フリーランス受け入れ前に「最低限決めるべきルール」を押さえよう
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フリーランスに仕事を任せたときに起きるトラブルの多くは、悪意ではなく「認識のずれ」によって起こります。
「そんなつもりで言ったわけじゃなかった」
「普通はこうするものでは?」
社労士として企業から相談を受ける中で、こうした言葉を耳にすることは少なくありません。
前回は、企業がフリーランスを活用する上で、契約やルールよりも「スタンス」や「期待」を共有しておくことが大切だとお伝えました。
今回は、その前提がすり合ったうえで、具体的に整備しておきたいルールや制度についてお話しします。

開業社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)、特にIT/Web業界を中心に支援している。趣味は同人活動で、評論同人サークル「さかさまダイアリー」より同人誌「村上春樹っぽい文章の書き方」シリーズなど発行。(X:@mo_himo)
目次
実際のトラブル事例で考えます。
あるIT企業で、フリーランスのデータアナリストを迎え入れた際のこと。社内のSlackに招待したものの、オープンな社風ゆえにアクセス権限を細かく調整していませんでした。
その結果、社員の人事情報や給与、家族などセンシティブな情報まで見える状態になっていたのです。
フリーランスは「見てはいけない情報を見てしまった」という罪悪感と、「自分の情報も今後きちんと保護されないのではないか」という不安を抱き、契約を途中で終了する判断に至りました。人事担当は「悪用するような人には思えなかったし、そこまで見るとは思わなかった」と話しましたが、時すでに遅く、信頼関係は損なわれていました。
このIT企業では以前、フルリモートで業務委託したフリーランスのエンジニアが十分に稼働せず、納期に遅れそうになる事態が起きました。
企業は「もう少し稼働時間を増やして対応して欲しい」と求めましたが、本人は「契約書に列挙された業務は全て完遂している。追加は別途見積もりで対応する」と主張。話し合いは平行線を辿りました。
このケースの場合、契約書を見ると、実装してほしい機能は漏れなく記載されていました。そしてエンジニアは、要件どおりの最小限の実装を淡々と進めていました。
一方で企業側は、記載の機能を満たしたうえで、使い勝手や見た目の作り込みまで含めた「良い感じ」の仕上がりを期待していたのです。契約書には稼働時間の目安や報告頻度も明記されていなかったため、すり合わせのコミュニケーションも後手に回りました。結果として、双方の認識は最後まで交わらず、契約は終了。
「裁量」の範囲と期待する完成度を具体化せず、稼働や報告の仕方も共有していなかったために起こったトラブルと言えます。
また、社労士として経営者から相談を受けていると、「契約書にはしっかり書いてあったが、現場が把握していなかった」という状況にもしばしば出会います。契約書やガイドラインが形式的に存在しても、日々フリーランスとやり取りする現場社員が読んでおらず、理解していないケースです。
たとえば、「成果物の修正は1度まで」という取り決めがあるのに、五月雨式に何度も修正を依頼してしまう、といった例が典型です。
もちろん、当事者同士が合意したうえで契約内容を超えた対応をすることには何の問題もありません。また、「無理を承知の上でご相談」と言われれば、気持ちよく対応するフリーランスも少なくないでしょう。
しかし、現場社員が契約内容を把握していない場合、「やって当然」という態度で依頼してしまいがちです。こうなれば、フリーランスの態度は硬化。意図せずして信頼を損ねる原因になるのです。
制度整備というと大げさに聞こえますが、要点はシンプルです。
特に次の4点は、最初に確認しておく価値があります。

情報の取り扱い
どの範囲まで社内データやツールにアクセスするかの線引き
コミュニケーション手段
望ましい連絡手段、応答スピード、頻度など
成果物の定義
修正や追加対応の範囲をどこまで含むか
責任と対応範囲
納期遅延や不具合発生時の責任と再対応の範囲
これらは、形式的に文書化するだけでなく、打ち合わせの場でも確認することが重要です。
契約書の条文よりも、「どこまでが企業の責任で、どこからがフリーランスの裁量なのか」を双方で理解しておくことが、関係の安定につながります。
フリーランスとの協業は、相互の信頼が要です。しかしその信頼を「感情」だけに頼ると揺らぎやすくなります。
現場社員にもしっかり共有することで、「フリーランスの〇〇さんにどこまで共有してよいか分からない」といった迷いを減らしておければ、協業トラブルの多くは防げます。
ルールは相手を縛るためではなく、むしろ安心して仕事を任せ合うための枠組みなのです。
(執筆:もひもひ、編集:夏野かおる)