エンジニアの副業は週1からでも可能?副業の例や探し方も解説
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ブロック玩具で有名なLEGO社は、製品開発工程を徹底的に刷新する必要を感じ、ある意味常識を超えたアプローチで会社を改革しました。
ある日、一旦全ての生産工程をストップし、2ヶ月間を費やして商品制作チームをデザインスプリントのプロに育てたのです。デザインスプリントとは、5日間という短い期間で高速にプロトタイプづくりと検証を繰り返すフレームワークのこと。
筆者の知る限り、LEGOはデザインスプリントを組織全体のスケールで実践した、世界で最初の会社です。これは、デジタルなプロダクトではなく、リアルの製品を実際に生産している会社であることを考えると、ちょっと信じられないくらいすごいことです。
▲AJ&Smartチームのメンバーと。 デンマークのビルンにあるLEGO本部にて
筆者は、幸運にもレゴ社で全体のオペレーションの責任者として働くEik Brandsgårdにインタビューする機会に恵まれました。彼はデジタル部門で13年に渡る勤務経験を持ち、改革プロジェクトをリードする方法を知る人材だったので、LEGOが彼を選んだのはある意味当然でした。結果的に、数年前に彼は大規模アジャイル開発(SAFe)の導入を成功させています。
現在、LEGOは直近12か月で150以上のデザインスプリントを回しており、もはやデザインスプリントが会社にしっかり根付いたことは明らかです。
というわけで私は、世界中の都市のなかでもお気に入りの、東京のきれいなホテルの一室で、世界で一番好きな会社のひとつ、LEGO社の社員と仕事ができました。東京でのインタビューをこの記事にまとめています。
私が勤務するAJ&Smartは、ずっとデザインスプリントの導入について研修・講座などを行ってきましたが、LEGO社の首脳陣の対して、大企業のような安易な意思決定ができない状況下で研修を実施できるのは夢のような機会でした。
デザインスプリントは大規模の企業で実施できるのか?という疑問に対して、LEGOの成功例は究極の証明になるでしょう。さてまずは、Eikによるプロジェクト導入の話を聞いて、私が気づいた5つのポイントを解説します!
(この記事は、私のPodcastでの放送を元にしています。LEGO社のデザインスプリントの実践やその選択の理由について詳しく知りたい方は、こちらのPodcastを聞いてみてください!)
▲左が筆者、右がLEGO社のEik
目次
積み重ねてきた習慣は、小さく控えめな方法ではなかなか変えられません。おとなしいやり方では、十分なインパクトは得られず、何かを変える力を生み出せずに終わってしまいます。
そういうわけで、何十年も続く習慣にしがみついているのが明確であったとき、新しいリーダーは「急進的」なやり方を選びました。一旦緊急ブレーキを引いて、会社の生産エンジンをまるまる2か月間停止させたのです。2017年の4月から6月まで、LEGO内部の大部分は通常の仕事を一旦よこに置いて、デザインスプリントの一連の課題に取り組みました。
そして、まさにこの「緊急停止」こそが、全員の注意を惹くことになりました。通常業務の停止は決定的なインパクトを与えたです。
この「ブレーキ」をもっと控えめに引くということはできたでしょうか? できたかもしれません。しかしその場合、もっとゆっくりで、かつ目に見えないような変化しかもたらさなかったでしょう。Eikの言葉を借りると、彼らが本当に「革命(revolution)」を求めていたからこそ「進化(evolution)」を生み出せたのかもしれません。
▲記事に直接関係ありませんが、東京では楽しい人たちといっぱい出会えました。上はカラオケを楽しんでいる写真
この通常業務の大規模停止の前に、LEGOはいくつかのデザインスプリントを試していました。しかし、会社全体のシステムに関わるものというより、一個一個孤立した案件という感じでした。システマティックな、会社全体に関わる変化として広げていくためには、経営・管理の上部から計画的なイニシアティブをとってもらう必要があります。
これはRemi Marcelli のトップからのアイディアです。
そして一方で、社内の多くの人がデザインスプリントを採り入れないと、経営部門のトップがいくら価値のある決定をしたとしても、少しのことしか達成できません。大規模な変化をもたらすためには、両方の要素が必要です。
スプリントは「短期実験」のようなもので、即座に効果や結果が感じられます。この分かりやすさが、人々がデザインスプリントのアイディアを受け入れた理由でした。
Eik はみんなを巻き込むために、まずコアとなる最少人数を確保することが必要だとはっきり意識しました。そしてそのデザインスプリントの「感染」を少しずつ広げるために、デザインスプリントに「感染」した人をまだデザインスプリントに触れていない人と交流させました。この「二次感染」の結果、スプリントという「感染症」は瞬く間に広がり、現在では他の部門まで広がって定着したのです。
生産ラインの停止期間の終わりに、デザインスプリントのチームは、上層部に対して大規模のプレゼンを実施し、彼らが学び、構築したものについてデモンストレーションしました。そして、「プロトタイプを実際の製品や生産実践に移す」という同意を上層部に取り付けました。
その上層部の賛同の意志は、望んだ結果につながりました。とうとう、最初の製品が生産されたのです。
LEGOのトップである Remi と経営チームが、初めてEikにデザイン行程の改革を持ちかけたとき、「再設計に費やせる時間は9日しかない」と知らされ、Eikは衝撃を受けました。しかし会社側の「やってみませんか?興味ありますか?」との質問に対して彼は、「めちゃめちゃやる気あります!」と即答しました。
彼はことの緊急性を理解していました。だらだら取り組んでいては、好機を逃します。ドラッガーのビジネス書にあるように、「通常の業務」が変化を簡単につぶしてしまうでしょう。
一方で、膨大な経費をかけて新しいデザイン工程をイチから考える余裕もありませんでした。彼は、LEGO社の人間がさっと理解してただちに使えるレシピを探す必要がありました。
そして、デザインスプリントにたどりつきました。LEGO社では以前、いくつかのデザインスプリントを実施したことがあったため、デザインスプリントが5日以内で信頼できる結果を生み出せることを知っていました。それは会社が求めていた状況にぴったりでした。
Eikはプロジェクトマネージャーたちを集めて、それぞれにデザインスプリントブックのコピーと日程表を配布し、「デザインスプリントをいちど我々でひとつ回してみよう」と提案しました。そしてプロジェクトマネージャーたちには、一回につきひとつのステップをこなすように、必ず午後には次の日の準備をし、チームが動いている間に次のエクササイズ・行程について準備しておくように、と伝えました。
以上を見ると、停止期間に行う再設計の方法としてデザインスプリントが最適だったことが分かります。つまりデザインスプリントは、参入障壁が低く、少ない投資で、経験や長い準備がなくてもぱっと始められるフレームワークだったのです。
▲東京オフィスのロビー。LEGO社内には素晴らしいものがたくさん見られるのですが、残念ながら写真でお伝えすることはできません
デザインスプリントに過剰な準備は必要ないとはいえ、何十個もデザインスプリントを回すためには全体の進行計画が必要となります。まず、デザインスプリントの要旨が必要です。次に、デザインスプリントに使う部屋や必要な文具の用意が必要です。そして、ややこしい計画を一緒に調整してくれるファシリテーターも必要です。
Eikはデザインスプリントのサイクルを無事に回すための、いわば、スプリントを安全に離陸・着陸させるための方法を考案しました。飛行機の「航空管制塔」のようなデザインスプリントの司令塔を、5人のクリエイティブ・ディレクターグループとして設置したのです。
彼らの仕事は、解決が必要な問題点を特定し、1ぺージのテンプレートを使ってレジュメを作り、また、必要があればデザインスプリントに参加してそのチームのスプリントが上手く回っているのかを確認することです。デザインスプリントのチームは、一週間を意識高く、頭が爆発しそうなぐらい情報を回して、金曜日にフィードバックを受け取り終了します。
Eikは同時に個人的なコーチングも行いました。毎朝、ファシリテーターたちと軽く打ち合わせをして、午後には小さな振り返りの時間を設け、そして毎週木曜の晩にはきちんとした総括の場を設けました。初めの数回のスプリントにおいては、Eik自身がファシリテーターにその日の分析・気づきを記入したものを与えていましたが、週が進むにつれ、木曜の総括会議で「スナックが足りない」とか「付箋がもっと要る」といった問題が各所から自発的に上がってくるようになりました。
言い換えれば、このプロセスはうまく機能しはじめたということです。
▲東京ではこんないい感じのお店で食事しました
LEGOに新しく就任したCEOの信念は「行動にバイアスを」 。これをLEGO社の理念「遊びの未来を発明する」と並べると……? デザインスプリントに合致する理念が見えてきませんか……?
LEGOは完全にミッション主導型の会社で、彼らが広めたい理念を実行しているといえます。彼らの「行動にバイアスをかける」は、お役所的なくだらない部分を削って、新しいイニシアティブの芽を摘まずに確実に育てろということを意味しています。このLEGOの精神は、具体性や早さにバイアスをかけ、商品をユーザーへ早く届けるというデザインスプリントの理念と完全に共鳴します。
デンマーク・ビラン本部の会議室には、ボールに入ったLEGOブロックが置いてあります。「何かをいじりたくてそわそわしちゃう時にLEGOで遊ぶとリラックスできる」というのもありますが、レゴブロックの実物が置いてあることで、さっと見本を作って アイディアを提示したり検証できるんです。新しい遊び方を切り拓くだけではなく、働きながらいかに楽しむかを発明しようとしてるんですね。
緊急停止と行程改革を始める前に、彼らは働くことの未来はどんな感じだろうと想像し、 その結果デザインスプリントが彼らのビジョンと近いところにあると気づきました。会社全体の規模でそれを実施するで、時代を先取りできたような感覚だったといいます。
ここまでLEGO社の精神との一致の話をしてきましたが、LEGO社で働かないにしても、あたなの価値観にもデザインスプリントの理念は響くのではないでしょうか? どんな会社でも、社員は同じゴールに向かって、できる限り効率的に、かつできるだけ楽しんで働くことを望んでいるはずです。
▲東京は、いいホテルの作り方をよく知っている
デザインスプリントは、LEGO社に完全に定着しました。工場停止期間の第一週には10のデザインスプリントを同時に回しており、2ヶ月の停止期間の終わりまでに60のデザインスプリントを完了、さらに一年以内に150以上のプロジェクトを達成しました。デザインスプリントの循環を前に回す十分な人数がいて、毎回の成功を保証するだけの豊富な経験を重ねました。同年の最初のプロトタイプがすでに商品として店頭に並んでいるのは、当然かなりの満足感があります。しかし、それは一番の収穫ではありません。
生産停止を伴う改革は、抜本的な働き方の変化をもたらしました。現在、LEGOの社員は毎月ミーティングのない週があり、その週にはデザインスプリントを実施してもよいし、邪魔されない環境で仕事を継続してもよいことになっています。そしてクリエイティブチームは、デザインスプリントを毎週新しく回しています。また、デザインスプリントを通して多くの人が互いに知り合いになれたため、オフィスは全体的にいきいきしており、部署ごとの縦割りの枠組みを壊して、新しい関係性が構築されています。
▲なぜデザイン思考が機能・定着しないかを考えながら、東京のホテルの部屋で作った動画
デザインスプリントはLEGOの生産部門で始まったことですが、他の部門もスプリントの理念に広く「感染」しました。その結果、Eikは自分の所属するグループ外でもデザインスプリントを広めるため、人事異動を経験しました。
デザインスプリントは他のどの方法論とも違う、自分で生んだモチベーションで回していくフレームワークです。
数年前、たくさんの会社が私にデザイン思考を定着させたいといって訪ねてきましたが、完全に達成できたのはLEGO社だけでした。定着させるのに十分な人数がデザイン志向の可能性を信じていなかったり、アイディアを採用して実際に利用してみようと思わせるほど具体的でなかったりしました。数年経って、今度はあるスポーツシューズメーカーに、社員を訓練して自分のデザインスプリントを回せるようにしてくれと依頼されました。
デザインスプリントは、自分の動力を集めて回っていくものです。この考えは普及していくと私もEikも信じています。
私はEikに、もし大規模な自動車メーカーでデザインスプリントを運用するとしたらどうするか聞いてみました。Eikはこの記事で書いてきたことを完璧にまとめながら、コツを教えてくれました。
LEGOの生産ラインの着色の段階で、型に入ったプラスチックの色を変える際、完全に次の色に着色できずに、2色に塗られてしまったり、変な色の混ざったブロックが生まれてしまうことがあります。
でももし、そうした着色に失敗したプラスチックのスクラップを全部一緒に溶かしてしまって、何か秘密のソースをかけると…??
灰色になる。そう、これはたまたまジョージ・ルーカス監督の世界の色になりますね? こうしてLEGOには、スターウォーズのデス・スターや、ミレニアムファルコンが生まれたのです!
……というLEGOオフィス周辺にまことしやかに流れる都市伝説があります。「信じるか信じないかはあなた次第!」ではあるものの、おしゃれな逸話だと思います。
あなたはデザインスプリントを試してみましたか?色んなの組織で実行に移したという話を聞けたら、とても嬉しいです。
(原文:Jonathan Courtney 翻訳:Yuko Nakamura)