【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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本業以外の空き時間に、副業(すきまワーク)をおこなう人が増えています。全就業者のうち約12%が副業をしていると推計されており、副業はそこまで珍しいものではなくなってきているでしょう。
一方で、副業を禁止している会社は未だに多くあります。
そもそも企業が副業を禁止することは、法的に有効なのでしょうか。今回はそのあたりを深掘りしていこうと思います。
弁護士(日比谷タックス&ロー弁護士法人所属)。2020年9月まで経済産業省産業人材政策室に任期付き職員として就任し、兼業・副業やテレワーク定着等の柔軟な働き方の促進、フリーランスの活躍、人材版伊藤レポート策定等、生産性向上に向けた働き方改革の推進に従事。現在の法律事務所復帰後も兼業・副業の促進等働き方に関する寄稿やセミナー等をおこなう。
働き方改革以降、副業・兼業を許容する企業は増えてきていますが、依然として多くの企業では副業を禁止しています。
しかし、法的には副業・兼業は原則として自由におこなうことができ、むしろこれを禁止することは例外的場面に限られると考えられています。
それは下記のような考え方が理由です。
- 労働契約上の義務を負うのは労働時間のみであり、労働時間以外はプライベートとして自由に過ごすことができる
- 労働者には憲法上「職業選択の自由」が保障されている
あまり数は多くないですが、古い裁判例でも、副業の禁止について職業選択の自由に言及しつつ、副業許可規定を公序良俗違反であるとして無効としたものがあります。
現在では副業許可制は一般に有効と解されており、許可制度が無効とは解されていません。しかし副業・兼業を一切禁止することは違憲とまではいわずとも、憲法上も問題ではあるでしょう。
副業が原則自由であっても、例外的場面では副業を禁止できます。これは学説、裁判例ともに一致した考え方です。
労働者には私生活上の自由や職業選択の自由が認められる一方で、会社に対して誠実に労働を提供する義務や、いたずらに企業の利益を毀損させないようにする義務も負っているためです。
副業・兼業の促進に関するガイドラインでは、以下のような場合には副業を禁止できるとしています。
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏えいする場合
- 競業により自社の利益が害される場合
- 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
では具体的に、副業禁止が認められるケースについて見てみましょう。
本業先での仕事が終わったあと、そのまま副業先で仕事を開始し、深夜労働になるような場合には、過労によって本業先での労務提供に支障が生じる可能性が高いため、副業禁止が認められることが多いです。
小川建設事件・東京地決昭和57年11月19日、日通名古屋製鉄作業事件・名古屋地判平成3年7月22日、マンナ運輸事件・京都地判平成24年7月13日など、過去の裁判でも副業禁止が認められています。
本業と競業する会社で副業をし、さらに副業先での役職が管理監督者や役員など、経営に近いレベルの役職である場合、本業先の企業秘密が副業先でも利用される可能性が高くなるため、企業秘密の漏えいを理由として副業を禁止することが認められることが多いです。
橋元運輸事件・名古屋地判昭和47年4月28日では、本業先の役付社員が競業他社の役員に就任したことに対しておこなった懲戒解雇を有効としています。
病気休職中に、賃金を受け取りつつ、本業とは両立し得ない程度の事業を開始した場合には、もはや本業の仕事に従事する意思がなく、本業の仕事に支障を来すとして副業の禁止が認められることが多いです。
ジャムコ立川工場事件・東京地八王子支平成17年3月16日では、本業を病気休職中に本格的にオートバイ販売等の事業を開始したことに対してなされた懲戒解雇を有効としています。この事案では、休職中も手当が支給されており、これを受けとりつつ他の事業をおこなうことによる職場秩序への影響も考慮されています。
一方で以下のようなケースでは、副業が認められない場合が多いです。
平日は本業先で仕事をしつつ、土日や休日などに副業をおこなうパターンでは、副業を禁止できないことが多いです。
深夜労働などによって休息が確保できないまま次の日の本業での仕事が開始されるわけでもなく、本業の労務提供上の支障が生じる可能性が低いためです。(例:東京都私立大学教授事件・東京地判平成20年12月5日、上記マンナ運輸事件)
競業会社での副業であっても、単なる一般社員である場合には、情報漏えいのリスクも少ないため、副業を禁止できないことが多いです。
十和田運輸事件・東京地判平成13年6月5日では、貨物運送を営む本業先ではたらく従業員が、副業として貨物運送をおこなった事案で、これを理由とする懲戒解雇を無効としました。
休職中に副業として仕事をした場合であっても、短期間かつ短時間、いわばリハビリとして副業をおこなったような場合には、本業での仕事に支障が生じていないため、副業を禁止できないとされることが多いです。
同様に判断したものとして、平仙レース事件・浦和地判昭和40年12月16日があります。
裁判例に照らすと、副業禁止が認められるかどうかは、形式的に判断することは難しいです。
本業先・副業先でのそれぞれの業務内容、労働時間(時間帯も含む)、労働日、役職に照らして、先にも述べた4類型にあたるかどうかを個別具体的に判断する必要があるでしょう。
【副業禁止が認められるパターン】
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏えいする場合
- 競業により自社の利益が害される場合
- 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
副業は黙っていても、企業に発覚されることがあり得ます。
まず、住民税の特別徴収との関係で、自社での給与に対して住民税が高すぎる場合、他に収入を得ていることが発覚する可能性があります。
また、本業先・副業先の両方で社会保険の加入条件を満たす場合、「二以上事業所勤務届」を提出することとなります。これにより、社会保険料は本業先・副業先の双方の標準報酬月額によって計算され、社会保険料の納付は各企業(事業所)の報酬で按分することとなります。
その結果、本業先に「健康保険・厚生年金保険資格取得確認、二以上事業所勤務被保険者決定及び標準報酬決定通知書」が送られ、企業に副業が発覚する可能性があります。
副業は確定申告しないと会社にバレる? ポイントは「住民税」にあり【税理士監修】
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多くの企業では「許可なく副業をしてはならない」旨が定められており、会社に申告せずに副業をおこなっていたことが会社にバレた場合、就業規則違反を理由として懲戒処分や、退職金の不支給や減額がされたりすることがあります。
ただしこれらの懲戒処分等がなされても、副業は原則として自由であるという考え方から、これが法的に「有効」であるかは別問題であり、上記のような事由がない限りは、懲戒処分等は無効になります。
そのため副業がバレた場合には、会社の利益を毀損するようなものではなく禁止できない副業であったことを説明し、会社に納得してもらうことが必要でしょう。
仮にそれでも処分をされた場合には、弁護士に依頼するなどして交渉するか、裁判等で争うしかありません。
今回見てきたとおり、副業は原則自由であることから、副業を禁止できるケースは意外と限られています。
そのため本業に支障がなかったり、情報漏えいの可能性も低いような副業の場合には、本業に隠れて副業するのではなく、適切に申告し、禁止できる範囲のものではないことを説明するとよいでしょう。
他方で、いくら副業が自由であるとしても、無制限ではありません。会社の利益を毀損するようなものはおこなわないようにし、会社との信頼関係を損なわないよう気をつけましょう。
(執筆:じきるう 編集:Workship MAGAZINE編集部 監修:堀田 陽平弁護士(日比谷タックス&ロー弁護士法人))
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