フリーランスやおひとり法人のバックオフィス業務、大変だけど誰に何を頼めばいいの?
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報酬未払い、一方的な契約変更、パワハラ、セクハラ……。フリーランスとして働いていると、クライアントとの間にトラブルが発生するリスクはつきまといます。
内閣官房の統計『フリーランス実態調査』によると、約37.7%のフリーランスがクライアントとの何かしらのトラブルを経験したことがあると回答。フリーライターの筆者も、報酬未払いやパワハラを受けた経験があります。
しかしこうしたトラブルに遭遇しても、「大切な取引先だから」「仕事がなくなるかもしれないから」と、泣き寝入りしてしまう方も多いのではないでしょうか?
そんな経験のあるフリーランスの皆さんに朗報です。このたび、厚生労働省を中心とする関係省庁と弁護士会がタッグを組み、フリーランスのトラブル相談窓口として『フリーランス・トラブル110番』を開設しました。
今回の記事では、実際にフリーランス・トラブル110番の「中の人」としてご活躍中の弁護士・山田康成先生ご協力のもと、フリーランス・トラブル110番が設立された背景や、窓口の特徴、相談の流れをまとめていきます。
第二東京弁護士会が運営する「フリーランス・トラブル110番」の統括責任者。フリーランス・トラブル110番では自身も相談員としても多数の相談を受けている。フリーランスの活躍の場が広がる社会環境の整備に尽力中。
フリーランス・トラブル110番は端的にいうと、フリーランス向けの弁護士相談窓口です。
労働環境の整備などを担う厚生労働省を中心に、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁などフリーランス関係の省庁と、6000人以上の会員数を誇る大規模弁護士会「第二東京弁護士会」が協力して設立されました。
あいまいな契約や報酬の未払い、ハラスメントなどの被害を受けた際、信頼のおける弁護士に無料で相談できます。
なお相談の対象となる「フリーランス」は、業務を委託されている事業者で、従業員を使用していない方となります。法人化していても、フリーランスの方以外に役員も従業員もいない、いわゆる「一人会社」の場合も適用になります。
様々な職種の方が対象となり、たとえば以下のような職種の人が対象になる可能性があると明記されています。(一例)
幅広い職種を対象にしているため、「困った時はまず相談」という使い方が可能です。想定される具体的な相談事例も公開されているので、こちらも参考にしてみてください。
フリーランス・トラブル110番が設立された背景は、次のように書かれています。
あいまいな契約、ハラスメント、報酬の未払いなど、フリーランスの約半数が仕事上のトラブルを抱えているといわれています。そして、多くの方々が「どうすればいいかわからない」「評判が悪くなる」などの理由から泣き寝入りしているという現実があります。
労働者には労働基準法が適用されるが、フリーランスには原則適用されない。労災保険に加入できず、休業補償の対象にならない。このような弱い立場に置かれやすい方々のための、相談できる場所が必要だ―
そんな思いから、フリーランス・トラブル110番が設立されました。(引用:フリーランス・トラブル110番)
フリーランス特有の「トラブル遭遇時の泣き寝入り」「労働関係の法律や制度が適用されない」という問題が、設立の背景にあるのです。
実際にフリーランスはどれくらい泣き寝入りしたり、労働関係の法律や制度が適用されないことに悩んでいたりするのか、国の統計を見てみましょう。
『フリーランス実態調査』によると、フリーランスに発生するトラブルの原因の多くは「報酬」関係です。報酬が得られるかどうかはフリーランスの生命線なので、これはかなり悩ましい問題です。
そしてトラブルに遭遇した際、フリーランスの約30%は「泣き寝入りした」と回答。
泣き寝入りしたフリーランスの多くは「トラブルを受け入れないと活動に支障が出るから」と答えており、フリーランスの置かれている立場の弱さがあらわれています。
国と弁護士会がタッグを組んで設立されただけあって、フリーランス・トラブル110番には、ユニークな特徴がいくつもあります。ここでは、フリーランス・トラブル110番の特徴について簡単に紹介します。
フリーランス・トラブル110番の最大の特徴は、相談員が全員弁護士という点です。じつはほかの公的なの相談窓口でも、こうした相談体制は珍しいそう。
非弁護士の相談員と弁護士ではできるアドバイスの内容に違いがあるため、相談内容によっては弁護士でなければ対応できない可能性があります。踏み込んだ法律相談に対しても具体的なアドバイスが期待できるのは、オール弁護士体制ならではのメリットといえるでしょう。
無料の相談窓口を開設している団体は多くありますが、無料なのは「相談」だけで、その後の対応は有償になる場合も珍しくありません。しかしフリーランス・トラブル110番は、無料相談で事態が解決しない場合の手段についても用意されています。それが、弁護士による和解あっせんです。
和解あっせんは簡単にいうと、仲裁役である「和解あっせん人」に間に入ってもらって話し合いを進める手続きのことです。和解あっせん人は、10年以上の弁護士経験のある弁護士から選ばれます。
和解あっせんには、以下のメリットがあります。
フリーランスに多い未払いトラブルの場合、和解あっせんの手続きに入ったことがきっかけでトラブルが解決されるケースも少なくないそうです。
この和解あっせん手続きは、法律相談と同様、無料で利用することができます。なお、和解あっせん手続きについてはさらに詳しい情報が公式HPに掲載されているので、こちらもあわせてご覧ください。
フリーランス・トラブル110番では、「完全匿名」「秘密厳守」での相談が可能です。
弁護士には法律上、守秘義務が課せられています。当然、相談員が全員弁護士であるフリーランス・トラブル110番の場合、相談者の相談内容が外部に漏れることはありません。
「クライアントにバレると契約を切られるかも……」と心配な人でも相談しやすい体制が整っています。
フリーランス・トラブル110番は、多くの方法で相談を受け付けています。電話やメールの他、対面相談やオンラインでも相談できます。遠方に住んでいる方や、多忙で対面の時間を確保できない方にもおすすめです。
なお、実際にはメールや電話での相談がほとんどで、わざわざ対面での相談やWeb会議をしなくても十分な対応ができるケースが多いといいます。
「弁護士による法律相談」という性質から、個別の事案に応じた具体的なアドバイスが受けられるのも特徴です。
フリーランスが直面するトラブルは、フリーランス側・クライアント側の職業や事情もさまざまのため、一般的な事例というものがほとんど存在しません。個別の事案に対応してくれるのはうれしいですね。
では実際にトラブルが発生した際、どのような流れで相談すればよいのかを整理します。相談の流れは次の通り。
相談の際には、
を事前に整理してから連絡をとると、相談がスムーズに進むとのことです。
フリーランス・トラブル110番では電話、メールをはじめ、さまざまな方法での相談を受け付けています。現在は電話、メールでの相談が多いそうです。
電話はフリーダイヤルとなっており、通話料は無料。常時2~3名の弁護士が相談員として電話対応にあたっており、丁寧に話を聞いてもらえます。現在は相談件数があまりにも多いため、コールバック式で対応しているそうです。また、メール相談は2、3営業日以内に返信しているそう。
フリーランス・トラブル110番の特徴は、最初に相談した時点で具体的なアドバイスがもらえること。「自分の言い分が正しいのか知りたい」「契約書の条項でわからないことがある」といった相談内容も多く、相談した段階でトラブルが解決するケースも多いそうです。
希望者は対面やオンラインでの相談もできますので、まずは公式HPの電話番号やメールアドレスからコンタクトを取ってみましょう。
なお、相談後にわからないことが出てきた場合は、必要に応じて追加の相談に乗ってもらうことも可能です。
相談内容によっては、和解あっせん手続き、少額訴訟といった「次の対応」が必要になることがあります。こうしたケースでは、フリーランス・トラブル110番は事案に合った解決方法の紹介も行っています。
フリーランス・トラブル110番の和解あっせん手続きの利用を希望する場合は、和解あっせんの申立書の書き方についても教えてもらえます。
フリーランス・トラブル110番では「次の対応が必要」と判断した場合、次のような解決方法を提案しています。
和解あっせん手続きは、当事者の間に入ってくれるあっせん人弁護士の指揮のもと、話し合いを行う手続きです。和解あっせん人がそれぞれの当事者の言い分を聞いたうえで、話し合いをまとめる手伝いをしてくれます。手続きは非公開であり、和解あっせん手続きを利用したことが他の取引先や関係者にバレる心配はありません。また、あっせん人は10年以上弁護士経験のある弁護士から選ばれており、中立的な立場で話を聞いてくれます。
実際の話し合いは、あっせん人が交互に当事者を呼び出し、ヒアリングをする形で行われることが多いそうです。そのため、クライアントと直接話し合うのが怖い人も利用しやすいというメリットがあります。また、Webで手続きが可能なため、全国どこにいても利用が可能です。
取引をめぐるトラブルでは、フリーランス側、クライアント側、双方にそれぞれ言い分があることが珍しくありません。
あっせん人はあくまでも中立的な立場で話を聞き、双方の立場を理解したうえで落とし所を探ってくれます。フリーランス側だけでなくクライアント側の言い分もきちんと聞いてくれるため、クライアントも結論に納得しやすく、和解案で約束した内容を守ってくれる可能性も高いとか。
なお、あっせん人の提案する和解案に納得ができない場合は「和解をしない」選択をすることも可能です。その場合は裁判など、他の方法による解決を図ることになります。
少額訴訟は、簡易裁判所で行う特別な裁判手続きです。相手に請求したい金額が60万円以下の場合に使えます。
少額訴訟には、以下のような特徴があります。
また、契約書などの証拠関係がしっかりしていれば、フリーランス側の言い分も通りやすく、本人訴訟(弁護士を頼まずに自分で裁判すること)でも難しくありません。
さらに、和解あっせん手続きに応じてくれない相手でも、少額訴訟の審理の場には出てきてくれる可能性が高いというメリットもあります。というのも、裁判の場合、当事者は裁判所からの呼び出しを無視していると自動的に負けてしまうからです。少額訴訟を起こしたことがきっかけで相手が交渉する気になり、審理の場で和解が成立することも多いとか。
そのため、未払いトラブルで相手が話を聞いてくれない場合や、和解あっせん手続きに応じてくれない場合などでは、「少額訴訟をやってみては?」提案することも多いそうです。
事案によっては、労働基準監督署、公正取引委員会、中小企業庁といった適切な機関を紹介することもあるそうです。
たとえば、偽装請負のように「契約は業務委託契約だけど、実態は労働者」という場合は、労働基準監督署の扱う問題となり、労働基準監督署に相談することがより直接的な解決につながる可能性があります。
しかし、こうした判断には法的知識が求められることから、一般のフリーランスが行うのは難しいものです。専門家目線で問題を仕分けしてもらえるのは、かなりありがたいといえるのではないでしょうか。
ここまで、フリーランス・トラブル110番のシステムをまとめてきました。
何かしらのトラブルに遭遇した際は、自分の身を守るためにためらわず相談してみましょう。
(執筆:齊藤颯人・ぽな 編集:Workship MAGAZINE編集部 アイキャッチ出典:フリーランス・トラブル110番)
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