【漫画】フリーランスは“103万円の壁”にどう向き合うか?
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こげちゃ丸さんによるWorkship MAGAZINEの人気連載「デザインの言語化ってなんだろう?」が『デザインの言語化』(左右社)として書籍化されました!
そこで今回は、信号機やセキュリティゲートなどを手がけてきたプロダクトデザイナーであり、かつそのデザイン人生のなかで紡いできた言葉をまとめた書籍『自分に語りかける時も敬語で』(夜間飛行)の著者・秋田道夫さんをお迎えし、対談形式でおふたりの「言葉論」についてお話をうかがいました。
クライアントワークを中心に活動している、描いたり書いたりしているデザイナー。商品デザインからビジネスコンセプトづくりまで、幅広い領域で悪戦苦闘の毎日です。2023年1月31日、著書『デザインの言語化』が発売になりました。(Twitter:@onigiriEdesign)
フリーランスのプロダクトデザイナー。代表作は信号機やセキュリティゲートなど。Twitterで発信する言葉が大きな話題となり、著書『自分に語りかける時も敬語で』が発売。70歳を目前にしてさらに活躍の場を広げている。
───お二人はデザイナーですが、文章を書くようになったきっかけを教えてください。
秋田:
若いころ、業界に詳しい方に「どうしたら有名になれますか?」って聞いたら、「本を出すことだ」と言われたんです。
たしかにそうだと思いましたが、有名にならないと本は出せない。つまりどうしたらいいか分からないわけです(笑)。
こげちゃ丸:
確かに、難しいところですよね。
秋田:
それからもうひとつ。わたしは建築が好きなんですけど、40年近く前にある著名な建築家に話を聞く機会があったんです。そこで、「次の世代に出てくる建築家って、誰だと思いますか?」と聞いてみました。
すると、間髪を入れずにわたしと同世代の建築家の名前が出たんです。なぜ時代を担えるのか理由を尋ねてみたら「文章が書けるからです。」とまたすぐに答えが返ってきました。「造形できる人はたくさんいるけれど考えを文章化して、発信できる人はその先に行ける」と。
こげちゃ丸:
なるほど。その方は今どうなっているんですか?
秋田:
その方は今や日本を代表する建築家になりました。やはり、一流の方は本質を見抜く目が鋭いんですね。
わたしはその言葉を受けて、ホームページに今で言えばブログのような感じで文章を書くようになりました。当時はブログが流行る前だったので、依頼もされていないのに文章を書く人は珍しかったですね。プロダクトデザイナーはなおさらでした。
───こげちゃ丸さんはどうですか?
こげちゃ丸:
ぼくはnoteというサービスで文章を書き始めたんです。ただ、秋田さんのように目的意識があったというよりは、その時の気持ちとか、家族の記憶をしたためる、日記のような感じで書いていました。
秋田:
noteでもデザインのことを書かれていたんですか?
こげちゃ丸:
いえ、当時はあえてデザインのことにはほとんど触れずに、エッセイがメインだったんです。なので、この本『デザインの言語化』にもちょっとエッセイの要素が入っていますね。コラムとか、最終章はほぼエッセイだと思ってます。
秋田:
そうなんですね。ところで『デザインの言語化』の出版はどういう経緯で決まったんですか?
こげちゃ丸:
じつはnoteに1本だけ、デザインにかかわることを書いたものがあったんですが、それをWorkship MAGAZINE編集部の方が見つけてくれて、「デザイナーで文章を書ける人を探している」と。そういうご縁で、お仕事をいただきました。
連載するなら、自分が書き続けられるテーマでなきゃいけないなと思って、「デザインの言語化」について書き始めました。
秋田:
連載がもとになって、書籍出版に至ったわけですね。
こげちゃ丸:
ただ、秋田さんがおっしゃるように、「有名にならないと本は出せない」。ぼくは会社員で、名前も顔も出さずに活動しているので、知名度はほぼゼロです。「こげちゃ丸」って名前では文章を読んでもらえないので、内容と切り口で訴求しようと思っていました。
秋田:
なるほど、そういった経緯だったんですね。
言い訳のための言語化はちょっと違うのかなと思いますが、「言語化」自体はデザインをサポートするものですから。言い訳はダメだけど、良い訳は話したほうがいいですね。
こげちゃ丸:
なるほど、上手いですね(笑)。
───秋田さんはデザインのプレゼンの際、どのように話していますか?
秋田:
自分はかなりシンプルで、一言で本質を射抜くような言葉にしたいと思っています。例えば「最先端は人に近づく」とか。こげちゃ丸さんはいかがですか?
こげちゃ丸:
ぼくの場合は、自分の考えの輪郭を明確にするときに言葉を使っています。プロジェクトに人が増えてくると、いろんな意見が出てくるので、チームの目指すべき方向をあらわすというか、ぶれない軸として「言葉」を用意するイメージです。
秋田:
説明はしなきゃいけませんよね、ロジックを通すというか。目的地に向かって、階段を用意するように。
ただ、自分はときどき階段を外すんですよ。普段とは違う頭を働かせたいというヤンチャな気持ちがあって。予定調和を崩したい、というところがあります。「相手を納得させるため」に言葉を使うことはないですね。
こげちゃ丸:
言葉はあくまでデザインを伝えるためのツールなので、言葉で相手を論破をしちゃいけないんですよね。それは相手との信頼感を損ねる行為ですから。
予定調和を崩すのは、自分はしたことがないですね……。そういう気持ちもないわけじゃないんですけど、「どう外すか」を考えてしまうというか、ちょっとわざとらしくなってしまうので。そのあたりは秋田さんのセンスだなぁと思います。
秋田:
こげちゃ丸さんは誠実で論理的なタイプなんですね。わたしはちょっと悪いやつです。(笑)。
───お二人はもともと文章が得意だったんですか?
秋田:
わたしはぜんぜん作文を褒められた経験もないし、もちろん賞を取ったこともないんですよ。こげちゃ丸さんはどうですか?
こげちゃ丸:
ぼくもありませんね。学生時代は読書感想文も大嫌いでした。妻にも文章が下手だと思われてますよ(笑)。noteも見せたことがないし、連載のことも、本のことも伝えていないので。
秋田:
デザイナーとしてのタイプはだいぶ違うような気がしますが、文章が得意じゃないというのは共通点かもしれませんね(笑)。そんな二人が本を出しているのは不思議ですね。
秋田:
こげちゃ丸さんはお仕事柄、文章を書く機会が多そうですよね。 企画書を書いたりしないとプロジェクトが前に進まないですもんね。
こげちゃ丸:
そうですね。デザインにつながる文章は全部自分で書いてます。
秋田:
会社勤めのころ、重役の方が「デザイナーは文章書けないよな」って言ったのを聞いたことがあります。そういう意味では「デザインの言語化」っていうのは、ずっと求められてはいたと思うんですよ。近年ではSNSが広まったので、誰もが必要と感じるようになったんだと思います。
こげちゃ丸:
これは不思議なんですけど、活躍されているデザイナーは言葉の感度が高いですよね。
秋田:
それはわたしも感じます。そして製品(作品)と文章は近いように感じます。精緻なデザインをする人は、やはり文章も精緻だと思いますね。
こげちゃ丸:
とはいえ、ぼくも最初は「デザイナーは絵で語るもんだ」と思っていたので、言語化が好きじゃなかったし、あんまり重要性にも気づけていなかったんです。
でも、それこそ絵だけじゃ伝わらないこともあるので、残るデザインをつくるなら、言葉も使っていなきゃいけないと気付いたんですよね。
秋田:
なるほど。あとは言語化しないと、アイデアが残らないですよね。砂のように消えてっちゃう。
「デザインの言語化」というと、完成したものの言語化と思う人が多いでしょうけど、ラフスケッチのような、一般的にいうところの「メモ代わり」の言語化が大事なのかもしれません。わたしはあまりメモを取らないので、説得力は薄いかもしれませんが、脳内ではやってます。(笑)。そういう意味ではTwitterは思考のメモだと思っています。
こげちゃ丸:
そういえば、Twitterで「デザイン 言語化」を検索してみたら、誰かの作ったデザインを言葉で説明されている方が多かったですね。
それも勉強になるかもしれないけど、そのデザインが作られた背景とか、表面に見えてないものを言語化するのも大事なんですよね。ぼくもそこに気付いたのはキャリアを積んでからでしたが……。
秋田:
文章は論理的で、構造がちゃんとあるんですよね。これはデザイナーならわかると思うんですけど、デザインって具象と抽象の間を行き来する瞬間があるんです。そこを越えるためには、言語化が必要だと思います。
こげちゃ丸:
言語化ができないと、超えられない壁だと思いますね。
───デザイナーにとっての「言葉」とはどういったものですか?
秋田:
さっきも言いましたが「苦手」が許される時代を生きてきました。とくに、プロダクトデザインは「モノで語れ」と思われていた分野。でも、コンピューターの出現によって「表現」の幅が広がるとともに、言葉が必要になったんじゃないかと思います。
こげちゃ丸:
それはなぜですか?
秋田:
昔は「機能とかたち」には相関関係があって見た目通りでしたが、コンピューターの出現によって「機能を示すための手がかり」がなくなってしまったから、ですね。
今はなんでも画面でタップできるから、逆に言葉が必要になるんじゃないかと思います。
こげちゃ丸:
なるほど……。スマホだって、表面には言葉がないですよね。プロダクトに限らず、デジタルで均質化されているので、言葉の力があった方がいいのかもしれません。
たとえばSDGsで「環境に優しい」とか、言葉で説明しなきゃわからない価値だったりもすると思うんですよね。
秋田:
仕事の魅力は製品だけじゃないんですよね。製品がいいものであることは大前提のうえで、その魅力をユーザーに伝える言葉は必要だと思います。
───最後に、新人デザイナーに「デザインの言語化とは?」と聞かれたらどう言いますか?
秋田:
「デザインの言語化」って、ある意味「言語化のデザイン」ですよね。言語化をどうやってデザインするか。具象と抽象をどう行き来するか。エモーショナルとロジックを伝えるか。
そのうえで、今あるデザインを言語化するときには、ひとつだけ注意しなきゃいけないことがあります。それはそもそものデザインが豊かでないと言語化できないということ。プロポーションのおかしな彫刻を模写しても、おかしなものしかできません。言語は元のデザイン以上には豊かにならない。
こげちゃ丸:
それは本当にそうです。デザインを言葉でごまかすことはできないし、してはいけない。
秋田:
希薄なデザインを、言葉で濃くはできない。ちゃんとしたデザインを言葉でより濃くはできるんですけど。
こげちゃ丸:
デザインを言語化する前に「何が豊かなデザインか?」の見方を養う必要がありますよね。
秋田:
言語化の力だけを身につけたからといって、いいことが降ってくることはないし、さらに言うと、言語化したくなるようなデザインを作らなきゃいけない。
ユーザーが感想を伝えてくれるのも「デザインの言語化」の一部だと思いますが、感動がないのに、わざわざ言語化しようなんて思わないでしょう。
こげちゃ丸:
言葉は大事だけれど、言葉だけでデザインを語るのはよくないんじゃないかと思いますね。デザインがあっての言葉、と考えてもらえたら嬉しいですね。
───では、デザインを豊かにするためにはどうしたらいいんでしょう。
秋田:
表現するには、さまざまな知識が必要です。たとえばワインの香りを木や花にたとえることがありますよね。でも、実際に野山を走り回っていないと、木や花の香りはわからないじゃないですか。
だから、デザイナーであれば、デザインの周辺にもっと興味を持つことが大事じゃないかな、と思います。好奇心は大切ですよ。
こげちゃ丸:
秋田さんとは別角度ですが、いろんなツールを触って、デザインの基礎を身につけていくことが大事だとぼくは思っています。「自分には関係ない」と思わないで、広く興味を持って欲しいです。
言語化もデザインを表現するツールのひとつなので、IllustratorやFigmaなど、さまざまなソフトと一緒で、触りながら慣れるのが一番いいと思います。
秋田:
そのためにも、『デザインの言語化』はぜひ読んでほしい本ですね。
こげちゃ丸:
(笑)。ありがとうございます。
(執筆:少年B 編集:じきるう)