Workship MAGAZINEの人気連載「健康で文化的なADHDフリーランスのお仕事ハック」が書籍化されました!
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2018年3月、石川県加賀市が、社会システムを手掛ける株式会社スマートバリュー、ブロックチェーンベンチャーのシビラ株式会社と包括連携協定を結び、『ブロックチェーン都市宣言』を出しました。
『ブロックチェーン都市構想』は、人の経済活動を変えるかもしれない
Workship MAGAZINE
「ブロックチェーン都市構想」は、”地方の過疎化”という深刻な問題に立ち向かうため、加賀市が日本で初めて取り組む施策です。
生産年齢人口の減少や、人口の東京一極集中などの理由により、地方の過疎化は止まるところを知りません。2018年現在、1724の自治体がありますが、2040年にはその半数以上の896の自治体が消滅可能性にあるといいます。このような状況を目前にし、加賀市は自治体としての生き残りをかけて「ブロックチェーン」技術を用いた地方創生に取り組み始めました。
本記事では、2018年9月19日に大阪市内の”The DECK“にて行われた石川県加賀市役所と共同記者会見「加賀市で始まるブロックチェーンとICTを活用した地方創生への挑戦」で語られた内容をご紹介します。
仮想通貨や金融システムでの利用イメージが強いブロックチェーン技術。これをどのように具体的施策に落とし込んでいったのかに迫ります。
デジタルガバメントとは、政府が推進するデジタルを前提とした行政サービスのことであり、「行政サービスの100%デジタル化」を目指したものです。ICTの先端技術を導入することによって、利用者が「すぐに」「簡単に」「便利に」行政サービスが使えることを目標に掲げています。
デジタルガバメントを実現するために最低限必要なのは、以下の2点です。
行政サービスや行政に関わるデータが、一元的に管理できるシステム基盤が整っていること
行政データが、将来的に他の機関やサービスとの連携を意識して構築されていること
(参考資料 平成30年7月20日デジタル・ガバメント実行計画)
加賀市の行政改革において一つ目のポイントである、行政サービスや市民データを一元管理するシステムは「KYC認証基盤」で構築されています。
『KYC認証基盤』のKYCは「Know Your Customer(顧客確認)」の略です。『KYC認証基盤』は、各サービスごとに個別で個人情報登録をする必要がなく、共通のIDを使って利用できる認証システムをさします。一度システムに登録してしまえば、次からは同じ情報を入力せずとも新しいサービスに登録、ログインができます。
個人情報の認証段階により、受けられるサービスが3段階に分かれています。
加賀市では地域行政で初めて、このKYC認証をブロックチェーン技術を用いています。
ブロックチェーンの特徴としてよく挙げられるのは、情報の管理に第三者が介入しないことや情報の改ざん耐性です。
加賀市のKYC認証も、「誰が、いつ、どこで、その人へ紐づく情報へアクセスしたか」がブロックチェーン上に自動的に記録され、情報開示の権限は個人に帰属します。さらに各認跡は、改ざん不可能なデータとして真証性があります。
KYC認証基盤のもとに、加賀市の展開するさまざまなアプリケーションが成り立っています。各アプリケーションは単独で使われるのでなく、相互に関連しあいます。
まさにデジタル・ガバメントで目指す、「必要なサービスが時間と場所を問わず、最適な形で受けられる」ことを実現可能にしているのです。
これは、通常の消費行動でいえばオムニチャネルに近しい概念のように思います。オムニチャネルとは、消費者がいつでもどこでも企業との接点を持ち、必要な情報を得たり購買行動を取れるように、チャネルを構築することです。
今、行政でも同様の価値提供が行われようとしています。加賀市の取り組みはその点で、ユーザー・ファーストを意識したものであり、今までの行政のあり方に一石を投ずるものだと筆者は感じました。
次に、加賀市が展開中、または実施予定の各アプリケーションを具体的に見ていきます。
実施が決まっている施策として最初にご紹介するのは、加賀市が運用する地域ポータル『地域情報マイページ』です。AIやアルゴリズムによって、地域情報の集約やユーザー情報が分析されることにより「特定の個人」に最適化した情報提供を可能にしました。
例えば、ある人が以下のような希望があったとします。
このような情報は別々の場所に記載されていることが多いので、それぞれのサイトにアクセスするなど個別に情報を探す必要があります。その結果として、情報伝達が非効率に行われ、利用者ごとの情報格差が広がり、コミュニティの衰退や地域消費の停滞に繋がっていました。
加賀市の地域ポータル『地域情報マイページ』では、各個人に最適化した情報を提供することで、地方が抱えている上記課題の解消を目指しています。今後は、地域の民間企業がもつ情報も取り入れながら、さらなるコンテンツの拡充を目指しているとのことでした。
富士通の協力のもと開発された『オンデマンド交通システム』。こちらは導入検討段階ではありますが、高齢者を中心に需要の拡大が予測されます。少子高齢化が進む地域では、運転に不安があったり免許を返納した高齢者が、移動に不便を感じながら暮らしています。
『オンデマンド交通システム』は、上記のような住民の不便さを解消するために、乗り合いタクシーを含む地域交通手段のマッチングサービスです。
ユーザーのKYC認証基盤に登録されている情報を使い、位置情報や移動履歴をもとに適切に配車する仕組みです。個人に特化した小規模バスのような運用が期待されます。
「本当にユーザーのためになるサービスは、ユーザーである市民の声を直接集めることでしか実現できない。」
加賀市は、この価値観に基づいて、「市民参加型」である事業評価システムの導入を検討しています。
実際に、地方議会でどのような話し合いが行われているか、その結果どんな施策が実行されているかを正確に把握している人は少ないのではないでしょうか。
単に「地方がやっている施策を評価してください」と言っても、多くの市民はレスポンスをくれません。一方で、市民が「自分自身にサービスが提供されている」と感じた上でそのサービスの改善点を伺うのでは、意見の精度が異なるのではないでしょうか。
加賀市では、市とともにイノベーションを推進する民間企業を継続的に募集中です。
『加賀イノベーションシティ構想』は、協力企業なしには成り立ちません。しかし、協力企業誘致は行政のデジタルサービス拡充のためだけに行うのではないのです。
例えば、若者が大学進学や就職を機に上京してしまい、地方に戻ってこないという悩みを抱える自治体は少なくありませんが加賀市に魅力的なIT企業、スタートアップがあることで、地元に残る若者の増加が見込まれます。
若者が残る街になるため、また新たな価値創造の場として選ばれるため、加賀市は先端技術をもつ企業へアピールを続けています。規制緩和や補助金といった、企業誘致のよくある手法に留まらないところに、加賀市の本気が見えました。
具体的には、スタートアップ支援の取り組み事例が挙げられます。
まず、起業拠点としてのインキュベーションルームを整備したことです。入居者は、なんと共益費のみで事業活動や起業準備を行えるそうです。
さらに、世界的な起業体験イベント『StartupWeekend』が、2018年10月12日から10月14日に加賀市で開催することが決定しています。延べ20万人以上が参加してきた起業志望者のためのイベントであり、こちらも話題性抜群です。
2019年からは、加賀市ホームページよりさらに提携企業を募集するとのことです!
超高齢社会、地方の過疎化、デジタルデバイド……。すでに問題提起のフェーズは終わり、これらの問題をどう乗り越えていくかという段階に差し掛かっているのではないかと思います。
たとえば今、日本が国をあげてデジタル関連の法整備を整えているのはご存知ですか?誰もがデジタルにアクセスできる社会を目指した「デジタルファースト法案」もそのひとつです。
しかし、骨子が定まっていても、実際に技術開発や実証を行うのは民間企業や地方自治体です。
今後さらに、加賀市のように先端技術を用いて地方課題の解決をしたり、新たな技術を幅広く展開するスマートバリューやシビラのような企業が増えていくことが望まれます。