「どうせ無名の会社だから」は言い訳。大手病より深刻な「中小企業病」の正体

空調の「ゴォ……」という音だけが、妙に大きく響く午後のオフィス。

株式会社健王建材の総務兼人事担当である人事 ひよ吉(じんじ ひよきち)は、突如現れた人材サービス業界歴20年のベテラン・ミスターHRの教えに従い、自社のWebサイト並びに求人票の改革に勤しんでいた。

しかし、直せば直すほど、良くなっているのか悪くなっているのかわからなくなってくる。混乱した悩める人事は、ついに頭を抱えてしまった。

「いろいろダメって言われてきたけど、仕方ないじゃん!うちはGoogleじゃないんだから。どうせ無名の会社に人は来ないんでしょ!」

思わず漏れ出てしまったボヤキを聞き逃さないミスターHR。そう、二人が取り組む「できているつもり採用」をぶった切る再生プロジェクトにおいて、「どうせ無名の会社だから」は禁句なのである。それはいわゆる「中小企業病」の始まりだった!

【話し手】

ミスターHR
ミスターHR

歴20年のベテラン採用コンサルタント。このたび健王建材の人事部に採用コンサルとして参画することになった。

【聞き手】

人事 ひよ吉(じんじ ひよきち)
人事 ひよ吉(じんじ ひよきち)

健王建材の総務兼人事担当。「若くてリテラシーのある人」を採れと社長に言われている。これまでの施策を惰性でなんとなくやっているが、応募数は右肩下がり。うーん、どうしたもんかしら。

「どうせ大手じゃないし」は、中小企業病の始まり

ミスターHR:
おやおや、ひよ吉さん。その言葉はいただけないですねえ。

迷える人事:
あ、ミスターHR!す、すみません、弱音を吐いてしまって。

でも正直、ここまでダメ出しされるとは思ってなかったんですよ。Webサイトも求人票も「致命的」なんて。それに、実際問題として仕方なくないですか?うちはGoogleじゃないし、泣く子も黙る大手企業でもないし。

地方の中小企業なんて、どうせ、無名だから人来ないじゃないですか……(いじいじ)。

▲そりゃこういうオフィスならいくらでもアピールできるけどさ……

ミスターHR:
なるほど。それ、完全に「中小企業病」の初期症状ですね。

迷える人事:
ちゅ、中小企業病……?

ミスターHR:
「うちは無名だから」「地方だから」「大手じゃないから」……こうやって何もしない理由を、先に用意してしまう状態のことです。

でもね、ひよ吉さん。
本気でそう思っているなら、ひとつだけ聞かせてください。

この会社、この先も続けるつもり、ありますよね?人が来ないからって、何もせずにいたらいずれ倒産しちゃうかもしれませんよ?いいんですか、ひよ吉さんはそれで!

迷える人事:
そ、そんな!もちろんそんなこと、僕だって望んでませんよ。

ミスターHR:
だったら、採用を諦めちゃダメです。人が入らない会社は、成長しません。成長しない会社は、いずれ消えてしまいます。

「どうせ大手じゃないし無理」なんて言ってたら、いつまで経っても未来ある若手なんて来てくれませんよ!

迷える人事:
ううっ……耳が痛いです。じゃあ、どうしたらいいんでしょう??

中小企業病の正体は「採用=コスト」という思考

ミスターHR:
そもそも「中小企業病」とは、採用を「コスト」と考えてしまう、その姿勢です。

  • (中小だから)競合なんて調べなくていい
  • (中小だから)エリア分析なんてしても意味がない
  • (中小だから)写真や動画にかけるお金はない

「中小だから」を言い訳に、はじめから戦うのをやめてしまう。

「コストカットのため」と思っているかもしれませんが、これは節約以前の問題です。先ほども言いましたが、人が来ない会社に未来はありません。未来がないんだから、節約したって意味がない。それは投資を放棄しているだけです。

大手・中小にかかわらず、常に人が集まる会社はこう考えています。

「採用は、未来への投資だ」

確かにGoogleのように、名前だけで憧れを抱かせる大手企業には、底知れない魅力がたくさん詰まっているでしょう。でもね、中小企業には中小企業なりの、大手にはないアピールポイントがあるんです。

  • ニッチトップ
  • 地域密着
  • 人を“労働力”ではなく“人”として見る文化

解釈の仕方や見せ方によっては、かなり強い魅力になると思いますよ。

迷える人事:
なんだか元気が出てきました。実際にやるべきことを教えてください!

解決策①:口説ける人を前に出す

ミスターHR:
一歩ずつ進めていきましょう。まず、ひよ吉さん、採用って何に似てると思います?

迷える人事:
えーっと……面接?試験?

ミスターHR:
それも似てますが、惜しいですね。正解は口説き、いわばプロポーズです。

たとえばひよ吉さん、いまからあなたが恋人にプロポーズするとしますよね。相手に自分を選んでもらう、「ぜひあなたと結婚したい!」と思ってもらう。そのために、自分の印象をアップして売り込む……これって、採用活動と似ていませんか?

迷える人事:
確かに。どちらも自分の良いところをせっせとアピールしますね。人生がかかっているって点でも、似てるかも。

ミスターHR:
そう。そうなんです。求職者にしても企業にしても、「人生」をかけた交渉をする重要な場面。なのに、求職者を口説くのが苦手なまま、ずっと空振りな採用施策を打ち続けている会社って意外と多いんですよ。

私は実際に、「応募は来るものの、いざ内定を出すと辞退され続ける会社」を数多く見たことがあります。これって、一度は魅力的だと思ってもらえたにもかかわらず、どこかで「ナシだな〜」と思われたってことじゃないですか。

迷える人事:
うーむ、なるほど……(実はうちも身に覚えがあるぞ……)確かに気になります。どうしてそうなってしまうんですか?

ミスターHR:
原因はシンプルです。

  • 説明が事務的すぎる
  • 弱みをそのまま弱みとして話してしまう
  • 話の着地がなんだか暗い……

初回で「他社と差別化できるアピールポイントを見つけよう!」という話をしましたが、だからといってありのままを曝け出してしまったら、そりゃ逃げちゃう求職者もいます。

たとえば「とにかく今は忙しくて、みんな余裕がない状態です。早く誰かに来てもらわないと、現場が回らなくなってしまうんです……。よろしくお願いします(懇願)!!」なんていう会社、入りたいと思います?

「今は忙しい時期ですが、それは私たちのサービスが世の中に求められている証拠だとも感じています。今回新しい仲間が増えることで、今は手つかずの新プロジェクトにも挑戦できるはずです」みたいに、明るい未来の展望を感じられるような話を聞きたいですよね。

そこで考えられる対策のひとつが、トップセールスを初回のカジュアル面談に同席させることです。

迷える人事:
人事ではなく、営業担当者をですか?

ミスターHR:
そうです。トップセールスの話術を借りて、会社の良さを売り込むのはもちろん、マイナス面もカバーしてもらうんですよ。

たとえば設備が古くて、立地も不便な会社があったとしましょう。これをそのまま話しているようでは、「あんまりいいところのない会社だな…」と思われるかもしれません。

でもトップセールスなら、メリット・デメリットを上手に話すスキルを磨いているはず。同じ「設備が古い」事実でも、「確かに古い! でもね、だからこそ、こんなおもしろい話があるんですよ〜」なんて言って、ネガティブな面もたちまちアピールポイントに変えてしまうんじゃないかなと。

こういうトークができれば、内定承諾率は激変するはず。事実は変えられなくても、伝え方はいくらでも変えられるものですから。

解決策②:オフィスを異国仕様に!?

迷える人事:
考え方は分かりましたけど、それってうちの会社にもできるんですか?やっぱりこう、成功してる会社だけの話、みたいなイメージがあって……。

ミスターHR:
いえいえ。むしろ、よくある話です。

もう少し事例を出しましょうか。たとえば、人口がそれほど多くない地方都市にある、とある会社。立地・業態ともに派手ではなく、毎年数名採用できればいいほうでした。

でもね、その会社のオフィスがすごかったんです。エントランスも、デスクも、会議室も、BGMも、ぜーんぶ海外仕様!中に入ると、「え、ここ、ほんとに日本?」ってなるレベル。そのくらい世界観が徹底していたんですよ。

迷える人事:
えっ、そんな会社が?すごいですね。

ミスターHR:
そうでしょう?ところがこの会社、そういった事実を一切、求人原稿に書いていなかったんです。

だから言いました。「これ、全面に出しましょう。求職者にとっての感動ポイントですから!」って。

その結果、

  • 女性からの応募が増加
  • 男性営業職の応募も激増
  • 「人が来ない…」から、良い人材を選べるほどの採用活動ができるように!

立地が「田舎」かどうかは、関係ありません。自社を客観視できれば、埋もれた魅力を発掘し、アピールに繋げられるんです。

解決策③:ターゲットを変える

ミスターHR:
もう一つ、極端な例も出してみましょう。たとえば、とある人口の少ないリゾート地に建つ、有料老人ホーム。ここでは看護師を募集していましたが、いかんせん地元の人口が少ないとなると?

迷える人事:
うーん。そもそもの人材不足がヤバそうですね。

ミスターHR:
その通り。地元には、ほぼ有資格者はいません。普通なら詰んじゃってる状態です。

でもね、この施設は、視点を変えてみたんです。

  • 海の近く
  • 丘の上
  • ホテルのような新施設

これらをアピールポイントにして、都心部へ発信しました。「平日はリゾートで働き、週末は品川・渋谷の自宅へ帰る。こんなライフスタイル、どうですか?」と。

迷える人事:
おお〜。確かに「それならいいかも」って思います。どうせ平日は働くだけだし、お金も貯まりそう。

ミスターHR:
そうなんです。このようなアピールをした結果、その施設は見事に都市部からの人材を確保できました。

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なるほど。分かってきました。中小だから人が採れないんじゃなくて、アピールポイントや、それを知らせるターゲットがズレてただけなんですね。

ミスターHR:
いいじゃないですか、その通りです!

まとめ:変われる会社は、いつもシンプル!

迷える人事:
なんだか……「無名な中小企業だから仕方ない」って言葉、ただの逃げだった気がしてきました。そんな弱音を吐いて逃げようとしていた少し前の自分が、恥ずかしい!

ミスターHR:
うんうん、その気づきが、第一歩ですよ。

成果が出る会社には、共通して「まずは、やってみよう」というマインドがあります。

反対に、「うちは昔からこうだから」「どうせ社長がやらないから」……こういった言葉が多い会社ほど、チャンスを逃していますね。

採用は、良くも悪くも、会社の体質がそのまま出る分野です。だからこそ、人事が一歩踏み出してみるだけで、ガラリと変わるはずですよ。

無名かどうかは問題じゃありません。採用は、「何を、どう見せるか」です。

迷える人事:
「どうせ無名だから」って言うのは、今日でやめます。これからもご指導、よろしくお願いします!

(執筆:北村有 取材・編集:夏野かおる)

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