『ブロックチェーン都市構想』は、人の経済活動を変えるかもしれない

『ブロックチェーン都市構想』は、人の経済活動を変えるかもしれない

石川県加賀市が、ブロックチェーン技術を基盤とした地域システムを導入すると発表したのは、3月16日のこと。リリース文は、人口減少問題や地方創生に取り組むスタートアップ界隈で注目を集めました。

ブロックチェーン技術はいま、国際的に存在感を示す期待の技術であると同時に、その仕組みや安全性は、情報感度の高い開発者たち以外にとっては未知のものです。今回の件も、技術トレンドへの知見がなければ「単なる移住促進事業」と捉えてしまいかねない。

しかし今回の取材を経て、筆者はブロックチェーン都市の可能性に強く魅了されました。移住推進担当者のターゲットとすべきはエンジニア。そして、投資すべきは目先の移住者ではなく長期的な社会の仕組み改革だと強く思います。

なぜ加賀市は、ブロックチェーン都市を目指す必要があったのでしょうか。包括認定協定を結んだ加賀市、社会システム開発を手がけるスマートバリュー、ブロックチェーンベンチャーのシビラの3者に話を聞きました。

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コストの高い地方創生から、仕組み化とテクノロジーによる問題解決へ

まずは地方創生のコンテキストを振り返り、加賀市がブロックチェーン導入をすることで地域が得られるメリットを確認しましょう。

地方の課題は、マンパワーだけでは解決できない

これまで地方創生の現場では、民間企業による地域活性事業や行政による支援が行われてきました。「地方創生推進交付金」や「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)」などの補助金・減税施策も相次いで実施されています。

しかし、「補助金が切れたら事業が続かなくなってしまった」「属人性が高い」など、失敗に終わったケースも相次いでおり、補助金やスタープレーヤーがいなくても自律・自走できる地域活性の在り方が求められています。そんな中、実際に始動しているプロジェクトがこれまでにも出現しています。

たとえば岩手県遠野市で始まった「next commons lab.」は、都市と競合しない社会構造(=オペレーティングシステム)の構築を目指したプロジェクトです。チャレンジャー同士のマッチングによる事業創造や、地域通貨の運用などを実現させるべく、現在8つの地域に広まっている取り組みです。

地域協力隊の医療版というべき「コミュニティナース」は医療の担い手が不足する地方農村に、予防医療の知見を持ったナースを派遣するというプロジェクト。これは現在4期生の募集が始まっています。

単発的な補助金やイベントから逸脱した取り組みから、こうした仕組みを作る方向へと、地方創生の潮流は変わりつつあるのです。

 

課題解決への危機感が、ブロックチェーンの導入を後押しした

とはいえ、いくつかの地域は従来の支援方法で都市部の企業を誘致し、事業創設や雇用増加などの成果をあげてきました。加賀市はその成功事例のひとつでありながら、持続性の低さを指摘しています。

「補助金や減税がありきの企業誘致では、自治体や市民の負担が増え続ける。今後一層人口が減少していくことを考えると、これまでのやり方がいつか通用しなくなると思います」

そう話すのは、加賀市役所 経済環境部 商工振興課IoTイノベーション推進室の松谷さん。宮元陸市長率いる石川県加賀市は、IoTをはじめとする最新技術で、自治体が抱える人口流出問題や地域産業の弱体化問題を解決できると考えています。松谷さんが所属するIoTイノベーション推進室は、かねてより地域企業の業務改善にIoT技術を導入するサポートを実施してきました。

プロジェクト始動のきっかけは、新聞記事でブロックチェーンの活用事例を読んだ宮元陸市長が、スマートバリューに問い合わせたことでした。かねてより新しい考え方や技術をスピーディーに取り入れてきた加賀市にとって、ブロックチェーンが”未知の技術”であることはさほど問題ではないのです。

 

実証実験のフィールドが、企業と市民に恩恵を与える

「ブロックチェーンを市として、全面的に導入していくという気概を見せることで、都会のIoT企業が加賀市に拠点を持ってくれたらいいなと思います」という松谷さんの目論見どおり、リリースを発表以来、取材の申し込みや問い合わせが殺到。クラウドソーシングサービスを提供する大手企業からも声がかかったといいます。

IoTに取り組む企業にとって、実証実験のフィールドを得られることは大きなメリットです。街中にセンサーを埋め込んだり、カメラを設置したり、大掛かりなIoT事業をする上で自治体の許可は必須項目。しかし東京都市部において、それを許可する自治体は皆無です。

加賀市は、ブロックチェーン都市の構築によってメリットを受けるのは企業や行政のみならず市民にまで及ぶと見立てています。手続き関連の作業を簡易にできたり、農業などの分野で最先端の技術を取り入れる機会を得られたり、UIターンした若者の働き口ができたりといったもの。

もっとも重要なのは、今回のプロジェクトが単に場所を提供するだけものではないということ。なぜわざわざブロックチェーンを取り入れたのでしょうか。ブロックチェーン技術の特性を理解すると、加賀市の取り組みがいかに妥当かご理解いただけるでしょう。

 

ブロックチェーンは中央集権的な管理体制から逸脱できる唯一の技術

ブロックチェーン技術には、大きな3つの特徴があります。

  1. 改ざんが難しい
  2. ゼロダウンタイム(落ちない)
  3. 管理者がいない

これは周知の事実ですが、どのようにして私たちの役に立つのか、いまいち実感が持てません。なぜブロックチェーンが加賀市を支えるのか、そしてどのように社会を変えるのか、加賀市と包括連携協定を結んだスマートバリューシビラの2社に話を聞きました。

スマートバリュー&シビラ

▲左からスマートバリューの岩本 健太郎さん、深山 周作さん、シビラCTOの流郷 俊彦さん。築地にあるスマートバリューのオフィスにて

 

デジタルの発達により、中央集権的なインフラ構造は限界を迎える

現在の社会においては、利用者の上に必ず管理者がいます。

これまで自治体による顧客管理は、「○○市」という権利を持った管理者がいて、彼らのお墨付きの元に個人情報を開示したり登録したりしています。また金融機関では、「○○銀行」という権利を持った管理者がいて、手数料と引き換えにお金の管理、送金などを請け負ってくれていました。

さらにインターネットの世界では、「○○サーバー」という権利を持った管理者がいて、レンタル料や管理費という名目の手数料を得ることで、巨大なデータ保管庫の運用をしたり、Webサービスを提供してくれていました。

シビラの流郷さんは、データ社会が加速するとこれまでの中央集権的な管理体制がいつか限界を迎えると話します。

「現在、世界のスマートフォン保有人口は、73億人中20億人。デジタルデバイスやインターネット環境は止まることなく発達していくので、いつか今の数十倍くらいの人がインターネットを使うことになりますよね。そうすると巨万のデータがやり取りされたり、救急車みたいなインフラにもIoTが取り入れられたりする。それ自体はとてもいいことですが、そんな巨大なデータを扱うには、既存の中央集権的なアーキテクチャでは処理しきれないという問題が起こります」

サーバーの扱えるデータ容量には限界があります。さらに、完全に落ちないサーバーはまだ存在していません。AWS(Amazon Web Service)のEC2やS3などの人気サービスですら、年間で数時間、なんらかの原因でダウンしています。数時間で復旧するとはいえ、デジタルが浸透すればするほど、小規模なサーバーダウンでも人命に関わる事態に発展する可能性があると、流郷氏は指摘します。

管理者ありきの社会構造は、デジタルと親和性が低いです。例えば近い将来、救急車がクラウドに繋がったとして、自動走行するようになった救急車があったとします。もしサーバーがダウンしたら、復旧するまでの数時間は救急車の中で待たなければいけない可能性があります」

データを使って便利な世の中にしたい。でも安全性に不安がある。そんな悩みを解決する唯一の技術がブロックチェーンなのです。

 

本物の公平は、権限のない世界で生まれる

ブロックチェーンは、個人情報をサーバーに送ることなく、個人の手元に保管したまま、他者と共有できる仕組みです。さらに、個々のデータに変更があった場合、変更履歴が全て残るという特性があります。そのため、改ざんはできません。

「データに基づく地域経営をする必要性が高まっている中、現在の仕組みでは狭い視野での投資がされている可能性があります。というのも、これまで地域の意思決定は、ロジックよりも、声の大きい人の発言が重視される傾向にあり、一義的な側面でしか問題を把握できませんでした。また、人の意図によって、改ざんされている可能性もゼロではありません。それは公平性を欠き、問題解決と程遠い営みです」

そう語るスマートバリューの深山さんは、加賀市とブロックチェーンの橋渡しをしたプロジェクトメンバーの一人です。本当に信頼していい人なのか、正しい情報なのか、私たちはそれを判断する術をほとんど持っていません。

本当に公平な世の中を作るなら、データの改ざんができてしまう、権限を持った管理者を排除しなければならない。さらに、管理者なしでも公平性が保てる仕組みで担保する必要もあります。ブロックチェーンなら、データの信頼性を数学的に証明できるのです。

 

個人の信頼は簡単に偽造できる

以前の記事で紹介したレターポットの話と似ていますが、個人の信頼を可視化する術が、今の世の中には欠如しています。銀行の通帳残高や社会的な肩書きでは何も判断できません。

実際、先月頭に印象的なニュースがありました。シェアハウス管理会社であるスマートデイズが引き起こした物件所有者への賃料未払い問題は、お金の管理者であるはずのスルガ銀行が中間に入っていたにも関わらず防げなかった事件。通帳のコピーが業者によって改ざんされ、銀行側が融資の審査を正しく行えなかったとされています。

これまでに何をしてきた人なのか、どれくらいの返済能力を持っているのか、ひいてはいい人なのか、悪い人なのかまでを可視化するためのアイディアを実現させることは、技術的には可能なのです。

流郷さんは、野菜のような一次生産物にもアイデンティを与えることが、持続可能な社会に必要だと話しています。

「今、有機野菜やエシカルの思想のもとで作られた商品は世界的に価値が認められつつあります。しかし、店頭に並んでいる野菜が本当に有機がどうかなんて、消費者からすればわからないわけですよ。その信頼性をブロックチェーンが担保することによって、いいものを作っている人たちが真っ当な評価を得、さらに価値に還元されていく。そんなサイクルを作り出したいです」

有機野菜を作る行為は、一見して経済合理性が低い。でもこれらの活動は私たちの健康や地球環境を守る上で重要な取り組みです。経済合理性が低いけど価値のあるものを、本気で証明していくべきといえるでしょう。筆者はこの話を聞いて、ブロックチェーンへの見方が変わりました。

綾町

▲宮崎県綾町で導入された野菜の価値を担保する仕組みは、シビラが手がけた。

公平な社会には人が集まる

テクノロジーが信頼性を担保してくれる。その力をいち早く信じ、大成功をおさめているのがエストニアです。エストニアは総人口130万人程度の小さな国ですが、「電子大国」として早くから注目を集めてきました。「e-Estonia」というバーチャル政府を作り、あらゆるサービスや照明を電子化。また、「e-residency」に登録すれば物理的にエストニアに住んでいなくても電子居住民になれて、会社まで作れるというのです。加えて税制や法律も企業に最適化されているということで、エストニア内で法人登記し、税金を落とすという企業が軒並み現れています。2018年4月時点で5033の企業が「e-residency」を経由して法人登記しています。

このように、信頼性が証明されればビジネスがしやすくなる。企業と人を集めるという点において、改ざん不能なブロックチェーン技術は大きく成果をあげるのではないでしょうか。

 

加賀市が踏み出した第一歩は、個人にアイデンティティを持たせること

概念図

そんな未来を実現するために、加賀市がまず取り組むのは、個人にデジタルのアイデンティティを持たせること。初年度となる2019年度は、KYC(Know Your Customer)認証基盤を、ブロックチェーン技術を用いて構築します。

KYC認証とは、金融機関でよく用いられる、個人情報の確認作業のこと。運転免許証など、国が保証する身分証明証で、本人かどうかを確認してきました。それをブロックチェーン技術でよりシームレスに、そしてより正確にしていこうという取り組みなのです。

KYC認証基盤を通じ、地域内サービスの認証を一元化することによるコスト削減や、集積したデータを活用した研究開発などを見据えます。基盤構築に並行して、様々なアプリケーションを乗せていくとのこと。

アプリケーション

▲ブロックチェーン基盤の上で、アプリケーションを開発できる

 

ブロックチェーンはデジタル化が進んだ10年後の社会基盤を作るためのテクノロジー

加賀市のブロックチェーン構想はスタートラインに立ったばかり。実際に理想の未来が実現するには、どのくらいの時間がかかるのでしょうか。

「KYC認証基盤の完成は1年内を目標に、平行して地域に親和性の高いアプリケーションを乗せることを検討しています。アプリケーションをすべて自分たちで揃えるのは難しいし、よりオープンにしていく取組みであるべきだと思っているので、加賀市にやって来た企業と共にアプリケーションを考えていきたいです。このようなオープンで自律的な仕組みは3年くらいで軌道にのせる予定です。自律可能な社会システムとして機能するには、10年くらいかかると見立てています。場合によっては30年かもしれない」

そう話す深山さんは、ブロックチェーンは決して目先の利益に直結する訳ではないと続けます。

「どんな技術も、浸透するには年月がかかります。パソコンでも50年くらい。ブロックチェーンはまだ第一次ブームの段階で、これから最適な使い方が編み出されたり、技術自体も発展していく。だからこそ先陣を切って社会課題の解決に取り組むことは、価値があるのです」

流郷さんは、時代が追いつくことで、理想の未来の実現は案外早くやってくるとも話します。

「仮想通貨が話題になっているように、ブロックチェーンは投資商材としての魅力しか認知されていないのが現状です。本当は持続可能な社会基盤を作るのに適した技術で、使い道がたくさんあるということを、世の中が認知していけば、協力者が増える。そんな展開が理想ですね」

 

まとめ:なぜ、10年後の地域社会にブロックチェーンが必要なのか

加賀市のブロックチェーン都市構想の魅力をおさらいしましょう。

(1)経済合理性のないものの価値を可視化できる

人口減少や介護問題、環境汚染に到るまで、地域課題を解決するには市民が自ら動かなければなりません。何より、続けられるような仕組みが必要。ブロックチェーンは、その持続性を担保します。「この野菜は有機である」「あの人は月に1回ボランティアをしている」のような、経済合理性がないけれど本来評価されるべき行動を記録できます。

課題は、集まった記録をどのように活かしていくか、考える人がまだまだ足りていないということ。技術者と、それをソリューションとして提供していこうという気概のある人が足りていないのです。

 

(2)問題解決のためのデータを蓄積する上で、改ざんやサーバーダウンのリスクヘッジをできる

世界的なデジタルの普及と、IoTやスマートシティー構想によるデータの肥大化が、近い未来に迫っています。集まったデータを確実に保管し、管理権限を分散させることができます。

ブロックチェーン技術ではデータの改ざんが防げるので、「管理者」による作為のない本質的な問題解決が可能になります。

変えたい社会があるのなら、何もない地方から始めよう

世界を変えたいなら、まずは地方で小さくはじめてみるのが、いいのかもしれません。東京の市区町村にブロックチェーン都市の話を持ちかけるよりは、加賀市のような課題意識を持った自治体にアプローチしたい。それに、東京ほどインフラが整っていない地域だからこそ、新しいインフラを入れやすかったりするのです。

リモートで仕事ができるのはエンジニアの強み。通勤時間や都会のストレスをカットできるので生産性も向上するでしょう。

この記事で、ブロックチェーンのもつポテンシャルを多くの人に伝えられたら嬉しいです。

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