【漫画】フリーランスは“103万円の壁”にどう向き合うか?
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「ホームセンターを遊び倒す。」
このコンセプトのもと運営されているのが、株式会社カインズ(以下、カインズ)のオウンドメディア「となりのカインズさん」です。
カインズはホームセンターチェーンの経営をおこなっている企業で、店舗数は225店舗(2021年2月末時点)売上が4410億円、従業員数12,063名(2020年2月末時点)。ワークマンなどを含めたベイシアグループ全体での売上は1兆円を超える巨大企業です。
そんな”ホームセンターの雄”カインズで「となりのカインズさん」が創刊されたのは、2020年6月。創刊から1年足らずで月間200万PV超えと快進撃を続けています。今回は「となりのカインズさん」創刊編集長の清水俊隆さんにお話をうかがいました。
株式会社カインズ デジタル戦略本部 デジタルマーケティング部 コンテンツグループマネージャー。「となりのカインズさん」創刊編集長。趣味は江戸時代の書画蒐集。
1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。
川崎:
清水さんは以前、建設メディアの「施工の神様」の立ち上げもされていますが、カインズに入社したのはいつでしょうか? 入社した理由も教えてほしいです。
清水:
2020年に入社して、3月からオウンドメディア「となりのカインズさん」の準備をはじめました。カインズに入社した理由は”郷愁にかられて”です。
2012年にカインズの本社が埼玉県本庄市に移転しました。もともと私の通っていた高校(早稲田大学本庄高等学院)が本庄市にあって、高校生のころに校庭の横で新幹線の工事が始まりました。その工事で「本庄早稲田」という駅が完成して、数年後に駅の目の前、つまり母校の隣にカインズの本社が移転してきたんです。
当時は校舎が森の頂上にあってマムシも出るわ、スズメバチのせいで授業が中断するわ、周囲には田んぼと畑しかないような環境でしたが、カインズが移転してきたことで町がだいぶ変わりしました。入社面接で10数年ぶりに本庄を訪れたときは、その激変ぶりに文字通り、呆然と立ち尽くしました。
あと、小さい頃に埼玉や群馬に住んでいたこともあって、カインズには懐かしさがあるんです。北関東にはホームセンターといえばカインズが好きだという人が多いと思います。
もう一つの入社理由としては、カインズにはリフォームやエクステリア、建築資材、工具など建設関連の事業も多いので、建設や農業などを含むマニアックなプロ向け事業のマーケティングが面白そうだと思ったからです。
ただ、ちょうどデジタル部門を立ち上げる黎明期でもあったので、組織づくりの観点からも、カインズ全事業部のコンテンツを扱う立場として、オウンドメディアのプロジェクトをけん引することになっています。今後はオウンドメディア以外の仕事のほうが増えていくと思います。
川崎:
まだ開設から1年経っていないにもかかわらず、多くの注目を集め成長し続けていますが、そもそもオウンドメディアをはじめようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
清水:
カインズは30年以上ホームセンター事業をしていますが、現在第三創業期なんです。その一環でオウンドメディアをはじめました。
第一創業期がホームセンター成長期(出店拡大)、第二創業期がSPA(製造小売)です。いまは第三創業期として”IT小売”を目指しています。
2019年3月に「PROJECT KINDNESS(プロジェクトカインドネス)」という3カ年の中期経営計画をスタートしました。
「PROJECT KINDNESS」には4つの戦略があります。
そして、デジタル戦略は、次の4つのコンセプトを掲げています。
これらのコンセプトを実現すると同時に、社内メンバーへのKINDNESSも追求していくのが「となりのカインズさん」というオウンドメディアの社内的な位置付けです。
カインズのメンバーには知識が豊富なプロフェッショナルがたくさんいるんです。たとえば、自転車に関しては元競輪選手がたくさんいますし、園芸やペットについてもその業界で名の知られたメンバーがいます。そうしたプロフェッショナルが各店舗でお客様から信頼されていて、対面で商品の魅力などをお伝えしています。
ただ、それだと1対1の世界で完結してしまっているので、デジタルの力を使ってもっと多くの人にカインズのメンバーたちが持っている知識やノウハウを紹介していけるのではないか。そういう考えもオウンドメディアを立ち上げた理由の一つになっています。
また、社内教育や部門を越えた交流、お客様との交流、広報などにも活用していけるように目指しています。
川崎:
プラン変更をたくさんしてPDCAを回していると思うのですが、仕事をするうえで気をつけていることはありますか?
清水:
あまり気をつけてないんです(笑)。どちらかというとスピード感を優先しているので、何かに絞って気をつけないように意識している、と言ったほうが適切かもしれません。事象としても観念としても、こっちを立てるとあっちが立たないという状況が非常に多いので、タコみたいにニュルニュル動きまわっています。つい何かにこだわってしまうと、そこで流れが滞留してしまうんです。
たとえば、コンテンツやデザインのクオリティについても現状では、全体的にまだまだ満足できるレベルに達していないですし、労力をかければもっと良くできる余地はあるのですが、そこはこだわりを捨てて60点の状態であれば公開するように指示しています。
クオリティにばかり注意がいってしまうのは編集者のサガですが、それはまだ次のタイミングだよって(笑)。アジャイルの有名な絵とかを見せています。
清水:
プラン変更はよくありますね。たとえば、全国のカインズを旅してまわって、ご当地商品やクセの強い店舗メンバーを取材していく企画などは、新型コロナの影響で実施できなくなってしまいました。
そこで、取材せずに少しの情報量でコンテンツを量産するために、「深堀り!カインズ研究所」という連載をスタートしました。
清水:
一見するとただのおもしろコンテンツですが、素晴らしいクリエイターさんたちの発想力があったからこそ実現できたコロナ対策の一つでもあったんです。この3人のキャラはコロナ禍によって誕生したといってもいいでしょう。よく会社も掲載を許してくれたなと思いますね、ガハハハハハ(笑)。
DIYやキャンプ関連の記事も、コロナ禍の影響で需要が高まらなければ制作しなかったはずです。やろうと思ったことが、なかなかできないこともありますが、そこは柔軟に対応しています。社内外の多くの方々の協力によって「となりのカインズさん」というメディアは成立していて、そのことへの感謝を忘れてはいけないといつも言っています。
ほかに気をつけているのは「数字で効果を伝える」ことです。はじめたばかりの頃は、社内に協力してくれる人があまりいなかったのですが、数字で貢献度を伝えることで協力してくれる方が増えてきました。
いまでは商品本部から「この商品を取り上げてほしい」といった依頼も頻繁に来るようになりました。取引メーカーさんからも「取材してほしい」という声が増えています。立ち上げ当初とは状況が逆転して、いまは依頼が増えすぎてあっぷあっぷしていますので、メンバー増員も検討中です。
川崎:
カインズにもオンラインショップはありますが、基本的には店舗での買い物が多いと思います。OtoO(オンラインtoオフライン)施策の位置づけとしてもオウンドメディアは効果的でしょうか?
清水:
効果はあります。「となりのカインズさん」で取り上げた商品は売上が伸びます。ただ、まったく役に立たない使い方を紹介しているコンテンツも多いので、全部が全部ではないですが……(笑)。取り上げたメーカーさんも喜んでくれますし、多角的な効果があると思います。メーカーさんあっての「となりのカインズさん」だという側面もあります。
さまざまなジャンルのメーカーさんと目線を合わせて一緒に市場を拡大していけるのは小売業ならではの面白さでもあります。
川崎:
オウンドメディア運営でうれしかったことを教えてください。
清水:
社内で評価されてきたのは、純粋にうれしいです。はじめたばかりの頃は「デジタルマーケティングって何なの?」「オウンドメディアって何なの?」という状況で、会議資料をいくつも作って何度も何度も会議で説明した記憶があります。
地道に説明を続けてきたことで、だいぶ理解してもらえるようになりました。いまではいろいろな部署から取り上げてほしいといった依頼が来るようになったのは、うれしいですね。入社当時と比べて、会社全体の雰囲気も開放的になってきたと感じています。
オウンドメディア・広報・マーケティングの事例として取材していただく機会が増えたのもうれしいです。幅広いジャンルのメーカーさんやクリエイターさんとのつながりが増えていくのも面白いですね。
川崎:
「となりのカインズさん」で清水さんおすすめの記事を教えてください。
清水:
「おしえて!ホームセンター先輩」ですね。これはくらしの知識がなさすぎる株式会社おくりバント社長・高山洋平さんが、さまざまな分野の“ホームセンター先輩”たちと一緒に、カインズの売場で遊びながら、くらしのスキルを上げていくシリーズです。
川崎:
高山さんはキャラが立っていておもしろいですよね。清水さんは今後オウンドメディア全体の流れとしてはどのようになっていくと思いますか?
清水:
一般的なメディアとオウンドメディアの境界線はもっと曖昧になっていくのではないでしょうか。極端な話「となりのカインズさん」がニュース報道を開始してもいいわけですし、広告収入や購読費を得てもいいわけです。ジャンルごとに専門メディアをつくったっていい。
カインズ全体を巨大なメディアとして再定義すれば、リアルとデジタルを含めた読者へのタッチポイントは、そこそこの規模の一般メディアにも匹敵します。今後も新たにオウンドメディアを立ち上げる企業もあれば、逆に閉鎖する企業もあると思いますが、要するに投資する価値があるかないかにつきると思います。
一般的なオウンドメディアは売上効果が出なかったら、真っ先に予算を減らされる対象です。だから、オウンドメディアの責任者は、社内の誰よりも数字に敏感でないといけません。こういうことを言うと顰蹙(ひんしゅく)を買うかもですが、つねに閉鎖をおでこに突き付けられ、毎日、顔を殴られているような感じで運営していますので、ふつうに数字だけを追うマーケティングを担当していたほうが気楽だったりします。
周りから「すごい伸びてるね。バズってるね」と言われても、私自身はオウンドメディアに対して、社内でいちばん残酷かつ冷酷な目で見ていかなければならないと思っています。
川崎:
わかります。オウンドメディアの運営はキツいですよね。サイトを見ていて気になったのですが、最近「となりのカインズさん」に会員機能が付きました。この狙いはなんでしょうか?
清水:
「とりあえずやってみる」というノリですね。エンジニアと話している時に会員機能の話が出たので、「やろうか」「やっちゃおうよ」という感じで一週間後にはエンジニア一人で実装を完了しました。会員登録すると、限定のコンテンツを読めるようになったり、プレゼントキャンペーンやイベントの告知、メールマガジンなどを受け取れます。
いまのカインズは経営層のメッセージが明確に発信されているので、それに適した内容であれば現場判断ですぐに実行できます。それがデジタル組織の強みになっていると思います。
川崎:
さくマガのコンセプトが「やりたいことをできるに変える」なのですが、清水さんが「となりのカインズさん」で今後やりたいと思っていること、それをできるに変えるために努力していることを教えてください。
清水:
オウンドメディアの常識を変えていきたいです。あまり”オウンドメディア”と呼ばれること自体が好きじゃないんですよ。デジタルマーケティング業界では端っこの存在だし、一般メディアと比べれば自由がきかないからグロースしにくい(笑)。
やっぱりオウンドメディアは周辺施策によって生かされるので、オウンドメディアという既成概念の枠を越えていく必要があると思っています。「となりのカインズさん」は、その可能性を秘めていると思っています。
あとはカインズの社名の由来にもなっていますが「Kindness」を意識していきたいです。
”カインズのため”というよりは、”お客さまのため””クリエイターさんのため””メーカーさんのため”、そして何よりも”社会のため”に仕事をしていきたいですね。
儲かるためとか、PV数とか数字を追いすぎてもダメだと思っています。実店舗と同様、絆が大事だと思っています。これはコンバージョン獲得だけが目的で運営していないから許されることです。
やりたいことをやるためには、他部署とのコミュニケーションを気軽にとるようにしています。やることなすこと前例がないという状況で、いつも調整に苦労しますが、怒られない範囲を徐々に広げていくのも仕事だったりします(笑)。
個人的な想いとしては、今後は建設業の魅力を「となりのカインズさん」でも一般世間に向けて伝えていきたいと思っています。
建設業界の情報は、業界内部に閉じてしまう傾向が強いので、それをもっと外部に伝えていきたいです。ホームセンターと建設業は密接な関係にありますから、さまざまなシナジー効果をうみ出せるはずです。
2011年3月11日に東日本大震災がありましたが、その復興支援事業に携わっていたこともあるので、被災地における建設関係者のみなさんの献身的な姿勢に心を打たれました。
建設業界への恩返しと言っては大袈裟ですが、建設業を盛り上げていきたいという気持ちは常に持っています。リモート会議の背景もご覧の通り、架空の「カインズ建設」です。これは作業服の刺繍サービスの見本を撮影したものなんですが、建設業界への愛着があるんですよね。
建設業だけでなく農業、地域創生などの社会的課題にも、「となりのカインズさん」を通じてアプローチしていきたいと考えています。
あとは、オウンドメディアの運営で困っている企業さんがいれば、大きな組織の中で「となりのカインズさん」を短期間で立ち上げたノウハウを活用して、コンサルティングのサービスを提供していってもいいのかな、なんて思っています(笑)。
(執筆:川崎 博則 編集:武田 伸子 提供元:さくマガ)
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