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ロゴデザインの依頼が来たら、まず何から着手する?【前田高志×こげちゃ丸 著者対談】

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こげちゃ丸さんによるWorkship MAGAZINEの人気連載「デザインの言語化ってなんだろう?」が『デザインの言語化』(左右社)として書籍化されました! そこで、今回は書籍発売記念として、デザイン本の金字塔『勝てるデザイン』(幻冬舎)の著者・前田高志さんをお迎えし、対談形式でおふたりの「デザイン論」についてお話をうかがいました。

長年デザイナーとして働き、さまざまなデザインに精通したおふたりに、デザインを依頼したとしたら……。まずは何から着手するのでしょうか。具体的に語ってもらいました!

(前回:ベテランデザイナーが一番大事にする、クライアントからの依頼で「勝つ」ためのポイント

こげちゃ丸
こげちゃ丸

クライアントワークを中心に活動している、描いたり書いたりしているデザイナー。商品デザインからビジネスコンセプトづくりまで、幅広い領域で悪戦苦闘の毎日です。2023年1月31日、著書『デザインの言語化』が発売になりました。(Twitter:@onigiriEdesign

前田高志
前田高志

株式会社NASU 代表取締役/前田デザイン室室長/デザイナー。大阪芸術大学デザイン学科卒業後、任天堂株式会社へ入社。約15年広告販促用のグラフィックデザインに携わったのち、2016年に独立。2018年、自身のコミュニティ「前田デザイン室」と「株式会社NASU」を設立。著書に『勝てるデザイン』『鬼フィードバック』(Twitter:@DESIGN_NASU

ロゴ作成の依頼、何から着手する?

───続いては、お二人にケーススタディをお願いしたいんですが、クライアントからこんな依頼を受けたら、まず何から着手しますか?

「熱海の海沿い一等地に居を構えるホテル『ほっとリゾート』のロゴデザイン作成をお願いしたいです。「5種類展開のサウナ」が売りのホテルで、広大な海を眺めながら涼める休憩スペースも完備されています。『ほっとリゾート』の売りであるサウナをアピールできるロゴを作ってください」

前田:
これは新しく作るホテルでってことですよね。みんな一緒かもしれないんですが、まずは経営者に会って、話を聞きますね。ただ、デザインの話はしなくて、どれくらいサウナ好きなのかとか、なんで熱海なのかとか聞きに行って、建設予定地に行きますね。デザインの話はせず、雑談しに。

こげちゃ丸:
雑談ですか。

前田:
そして何回か飲みに行く……あ、「飲みに行く」ですね。最初にやること。

こげちゃ丸:
(笑)

前田:
何回か飲みに行って、「いつロゴ作んねん」くらいの感じでロゴ作りたいです。だから、「距離を詰める」のが大事かな。

時間がないときは、こげちゃさんのように言語化していくのが絶対いいんですよ。でも、自分は阿吽の呼吸で伝わるような雰囲気を作りたいんですよね。

こげちゃ丸:
なるほど。

前田:
端から合わない人をシャットアウトしてるんですよ。それはたぶん、自分の言語化力がまだまだ足りてないってことなんでしょうけど。

きっと、僕のいた環境(任天堂)が特殊だったんでしょうね。いいデザインをしたら、ことばが得意な誰かが代わりに言語化してくれてたんです。だって、クライアントは自社なので。

こげちゃ丸:
あ~! 確かにチームであれば、自分ひとりで言語化する必要はないですよね。

前田:
言語化は絶対必要なんですけど、僕のやり方が普通じゃなかったかもしれないなって……。その環境にいて、38歳で独立したので、クライアントワークに関してはもうショートカットしちゃえ!って(笑)。

───では、最初にやることは「距離を詰める」と。

前田:
そうですね。僕が代表を務める株式会社NASUのバリューに「ハグリサーチ」って言葉があるんです。普通のリサーチじゃなくて、もっとハグするぐらい距離を詰めるという。

ハグリサーチ

▲出典:株式会社NASU

前田:
じつは、僕は「クリンチ」って言ってたんですけど、「それだと戦ってる感じになっちゃう」って言われて(笑)。NASUのメンバーが「ハグ」って言ってくれたので、そっちのほうがいいなと。だから、メンバーに言語化してもらった感じですね。

こげちゃ丸:
「ハグリサーチ」、ホームページを見てもバリューの一番先に載ってますよね。いい言語化だなぁと思っていましたが、そうだったんですか!

前田:
うちのメンバー、喜びますよ(笑)。

こげちゃ丸:
でも、前回「言語化から逃げてる」と言った前田さんが、ブログを書いたり、本を出してるのもおもしろいですね。

前田:
ははは、確かに。結局言語化はついて回るんですよね。

最初は「やっちゃいけないことを言語化する」

───こげちゃ丸さんはいかがですか?

こげちゃ丸:
前田さんと全く一緒……と言いたいんですけど、方法は違いますね。心の根っこは全く一緒なんですけど。

というのも、前田さんの場合はクライアントさんと長い時間をお仕事ができるけど、自分は会社員なので、納期からリリース日まで、すべてきっちり決まってるんですよ。

前田:
まぁ、普通はそうですよね。

こげちゃ丸:
なのでうまく仕事を進めるために、「やっちゃいけないことを言語化する」のが最初かもしれないですね。今回の例でいうなら、まず思ったのが「わかりやすい要素に飛びつかないこと」。

───と、言うと?

前田高志とこげちゃ丸

こげちゃ丸:
今回の例で言うと、「5つ」です。「5つのサウナ」というのはホテル側がいま一番アピールしたいところだと思うんですよ。特に若い子なら「5」に注目してデザインを作ろうとする人も多いかもしれない。でも、自分なら「5」は絶対に避けます。

前田:
ほう。

こげちゃ丸:
なぜかというと、将来的にホテルが繁盛した時に、サウナを増やすかもしれないじゃないですか。

5年後に「ウリであるサウナをさらに拡大! 7つにしました!」みたいなことになるかもしれない。だから、「いまは5つですけど、将来的にこのサウナをどうして行きたいですか?」って聞いてからじゃないと、5に飛びついちゃいけないと思うんです。

前田:
「5つ」に意味があるならいいんですよね。

こげちゃ丸:
そう、「世界のありとあらゆるサウナの中で、最高の5つを集めました」と言われたら、そこで初めて「5」に注目したデザインを1案考えればいい。ひとつでいいんです。あとは別の方向性で考えたほうがいい。

前田:
よかった、飛びつかなくて(笑)。僕、一応今回の取材のためにメモを書いてきたんですが、そこには「本当にロゴですか?」って書いてますね。

こげちゃ丸:
あー、ありますねー!

───ロゴを頼まれたのにロゴじゃないパターンがあるんですか?

前田:
ありますあります。そもそも隠れ家みたいなホテルなら、別にロゴいらないじゃないですか。大衆スパならいるかもしれないけど。

こげちゃ丸:
たとえば、「ホテルの名前を変えましょう」って提案もアリかもしれませんよね。

前田高志とこげちゃ丸

前田:
でも、まずやっちゃいけないことを言語化するっていうのはすごくいいなと思いました。道しるべを作ってあげるというか。

こげちゃ丸:
僕がそうだったんですけど、若いころって実績はないのに、自信はあるじゃないですか。「俺なんでもできます!」みたいな。そういう時に、「やっちゃいけないこと」を先に言った方が聞いてくれるというか。

それがないと、それこそエビフライを頼んだお客さんにハンバーグを出してしまう……なんてことになって。しかも、「ハンバーグじゃないぞ」と言っても「この肉汁のうまさ、なんでわかってくんないんすか!!!」ってなってしまう。

前田:
あるある!!(爆笑)

こげちゃ丸:
でも、最初に「今回は絶対、幕の内だけはやめような」って伝えておくと、「ああ、そりゃそうっすね」となって、ハンバーグには行かないんです。

前田:
秋元康さんの言葉に「記憶に残る幕の内弁当はない」ってのがあるんですが、まさにそれですね。どんなにいいデザインでも、クライアントにマッチしてなかったら意味がない。

こげちゃ丸:
「そのクライアントでなきゃ成り立たないデザイン」がいいんですよね。使い回しができるものって、要するにクライアントとしっかり向き合ってないんです。結局ね。

調子に乗ってはダメ

───そんなお二人ですが、「あのときはどうしても勝てなかった」といった依頼はありますか?

こげちゃ丸:
これ、選ぶのが大変なくらいありますよね。

前田:
経験やスキル関係なく、いまでもありますね。逆に、いまのほうが「こんだけ経験積んできたのになんでできないんだ」っていうダメージが大きいかもしれないです。

───具体的には、どのような?

前田:
ある商品のパッケージデザインだったんですが、ちょっと調子に乗ってしまったんですね。言語化が足りてなかったんです。

「ファンです、前田さんの本読みました」と言われて、自分のことをわかってくれてる人だという前提で案を出してしまった。でも、何やっても響かなくて。寄り添ったつもりで、言語化もしたつもりやったんですけど、どうしても寄り添いきれなかった。

こげちゃ丸:
ああ……。

前田高志

前田:
クライアントさんはたぶん、本当は自分で作りたい人だったんですね。自分の中で何か答えがあって、それを形にしてくれる人を探してたんだと思うんです。話してくうちにわかったんですけど、もっと早い段階で気付くべきでしたね。

本当に悔しかったです。調子に乗ってしまったというか……甘えでしたね。だいたい、デザインの失敗って調子に乗ってるときに出るんですよ。

こげちゃ丸:
たしかに……ありますね、そういうことは。

───こげちゃ丸さんはいかがですか?

こげちゃ丸:
僕は書籍のコラムにも書いたんですけど、「捨て案を採用された時」ですね。

「絶対これが選ばれる!」と思っていたデザインがあって、それを引き立たせるために、比較対象として捨て案を作ってしまったんです。

前田:
うんうん。

こげちゃ丸:
そしたら、クライアントに好みで選ばれてしまったんです。「こんなの見たことない! いいじゃん」と言われて……。どう見ても奇抜なデザインの、捨て案を採用されてしまったんです。

日程もギリギリで、「今日決まらなきゃプロモーションが止まるぞ」って日だったので、営業が乗っかるんですよ。「さすが○○さん! 僕もこれがいいと思ってたんですよ!」とか言って。

前田:
あはははは。そりゃ営業からしたら、何でもいいから絶対決めたいですもんね。

こげちゃ丸

こげちゃ丸:
こっちは上司が不在で、代理で行ったんですよ。で、決めてくる自信もあったので……。それが、ですよ。身体が震えましたね。会社に戻るのも嫌で。

前田:
自分のエラーで試合に負けた、みたいな感じですよね。

こげちゃ丸:
そうですそうです。そこから、捨て案は絶対作らないようにしました。もちろん、自分の中で優劣はありますよ。これがベスト、これは及第点、みたいなね。でも、及第点以下の捨て案は絶対に出さないようにしてます。

前田:
それは僕も一緒ですね。捨て案は出さない。あとは、メカニズムもありますよね。「自分が発見した」という考えをしたい人もいるじゃないですか。クライアント側で。

奇抜なデザインって、ある意味「いままでにない」「運命的な出会いをした」と思わせてしまうこともあるし、運命的な出会いってやっぱり大事にしたいと思うじゃないですか。

こげちゃ丸:
確かに……。それがこの案件では、結果的に最悪の結果になっちゃいましたね。捨て案を出さないってことは、たとえそういった理由で選ばれても、最悪の結果を出さないってことなんです。

新米デザイナーが意識しておくべきこと

───将来デザイナーとして大きく活躍していくために、新米デザイナーが意識しておくべきことは何かありますか?

前田:
うーん、難しいっすね……。AIがなかったらいろいろあるんですけど、もうAIの時代が来ちゃってるんで。

これからデザインやる人は「AIはかなり脅威になる」ってのを理解しといた方がいいと思います。便利なAIツールがたくさんあるので、みんなデザイナーというよりはクリエイティブディレクターになっていくんじゃないかな、と思います。

こげちゃ丸:
変な話、AIが生成したもののディティールを調整するくらいでデザインができちゃいますもんね。

前田:
そう、でもそれは仕方のないことで、むしろ喜ばしいことで。僕だってDTPなかったらデザイナーになれてないと思うんで。

そういう意味ではデザイナーが死ぬほど増えると思うんですけど、それは「デザイナー」って名前じゃないかもしれない。デザインができるクリエイティブディレクターを目指すのがいいんじゃないですか。

前田高志とこげちゃ丸

こげちゃ丸:
「AIに負けるか」みたいな意気込みはあんまりいらないと思ってて。僕はMidjorneyをずっと使ってるんですけど、今はだいぶ進化してて、短いプロンプトでもかなりそれっぽいものができてしまう。そういう意味では怖いですよね。

もちろん自分でも絵は描き続けてますけど、AIもちゃんと触って、世の中の標準がどんなものかを追っておいたほうがいいと思うんです。

前田:
それこそ今後は「言語化」が必須の技能になってくるんじゃないですか。デザインはみんなできるようになるんで。クライアントのやり取りとか、説明力とか、そういったものを磨いていくほうが大事だと思います。

───こげちゃ丸さんはいかがですか?

こげちゃ丸:
僕はツールに対して選り好みをしない方がいいかなと思っています。もちろん、自分の強みとして「Figmaなら負けない」「動画ならまかせろ」って強みはあるかもしれないけど、「このツールは僕には関係ない」って線引きをしないでほしいんです。色々やってみた中で、スキルが身に付いてくるので。

「言語化」もツールのひとつなので、始めから無理だと決めつけずに、トライしてほしいですね。言語化って拒否反応が出やすいスキルではあるんですけど、食わず嫌いはしてほしくないです。

前田:
昔は「言葉で語るやつは絵が描けない」なんて言われることもあったけれど、そんなことはないですよね。いまはそういうこともだいぶ言われなくなりましたし。

こげちゃ丸:
でも、言葉でデザインを誤魔化すのは絶対にダメですね。具体的な例を見て、言語化力を磨いてくれたら嬉しいですね。

前田高志

前田:
今回話を聞いて、基礎力って大事だと改めて思いました。

原研哉さんがこんなことを言ってたんです。「昔のデザイナーは、1mmの間に10本の線を烏口で引くことができた。いまのデザイナーにはそれができないし、する必要もないけど、それができる能力を持っているということは、それだけの「目」を持っているということだ。だから、絶妙なバランスの文字を描くことができる」って。

こげちゃ丸:
いい言葉ですね。

前田:
だから、デッサンって何にでも応用ができるんですよ。

たとえAIがそれっぽいデザインを作ってくれても、基礎がないと見極めもできない。どれがよくてどれがダメなのか、わかんないんですよね。言語化もそうだと思います。いいものを見て言語化をしてほしい。基礎力も大事ですね。

こげちゃ丸:
AIが作ったデザインに対して、調整すべき場所がどこか、判断するための力。それが基礎力ですよね。それを養うためには、デザイン力と言語化力を徹底的に鍛えることが大事だと思います。

前田:
『デザインの言語化』と『勝てるデザイン』を両方読んでもらって(笑)。

こげちゃ丸:
(笑)。よろしくお願いします!

前田高志とこげちゃ丸

(執筆:少年B 編集&写真:じきるう)

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