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フリーランスの皆さん、突然ですが「フリーランスが最も働きやすい環境」ってどんなものだと考えますか?
「仕事がもらえる環境だ」「いやいや、自然豊かな場所でしょ」「子育てに向いている地域がいい」……など思いは人それぞれで、答えを出すのは難しい問題です。
しかし、そんなテーマに挑み続けてきたのが、“東洋のガラパゴス”とも称される自然豊かな奄美大島に位置する自治体「奄美市」。2015年から「フリーランスが最も働きやすい島化計画」を始動させ、島内の労働環境を整えてきました。
今回は、そんな奄美市のフリーランス施策担当・森永健介さんと、2年ほど前に大阪から奄美大島に移住してフリーランスになった藤原志帆さんに、計画の概要や島での暮らしを聞き、「フリーランスが最も働きやすい環境」について一緒に考えてみました。
奄美市名瀬出身。民間のシステム開発企業を経て、2013年に鹿児島県奄美市役所に入所。その後、国民健康保険や国民年金を扱う課や島外への出向を経て、令和元年度よりフリーランス支援担当として、奄美市における情報通信技術を活用するフリーランスへの支援を実施。
大阪出身、26歳の時に奄美大島へIターン。大阪大学外国語学部卒業。在学中はチリ、スペイン、アメリカに留学し、中南米の6カ国28都市をバックパッカーとして周遊。その後新卒で不動産広告のITベンチャー企業に就職し、トップセールスを獲得する。美しい海に憧れて奄美大島に移住した後は、フリーライター、アフリカンダンサー、ブロガー、通訳士(スペイン語・英語)、予備校スタッフ、島料理屋など多方面で活動。
なんとなく移住に憧れはあるが、生まれも育ちも東京なのでイマイチ実感がわかない。
目次
齊藤:
奄美市が進める「フリーランスが最も働きやすい島化計画(以下、計画)」とは、具体的にどのような内容なのでしょうか? まず、計画の概要について教えてください。
森永:
計画では、「フリーランスが最も働きやすい環境をつくる」ことに焦点を当て、奄美市の情報通信環境を整備してきました。同時にフリーランス関連の講座を実施する「フリーランス寺子屋」事業などを通じ、フリーランスの育成に力を入れています。
森永:
また、仕事の支援/斡旋や移住促進事業も行っているほか、ランサーズ株式会社やピクスタ株式会社、GMOペパボ株式会社といった東京の大手クラウド系企業の方々と協定を結び、フリーランス寺子屋で、それぞれの知見や技術を講師として立っていただく形でフリーランスへ提供できる仕組みを整え、最新の情報を入手できるよう工夫しているのも特徴です。
齊藤:
単に移住を促進するだけでなく、仕事やスキルの面まで支援してくれるのは心強いですね! しかし、なぜ奄美大島でこの計画を実施することになったのですか?
森永:
奄美大島は本州と離れた離島です。自然豊かな土地ですが、島に大規模な産業がないことも影響して昨今は人口流出に悩んでおり、打開策として情報通信(ICT)環境の産業の振興に取り組んできました。
すると、2015年ごろから、島に移住してくるフリーランスも見られるようになったんです。そこで、彼らを支援するとともに、従来から島内に住む人材のフリーランス化、島外人材の移住なども通じて、「フリーランスが最も働きやすい島化」することで奄美大島の振興に繋げようと計画がスタートしました。
齊藤:
フリーランスの移住者が増えたことから計画を構想されたのですね! 藤原さんは奄美大島に移住された後、フリーランスになったと聞きました。なぜ移住し独立しようと思われたのですか? 決断に至った経緯も教えてください。
藤原:
美しい海のある街での生活に憧れがあったんですよね。学生時代から旅が好きで、バックパッカーとして世界を飛び回っていたこともあって。新卒でITベンチャー企業に入り、不動産広告の営業を担当させてもらっていて仕事も楽しかったのですが、組織の中で働き続けることに対して漠然とした不安感もありました。
藤原:
そこで、かねてから憧れていた海に近い暮らしやフリーランスという働き方をしてみようと思って奄美大島に移住しました。大阪にいた頃は、なんとなくフリーランスに憧れはあったものの、実際にどんな仕事ができるのかさえ知らなかったので、完全にゼロの状態からのスタートということになりますね。
齊藤:
完全にゼロからの移住! いきなり仕事を辞めてのフリーランスデビューでもありますし、やはり不安はありましたか?
藤原:
そうですね。すぐにフリーランスだけで食べていけるとは思っていなかったので、まずはフルタイムで働きながらフリーランスとして仕事を始めるために勉強することから始めました。移住する前から「フリーランス寺子屋」のプログラムがあるのは知っていたので、絶対に講座を受けに行こうと決めていましたね。講座で得た知識や人とのご縁のおかげもあって、今ではフリーライターやブロガーとしてお仕事をいただけています。
暮らしの面では、島での生活はとても楽しく、自然豊かな場所での暮らしや優しい地域の方との交流で充実していました。島にはイオンや大きな総合病院もあるので、日常生活には不自由しないんですよ。
齊藤:
なるほど。藤原さんの言う「フリーランス寺子屋」ではどんなことを教えてもらえるんですか?
森永:
ここは私からお答えしますと、島内外からさまざまな講師の方をお呼びし、ライティングやプログラミングといったスキル面から、税務や子育てなど、フリーランス生活の心得までを教えています。
藤原:
フリーランス未経験の私にとっては、育成プログラムが充実していて本当に助かりました。ただ単にスキルを教えて終わりではなく、「フリーランスの現実」といった厳しい話もされたので、それがすごくためになりましたね。
齊藤:
計画がはじまってから5年ほどたちましたが、何か成果や変化はありましたか?
森永:
当初は5年計画として「市内でフリーランスを200名育成する」「50名のフリーランス移住を実現させる」など目標を立てていたんです。それが結果として、フリーランスは5年で202名育成、移住者は5年で38名と、一定の成果を上げることができたと思います。
齊藤:
それはすごいですね! なぜそこまで移住者が増え、フリーランスを育成できたのでしょう?
森永:
まず、計画そのものは島の情報を発信する地域サイト『しーまブログ』などを運営する株式会社しーまさんと協力して推進したのですが、しーまさんのご尽力で実績を残せた面は大きいと思います。
森永:
また、「フリーランス寺子屋」は午前/午後通じての開催になったり、課題があったりもします。受講者にとっては大変なプログラムになる場合もありますが、多くの方にご参加いただき、参加者が主体的に学習してくれたのはよかったです。
一方、受講後の生徒さんたちの中に、独り立ちして稼げるようになる人が少なかったのも事実でした。求める収入額はそれぞれですが、やはり向き不向きの分かれる働き方で、継続して稼げる人を多く育てられなかったのは反省です。
齊藤:
やはり、憧れだけでは限界があるんですね……。
森永:
はい。ですから、フリーランスとして生計を立てることを志望して相談にいらっしゃる方には「まずクラウドソーシングでチャレンジしてみて、感覚や適性を知ってほしい」とお伝えしています。特に、移住者の方に対しては、移住していただけることはもちろん有難いのですが、島の現実やフリーランスとして活動する難しさを相談窓口でしっかりと共有します。
元々、移住前からフリーランスとして技術も受注先も確立している方は問題ありませんが、新しくフリーランスとして活動されることを希望する移住者がいきなり生計を立てられるものではないことはしっかり伝えなければいけないと考えています。
藤原:
小さく試すのは大切ですよね。私自身は、いま思えば国内外あちこちを旅したり、自然や人との付き合いが好きだったりと、移住前から島でのフリーランス生活を楽しめる気質があった気がします。独立について「一度やってみてから」と森永さんがおっしゃっていましたが、移住先も選ぶ時も同じ。まず旅行でもいいので候補地を訪れ、自分にとって充実した生活ができそうかという視点で冷静に見てみることが大切だと思います。
齊藤:
お二人は「フリーランスが最も働きやすい環境」に大切なものはなんだと思いますか?
森永:
まず、大前提ですが「働ける環境」がないとダメですよね。移住先にまったく仕事がなければ、いくら魅力的な土地でも生きていくのは難しいです。テレワーク全盛の時代ではありますが、そもそも光回線が通っていない土地ではかなり働きにくいですし。
藤原:
そうですね。実際、仕事を紹介してもらえる環境もあって本当に働きやすいです。特にわたしのようにフリーランス未経験の場合やデビューしてすぐの方にとっては、住んでいる場所に仕事があった方が、何かトラブルがあった場合でも直接相手と顔を合わせることができるという安心感もありますよね。
私は未経験で島に来たので、仕事の受け方や探し方さえ分からなかったのですが、奄美市やしーまさんを通して案件の仲介や斡旋があったおかげで仕事に慣れていくことができましたし、今では個人で仕事を受注できるようになりました。知識面の指導だけでなく、実践的な業務を通じての学びの場があることもフリーランスの働く環境には大切かもしれないですね。
森永:
学びという点でいえば、「最新のトレンドを学べる場」があることも重要です。これは東京だと当たり前にあるものかもしれませんが、地方ではどうしても情報格差があるので。フリーランスやIT業界はトレンドの移り変わりが早いため、最新情報に触れられる環境は必須だと思います。
齊藤:
考えてみると、どれも大切ですね……。一方、私自身はフリーランスとして働くうえで「人とのつながり」が大切だと実感しています。その点はどう感じますか?
森永:
それはおっしゃる通りで、私も周りの人たちとつながりやすい環境は欠かせないと考えています。なので、奄美市のフリーランス協会を創設したり、講座の卒業生たちのSlackグループをつくったりと、フリーランスたちをつなぐ工夫をしています。
藤原:
島に移住してきた頃、自分のロールモデルになるような先輩方を紹介していただいた記憶があります。フリーランスの知り合いが誰もいなかったので、心強かったです。
齊藤:
あとは、仕事だけではなく普段の生活も大切になってきますよね。
藤原:
本当にそうですね! 特に私のようなライターの場合、生活で経験したことや感じたことが、仕事に直結するので。たとえば奄美大島の伝統行事である海開きのイベントに参加させてもらったことがあるのですが、そうした体験や島での普段の生活をライターとして発信することが仕事にもつながっています。生活と仕事が一体になり、どちらも楽しめているのが充実している要因かもしれません。
齊藤:
計画のほうは、2020年いっぱいをもって第1ステージが終了になり、今後5年間を「第2ステージ」と位置付けて計画を発展させていくと聞きました。
森永:
はい。第2ステージではこれまでの取り組みを発展、継続させていくとともに、「成功者のモデルケースの普及」と「島内のフリーランスたちの連携」ができる仕組みを整えたいと考えています。
森永:
具体的な取り組みとしては、奄美市産業支援センターの2階にコワーキングスペースや各種支援、セミナー開催機能などを集約した施設『WorkStyle Lab』を新設し、コミュニティマネージャーを中心としたコミュニティ形成を目指しています。
齊藤:
「フリーランスたちの拠点」という感じでいいですね! 拠点やコミュニティができてくると、そこで仕事が生まれる可能性もありそうです。
森永:
そうなんです! これまでは、フリーランス寺子屋の卒業生の方々でも、島内の中・小規模事業者との直接の取引が多くはありませんでした。
今後は、WorkStyle Labに地元の企業の方などもお呼びし、島内フリーランスと地元企業のマッチングを実現させて「仕事の地産地消」ができるようにしたいですね。
齊藤:
仕事の地産地消……! その土地ならではの魅力的な仕事が生まれそうです。
森永:
はい。奄美大島だからこその仕事を循環させていきたいですね。「フリーランスが最も働きやすい島」になるため、これからも「働きやすさとは何か、そのために何ができるか」を考え続けたいと思います。
「フリーランスが最も働きやすい島」を目指し、5年以上も島内環境を整備してきた奄美市。ICT環境の構築に始まり、フリーランスへの支援や育成、移住促進を通じて、未経験のフリーランスを独り立ちさせられる島をつくってきました。
そんな奄美市の取り組みから感じた、フリーランスが働きやすい環境に必要な条件は以下です。
もちろん、人それぞれ働きやすい環境は異なるでしょう。しかし、仕事の有無や情報へのアクセス、生活の充実度は誰にとっても大切な条件になると思います。
昨今はテレワークや多拠点生活の普及により、地方移住を考えるフリーランスも増えてきました。その際には、ぜひ一度立ち止まって「本当にフリーランスが働きやすい環境が整っているか」を考えてみてください。
(取材&執筆:齊藤颯人 編集:泉)
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