【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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夫婦のいずれかがフリーランスとして働き始めて収入を得ると、会社員であるパートナーが対応する年末調整や、自身の青色申告で「配偶者控除」の対象かどうかを判断するケースが出てきます。
今回は「配偶者はいるけど、はたして控除対象になるのか……?」と悩んでいる方に向けて、自身もパートナーと共にあらゆるケースを経験してきた筆者が解説します。
配偶者控除とは、配偶者および納税者本人の所得の条件に応じて、所得税の控除を認める制度です。まず、配偶者控除を受ける基本ルールとして、下記の3点すべてを満たす必要があります。
- 民法の規定による配偶者であること
- 控除を受ける納税者本人と配偶者が生計を一にしていること
- 配偶者が青色申告者または白色申告者の事業専従者でないこと
これらの条件を少し柔らかい言い方に直せば、婚姻届を出した夫婦が生活費を共有しつつ暮らしていて、なおかつ同じ事業を2人で営んでいるわけでもない状態ということです。
この基本ルールを満たしている場合、これから説明する所得金額の条件をクリアできれば、所得金額が大きいほうの納税者が配偶者控除、または配偶者特別控除のどちらかを受けることができます。
配偶者控除を受けるためには、以下2つを両方満たす必要があります。
- 控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下
- 配偶者の年間の合計所得金額が48万円以下
なお配偶者が被雇用者の場合は、55万円の給与所得控除があることも念頭に置いておきましょう。もしも配偶者の給与収入が103万円以下であれば、給与所得控除の55万円を差し引くと、結果として合計所得金額が48万円以下になります。
つまり、配偶者が給与収入のみを得ている場合、給与収入が103万円以下であれば配偶者控除対象ということです。俗に言われる「103万円の壁」ですね。
これらの条件はすべて、その年の12月31日時点で満たしている必要があります。たとえば、12月30日に離婚をした場合、12月31日の時点では民法の規定による配偶者ではなくなっているため、基本ルールを満たさないので、配偶者控除を受けられないことになります。
配偶者控除の他に、配偶者特別控除というものがあります。これは配偶者控除の条件にはあてはまらないものの、控除されるべき対象のために作られた特別措置です。
配偶者特別控除を受けるためには、以下3点すべてを満たす必要があります。
- 控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下
- 配偶者の合計所得金額が48万円を超え、133万円以下
- 夫婦が互いに配偶者特別控除を適用しあっていないこと
配偶者控除と配偶者特別控除は、それぞれ下記の表のように控除額が決定します。
納税者本人の合計所得金額(単位:円) | 一般の控除対象配偶者(単位:円) | 老人控除対象配偶者※(単位:円) |
900万円以下 | 38万 | 48万 |
900万円超950万円以下 | 26万 | 32万 |
950万円超1,000万円以下 | 13万 | 16万 |
※12月31日時点で、配偶者の年齢が70歳以上の場合
納税者本人の合計所得金額(単位:円) | 配偶者の合計所得金額(単位:円) | ||||||||
48万~95万以下 | 95円~100万以下 | 100万~105万以下 | 105万~110万以下 | 110万~115万以下 | 115万~120万以下 | 120万~125万以下 | 125万~130万以下 | 130万~133万以下 | |
900万以下 | 38万 | 36万 | 31万 | 26万 | 21万 | 16万 | 11万 | 6万 | 3万 |
900万~950万以下 | 26万 | 24万 | 21万 | 18万 | 14万 | 11万 | 8万 | 4万 | 2万 |
950万~1,000万以下 | 13万 | 12万 | 11万 | 9万 | 7万 | 6万 | 4万 | 2万 | 1万 |
ここまでは配偶者控除の基本ルールを説明しましたが、混乱を招きやすい言葉がいくつか登場しました。より正しく配偶者控除を理解するために、混同されやすい言葉の定義をチェックしておきましょう。
ここまでの説明にもたびたび登場してきた「所得」とは、収入から必要経費を差し引いた金額のことです。
たとえば、配偶者が年間60万円の収入を得て、そのために経費が20万円かかっていれば、経費を差し引いた年間所得は40万円です。つまり、年間所得が48万円以下とみなされ、配偶者控除の対象になります。
扶養控除と配偶者控除はいずれも家族に関わる控除制度ですが、まったくの別物です。
扶養控除の対象は「16歳以上の6親等内の血族もしくは3親等内の姻族」と定められていますが、配偶者はこのなかに含まれません。
したがって夫婦間の控除について考える際は、扶養控除のことは一度頭から抜いておきましょう。
この他に「社会保険扶養」という制度も存在します。社会保険扶養とは、特定の条件を満たした親族が、社会保険料を自ら支払わず健康保険に加入できる制度です。
この社会保険扶養の対象には配偶者も含まれますが、その判断基準は配偶者控除の基準とは異なります。したがって、配偶者控除対象でなくとも社会保険被扶養者になれることもあります。
混同してしまわないよう、それぞれ条件を確認しましょう。
さて、ここからは具体的なケース別で配偶者控除対象になるかどうかの判断例と、配偶者控除を申告する場合の対応を見ていきましょう。
会社員とフリーランスの夫婦であれば、会社員側が納税者になるケースがほとんどです。会社員側はパートナーの年間所得を確認して会社に申告しましょう。
たとえば、会社員の夫の年間合計所得が400万円、フリーランスの妻の年間合計所得が98万円だったとき、妻は配偶者特別控除の対象となります。
夫は年末調整時に会社から受け取る「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」に妻の所得金額を記入して提出することで、36万円の控除を受けることができます。
夫婦ともどもフリーランスの場合は、所得の低い側の所得金額が条件に当てはまった場合、もう一方の配偶者控除対象となります。納税者となる本人は、確定申告で所定の欄に配偶者の所得を記入し、配偶者控除または配偶者特別控除のチェックをいれて申告しましょう。
なお、両者が配偶者特別控除の条件を満たすケースもありますが、互いに対して控除し合うことはできません。たとえば夫の年間合計所得が120万円、妻の年間合計所得が130万円だったとき、両者とも配偶者特別控除の対象になりますが、配偶者特別控除の申告ができるのはどちらかひとりだけです。
夫婦が協力して同業を営む場合は、事業主が個人なのか法人なのかで条件が変わってきます。
まず、夫婦が個人事業主と事業専従者という関係性の場合、配偶者控除の対象とはなりません。その場合は、特定の条件を満たせば事業専従者控除という、別の控除を受けることができます。
一方、夫婦が法人の代表と社員という関係性の場合は、パートナーが会社から給与を得ることになるため、給与収入を103万円以下に抑えれば配偶者控除の対象となります。年末調整の仕方は会社で勤める場合と同様です。
ちなみに、夫婦で店舗などを経営する場合、法人化すると控除面の他にもさまざまなメリットがあります。二人で事業を継続していくなら、思いきって法人化することをおすすめします。
現行のルールでは、「民法の規定による配偶者であること」が配偶者控除の条件です。つまり、夫婦同然の生活をしていたとしても、婚姻届を出していなければ配偶者控除を受けることはできません。
近年は事実婚と呼ばれるような夫婦の在り方も浸透しつつありますが、この場合配偶者控除は受けられないことを念頭に置いておきましょう。
筆者には同性カップルで長年同棲生活を営む友人がいるのですが、「同性婚が認められないため、配偶者控除が受けられない」と話していたことがあります。今後、多様な生き方が制度上でも認められ、本当の意味で公平な制度改正が進んでいくことを願っています。
夫婦が別居している場合、「生計を一にしている」……つまり生活費を共有しているかどうかがポイントです。
別居中のパートナーに生活費を仕送りしている、一時的に単身赴任している、介護のため実家と行き来しているなどのケースにおいては、生活費は夫婦で共有しているため、配偶者控除の条件に当てはまります。
一方、別居に加えてすでに異なる資金源から生計を立てている場合は、たとえ夫婦であっても配偶者控除は受けられません。
たとえば、離婚を前提に別居を始めた妻が、個人事業主として夫に頼らず自身の生計を立てられているのであれば、年間合計所得が配偶者控除の条件に合っていたとしても、配偶者控除の対象にはならないということです。
夫婦関係とキャリア、そして年収とそれに伴う所得は年々変化します。パートナーが廃業して無職になることもあるでしょうし、自身の事業が大成功して年間合計所得が1,000万を超える年もあるかもしれません。
どんなに頻繁な変化があったとしても、控除申請の対象となる期間と、それを申告するタイミングは変わりません。1月1日~12月31日までの年間合計所得と、申告時の夫婦関係についてのみ焦点をあて、冒頭で紹介した配偶者控除の条件に合うかどうか確認しましょう。
最後に、筆者の昔話をします。ある夏、パートナーが突然無職になり、収入の見込みが夏以降ゼロになりました。しかも、それが発端で夫婦関係が悪化。一時は家を空け、本気で離婚を検討していました。
そんな状態でも、確定申告のタイミングでは離婚届は未提出、つまり婚姻関係は継続しています。結局パートナーの生活費も自分が工面していたので、その年はパートナーを配偶者特別控除の対象として申告しました。
人生いろいろですが、ルールに基づいてドライに判断し、受けられる控除は受けておきましょう。
また、税制に関わる事例紹介の多くは、夫が生計を立てて妻が配偶者控除対象となる、いわゆる“一般的”なものです。しかし、昨今はフリーランスという働き方や自由度の高い夫婦関係が浸透してきたこともあり、納税者の立場が逆転することや、思わぬ形で控除対象が外れてしまうこともあります。
解説した基本ルールや、意味を混同しやすい用語の違いを理解し、配偶者控除の条件に当てはまるか見極めましょう。
(執筆:宿木雪樹 編集:少年B)
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