土曜のデザインインスピレーション #34【Muzli】
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フリーランスとして会社から独立して仕事をする場合、「開業届の提出が必要」という話を耳にしたことはありませんか?
また、一方で「開業届を提出しなくてもフリーランスになれる」との話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
開業届の提出は、フリーランスとして継続して働くならば必ず行わなければなりません。しかし、開業届を提出せずに仕事をしている方がいることも事実なので、これから独立を考えている方は提出の必要性に疑問を持つかもしれません。
そこで今回は開業届を出すべき理由とそのメリット、届け出の手順について解説します。
独立後の納税(確定申告)にも関わる話なので、フリーランスになる第一歩として、開業届についての理解を深めていきましょう。
記事監修:大見光男税理士(大見税理士事務所)
そもそも、なぜ開業届を出す必要があるのでしょうか。一番の理由は、出さないと法律違反(所得税法229条違反)になるからです。
ただし、違反ではあっても罰則がありません。このことも影響してか、開業届の提出が法律であるという認識が薄く、フリーランスで事業をしているのに届け出をしていない人も一部いるのが現状です。
ただし、個人として仕事をするすべての人が届け出をしなければならないわけでもありません。例外として、以下に該当する場合は、届け出の必要性がありません。
法律として定義されている「事業」とは、「事業とは反復・継続・独立しておこなう仕事」です。
例えば、会社員として働いているエンジニアやデザイナーが、友人から個人的にサイト制作の仕事を一度だけ頼まれた場合などは、確かに会社から独立して仕事をしたものの、「反復・継続」には該当しないので届け出は不要です。
ただし、副業の所得(売り上げから経費を引いた額)が年間で20万円を超えた場合は、開業届とは別に確定申告をしなければなりません。
国が開業届を出すことを求める理由は、納税(確定申告)に関わるからです。
フリーランスとして仕事をしていても年間の所得が38万円以下の場合は、そもそも確定申告をする必要がないため、届け出をしなくても違反にはなりません。
ちなみに、失業保険(雇用保険の基本手当)を受給している場合は、逆に開業届を出すことができません。
失業保険は、再就職の意志がある人に対して、目先の生活を心配せず1日も早い再就職ができるように用意された手当です。
開業届を提出すると再就職の意志がないことの証明になるため、失業保険の受給は不正受給とみなされてしまうのです。しかし一定の場合は再就職手当を受けられる場合もあります。
章の冒頭でも触れたように、開業届を出さなくとも罰則はありません。ただし、税制上不利になることがあります。
例えば、フリーランスとして活動しているものの開業届を出していない状態で、税務調査があった場合を考えてみます。
この状態で税務調査が入ると、フリーランスの仕事として得た収入にも関わらず、それを事業として得た収入(「事業所得」)として認められない可能性があります。このとき、収入は「雑所得」という区分に入れられてしまい、事業所得と認められていれば受けられたはずの控除が受けられないといったことが起こり得ます。
場合によっては、事業で収入を得ていることを隠蔽していると判断され、税務調査が厳しくなる可能性もあります。開業届は自分を有利にするために提出するという側面もあります。
また、開業届の提出に関わらず、年間38万円以上の所得が出る場合には納税の義務があります。開業届と確定申告は別物だということを覚えておきましょう。
フリーランスになったら開業届を出すことは義務である一方で、得られるものもあります。ここからは届け出によるメリットを紹介します。
開業届を提出する上での一番のメリットは確定申告をするときに「青色申告」ができる点です。
フリーランスとして働いて年間の事業所得が38万円を超えると、所得に対する税金を確定して、事前に納めた税金の過不足を計算する手続き(=確定申告)を自分でしなくてはなりません。
確定申告の際には、「白色」か「青色」どちらかの申告を行う必要があります。ただし、青色申告を行うことができるのは、開業届(加えて、青色申告承認申請書)を提出したフリーランスのみです。
白色申告と青色申告には以下のような違いがあります。
【白色申告】
- 事前書類の提出が不要
- 帳簿付けが青色申告よりも簡単
- 特別控除はなし
【青色申告】
- 事前書類の提出が必要
- 帳簿付けが白色申告よりも複雑
- 10万円もしくは65万円の特別控除が適応される
- 3年間赤字を繰り越せる
- 生計が同じ家族に給与を支払うことができる
確定申告の際は、白色・青色どちらでもはじめから38万円分の控除を受けることができます。
さらに、青色申告をする場合には加えて10万円もしくは65万円、つまり最大で103万円の控除を受けることができるのです。
さらに、生計が同じ家族に給与を払うことができたり、30万円までの資産を一度に経費にできたりします。これは、大きな節税に繋がるため、フリーランスとして独立するならば絶対に押さえておきたいポイントです。
なお、開業届を出したからといって自動的に青色申告になるわけではないため、注意が必要です。開業届の提出と合わせて、青色申告の申請も忘れずに行ないましょう。仕事の規模が大きくなるほど青色申告の節税効果も増えていきます。
確定申告については、税理士監修のもと以下の記事でも詳しく解説しています。
フリーランスが読むべきはじめての確定申告ガイド【FP監修】
Workship MAGAZINE
開業届を提出する際には、「屋号」を決めることができます。屋号とは、フリーランスが事業を始めるときに付ける名前のことです。販売やネイルサロンなど、個人が店舗を構えて事業を行う場合は、その店名を屋号にすることが多いです。
屋号を決められるメリットは、簡単にいうと屋号で銀行口座の開設ができることです。
個人名義の口座とは分けることができるため、事業としての収支を管理する際などに便利でしょう。
フリーランスの屋号の決め方。ネーミング例・参考になるサイト10選もご紹介
Workship MAGAZINE
開業届の提出には、社会的な信用を得られる側面もあります。上記で解説した屋号も社会的信用のひとつです。
開業届を提出していることで、社会的に個人事業主として働いていることを証明できる力があります。例えば金融機関で新規に融資を受ける際は、開業届は多くの場合必須です。
法人であれば登記によって実際に事業を行っている証明ができますが、個人事業でなおかつデザイナーやエンジニア、ライター、カメラマンなど店鋪もない事業であれば実際に仕事をしている証明をすることができません。このようなときは開業届があれば社会的な信用が得られるでしょう。
また、開業届を提出せずに事業を行なっていたことが明らかになった場合は、脱税の意識があったとされてしまう可能性もあります。
開業届を提出していないことそのものへの罰則はありませんが、税務署からは「書類1枚で簡単に作成できる開業届すら提出しない=適正な申告をしていないおそれがある」という見られ方をされて必要以上に細かく調査を受け、結果として納税額が増えてしまうこともあるので注意が必要です。
以上のことから、フリーランスの社会的な立場を守ってくれるのが「開業届の提出」ともいえるでしょう。
ここまで開業届を提出することによるメリットを紹介しました。
次は、実際に開業届を提出する流れを確認していきましょう。
開業届の提出は大きく3つのステップに分かれます。
まず初めに、手元に開業届を用意します。最寄りの税務署でもらうか、国税庁のwebサイトからのダウンロードするかのどちらかで入手することができます。
最寄りの税務署を調べる場合は、以下のページから検索してみてください。
https://www.nta.go.jp/soshiki/kokuzeikyoku/chizu/chizu.htm
次に、必要事項を記入していきます。記入するポイントは主に以下の項目です。
一見多いようにも感じられますが、基本事項の記入のみなので難しいポイントはありません。詳しい書き方も国税庁のwebサイトから確認ができます。また、税務署に行けば一緒に書いてもらうことも。税務署は脱税をしている人には厳しく接しますが、これから開業するフリーランスには優しく対応してくれます。
また、これらの項目のうちでとくに迷いやすい「マイナンバー」「職業(屋号)」や記入する上での注意点を以下で解説します。あらかじめ確認してから記入すると良いでしょう。
2016年以降に開業届を提出する場合は、個人番号(マイナンバー)の記入が必要となります。
マイナンバーの確認方法は以下の4つです。
もし、手元にマイナンバーを確認できる書類がない場合は、あらかじめ上記のいずれかを準備する必要があります。
すぐにマイナンバーを確認したい場合は、マイナンバー記載のある住民票の写しを市役所や区役所などで発行するのがおすすめです。フリーランスはマイナンバーが必要になる場面が多いので、きちんと控えておきましょう。
職業名・事業内容の記入欄についてです。フリーランスの場合は職業名が明確に定義できないこともあるため、記載に迷うことも多いでしょう。
一般的には、総務省が発表している日本標準職業分類の一覧が参考になりますが、これだけには当然絞られません。
その場合、資料はあくまで参考程度にとどめて「自分が思う職業名」を記入すれば良いとされています。
ただし、事業の概要の記入は正確に行なう必要があります。
なぜなら、個人で事業を行なう場合、事業所得が年間で290万円を超えると業種に応じた個人事業税が発生するためです。対象となる業種はこちらです。
例えばライター(文筆業)専業の場合など、業種によっては個人事業税がかからない場合もありますが、1人でいくつかの事業をやっている場合もふくめ、ほとんどの業種は課税の対象です。だからといって業種を偽るのはNGです。必ず自分の職業に合った職業名・事業内容を記載しましょう。
職業名の横には屋号を記入する欄も設けられています。2章でも少し触れていますが、屋号とは事業に名前をつけたい場合に決める名前のことです。
記入は自由なので未記入ももちろんOKです。活動する上で名乗りたい名前がある場合は記入すると良いでしょう。
ちなみに、一度決めた屋号も回数に制限なく後からの変更が可能ですが、その度に取引先などに伝えたりすることも好ましくないので、よく考えて名付けましょう。
ここまでひとつずつ確認してくと、決して複雑な作業ではありませんが少々面倒と感じる場合があるかもしれません。
そのような場合に活用できるのが会計ソフト。
フリーランスとして仕事をしていく上で複雑化しがちな書類の手続きをサポートしてくれます。
▲出典:freee開業
たとえば、freee株式会社が提供している『freee開業』では、開業をする際に必要な書類を無料でまとめて作成することができます。
開業届の作成であれば、項目ごとの質問に答えていくだけで書類が完成してしまうためとても快適です。時間がない、手続きが難しそうと思っている場合は、このような会計ソフトの導入も検討してみると良いでしょう。
フリーランスとして独立するならば、開業届だけでなく確定申告にも会計ソフトは役立つので、覚えておいて損はありません。
すべての項目の記入が終わったら、控えとしてコピーをとります。その後、提出用と控えのそれぞれに捺印をします。コピーを取らない(控えがない)場合でも提出はできてしまうので忘れずに控えをとりましょう。
書類が揃ったら、税務署に提出を行ないます。提出方法は税務署への持ち込みと郵送の2つです。
どちらで提出する場合も「開業届(控えと合わせて2部)」「本人確認書類(詳細は下の章で解説)」が必要です。また、郵送で提出する場合には、切手を貼った返信用の封筒も同封します。
直接提出した場合は、受付係が書類を受領した証拠となる受領印を押してくれるので、必ず控えにも押してもらって控え分は返却してもらいましょう。
受領印がない開業届では銀行口座の作成などには使えません。郵送で提出した場合は、同封した返信用封筒で受領印が押された控えが返却されます。万が一、受領印がない場合は、税務署にその旨を伝える必要があります。
持ち込んだ場合、税務署が混み合っていなければ手続きは約3分程度で完了します。
郵送の場合は時間を要するので、早く手続きを進めたい場合は直接税務署に出向くと良いでしょう。
まずは、どこの税務署が提出先かを確認しましょう。
自分の居住地を管轄する税務署が提出先となります。店鋪や事務所を設置して、その住所で手続きをしたい場合は、店鋪や事務所の住所地を管轄する税務署です。
管轄する税務署がわからない場合は、国税庁のwebサイトで確認ができます。
また、税務署に直接持ち込む場合、予約はないので開庁時間内に足を運んでください。
開業届を提出する際は、持ち込み・郵送のどちらの場合も、本人確認書類の提出が必要です。
個人番号カード(マイナンバーカード)が手元にある場合は1枚で十分ですが、持っていない場合は、以下の「番号確認書類」と「本人確認書類」の両方が必要です。
【番号確認書類】
- マイナンバー通知カード
- マイナンバー記載のある住民票の写しまたは住民票記載事項証明書のどちらか
【本人確認書類】
- 運転免許証
- パスポート
- 在留カード
- 保険証
- 身体障害者手帳
などのうち、いずれか一つ。
直接持ち込みの場合はこれらを提示、郵送の場合は写しをこちらの用紙に添付して同封します。
開業届の提出は、事業を開始した日付から1ヶ月以内の提出が義務付けられています。
届け出がないからといって仕事ができないわけではありませんが、開業届を提出せずに1ヶ月を超えて事業を行なうことは法律違反となり、大きな節税につながる青色申告を選ぶことができなくなるので、早急に提出するようにしましょう。
開業届を提出することの大きなメリットとして、青色申告を行なえることがあります。
青色申告の申請をする際も、開業届と同様に書類の記入が必要です。
任意の提出なので義務ではありませんが、青色申告の申請をしない場合は自動的に白色申告になるため、これまで解説してきたとおり税制上大きな差が出ます。
ここでは、青色申告承認申請書をはじめとした、開業届と合わせて提出しておくと良い4種類の書類を解説します。
フリーランスが確定申告をする場合、白色と青色いずれかの申告を選択できます。
ただし、青色申告ができるのは開業届を提出したあとに、この「青色申告承認申請書」の提出が必要です。
原則は、青色申告する年の3月15日までが提出期限ですが、開業届を提出する場合は業務を開始した日から2ヶ月以内に提出します。
そのため、開業届を提出する際にまとめて青色申告承認申請書も提出すると、何度も税務署に通うことなく青色申告に切り替えることができます。
同じ生計の家族に事業を手伝ってもらう場合、家族に給与を支払うことがあります。
通常は家族への給与は経費になりませんが、この届出書を提出すると経費として落とすことができるようになります。
フリーランスとして働いている中で、従業員を雇うことになった場合は「給与支払事務所等の開設届出」を提出します。
正社員のみならず、アルバイトやパートを雇う場合もこの届けは必要となるので注意が必要です。
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は、本来ならば毎月行う必要がある源泉所得税の納付を、毎月から年2回にまとめられる制度です。
従業員を雇っている場合は毎月の源泉所得税納付は大変な作業になります。
従業員を抱えている場合は、効率化をはかるために提出を検討してみても良いでしょう。
フリーランスとして独立をした場合、なぜ開業届を提出するべきかと、届け出の方法についてお伝えしました。
開業届の提出は、法律で定められていることはもちろんですが、なにより国が定めたさまざまな権利を得ることにもつながります。
独立を検討している、または独立しているが開業届を提出していない場合は、必ず提出を行いましょう。
(執筆:小野祐紀 編集:Workship MAGAZINE編集部 記事監修:大見光男税理士(大見税理士事務所))