IoB(行動のインターネット)とは?インターネットと身体が繋がる世界

What Is the Internet of Behavior (IoB)?
BUSINESS

テクノロジーの世界では、「IoT(Internet of Things)」や「BCI(Brain-Computer Interface)」など、毎年のように新しい概念が生まれています。

Fortune Business Insightsによると、世界のヘルスケアにおけるモノのインターネット(IoT)市場は、2028年までに4465億2000万ドル(約52兆9461億900万円)に成長すると予測されているほど。IoT技術と医療の統合は、イノベーションを推進し、より先進的なヘルスケアソリューションをもたらします。

そして2021年頃から新たに登場したのが、IoB(Internet of Behavior)」です。

IoBとはIoTの延長線上にある概念で、人々の日常生活に散らばっているデジタル情報を収集、処理、分析することにフォーカスしています。

今回はテクノロジーの世界に新たに登場したIoBについて探ってみましょう。

IoBとは

「モノのインターネット」と定義されるIoTは、相互に接続された「モノ」がネットワークを介して情報を収集・交換することを指します。

いっぽうIoBは「行動のインターネット」「身体のインターネット」などと訳されており、購買パターンや関心事など、人の行動と情報を結びつけるものです。

たとえば『Uber』が提供しているライドシェアサービスは、運転手と乗客双方の位置情報を追跡できます。運転手への評価や運転手自身の行動などが、インターネットに接続されているのです。

ちなみにIoBには「Internet of Behavior」「Internet of Bodies」の2つがありますが、双方に大きな違いはありません。

Internet of Behaviorは「行動のインターネット」と直訳されます。個人の動作をインターネットに繋いだデバイスによって収集し、より良い快適な生活に生かす考え方です。たとえばNetflixでとある映画を見たあとに、似たジャンルの作品がおすすめとして挙がってくるシステムなどが該当します。

Internet of Bodiesは、どちらかというとヘルスケア領域に近いニュアンスを持っています。たとえば体内に埋め込むペースメーカーなど、より「身体」に特化したイメージです。

データソースとしての身体

IoBの根幹には、身体をデータソースとして扱うといった概念があります。

IoBは、デバイスと身体とのエンゲージメントを高めるIoTの一種です。IoBの普及によって治療の精度が向上するだけでなく、人間の幸福度にも向上が見込まれます。

たとえば糖尿病患者のインスリン投与を自動化する機能や、保険プランのパーソナライズ、パフォーマンスの向上、予防医療の発展などの可能性が例として挙げられるでしょう。

受信するデータの種類や量は、IoBガジェットとその運用によって、レベルが異なります。

  • ハードウェア:
    歩数から医療指標まで、データを操作するための演算能力を有する。データの保存には機器内部のメモリやクラウドを利用。
  • ネットワーク:
    安全なデータ交換のためにIoBガジェット間の接続が必要。
  • バックエンド:
    ストレージ、分析、レンダリングの各ソリューションを統合。ガジェットの円滑な動作を制御するサポートチームも含むインフラをあらわす。
  • エンドユーザーアプリ:
    IoBデバイスの設定をおこなう。一定期間の情報閲覧を可能にし、ハードウェアや他のアプリケーションと連携することもある。

ヘルスケア領域とIoBの関係

近年、医療業界ではテクノロジーに関する大きな変化が起きています。

手術中に医師を補助するための拡張現実アプリの使用や、診断プロセスの効率化を目的としたAIの導入など、IoTデバイスの急増によって、近年テクノロジーが急速に普及しました。こうしたテクノロジーは、IoB抜きには成立しません。

IoBガジェットはそれぞれ、ウェアラブル(着用可能)、インジェスティブル(摂取可能)、もしくはインプランタブル(埋め込み可能)です。モノのWeb(WoT)のコンセプトに従い、IoBは異なるIoTスマートデバイス間の通信プロトコルを標準化することで、スマートデバイスの相互運用性と接続性を向上させます。

ヘルスケア分野では、精密医療の核となる重要なデータを収集することにより、ニーズにあわせた正確な治療が可能になります。

2016年にはじめて登場したIoBという言葉は、人体をモニターするあらゆる機器をまとめて、一般的に使われるようになりました。デバイスの例として、以下のようなものが挙げられます。

  • 補聴器
  • 体内埋め込み型センサー
  • 心拍数測定用ウェアラブルデバイス

医療以外の分野でも、IoB製品は業務機器として使用されています。以下はその例です。

  • 監視カメラ
  • 顔認証による施錠
  • 家庭用の音声操作機器
  • ナビゲーション・ウェルネスガジェット

IoBがもたらす世界の変化

2025年までに、世界人口の40%がIoBと触れる可能性があるとされています。では、IoBによって私たちの生活や仕事がどのように変化するのでしょうか。以下は、IoBがもたらす変化の具体例です。

<IoBがもたらす変化の具体例>

  • 顧客調査がIoBに置き換わる
  • 顧客が買い物をしている場所を明確に把握できる
  • セールやアウトレットの情報をリアルタイムで提供できる
  • 企業や非営利団体のキャンペーン効果を正確に検証できる
  • 顧客が特定のデバイス、サービス、製品とどのように使っているか調査できる

IoBは、営業とマーケティングをサポートする強力なツールになることが想定されています。

また医療分野でもIoBの活躍が期待されています。IoBを活用すれば、患者の状態や治療の効果などを遠方からでも把握できるのです。

IoBの活用事例

ここからはIoBの具体的な活用例をより詳細に見ていきましょう。

活用事例1. レビューのリクエスト

レストランから帰ろうとしたとき、Googleからレビューを求められた経験はありませんか? こうしたリクエストには、Uberと同じく位置情報が活用されています。

位置情報サービスの多くは、モバイル端末のGPSやNFC(近距離無線通信)、Bluetoothなどの技術によってユーザーの位置を把握し、それに応じて通知やメールを発信します。

リアルタイムで情報を収集できるため、迅速にサービス内容を改善することが可能です。

活用事例2. パーソナライズド広告

コーヒーチェーンのBaristaは、消費者の性別、年齢、雰囲気などを把握する目的で、顔認証を導入しました。IoBによって得られた情報をもとに、適切な飲み物を提案するのが狙いです。

また小売店に同じシステムを導入すれば、雰囲気や性別に応じて商品やサービスのパーソナライズド広告を提供できます。

他にもAmazonが開発したおすすめ機能には、購入履歴が活用されています。消費者の行動を把握したうえで情報を提供するという原理は、顔認証と同様です。

活用事例3. ヘルスモニタリング

IoBがとくに活躍できそうなフィールドのひとつが、慢性疾患や非感染性疾患(NCD)の改善です。すでにリアルタイムの遠隔ヘルスモニタリングシステムや、人工肝臓の技術進歩などに貢献しています。

モニタリングによって早期治療が可能になれば、入院期間の短縮や、医療費の削減にもつながるはずです。

またスマートフォンの健康アプリにも、食事、血糖値、心拍数、睡眠パターンなどの記録にIoBが活用されています。食習慣の改善提案から、薬の摂取量変更や病気の診断まで、健康・医療分野で幅広い活躍が期待できそうです。

活用事例4. 信用スコアの算出

中国では、いわゆる「社会信用スコアシステム」が導入されています。電気代の払い忘れや、SNSでの反政府的な投稿など、さまざまな行動がスコアの低下につながります。

こうした行動追跡も、IoBの得意分野です。

活用事例5. 旅行の提案

消費者の社会的・人口統計学的特性や過去のオンライン行動を調査することで、パーソナライズされた効果的な旅行の提案ができます。

たとえばBooking.comは顧客のデータを学習・調査して、パーソナライズされた目的地を提案しています。

活用事例6. 自動車保険の保険料設定

IoBは、自動車保険の保険料最適にも役立ちます。モバイルアプリをとおして、走行距離、車の速度、走行時間などの情報を収集すれば、より効率的に保険料を設定できるはずです。

たとえばイギリスの保険会社であるAviva社は、こうしたアプローチをすでに2013年から取り入れています。

活用事例7. 長期的なファイナンシャルゴールの設定

IoBを活用すれば、顧客の消費パターンを、金融機関が明確に把握できます。

顧客が短期目標を達成したときにアプリやメールで通知を送ったり、目標から大きく遅れている場合には消費スタイルの改善を提案したりするなど、さまざまな場面でIoBが活躍しそうです。

活用事例8. 新型コロナウイルスの感染対策

IoBは、新型コロナウイルス罹患者の情報管理にも役立ちます。

たとえば、通行人のマスクの有無や、体温が上昇している人の判別などにも、IoBが活用されています。

また中国では、デジタル体温計を使って患者への連絡なしに体温をモニターしています。接触による感染拡大を避け、リアルタイムで効率的にモニタリングし、診断に役立てているのです。

IoBデバイスの種類

IoBデバイスは、大きく3つに分類できます。

  • External(体の外側)
    リストバンドやスマートウォッチなど、日々の活動をモニターするもの。
  • Internal(体の内側)
    ペースメーカーや人工内耳、3Dプリンターで制作した臓器など、体に埋め込んで使うもの。
  • Body-fused(体内からの通信)
    生体パラメーターを分析し、遠隔地にある機械とリアルタイムで接続するための通信モジュールを搭載。

IoBを活用することで、24時間365日健康状態をモニターすることが可能になります。体の異常などを即座に感知できるIoBは、ヘルスケア業界におけるトレンドのひとつになるでしょう。

以下でよくあるデバイスを詳しくご紹介します。

種類1. リストバンド

IoBリストバンドは、超音波パルスを活用することで、手の動きや人の位置を測定します。

手の動きがないときには、リストバンドを振動させることが可能です。こうしたデバイスを職場に導入すれば、従業員の生産性の向上を促すことができます。

またコロナ禍以降の世界では、従業員の健康にもいっそう注意が払われるはずです。IoBリストバンドは、健康管理にも活用できるでしょう。

種類2. 埋め込み型心臓デバイス

胸に埋め込む形式のIoBデバイスは、ユーザー宅に設置した機器にデータを送り、さらにそれを医師への情報伝達につなげます。心拍を正常化させたり、健康上の問題に対応することも可能です。

種類3. スマートピル

飲み込んだあとに錠剤に内蔵されたチップが数値を測定し、サーバーにデータを送信するスマートピル。

2017年にはアメリカのFDA(食品医薬品局)に承認され、現在は精神疾患の患者などに使用されています。

種類4. BCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース)

脳の信号で機器を操作するBCIは、障がいをもつ人の生活改善も期待されています。

IoBがはらんでいるリスク

IoBは大きな可能性を秘めていますが、同時にリスクもはらんでいます。

リスク1. プライバシーの侵害

IoBは個人の行動情報を活用しますが、とくに大規模なIoBの場合、情報のナビゲーションと利用に関する適切なフレームワークがまだ存在していません。

IoBのデータは消費者の事前の許可なしに、ランダムに収集される可能性があるので注意が必要です。

リスク2. 機密情報へのアクセス

ハッカーは、顧客の行動、物件コード、配送ルート、銀行情報など、さまざまな機密データにアクセスできてしまいます。

サイバー犯罪やフィッシング被害を踏まえると、ネットワークが広範囲であればあるほど、また情報が詳細であればあるほど、危険性は高まると考えるべきでしょう。

IoBの課題と未来

IoBは、高度なモニタリングや分析を可能にしてくれるいっぽう、リスクも抱えています。その代表例が情報漏洩です。

IoBに関する情報を盗まれた場合、身体やその機能に密接に関わる機器が、正常に機能しなくなる可能性があります。IoBのサイバーセキュリティモジュールが有効でない場合や、データ暗号化のアプローチが古い場合、リスクはさらに大きくなるでしょう。

また適切な規制を確保し、IoBデバイスを使う人が生体情報を所有・管理する必要があるため、公共の場でデバイスが採用されることは考えにくいのが現状です。たとえば倉庫で働く従業員にモーショントラッカーをつけることは、プライバシーの侵害にあたります。

IoBにはまだ課題も多く、はっきりとした未来が見えているわけではありません。しかし、そんななかでもIoBのユースケースは増え続けています。

IoBが、生活水準を向上させる革新的な技術であることは間違いありません。リスクとリターンのバランスが取れれば、私たちの生活に欠かせない存在になるはずです。

(執筆:Kamal R 翻訳:Nakajima Asuka 編集:北村有 提供元:IoT For All

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