グローバル化が進み、国境の制約が薄まり続ける中、日本に留まらず世界を視野に入れてビジネスをデザインする人が増えてきています。彼らの価値観やスピード感を知り、共存と差別化を図ることは重要です。

そこで大切になってくるのが、”グローバルマーケティング”。しかし、それが必要なことはわかっていても、実際にどう進めて良いか、参考にすべき情報が未だ不足していることも事実です。

そこで今回は、Microsoft本社で、クラウドサービス『Microsoft Azure』のグローバルマーケティングを担当している石坂誠さんにインタビューさせていただきました。グローバルを見据えたMicrosoft本社流のマーケティング術について、とても貴重なお話をお聞きできました。

学生起業家からNEC、そしてMicrosoftへ

石坂誠


―― 石坂さんは現在シアトルのMicrosoft本社で働かれていますが、これまでの経歴を簡単に教えて頂けますか?

アメリカに来た直接的な経緯は、日本マイクロソフト株式会社に在籍していた時に参加したGTP(Global Talent Program)という派遣制度です。日本マイクロソフトには2500人ほどが働いていますが、毎年何名か、アメリカの本社に3ヶ月間ほど武者修行に行けるんですね。そのGTPに当時の上司と相談して参加することになり、その時初めてアメリカ本社でフルタイムで働く経験をしました。

当時から日本でのグローバルチームの一員でしたので、本社とのコミュニケーションは比較的頻繁にあったのですが、もちろん電話越しや数か月に一回のサミットでの情報交換なので、本社で何が起こっているかという内情までは深く理解していませんでした。GTPに参加した際に、日本オフィスと本社との溝であったり、私自身のMicrosoft本社や海外におけるリソースや投資に対する理解不足などを実感し、非常に参考になりました。日本にいたときに見えていたのはMicrosoft全体のおそらく10%未満くらいだけ、というイメージでした。

これは本当にタイミングがよかったのですが、アメリカにいた際にたまたま本社で空きが出て、そこに応募をすることにしたのです。これがアメリカで働くことになったきっかけです。

ちなみに元々は新卒でNECに入社し数年法人営業をさせていただき、その後米国ユタ州にあるブリンガムヤング大学のマリオットスクールに自費でMBA留学をしました。その後、ボストンキャリアフォーラムで日本マイクロソフトと出会い、6~7年ほど主にプロダクトマーケティングとプラットフォーム戦略リードとして務めました。

学生の時には2回起業しており、ボランティア活動で2年間九州を回っていたりなど、さまざまな経験をしました。実の父親と、プリンターのトナーをリサイクルする企業を立ち上げて営業とマーケティングを担当したり、義理の兄と共に家庭教師の派遣会社を立ち上げ、講師のリクルーティングとトレーニングを担当したりしましたね。

―― 起業家精神あふれる学生時代だったんですね。現在はどのようなお仕事を担当されていますか?

現在はMicrosoftのクラウドサービスであるMicrosoft Azure(アジュール)のマーケティングとビジネス開発を担当しています。Azureにはさまざまなサービスがあるのですが、その中でも特にオープンソースのテクノロジーの売り上げ責任をグローバル規模で持っています。

もちろん一人でできる仕事ではないので、エンジニアチームがR&Dを担当し、コアマーケティングチームがメッセージングのフレームワークを作成した後に、どうやって世界中にランドするか(Go to market)、私はその戦略づくりを担っています。私のカウンターとして、各国にAzureのビジネスリードとマーケティング担当がいるのですが、私の役割は各マーケットに販売、マーケティングしていく際の実行戦略、予算割や彼らのゴール設定など、グローバル規模でより大きな戦略を描くことです。

ちなみに私の担当するAzureのオープンソースにおけるマーケティング担当は世界中に25人いて、彼らが各国を担当するブレイン(脳)を担っています。日本には日本のマーケティングマネージャーがいて、そのマーケティングマネージャーがローカルの各セグメントマーケティングや営業チームと一緒に日本向けの戦略を策定、実行していく、という流れですね。

ローカルのブレインを生かす、Microsoft流グローバルマーケテティング

―― 「Azure」は世界規模で展開されているクラウドサービスですが、ローカル(日本だけ)のマーケティング施策と、グローバル(世界規模)のマーケティング施策の手法に何か違いはありますか?

Microsoftの商品やサービスは、言語以外はローカルに合わせてカスタマイズすることがあまりありません。ローカルではむしろ、どのようなメッセージングをつけるか、どのメディアとタイアップするか、どのイベントに参加するのか、どのチャネルやパートナーと一緒に協業するかなどの判断が大切になってきます。

私の担当するサービスはBtoBのビジネスが中心なので、どことパートナーを組むか考えることは本当に重要ですね。どのパートナーと協業するかは、ローカルに任せているところがかなり多いです。ですので、本社ではあくまで全体の7割程度となるコアの戦略の方向性だけを決めて、あとはローカルにエンパワーしていくことが多いです。

例えばイスラエルやアメリカ西海岸であればスタートアップのコミュニティが多いですし、ドイツであれば自動車業界などのエンタープライスとパートナーを組む傾向があったり、中国であればその両方……といったように、国やエリアによってかなり特徴が異なります。私の仕事は、あくまでもそうしたローカルの特徴をうまく引き出せるように、コアの部分の戦略を決めることですね。

―― ローカライズといっても、国よって法律や文化、言語や宗教など、さまざまな違いがありますもんね。ローカライズの面で常に気をつけているポイントはありますか?

謙虚さは大切です。悲しいことに、本社勤務だからといって傲慢になる人をたまに見かけます。いわゆる「本社さまさま文化」ですね。

現在ではAIの登場など、新しいビジネスモデルがどんどん出てきていて、世の中に答えはありません。一年後のローカルの市場の環境がどうなってるかなんて、全く想像がつかないわけです。過去の成功は未来の成功を保証してくれない時代です。そのため、謙虚になって、ローカルマーケットの専門家に耳を傾けることが必須です。彼らを理解しないと、全体戦略など描けません。自分が「知らないことを知る」という姿勢が重要ですね。

―― グローバルを見据えたマーケティングをするために、常に世界各国のローカルな情報をキャッチする必要があると思いますが、そのために何か心がけていることや習慣にしていることはありますか?

Linkedin、Facebook、Twitter、Instragramなどのソーシャルメディア上の情報を追うのはもちろんですし、ローカルパートナーと仲良くなって、現地の情報を常に教えてもらうことは大事ですね。メディアに出てくる情報はすでにかなり古くなっていることもありますので、彼らの即時性の高いリアルな情報に耳を傾けることが重要です。世界中に25名ほどいるローカルパートナーとは、月に一回はオンライン会議で深い会話をして、私は「聞く側に回る」ことを徹底しています。

あとは消費者ですね。BtoBやBtoGのサービスが中心の私の担当製品ですが、我々の顧客は、その先の消費者と繋がっています。ですから、マーケターとして、消費者の動きは常にキャッチすることが重要だと思っています。たとえば私は常に学生さんと交流をすることを心がけていますが、彼らと話したり、ワークショップなどを開催すると、いかに自分の感覚が学生たちとずれているか、視野が狭いかを実感します。Microsoftは、年間数千万稼いでいる人たちの集まりであり、社会の中においては特異なグループといえます。この中に留まっていては、消費者の動向など見えてきません。

―― グローバルスケールでビジネスを考えるための秘訣がありましたら教えてください。

Big Picture(大局感)ですかね。Big Pictureを理解していないと、視野がどんどん狭くなっていきます。政治や歴史、法律、テクノロジー、文化や人々の考え方など、すべては繋がっています。これらを本当に理解していないと、何もいえないと思っています。

自分なりのBig Pictureを持ち、自分なりの仮説を持つことが重要です。これができないと、一部の言葉が強い企業が提言する古臭い情報に惑わされてしまいます。小さなサンプルサイズに基づいているのに、あたかもグローバルで通用するかのようにいわれている情報を間に受けてはいけません。これがグローバルスケールでビジネスを考えるためステップ1です。もちろん、好奇心や行動力も大切です。

また、グローバルパートナーである現場のマーケティングマネージャーや、優秀な人材を困らせたり、仕事の邪魔をしたりしないことも重要です。彼らに任せることは任せて、彼らが仕事をしやすいようなアドバイスや情報をシェアする。そして先ほどのポイントに戻りますが、彼らの言葉に耳を傾けることが重要です。

事件は現場で起きている

▲Microsoftキャンパス内にあるツリーハウス。ワークスペースとして活用されている

▲Microsoftキャンパス内にあるツリーハウス。ワークスペースとして活用されている

▲Microsoft本社キャンパス内にあるツリーハウス。ワークスペースとして活用されている

―― グローバルマーケティングにおいて、これだけはするな、というありがちなミスはなんでしょうか?

100%完璧になるギリギリまで現場にコミュニケーションしない、という文化は問題だと思います。参考までに、というレベルの情報って必ずありますよね。100%決まっていなくても、7~8割決まっている時点で、どんどんシェアをする。そして、彼らのフィードバックを早いうちからもらうことが重要です。予算の割組や商品プランに至るまで、ほぼほぼ決まってしまった時点で他のメンバーに展開をしたところで、彼らの意見を反映するのは難しいですよね。早めに共有し、情報を隠さないことが重要です。

また、人間は下手をすると権力を持ちたがるものかと思います。人間ですからね。人事権、予算管理権、そして内部情報の3つが、権力を形作ると思っています。その権力を持とうとすればするほど、人は情報を隠す傾向にあります。「教えて」といわれることに快感を持つタイプです。しかし、これはゴールには繋がりません。繊細な情報以外は、できるだけ早めにシェアをする。本社の人間が本社の都合だけで決めたことによって、後で現場の人、そしてパートナー様やお客様に迷惑をかけることもありえます。

踊る大捜査線で、織田裕二の「事件は会議室で起きているんじゃない。 現場で起きているんだ!」という名言がありますが、本当にその通りだと思います。お客さんに近い人が重要であるべきです。

―― グローバルで展開している日本の他企業を見ていて思うことはありますか?

もったいないなと思うことがあります。日本の魅力が世界になかなか伝わっていないなと。

というのも、海外の人とのコミュニケーションスキルについて残念に思うことが多いです。私自身、英語は別にネイティブじゃないですが、日本企業は英語以前の問題として、他国の人の心を掴む力が弱いという印象を受けます。本気で現地の人たちのことを考えて、現地の人たちを理解して彼らの幸せに貢献しようという情熱や姿勢がもっとあれば、日本の持っている魅力で貢献するチャンスはまだあると思うんです。その姿勢があれば、英語なんて手段なので、後でついてくるものです。若い時からそのような環境にいて慣れることが重要なのかもしれません。若い時の留学はこのスキルを身に着けるいい方法の一つだと思います。

また日本企業には、「広報に確認しなければ話せません」といって情報を隠したがる人や、自分の会社以外のコミュニティとの交流を率先してしない人、自社の常識が社外の非常識ということを認識していない人って結構いますよね。社外と交流して何かルールに反することをして、減点をされたらどうしよう、という考え方。そんなルールもないはずなのに、自分からオープンイノベーションの真逆のことをしてしまっている人が多いかもしれません。日本の閉鎖的な企業文化が、そんな凝り固まった姿勢を作ってしまったのかもしれません。それは企業の成長において足を引っ張る要因ですね。

またマーケティングの手法が、未だに古いメディアに依存していて、20年前から変わっていないのも問題です。今の若い世代はテレビなんて見ませんし、Instagramさえ使用しません。最近はTikTokが中心じゃないですか。こうして目まぐるしく変わる社会の中で消費者のことを理解せずに、どうしてマーケティングなんて出来るのか、と思います。

何のために仕事をするのか?大きなゴールを大切にする

―― 今後の目標がありましたら教えてください。

私は末日聖徒イエス・キリスト教会(一般に”モルモン教”というニックネームで呼ばれることもあります)の会員であり、クリスチャンなのですが、イエス・キリストのように、全ての人を愛せる人になりたいと思っています。全ての人の喜びを目指すことがゴールで、そのゴールの達成のために今の時代はITが大きな可能性を持っているので、今ここMicrosoftで働いています。

Microsoftのビジョン「Empower every person and every organization on the planet to achieve more.(地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする)」が心から大好きですし、誇りに思っています。日本だけでなく、海外に暮らす人々のこともまだまだ理解しきれていないので、彼らの痛みや弱み、喜びや悲しみなど、すべてをできるだけ理解して、ITで人々の幸福に貢献していきたいと思っています。

人生のゴールを「グローバルレベルで多くの人たちの幸せをITで見る」とおいていますが、そこにブレはありません。

―― 大きなゴールがあると、キャリア選択をより賢く出来ますよね。

会社としてもそうですね。給与の問題でなく、大きなゴールを持っており、そのゴールが会社のビジョンやミッションと近い人材を採用すべきだと思っています。

―― グローバルを対象に事業を行いたい人へ向けて、何かメッセージをお願いします。

そうですね。今の私のポジションからいえることは、「テクノロジーを使いこなせ」ということです。AIをはじめ、本当に多くのことがテクノロジーでできるようになっています。

もちろん、全員がコードを書け、エンジニアになれ、ということではありません。「テクノロジーがどれほど助けになるのか」を勉強して、海外で新しい取り組みをしている企業やスタートアップなどさまざまなところから学んでいくのが大切です。

Workship Magazineのこの記事を読んでくださっている方であれば、いつでも私に積極的にコンタクトしてきてください。一緒にグローバルマーケティングをしていけたらなと思います!

ちなみに『Microsoft Azure』を使いこなすことで、みなさんの持っている素敵なサービスや製品を正しいタイミングで多くの人々や企業に知ってもらうことができます。次の商品開発の参考になるお客様の声も、このツールを使いこなすことでリアルタイムに吸い上げることが可能です。今までにできなかったマーケティングの方法が無限に広がっていくでしょう。

よろしければぜひお使いください!

―― 本日はありがとうございました!

石坂誠 Microsoft

>>#海外ではたらく日本人 特集はこちら<<

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