フリーランスが知るべきインボイス制度対応の決め方【チェックリスト付き】

2023年10月1日より施行された「インボイス制度」。よく知られているように、フリーランスにとんでもない影響を与える制度のため、SNSの反応も「阿鼻叫喚」といった感じです。

もちろん、本音としては「今からでも中止になってくれ!!!」と言いたいところですが、すでに制度も施行されており、対応は難しいでしょう。

そうなると、次は「じゃあ、インボイス制度に対して私たちはどうすればいいの?」という疑問が出てくるハズ。

そこで、フリーランスが今知るべきインボイス制度対応チェックリストを作成してみました。

フリーランスのインボイス対応チェックリスト

以下では、インボイス制度がフリーランスや取引先に与える影響や、このチェックリストの内容を詳しく解説していきます。

※本記事は「従業員なし」「ビジネスはtoB」「個人事業主」「免税事業者」の条件を満たすIT系フリーランス(≒一般的なフリーランス)を対象としたものです

※フリーランスにとっての分かりやすさを最重要視し、専門用語や複雑な概念を極力使用せず記事を制作しています。根本的な制度概要や詳細なシミュレーションに関しては、以下記事をご参照ください

インボイス制度がフリーランスに与える影響

インボイス制度への対応を考えるうえでは、まず「インボイス制度によってどんな影響を受けるのか」を多少は理解しておかなければなりません。

インボイス制度に対して、フリーランスの皆さんには「対応する」「対応しない」という2つの選択肢があります。重要なポイントとして強調したいのは、インボイス制度への対応は「義務」ではないということです。

では、「対応する場合」と「対応しない場合」ではどんな差があるのか。表にすると以下の通りです。

対応した場合 対応しない場合
手取り収入 2~10%程度減る 維持or減少(取引先次第)
取引先への影響 現状維持できる 負担が増える可能性
今後の取引への影響 影響なし
→受注増の可能性も
影響あり
→取引減少・停止、営業難易度上昇リスク有

まとめると、対応した場合は「収入は確実に減るが、今後の取引に影響はない」、対応しない場合は「もしかしたら収入を維持できるかもしれないが、今後の取引に影響する可能性がある」という感じです。

インボイス制度がフリーランスの取引先に与える影響

当メディアでの調査や、各種統計データなどを見ていると、フリーランスの皆さんがインボイス制度への対応に悩んでいる様子が見て取れます。実際、ソリマチ株式会社が2023年7月時点で行った調査では、「対応を検討中」と回答したフリーランスが19.5%にのぼりました。

インボイス制度の対応状況

▲出典:PR TIMES

筆者も長年フリーランスとして活動していたので、皆さんが悩んでいるポイントはよく分かっているつもりです。皆さんが知りたいことは「インボイス制度に対応したほうが得なのか、損なのか」ではないでしょうか。

しかし、ここからがインボイス制度の難しいポイントです。なぜなら、インボイス制度の施行において損をするリスクがあるのは取引先も同じであり、「取引先がインボイス制度にどう向き合うかが、皆さんの運命を決める」といっても過言ではないからです。

これはどういうことでしょうか。

先ほどの表でも示した通り、皆さんがインボイス制度に対応しない場合は、取引先が大きな影響を受けます。仕組みについて詳しくは解説しませんが、皆さんがインボイス制度に対応しない場合の取引先の対応には、以下の4パターンが考えられます。

  1. インボイス制度非対応のフリーランスにも、今まで通りの報酬額(消費税分含む)を払う
  2. インボイス制度への対応を要請する
  3. インボイス制度非対応を理由に、報酬の値下げを通告する
  4. インボイス制度非対応を理由に、取引を打ち切る

この4パターンのうち、1を選んだ取引先は確実に損をします(時期により、報酬額の2~10%の損失が発生)。一方、2~4を選ぶことは、独禁法や下請法といった法律との兼ね合いや、企業イメージへの懸念もあり、目に見えないリスクがつきまとうのも事実です。

インボイス制度の対応で問題となるおそれのある事例

▲インボイス制度の対応で問題となるおそれのある事例(出典:公正取引委員会)

結果、大手企業であっても、企業ごとにインボイス制度への向き合い方が分かれているのも現状です。

具体的には、小学館が「インボイス制度非対応のフリーランスにも、取引制限や一方的な取引価格引き下げを行わない」という通知を出したことがSNSで話題になった一方、JTはインボイス制度をめぐって下請け業者への一方的な取引価格引き下げを通告し、公正取引委員会の注意を受けたことが報じられました。

フリーランスがインボイス制度への対応を決める流れ【チェックリスト付き】

ここまで、インボイス制度がフリーランスと取引先の双方に与える影響を解説してきました。

では、結局フリーランスはどうインボイス制度に対応すべきなのでしょうか。先ほどのチェックリストをもう一度見てみましょう。

フリーランスのインボイス対応チェックリスト

以下では、内容を具体的に解説していきます。

1. 取引先の意向を確認する

繰り返し記しているように、インボイス制度への対応を決めるうえで最も重要なのは取引先の方針です。インボイス制度への対応を迷った際は、まず取引先の意向を確認してみましょう。

小学館のように、取引先が「インボイス制度非対応でも、今まで通りの価格で取引を続けます」と言ってくれる場合は、インボイス制度に登録しなくてもすぐに大きな影響はないでしょう。

一方、取引先に取引価格の引き下げや取引停止を示唆された場合は、以下の3パターンの動きが考えられます。

  1. 取引先の意向を受け入れ、インボイス制度に対応する
  2. 法律や国の指針を踏まえ、取引先と協議する
  3. 取引自体を解消する

この3パターンのどれを選ぶべきかは、取引先との関係性や取引先としての重要性にも左右される部分です。

「このクライアントとの関係性は絶対に悪化させたくない」なら1を、「取引は続けたいが、インボイス対応を強いられるのは納得いかない」なら2を、「そもそも取引を続けなくてもいい」なら3を選ぶなど、考え方は人それぞれともいえます。

なお、フリーランスの場合は取引先が複数社に及ぶことは珍しくないと思います。その場合は、一番の大口取引先の意向をベースに対応を考えるのが良いでしょう。

2. 取引先に自分の意向を伝える

自分がインボイス制度にどう向き合うかを決めたら、今度はその意向を取引先へ伝えましょう。おそらく、皆さんのもとには取引先から「インボイス制度対応の意向調査」のようなお知らせが届き始めていると思うので、それに返信する形での回答がベスト。もし連絡がなければ、こちらから能動的に伝えてみるのも有効です。

伝えるべき内容は、対応状況別に以下の通りです。

  • 対応済み:登録番号(Tからはじまる13桁の番号)を伝える
  • 対応予定:対応予定日を伝え、対応後に登録番号も伝える
  • 対応しない:対応しない旨を伝える

なお、対応しないのであれば「対応しない」旨をしっかりと伝えて問題ありません。最悪なのは、対応する気がないにもかかわらず「対応しないとは言いづらいし……」と考えて適当な登録番号を伝えること。取引先が専用システムで検索すれば一発でウソだとバレますし、トラブルの元にしかなりません。

対応しない場合、ここでやるべきことは終了です。

3. (対応する場合)インボイス制度に登録する

対応すると決めた場合、インボイス制度への対応(適格請求書発行事業者への登録手続き)を進めていきます。

筆者も経験しましたが、登録手続き自体はそこまで難易度の高いものではありません。以下の記事で実際の手順なども解説しているので、登録の際はぜひ参考にしてみてください。

インボイス制度への対応は「案件獲得」にも影響する?

ここまで、導入直前の段階でフリーランスがインボイス制度について考えるべきことをまとめてきました。

インボイス制度の難しい点は、良心的なクライアントほど損失が拡大していく点にあると考えています。そのため、どれだけ良心的なクライアントでも、本音として「インボイス制度非対応の取引先との取引は、できるだけ避けたい」と考えていても不思議はありません。

そのため、インボイス制度非対応の場合「手持ち案件のゆるやかな減少」「新規営業の難易度上昇」といった影響は考えられます。

なぜなら、インボイス制度非対応を理由とする一方的な価格引き下げなどは問題になりますが、そもそもインボイス制度非対応の取引先全体との取引量自体を縮小、あるいは停止の方向へ舵を切り、インボイス制度に対応できるフリーランスを積極的に採用すること自体は問題にならないと考えられるからです。

また、インボイス制度には「経過措置」として一定期間は企業の損失を抑える仕組みがあり、その制度の有効期限は2029年度までと決められています。経過措置が終了すれば、インボイス制度非対応のフリーランスはより難しい立場に追い込まれるでしょう。

▲インボイス制度の経過措置(出典:日本税理士会連合会)

逆に言えば、将来的には「インボイス制度対応」がフリーランスにとってある種の「セールスポイント」のようになり、たとえば「出社対応可能」「週5日勤務可能」といった諸条件と同様に、フリーランス採用の一要素に組み込まれるのではないかと考えています。

もちろん、多少インボイス制度への非対応で企業側の負担が増えようが、群を抜いた専門性や影響力があれば、案件獲得に困ることはないでしょう。インボイス制度への向き合い方は、皆さんのフリーランスとしての「戦い方」にもかかわってくるといえます。

(執筆:齊藤颯人 編集:Workship MAGAZINE編集部)

SHARE

  • 広告主募集
  • ライター・編集者募集
  • WorkshipSPACE
週1〜3 リモートワーク 土日のみでも案件が見つかる!
Workship