方が、道がひらけると思いますね。またその興味のキャリアが複数に広がっていくと、それらを掛け合わせて自分にしかできないものが生まれたりします。

じきるう 顔丸 確かに、興味のキャリアを育てて造詣の深い分野を作れば、他のライターとの差別化もできますよね。
最後に、なにか読者に伝えておきたいことはありますか?

石川大樹 顔丸 そうですね……読者の皆さん、ぜひ自由ポータルZに投稿してきてください(笑)
※毎週金曜日に行われる、デイリーポータルZの記事投稿・寸評コーナー。デイリーポータルZのライター登用窓口も兼ねている

じきるう 顔丸 (笑)
あれって毎週、どのくらいの投稿があるんですか?

石川大樹 顔丸 具体的な数字は非公開ですが、意外と少ないんですよ。
最近はTwitterとかのSNSが中心になってきたためなのか、ガッツリした記事を書く人が減ってきた印象があります。みんな意外と文章書いてないので、チャンスかもしれませんよ(笑)

(写真:Yamashita Yuto

 

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