業務委託契約とは?フリーランス・発注側が知っておくべき注意点と契約書の基本
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フリーランスや副業ワーカーにとって、案件を受けるときに欠かせない「業務委託契約」。一見シンプルなようで、実は契約書の内容次第ではトラブルの原因にもなりかねません。報酬の未払い、突然の契約解除、修正依頼の押し付けなど……事前にしっかり確認しておけば防げたケースも少なくありません。
本記事では、業務委託契約を結ぶ場合に必ずチェックしたいポイントや、契約トラブルを未然に防ぐための注意点、契約書に盛り込むべき項目などをわかりやすく解説します。
目次
「業務委託契約」とは、企業や個人が特定の業務を外部の個人や法人に委託し、その成果や業務の遂行に対して報酬を支払う契約形態です。ITエンジニアやデザイナー、ライターなどのフリーランスがクライアントから仕事を受ける場合によく用いられます。
ただし「業務委託契約」という言葉自体は、法律で明確に定義されているわけではありません。実際には、その内容は民法に定められた「請負契約」または「委任契約(準委任契約)」のいずれかに該当することが一般的です。
契約内容によって、成果物の完成が必要なのか、業務の遂行が目的なのかが変わり、それによって適用されるルールや責任も異なります。
そのため、業務委託契約を結ぶ場合は「自分の契約が何型なのか」をしっかり理解し、適切な内容で契約書を作成することが重要です。
業務委託契約と雇用契約は、どちらも「労働や業務に対して報酬が支払われる」という点では共通しています。しかし、契約の性質や法的な位置づけ、働く側の立場に大きな違いがあります。
まず、雇用契約は民法第623条に基づいて定義された法律上の契約形態です。「労働者が企業や個人(使用者)の指揮命令のもとで働き、その対価として賃金を受け取る契約」を指します。
「労働者=働く側」、「企業や使用者=会社」とすると、会社の言うとおりに働いて、その分の報酬を得る契約が雇用契約ということ。労働基準法や社会保険制度など、労働者を守るための法律の保護を受けることが前提となっています。
一方で、業務委託契約は法律上の契約名ではありません。「請負契約」や「委任契約」「準委任契約」といった民法上の契約類型をまとめて呼ぶ、あくまで実務的な総称です。働く側は、クライアント(発注者)と対等な立場で契約を交わし、あらかじめ合意した業務の遂行または成果物の納品に対して報酬を受け取る仕組みです。
つまり、雇用契約では“時間と労働力”に対して賃金が支払われるのに対し、業務委託契約では“業務の成果”や“遂行内容”に対して報酬が支払われる点が大きな違いです。
「業務委託契約」とひとことで言っても、その中身は大きく3つの契約形態に分かれます。
それぞれの特徴や適用される法律が異なるため、自分の契約がどれに当たるのかを理解することは非常に重要です。
請負契約とは、「仕事の完成」を目的とした契約で、受託者が完成した成果物を納品し、それに対して報酬が支払われる形式です。成果物が完成していない限り、報酬は発生しないのが原則です。
代表的な例:
- Webサイトやアプリの開発
- ライティングやデザイン業務
- 建築工事の完成
特徴:
- 成果に対して責任を負う
- クライアントの指示には基本従わない
- 納品と検収をもって契約が完了する
委任契約は「法律行為の遂行」に対する契約です。成果の有無ではなく、業務を遂行したこと自体に対して報酬が発生します。法律に関する専門職が多く関わる契約形態です。
代表的な例:
- 弁護士による訴訟代理
- 税理士による確定申告の代行
- 司法書士による登記業務
特徴:
- 業務遂行そのものが報酬の対象
- 法律行為に特化
- 善管注意義務(専門家としての注意義務)あり
準委任契約は、委任契約のうち「法律行為にあたらない業務」を委託する場合の契約です。事務作業やコンサルティング、システムの運用・保守など、法律行為を伴わない幅広い業務が対象になります。
代表的な例:
- システムの保守点検や運用支援
- コンサルティング業務
- ライターや編集者による継続的な業務支援
特徴:
- 成果物が必須ではない
- 「遂行したかどうか」が評価基準
- 委任契約と同様、善管注意義務あり
業務委託契約を結ぶ場合には、口頭での取り決めだけではなく、契約書を交わすことが重要です。業務内容や報酬などの基本的な情報に加え、トラブルを未然に防ぐための条項まで、しっかりと明記しておく必要があります。
ここでは、契約書に記載すべき主な項目について解説します。
なお、業務委託契約書のテンプレートは以下の記事からダウンロードできます。いますぐ契約の準備を整えたい方は、あわせてご一読ください。
フリーランス/個人事業主 業務委託契約書テンプレート【弁護士監修】
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まず最初に確認すべきなのが、「どんな業務を、どのような条件で請け負うのか」という点です。
業務内容:
業務の範囲や具体的な作業内容を記載します。たとえば「SEO記事の執筆」や「システム保守」など、できる限り明確に書くことが望まれます。
報酬:
業務に対する報酬額を明記します。税込・税抜、源泉徴収の有無、交通費などの経費が含まれているかどうかも確認しましょう。
支払条件:
支払い方法(振込・手形など)、支払期限(納品後◯日以内など)を具体的に設定します。納品や検収のタイミングによって報酬の発生が左右される契約形態もあるため、ここが曖昧だとトラブルの原因になります。
納品された成果物に対する知的財産権(著作権など)をどちらが保有するのかも、非常に重要なポイントです。
著作権の帰属先:
基本的に、契約書に明記がない限り、著作権は制作者側(受託者)にあります。納品後にクライアント側が自由に成果物を使いたい場合は、著作権譲渡や利用許諾の条件をしっかり記載しておく必要があります。
著作者人格権の扱い:
譲渡できない権利もあるため、利用方法に制限がある場合は事前に確認し、合意のうえで文書に残しましょう。
トラブルを防ぐうえで、以下のような条項も不可欠です。
秘密保持:
業務上知り得た情報を外部に漏らさないよう、秘密保持義務を設けます。口外禁止の対象範囲や期間を具体的に定めましょう。
再委託:
受託者が第三者に業務を再委託することを禁止・制限する場合は、その条件を明記します。許可制にすることが一般的です。
契約解除:
やむを得ず契約を途中で打ち切る場合の条件も明記します。事前通知期間や解除可能な事由(納品遅延、品質不良、信頼関係の破綻など)を記載しておくことで、双方のリスクを軽減できます。
損害賠償:
万が一、成果物の瑕疵や情報漏えいなどによって損害が発生した場合の賠償責任の範囲と上限も、契約書内で定めておきましょう。
最後に、万一裁判などに発展した場合に備えた項目も見逃せません。
所轄裁判所の合意:
トラブルが発生した場合、どの裁判所を第一審の専属的管轄とするかを決めておきます。発注者側の所在地に一方的に設定されている場合は注意が必要です。
反社会的勢力の排除:
契約相手が反社会的勢力でないことを保証する「反社条項」も、近年ではほとんどの契約書に盛り込まれるようになっています。該当する場合は、即時契約解除が可能であることも記載しましょう。
業務委託契約は、フリーランスや個人事業主として働くうえで欠かせない書類です。しかし「よくわからないまま結んでしまった」という声も少なくありません。トラブルを未然に防ぎ、安心して仕事に取り組むためには、契約前のチェックがとても重要です。
ここでは、契約を交わす場合に必ず確認しておきたい7つのポイントを解説します。
まず最初に押さえておきたいのが、そもそもの契約形態です。業務委託契約は、法律上は以下のいずれかに分類されます。
請負契約:
成果物の完成に対して報酬が支払われる(例:記事の納品、アプリ開発など)
委任契約:
法律行為に関する業務の遂行に報酬が支払われる(例:弁護士との顧問契約など)
準委任契約:
法律行為以外の業務の遂行が対象(例:コンサル業務、カスタマー対応など)
契約書上では「業務委託契約」としか書かれていないことも多いため、実際の業務内容からどの契約に該当するのかを確認しておくことが重要です。契約形態によって責任範囲や報酬の発生条件が変わるため、とくに初めての取引では確認を怠らないようにしましょう。
業務内容の記載があいまいなままだと「これもやって」と想定外の作業を求められたり、納品後のトラブルにつながったりするリスクがあります。業務範囲や成果物の仕様、納品形式、納期、検収方法などは、できるだけ具体的に記載されているかをチェックしましょう。
たとえば「記事の納品」とだけあるよりも「構成案の提出→修正1回まで→4000文字の記事をWordで提出→納品後5営業日以内に検収」など、工程ごとのステップが明確だと安心です。
また検収期間が長すぎる契約も注意が必要です。納品後、いつまでも「確認中」の状態で報酬の支払いが遅れるという事態を防ぐためにも、検収期間とその後の支払タイミングはあわせて確認を。
もっともトラブルになりやすいのが、報酬に関する項目です。契約書に「いくらもらえるか」「いつ支払われるか」「どのような条件で支払われるか」が明記されているかを確認しましょう。
たとえば以下の点をチェックしてください:
- 税抜/税込の記載が明確か
- 源泉徴収の対象となるか
- 成果物の検収完了後、何日以内に振込か
- 銀行振込以外の方法で支払われることはあるか
支払期日は「納品月の翌月末」など、具体的なタイミングが明示されていると安心です。不明瞭な表現がある場合は、事前に問い合わせてクリアにしておくことが大切です。
意外と見落としがちなのが、経費の負担に関する取り決めです。業務を進めるうえで発生する交通費や取材費、ツールの利用料などが自己負担なのか、クライアント負担なのか、契約書に明記されていますか?
たとえば、契約書に以下のような一文があるかどうかで、最終的な実入りが大きく変わることも。
- 「移動にかかった交通費は別途支給」
- 「取材にかかる費用は実費精算」
- 「報酬にすべての経費が含まれている」
請負契約か準委任契約かによっても基本の考え方が変わるため(請負では原則自己負担、準委任では原則委託者負担)、契約形態との兼ね合いも含めて確認しておきましょう。
契約期間中に「やっぱり契約終了で」と一方的に打ち切られてしまうと、収入が途絶えたり、ほかの案件のスケジュール調整が困難になったりすることも。
そこで確認したいのが、中途解約の条件と事前通知の期間です。たとえば以下のような文言があると、一定の備えができます。
- 「契約を解除する場合は1ヶ月前までに書面で通知すること」
- 「中途解約の場合でも、作業済みの分については報酬を支払う」
フリーランスにとって不利にならないよう、中途解約時の取り決めは明文化されているか、念入りにチェックしましょう。
受託者が、さらにほかの人に仕事を再委託してもいいのかどうか。これは成果物の品質管理や情報漏洩リスクにも関わるため、企業側にとっても重要な項目です。
再委託を「禁止」としている契約もあれば「事前の書面による承諾が必要」としている場合もあります。
仮に再委託を許可する立場であっても「誰がやったかわからないまま成果物が納品される」状態は避けるべき。品質に責任を持つためにも、誰がどの部分を担当するか明確にすることが大切です。
最後にチェックすべきなのは「こちらにだけ過度な責任や義務が課されていないか?」という視点です。
たとえば以下のような条項があれば注意が必要です。
- 契約不適合責任の範囲が極端に広い
- 損害賠償の上限が明記されておらず青天井である
- 所轄裁判所が遠方に設定されている
- 著作権の譲渡範囲が不明確である
どれも、万が一トラブルになった場合に、不利な立場に追い込まれる要素です。初見では判断しにくい場合もあるため、不安があれば専門家(行政書士や弁護士など)に相談するのもおすすめです。
業務委託契約はフリーランスや企業にとって柔軟な働き方を可能にする一方で、実務のなかでは多くのトラブルの温床にもなりがちです。
ここでは、実際によくある5つのトラブルと、それぞれに対する具体的な対策を紹介します。
【よくあるケース】
「納品したのに報酬が支払われない」「検収が終わっていないと理由をつけて振り込まれない」など。
【対策】
以上を明記することで、支払いの遅れを防ぐことができます。契約時に「成果物をもって報酬発生」と明記するのも効果的です。
【よくあるケース】
納品後に「修正をお願いします」と何度も依頼が届き、気がつけば当初の報酬額では割に合わない労力に……。
【対策】
事前に「修正は2回まで、以降は追加費用」といった形で、回数・範囲・追加報酬の有無を明確にしておきましょう。細かな仕様書やヒアリング内容を残しておくことも、トラブル予防になります。
【よくあるケース】
「◯月中納品」とだけ取り決めたつもりが、受託者は月末、委託者は月初と思っていた……など、曖昧な納期設定がトラブルのもとになることは少なくありません。
【対策】
納品日を「2025年5月15日(木)17:00」といった形で明記するのが基本です。あわせて、遅延時の対応(検収の猶予、ペナルティの有無など)も契約書に記載しておくと安心です。
【よくあるケース】
納品直前に連絡が取れなくなり、成果物が届かない。再依頼もできずスケジュールが大混乱に……。
【対策】
以上の項目を契約に盛り込みましょう。また、相手の信頼性(実績・過去の取引など)を事前に確認しておくのも重要です。
【よくあるケース】
業務のなかで知り得た機密情報が、第三者に漏れてしまった/SNSなどでうっかり拡散された……。
【対策】
「秘密保持条項」を契約に盛り込むことが必須です。加えて、必要に応じてNDA(秘密保持契約)を別途締結することも検討しましょう。何が機密にあたるか、情報の扱い方、違反時の対応も明文化しておくとベターです。
業務委託契約におけるトラブルは、事前の対策と環境整備で大幅に防ぐことができます。
ここでは、契約段階から実務の進行、情報管理まで、それぞれの場面で有効な工夫と活用すべきサービスを紹介します。
業務委託契約は民法上、口頭でも成立しますが、トラブル予防の観点からは必ず書面で取り交わすべきです。契約内容に対して双方の認識がズレた場合、口約束では証拠が残らず、水掛け論になってしまう恐れがあります。
「契約書はなくても、信頼していたから……」では、後の祭り。納品物の定義や報酬の支払条件、修正の範囲、損害賠償の有無などを明記した契約書があれば、問題発生時の強い後ろ盾になります。NDA(秘密保持契約)とセットで交わすのも有効です。
契約書を整えていても、すべてのリスクをゼロにはできません。万が一のトラブルに備えて、フリーランス向けの保険を活用するのもおすすめです。
たとえば以下のような保険があります:
- 弁護士費用保険:報酬未払いなど、弁護士への相談・対応費用をカバー
- 賠償責任保険:成果物の不備による損害賠償リスクに備える
フリーランス協会に加入すれば、こうした保険に割安で加入できるプランも。「報酬未払いにあったらどうしよう」「損害を出して訴えられたら?」という不安を軽減できます。
直接契約では、自分で条件交渉や契約内容のチェックを行う必要があります。これが不慣れなうちは大きなハードルに。そんなときは、フリーランス向けエージェントの活用が有効です。
エージェントを活用することで、業務委託契約のリスクや手間をプロが肩代わりしてくれるのも大きなメリットです。
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サポート:
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特徴:
クラウドワークス運営のエージェントサービス
サポート:
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クラウドワークス テックを見てみる(クリックすると開きます)
複数のクライアントとやり取りしていると、契約書の管理や請求対応が煩雑になりがちです。そんなときに役立つのが、クラウド型の契約管理システム(クラウド型)の導入です。
契約管理の属人化やミス、書類の紛失といったリスクを防ぎつつ、日々の業務の効率化とリスクヘッジを同時に叶えるツールです。
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主機能:
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強み:
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▲出典:マネーフォワードクラウド契約
特徴:
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特徴:
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主機能:
契約書の作成・レビュー・交渉・更新管理まで網羅
強み:
法務チームとの協業が多い企業、契約業務が多い中小企業に人気
業務委託契約は、フリーランスや企業が柔軟な働き方・業務体制を築くうえで欠かせない契約形態です。しかし、自由度が高い分、トラブルやリスクもつきもの。納品遅延や報酬未払い、成果物の権利に関する食い違いなど、契約内容があいまいだと後々の大きな問題に発展しかねません。
トラブルを回避するためには、契約内容をしっかりと書面で残すこと、業務内容や報酬、契約期間、秘密保持、損害賠償などを明確にすることが重要です。さらに、エージェントや契約管理ツールを活用することで、契約の質と安心感を高めることが可能になります。
(執筆:北村有、編集:猫宮しろ)