エンジニアの副業は週1からでも可能?副業の例や探し方も解説
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才能あふれる芸術家やデザイナー、クリエイターを数多く輩出し、さまざまな分野において世界をリードしてきた都市、ロンドン。
そんなロンドンでデジタルデザインスタジオを立ち上げ、世界的に著名な写真家やイラストレーター、デザイナーなどと仕事をしてきたのが、Tamassy Creativeの創業者でありクリエイティブディレクターの長野大洋さんです。
アート&デザインとデジタルテクノロジーを巧みに融合したアプローチは主に英国のクリエイティブフィールドからの評価が高く、主なクライアントにはミュージシャンのBasement JaxxやJames Bluntなども。
今回はイーストロンドンにあるオフィスを直接訪問!在英17年の長野さんに、なぜ渡英したのか?どのような仕事をしているのか?環境面で苦労する点は?など、実際に仕事をしている現場で、渡英から現在に至るまでのさまざまなお話を伺いました。
目次
――長野さんは美大ではなく一般の大学を卒業なさっていますね。
大学では国際学部国際学科に所属していました。実は父がグラフィックデザインの事務所をやっていて、家にも画家だとかデザイナーだとか、そういった方面のかたが出入りしていたんです。ですが大学時代は、その当時の興味と反抗期的な面もあって、美大ではなく一般大学に進みました。卒業後はソフトウェア会社やISPで技術職についていました。
――卒業後の進路もデザイン分野ではなかったのですね。
はい。当時はまだインターネットの黎明期で知識がある人も少なかった時代ですが、私は学生時代から一般に普及し始めていたパソコンやデジタル技術、特に当時の言葉で言う「マルチメディア」に興味をもっていたので、IT業界にまずは就職しました。
そもそも美大卒でない人には新卒で入れるデザインの仕事はほぼありませんでした。その当時から、活気のあった東京アンダーグラウンドシーンでVJ(ビジュアルジョッキー)やDJ、フライヤーやWebのデザイン等を始めました。
――その後ロンドンへの移住を決めたきっかけを教えてください。
キャリアパスの方向転換と子どものころからもっていた海外生活への憧れがきっかけです。日本で身についてきたデジタル技術とデザインへの興味を融合させられないかと思い、2000年頃にデジタルメディアデザイン系の学科をアメリカとイギリスで探しました。そして、「ここだ!」と感じたロンドンに留学をすることに決めたんです。
――ロンドンでデザインの勉強をはじめてみて、いかがでしたか。
最初は言語の心配もあって、ロンドン芸術大学のカレッジであるロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーションで2年間の学士レベルのHND in Digital Meida Productionというコースをとりました。でも個人でいろいろ活動していたので、内容が簡単すぎたんです。
「これじゃ英語の勉強をしているみたいなものだ」と思って、今までの作品のポートフォリオもあるし、2年目は同じくロンドン芸術大学のキャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツの修士MA Digital Artsにチャレンジしてみました。そしたら通ってしまったので、前のコースは1年でやめて、2年目からはキャンバーウェルで勉強をすることになりました。
――卒業後の進路についてはどうでしょうか。
卒業後はフリーランスのWebデザイナー、グラフィックデザイナー、VJとして活動していました。実は在学中から仕事を引き受けていたんです。
デザインコンサルタンシーで働きながら大学に通っている同級生から「Webに詳しい人を探してるんだけど」というようなかたちで声がかかったりして。大学の中で人脈ができて、それがひろがって、卒業後もやっていけたというかんじです。
――マーケティングや営業はなさっていたのでしょうか。
2008年のリーマンショックまではほとんど必要ありませんでした。声がかかった仕事をきちんとまじめにやっていると、自然と次も声がかかるんです。手を抜くと次につながらなくなってしまうので、ぜったいに手抜きはダメです。ただ、リーマンショックの打撃というのはやはりあって、その後はマーケティングや営業もするようになりました。
――海外でセルフマーケティングですか。具体的な方法について教えてください。
結局仕事は人づてがほとんどなのでネットワーキングに力を入れ、エキシビションのオープニングや業界系のパーティー、ソーシャルイベント等にできるだけ顔を出すようにしました。
SNSやWebサイトのSEO対策を積極的におこなうのはもちろんのこと、こちらの文化には「リファレンス」いわゆる推薦状というのがよく使われるので、それを取り入れることも重要でした。
――渡英から約10年後にTamassy Creativeを起業なさっていますね。
なにか大きなきっかけがあって起業したというわけではないので、起業前と起業後で仕事内容はあまり変わっていません。ただ、声がかかる仕事の規模が大きくなってくると、個人では対応しきれないものもあるし、信用度も低い。そういった背景から起業にいたりました。
――個人だと信用に関わる問題もあるのですね。
はい。特に私は日本人で、移民ですから、英語の発音やカルチャーの共有などにも気を配っています。「やっぱりイギリス人に頼むほうが安心するから」という理由で仕事の機会を失わないように、信頼されるための努力には特に重きを置いています。
――過去のお仕事をご紹介いただけますか。
最近だと、Richard Bushという世界の一線で活躍するファッション写真家のWebサイトの制作とブランディングを請け負いました。
このかたのパートナー、Sarah M Richardsonも元i-Dのインターナショナルファッションディレクターであり、世界のトップブランドの仕事をこなす著名なファッションスタイリストなんです。先に彼女のポートフォリオサイト制作の依頼を受けて、それを気に入ってくれたRichardから依頼を受けたという流れです。
また、現代美術作家である妻がこちらでMystic Formsというジュエリーブランドを経営しているのですが、こちらについてもブランディングからプロダクトデザインまでおこなっています。過去には新世紀エヴァンゲリオンや、日本の東コレブランドなどとコラボレーションしました。
――Web上のデザインだけではなく、ブランディングやプロダクトデザインもなさっているのですね。
ブランディングからプロダクトデザイン、Webデザインまで幅広く対応しています。主にデジタルメディアを中心としたデザインや、技術的ソリューションのコンサルティング、製作などをおこなっています。
――大きなクライアントがついたり、幅広い仕事が受けられるのはなぜでしょうか。
技術者ともクリエイターとも話をすることができる、というのがTamassyの強みです。ビジュアルランゲージもテクニカルランゲージも話せる、というふうに表現したりもします。クリエイターはこだわりが強い人が多く、彼らのリクエストや指摘が技術者にとってはふわっとしていてわかりづらいことも多々あります。
私は自分でコードを書いていたので、クリエイターの特殊な価値観をきちんと理解したうえで、内容を技術者がわかる表現に落としこみ、具体的に指示をすることができるんです。だからこそ、クライアントが求めているものを技術者とも正確に共有し、より要望に近いものを作ることができます。
――仕事スタイルについて、日本との違いを感じるのはどういった点でしょうか。
イギリスに限らず、こちらの人は長い休みをきちんと取ります。その休みと休みの間に頑張って働いている感じです。それが当たり前なので、長い休みをとっても文句は言われません。個人的にはこのシステムのほうが総合的な仕事のクオリティーは上がると思います。
私は自営業なので、就労時間についてはある程度自分がやりたいようにできるのですが、人を雇うことで仕事スタイルの違いを感じました。今までこちらで何人かスタッフを雇ってきましたが、仕事が終わっていようがいまいが、定時になると帰る。10時から18時で実働7時間なのですが、18時になると「仕事は終わってないけど、定時なので」といって帰るんです、仕事が終わっていなくても。
残業したぶんは翌日遅く出社してもいい、というようなルールを作りましたが、誰も残業自体をしないのでほとんど利用されませんでした。
――長野さんご自身の仕事スタイルについてはどうでしょうか。
カルチャーまわりのことがとにかく好きなので、仕事後の時間にライブにいったり、ときには仕事を休んでフェスに行ったり、名門ダンスカンパニーでコンテンポラリーダンスを習ったりもしています。あとは、ギャラリーや美術館の展示はできるかぎりチェックしています。
――遊びにもアクティブなのですね。
ただ、これはすべて趣味でやっているというわけでもないんです。たとえばこちらのクライアントと話をしているとき、こうしたカルチャー関係の話題が出ます。そのときに「見ていない」「知らない」では話をすることすらできません。
経験したものすべてがクリエイションの引き出しになるうえに、クライアントとの価値共有のためのリサーチにもなります。「仕事だし」と言いながら遊ぶほど幸せな事はないと思っています。
――オフィスが入っているビル自体がとても魅力的ですね!
このビルにはクリエイティブ系の会社がたくさん入っていて、下の階にあるカフェで「先着50名ビール無料!」みたいな入居者のための集まりもあるんですよ。カフェ以外にバーもあって、暖かくなるとルーフトップバーは大混雑です。
――一般のかたが入ることもできるのでしょうか。
カフェやバーは一般のかたにも開かれています。一年に一度オープンスタジオという催しもあって、普段はオフィスとして活動している企業もドアを開けて、一般のかたが入ってきて中を見学できるようにするんです。
Tamassyはポスターを廊下に掲載して、映像をプロジェクションしたりしました。また、オリジナルグッズを作って販売もおこないました。
▲パターンから独自でデザインしたワインボトル専用トートバッグ
――今後の展望があればお聞かせください。
今まではイギリスのクライアントと仕事をすることが多かったのですが、その経験を活かしながら今後は日本のクライアントと積極的に仕事をしていきたいと思っています。
現在、海外進出したい、もしくはインバウンドの外国人向けにもっとアピールしたい日本企業を、デザインとデジタルマーケティングの側面からサポートするサービスを計画中です。日本文化をネイティブレベルで理解しつつ、ヨーロッパ市場の現状も把握しているデザインスタジオというのはなかなかめずらしい存在だと思うので、お役に立てるのではないでしょうか。
私はロンドンの多様な文化の衝突がうみだすカルチャーが好きなので、そういった多様性がこれからも失われないことを願っています。
(執筆:Asuka Nakajima)