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製品の特徴を伝えずに、人の心を掴む。ホンダの「ピタゴラスイッチ広告」が約570億の売上に貢献したワケ

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2003年にホンダは、ヨーロッパ市場での売上に行き詰まりを感じていました。ホンダは1998年以来売上が低下しており、自動車業界の売上高で2位から3位に落ちてしまいました。日本の自動車メーカにとってヨーロッパでの売上は大きな意味を持っており、現状を打破するような解決策が必要でした。

そこでホンダがとった行動が、ブランディングに注力することでした。

ふたりの才能によって生み出された「ピタゴラスイッチ広告」

2001年に米国広告会社のワイデン+ケネディ(Wieden+Kennedy)は、ホンダのスローガンである「夢の力」にちなんだ新しい広告戦略をホンダに提案しました。このとき提案された目標は、当初の広告予算をさらに下回るコストで、イギリスでの市場シェアを3年以内に5%増加させること、そしてブランドイメージを「面白くないけど性能はいい」から「温かくて親近感がある」へ変えることでした。

2002年、クリエィティブディレクターのマット・ゴーデンとコピーライターのベン・ウォーカーらが提案したのが、ヨーロッパや日本で新発売された7代目のホンダ・アコードシリーズをPRする、TVおよび映画館での広告でした。ゴーデンとウォーカーは1988年以来一緒に働いており、2002年の時点ではレオ・バーネット(米国広告代理店)のために製作した1秒広告と、チャーリーウォーラー記念団体のために制作した鬱予防啓発リーフレットにて、ギネス記録を獲得している敏腕コンビです。

まずふたりは、ホンダに30秒の広告動画サンプルを提出しました。そのサンプルは、子ども向けのゲーム『マウス・トラップ』や、映画『チキ・チキ・バン・バン』に出てくる朝食マシーン、1987年公開の映画『事の次第』などに見られる、日本でいうピタゴラスイッチのようなからくりマシーンをベースに製作されたものでした。

ホンダ・アコード車の部品を使った複雑な連鎖反応を取り入れたその広告は、『The Cog』と名付けられました。

『The Cog』ができるまで

ホンダは、実際の車の部品を映像の中で使うことを条件に、ふたりの提案を受け入れました。『The Cog』には100万ポンド(約1億4,000円)の制作費が捻出され、ゴーデンとウォーカーはロンドンの現地チームを雇い制作を開始しました。

制作チームはエンジニア、特殊効果専門家、自動車デザイナー、そして彫刻家などから構成されました。まずホンダ・アコード車を分解するところから始まり、それに1ヶ月を費やしました。そして実際の広告のクリエイティブが決まるまでに、さらにもう1ヶ月を費やしました。

またホンダは、ホンダ・アコードの特徴である「サイドミラーの点灯」「雨に反応するワイパー」などの機能を映像中に含むことを要望し、完成版にはそれらが反映されました。ホンダはこれらの機能を推しており、営業用のパンフレットにも入れる予定だったからです。撮影はアントニー・バラドウ・ジャケがメガホンを取りました。

その『The Cog』の完成版が以下の動画です。

ホンダの新しい広告『The Cog』が見せた”夢の力”

『The Cog』の広告公開後、ホンダのサービスサイト訪問者数は週間5.5万人と4倍に増加し、パンフレットに関する問い合わせは3倍になるなど、広告の効果が顕著に現れました。2002年4月〜2003年12月の間のホンダ店舗への訪問者数も月間3,500人から3,700人に増え、そのうち22%の顧客が購入に至りました(広告公開前は19%)。2003年12月の時点で、年間売上は66,981から81,858に増加し、目標の100,000まで順調に成長させた結果となったのです。
– Campaign Live

上記のとおり、今回のキャンペーンは大成功を収めました。『The Cog』はホンダの売上4億ポンド(約570億円)分に貢献したとされています。100万ポンドの制作費と600万ポンドの広告費を考えると、非常に効果の高いリターンだったといえるでしょう。

これを皮切りに、ホンダはブランドイメージ向上のため、この広告をシリーズ化させて公開しました。以下がその広告動画の一部です。

1. Hands(手)

https://youtu.be/DqrwtSKJAgQ

2. Paper(紙)

https://youtu.be/fLCEd8xk1BE

3. The Impossible Dream(不可能な夢)

4. Yume no Chikara(夢の力)

大切なのは、製品の裏側にあるストーリー

ここまで見ればお分りいただけると思いますが、ホンダは自社製品と顧客の溝を超えたメッセージングの方法を見つけ出したといえるでしょう。製品の特徴をあまり主張しなくとも、見る人の心を掴むことができたのがこの戦略の優れているところです。

これらの広告は、製品の裏側にあるストーリーをうまく表現しています。製品そのものよりも、製造の工程に焦点が当てられているのがポイントです。これはワイデン+ケネディが、ホンダのスローガンである「夢の力」からアイデアをもらったものでした。答えはいつも、彼らの目の前にあったのです。ホンダは競合他社とは違ったアプローチで「夢」を叶えたといえるでしょう。

最後に、2016年公開のホンダの『The Cog』最新版をご紹介して、この記事を締めさせていただきます。2002年の『The Cog』に、あらたなメッセージが付加された短い広告です。この広告の意味は、あなた自身で考えてみてください。

(著者:Kag Katumba 翻訳:Reina Onishi)

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