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昼下がりのオフィス、自社の求人票を前に首をかしげるのは、株式会社健王建材の総務兼人事担当である人事 ひよ吉(じんじ ひよきち)。
「求人票には給料の額を記載してる。しかも月給28万円〜って、同業他社と比較しても決して安くはないはず! むしろ良いほうだと思うんだけど……」
若手にバンバン応募してきてほしいのに、一向に応募が来ない……思い悩むひよ吉の前に突如、まさに星のように現れたのは、人材サービス業界歴20年のベテラン・ミスターHR。
自社のWebサイトを一刀両断されたあと、次なるテーマは、いよいよ求人票そのものだ。
二人が手を組んで始まった「できているつもり採用」をぶった切る再生プロジェクトは、まだ始まったばかり!
【話し手】

歴20年のベテラン採用コンサルタント。このたび健王建材の人事部に採用コンサルとして参画することになった。
【聞き手】

健王建材の総務兼人事担当。「若くてリテラシーのある人」を採れと社長に言われている。これまでの施策を惰性でなんとなくやっているが、応募数は右肩下がり。うーん、どうしたもんかしら。
迷える人事:
求人票の書き方が良くないって話ですけど、正直に言うと、「ここまで書いててダメなの?」って思ってます。だって、たとえば給与なら「月給28万円〜」ってちゃんと書いてあるし、この業界やエリアだったら決して低くないと思うんですけど?
ミスターHR:
ええ、そうですね。金額そのものが低いわけではありません。
ただ……書き方が、致命的に足りてないんですよねえ。
迷える人事:
エッ!? 嘘もついてないし、ちゃんと数字も出してるのに……?
ミスターHR:
では、率直に聞きますね。
その「月給28万円」、年収にするといくらですか?
迷える人事:
えっと……28万×12で……336万円?
ミスターHR:
正解!賞与の有無にもよりますが、そのまま年収336万円と考えましょうか。
じゃあ、ここにライバル会社があるとして、その会社が「月給25万円 / 賞与年2回・計2ヶ月分」だったら、年収は約350万円になりますよね。
迷える人事:
……あ。
ミスターHR:
そう。月給で見ると御社のほうが高くても、年収で見ると負けていることになるんですよ。
迷える人事:
いや、でも、ウチには家賃補助があるんですよ。近距離居住手当の一環として。あと社食もすごく安いし、けっこう暮らしは助かるはずなんですよね。
ミスターHR:
それは分かりましたが、そうした条件は「明確に」「金額が見える形で」求人票に書かれているんですか?
迷える人事:
う……。
ミスターHR:
そんなことだろうと思いました。
ひよ吉さん。求職者は月給ではなく、あくまで「年収」で生活を考えます。にもかかわらず、月給だけ書かれている・年収が見えない・手当の金額も不明……この状態だと、求職者は「で、結局いくらもらえるの?」と思っちゃいます。
「実質いくら?」を計算させている時点で、求職者にとっては相当なストレスですよ。応募って、想像以上に面倒くさい行為ですから。
とにかく、年収はいくらか・他社と比べてどうかを一瞬で分からせないと、応募は来ません。
ミスターHR:
最低限、求人票に掲載してほしい報酬面の情報は、以下です。
- 初年度の想定年収
- 手当の具体金額
たとえば、こんな感じでしょうか。
×「住宅手当あり」
○「住宅手当:月2万円(上限)」
迷える人事:
ああ……。「あり」って書くだけじゃダメなのか。
ミスターHR:
当然です。5,000円なのか、5万円なのかで、印象がまったく違いますからね。書いてない=ないのと同じ(大して出してくれないんでしょ?)と思われても仕方ありません。
ミスターHR:
それから、今の月収だけじゃなくて、入社後数年でどうなるのか?を見せることも大切です。
転職を考える理由は人それぞれですが、なかでも、「ここじゃ給料が上がらない」は特によくある理由です。そんな人が、転職するときにもっとも気にするのは?
迷える人事:
なるほど。昇給の可能性ってわけか。仮に給料がそこそこ高くても、「将来どうなるか分からない」って不安にさせるのは、確かに良くないですね。
ミスターHR:
まさにそこなんです。若い人は、こう思っているはず。
「確かに『現時点』ではそこそこ満足できる給料だけど、このまま一生上がらないと厳しいかも?」
とくに中小企業の場合、ネームバリューがなく、転職で有利になる保証がないという弱みがあります。だからこそ、転職した先で「自分はここで成長できるか」を見ているんです。
迷える人事:
じゃあ、とりあえず「キャリアに応じて昇給あり!」って書いておけばいいか。あと、頑張ればインセンティブももらえますよ……っと。
ミスターHR:
ダメですね。それだけだと、「はいはい、建前ね」で終わります。信頼されるのは、こういう書き方です。
- 入社1年目:年収336万円
- 入社3年目(主任):386万3,000円
- 入社5年目(係長):492万4,000円
迷える人事:
千円単位!
ミスターHR:
やりすぎなくらいに細かく記載するほうが、リアルだし親切です。さらに、以下をモデルケースとしてすべて出す。
- 基本給
- 各種手当
- 賞与実績
さらに「Aさんの場合はこう」とペルソナを出して具体化すると、一気に信憑性が上がります。自分が入社した後のキャリアパスも、イメージしやすくなりますよね。
逆に、これは絶対NGな表現です。
「やる気次第で年収1,000万円も可能!」
迷える人事:
(うっ!)……耳が痛いです。
ミスターHR:
やる気って、何ですか? 何を、どれだけやればいいんですか? そこが説明できないなら、
書いてはいけません。
迷える人事:
この感じで行くと福利厚生の書き方もダメ出しされそうだな。今は「社員旅行あり」「保養所あり」とだけ書いてるんですが、ダメですかね?
ミスターHR:
それも、書き方次第ですね。まずは社員旅行。
迷える人事:
あっ!わかってますよ。いまの若い人は、社員旅行嫌いなんですよね?こういうの書くとマイナスイメージ!って言いたいんでしょ。
ミスターHR:
いえいえ。それ、思い込みですよ! 実際は、
- 新卒や若手でも「交流したい」層
- 30〜40代でも「正直行きたくない」層
この両方がいます。問題は、任意参加かどうかを書いていないことです。
迷える人事:
あ……。
ミスターHR:
「社員旅行あり(任意)」と書いておくだけで、社員旅行は嫌かも……と思っている層の減点ポイントは消せます。
保養所についても同じです。どんな場所で、誰が、どんなときにどんな風に使っているのか。このあたりが分からないと、ただの謎ワードになっちゃいます。実際に社員が使っている様子を、SNSや人事ブログなどで紹介するだけでいいんです。
迷える人事:
たしかに、新入社員にとっては、使っていいのかどうかすら分からないですもんね。「建前」だと思われないためには、とにかく具体性が必要ってことか。
迷える人事:
ちなみになんですけど。僕自身、保養所を使ったことがあるか?って言われると、実はないんですよ……。ファミリー向けで広すぎるし、ビジホのほうが立地いいし。
ミスターHR:
このあたりは時代ですよね。昔ながらの福利厚生は、どうしても「ファミリー」を主体に用意されていますから。
迷える人事:
さすがにこのあたりは会社も「どうしようかな」と考えているみたいです。何か、最近の若い人に刺さる福利厚生ってありますか?
ミスターHR:
もちろん社風にもよりますが、この辺りですかね。
- Netflix、Amazon Primeなどのサブスク補助
- ジムやフィットネスの割引
どれも、家族向けというよりは個人の生活にフォーカスした福利厚生です。
迷える人事:
なるほど。
ミスターHR:
福利厚生は、採用における立派なアピールポイント、そして社員を定着させるための防御策でもあります。アピール&引き留めという両方の視点で設計できる会社は、強いと思いますよ。
ミスターHR:
ちなみに、よくある「NG表現」があります。
迷える人事:
なんでしょう?
ミスターHR:
「募集しています」という書き方です。
迷える人事:
……え、普通じゃないですか?
ミスターHR:
いやいや。友達探しで考えてみてください。「友達募集しています」って言っている人がいたら、「そうなのか!じゃあ、友達になろう」と思いますか?
迷える人事:
確かに……。「ふーん」で終わっちゃいますね。
ミスターHR:
これが、「友達になりませんか?」だったらどうですか?
迷える人事:
OKするかどうかはともかく、検討はすると思います。
ミスターHR:
まさにそういうことが言いたいわけです。
今は、企業側が「採用してあげる」「こちらが選ぶ側」というニュアンスを出してしまうと、一瞬で嫌われる時代です。
「私たちと一緒に働いてくれませんか」と少し下に出るだけで、印象はまったく変わります。
求人票って、もはや企業側が求める人材の条件を書く紙ではありません。
この会社に入ったら、どんな生活ができて、どんな成長が待っているのか? それを、数字と具体でリアルに示すものなんです。
迷える人事:
これも「書けてるつもり」で、止まってしまってました……。
ミスターHR:
大丈夫です! しつこいようですが、気づいた瞬間から変われますから!
さてさて、これまでWebサイト、求人票と見てきたので、このあたりで一旦「アレ」について説明しておきましょうか。大手病より深刻な「中小企業病」の正体について。
迷える人事:
ヒッ……。中小企業病!?
(執筆:北村有 取材・編集:夏野かおる)
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