がん治療にかかるお金はいくら?フリーランスが知っておきたい医療費・制度・保険の話
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がんの入院・手術をしたら、合計でいくらかかると思いますか?
結論からいうと「病状によってピンキリ」なのですが、そんな答えでは実際のピンチに備える気が起きないですよね。
そこで今回は、先日子宮頸がんが判明して入院・手術した私が、実際にかかった費用を大公開したいと思います!
「がん保険や医療保険に加入していないけど、大丈夫かな…」と思っているフリーランスは、ぜひ参考にしていただけたら嬉しいです。
▼がんが発覚した経緯や、入院・手術と仕事の両立に関しては、こちらの記事で紹介しています
がんが突然やってきた日。フリーランスの私が仕事を止めずに乗り越えた方法
Workship MAGAZINE
株式会社となりの編プロ 代表取締役/編集者・ライター。大学卒業後に大手信託銀行で住宅ローンや投資信託などの営業を担当。その後、不動産関連会社、証券会社、ITベンチャーを経て、2017年12月よりライターとして、2020年頃より編集者として活動。2023年12月に法人化し、主に金融・ビジネス・人材系のコンテンツ制作に携わっている。(となりの編プロ公式サイト)(X:ayumi_writer)
私は今回、以下のようなスケジュールで2回の入院・手術を経験しました。
- 3月上旬:胎児の中絶手術(1泊2日で入院)
- 3月下旬〜4月上旬:子宮頸がんの手術(10泊11日で入院)
かかった医療費はこちらです。3月下旬〜4月上旬の入院は、月ごとに分けて計算されています。
3月入院分(1回目):113,000円(保険適用分53,100円、自費分60,000円)
3月入院分(2回目):209,466円(保険適用分44,466円、自費分165,000円)
4月入院分:279,970円(保険適用分80,320円、自費分199,650円)合計:602,436円(保険適用分177,886円、自費分424,650円)
※中絶手術は通常だと保険適用外ですが、今回はがん治療の一環となるため健康保険が適用されています
どうでしょうか、この金額。払えそうでしょうか。なかなかパンチの効いた金額だと思います。
▲実際の請求書はこちら
しかもこれは、がんの「手術のみ」の金額です。私は他部位への転移がなかったので、手術だけで治療をほとんど終了できましたが、もし転移があったら、このあとに抗がん剤治療や放射線治療が待っていました。
もし治療が継続していたら、仕事ができる時間が減り、それに伴って収入も下がり、しかし医療費はかかり続ける……。今の生活を維持するのは難しかったでしょう。
皆さんの解像度をさらに高めるために、次の項目からは、かかった費用の内訳について説明していきます。
まずは、保険適用分についてです。本来ならばより高額なはずの入院費について、3月入院分が約97,000円、4月入院分が約80,000円で収まっているのは「高額療養費制度」のおかげです。
高額療養費制度とは、その月にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、自己負担限度額を超えた分が払い戻される制度です。
本来は、かかった医療費を窓口で支払い、後から自己負担限度額を超えた分を受け取るのですが、事前に健康保険組合や自治体の窓口などで「限度額適用認定証」を取得しておけば、そもそも窓口で「自己負担限度額まで」しか支払わなくて済みます。
また、最近になって制度が変わり、入院する際に「マイナ保険証(健康保険証利用登録を行ったマイナンバーカード)」を提示して「限度額情報の表示」に同意すれば、限度額適用認定証を用意しなくても自動的に自己負担限度額までしか支払わなくて済むようになりました。便利ですよ!
高額療養費制度の自己負担限度額は、その前年の所得を元に、以下のように計算します。
フリーランスの場合、標準報酬月額は決められていませんので、自分で「報酬月額」を算出して、自己負担限度額を計算します。報酬月額は「旧ただし書き所得」から算出する必要があり、以下の計算式で求められるそうです(詳しくはこちら:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」)。
報酬月額=(前年度の事業所得ー住民税の基礎控除)÷12ヶ月
例)前年度の年収が350万円、住民税の基礎控除が43万円だった場合
報酬月額=(350万円ー43万円)÷12ヶ月=25.6万円
→「区分エ」に該当する
私は「区分ウ」に該当したため、3月・4月に支払った医療費が約8〜9万円だった、というわけです。
なお、抗がん剤治療や放射線治療など長期の治療が必要な場合、高額療養費制度の対象となる月が4ヶ月続くと、「多数該当」欄の金額が適用され、さらに金銭的な負担が軽減されます。
もし高額療養費制度が適用されていなかったら、医療費はどれくらいだったのでしょうか。
診療明細書に記載されている「診療報酬」の点数から算出してみたところ、こんな結果になりました。
3月入院分(1回目):17,209点×10円=172,090円
3月入院分(2回目):126,900点×10円=1,269,000円
4月入院分:24,054点×10円=240,540円合計:1,681,630円
3割負担の支払い額:504,489円※1点=10円で計算
つまり、本来なら約50万円かかるはずだった保険適用分の医療費が、高額療養費制度によって17.7万円で済んだわけです。
ちなみに、上限額は月ごとに設けられるので、自己負担の金額を極力下げたいなら、ひと月の間にすべての入院・手術を終わらせるのがおすすめです。患者側が入院期間や手術日をコントロールするのは難しいですが、どうしても経済的に厳しいときは医師と相談するとよいでしょう。
私も本当は3月中に退院したかったのですが、病院側のスケジュール的に難しかったです。手術を延期すれば可能だったかもしれませんが、それで体への負担や致死率が上がるのは本末転倒なので、最短スケジュールで手術を受けた結果、2ヶ月に渡ることになりました。
ちなみに私のがんが発覚した時期、国会では「高額療養費の引き上げ」が取り沙汰されていました。結局その案は見送られましたが、高額療養費の引き上げはガチで死活問題です。永遠に反対しましょう。
次に、自費での出費についてです。今回私は個室に入院したため、差額ベッド代が1日あたり3万円かかりました。単純計算で、1日3万円×13泊=39万円です。高い、高すぎる!!!
なぜ、差額ベッド代を支払ってまで個室に入院したのか。その理由は、私が入院したのが「全室個室」の病院だったからです。その病院で手術するならもれなく個室に入ることになり、差額ベッド代がかかるという仕組みです。
この出費を避けるために転院する選択肢もありましたが、主にふたつの理由から、私はこの病院に入院し続けることを選びました。
ひとつは、この病院でがんが判明したからです。私のがんは早期発見とはいえず、妊娠中という事情からしても早急な判断が必要でした。よって、転院先を探す時間が惜しいという事情がありました。
もうひとつは、担当医が信頼できる方で、病院自体にも十分な手術実績があったからです。ここで差額ベッド代をケチって、手術に失敗したり予後が悪くなったりしたら元も子もないと感じたのも判断理由になりました。
そんなわけで個室に入院したのですが、入院生活はとても快適でした!手術後は非常に体調が悪いので、細かいことに気を回している余裕がありません。周囲に人がいないストレスフリーな環境がありがたかったです。
なおかつワーカホリックなので、周囲に遠慮せず仕事ができたこともよかったです。オンラインミーティングもできるほどフリーダムでした。
なお、差額ベッド代は「実質的に患者の選択によらない場合」は請求されません。例えば以下のようなケースです。
- 同意書による同意の確認を行っていない場合(同意書に室料の記載がない場合も含む)
- 治療上必要があって個室に入院させた場合(病状が重篤なため安静を必要とする場合など)
- 病棟管理の必要性などから個室に入院させた場合(個室しかベッドの空きがない場合など)
※参考:厚生労働省「「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について」
もしあなたが何らかの事情で入院したとき、大部屋が空いていたのに理由もなく個室に入れられた場合や、室料の説明がないまま個室に通された場合には、「差額ベッド代は請求されないですよね?」と確認しておくとよいでしょう。
今回「差額ベッド代を払おう」と思えたのは、「がん保険の保険金」が入る予定だったことも影響しています。
私は第一子の出産後、医療保険やがん保険に加入しました。独身時代は保険の必要性をあまり感じなかったものの、子どもが生まれ、私が家計の柱を担うようになってからは、備えることの重要性を感じるようになったのです。
入ったのは、保険料が月1,400円程度の医療保険と、月1,700円程度のがん保険。いずれも、解約時にお金が戻ってこないけれど、保障は一生涯続く「終身保険」です。
今回、医療保険とがん保険からは、以下の保険金を受け取ることができました。
●医療保険から
●がん保険から
特にインパクトが大きかったのは「がん診断給付金」です。これはがんと診断された初回しか受け取れません。しかし差額ベッド代をカバーできるほどの金額だったので、とてもありがたかったです。
もし抗がん剤治療や放射線治療も発生していたら、上記に加えて「抗がん剤治療給付金」や「先進医療給付金」が下りる予定でした。しかし治療が長引くほど、保険金だけでは支出がカバーできなくなってくるので、がん治療は費用面においても「早期決着」が重要だと感じました。
今回の顛末を教訓として私がフリーランスの皆さんにお伝えしたいのは、「日頃から健康診断やがん検診を受けよう」ということです。
会社員や公務員を辞めると、強制的に健康診断を受ける機会がなくなります。私の周囲のフリーランスや専業主婦の友人も、「そういえばもう何年も健康診断に行っていない」と話す方が多い印象です。
しかしがんは放置すればするほど、気づいたときには病状が重くなっています。私の場合も、少量の不正出血以外の症状はなく、体調も良かったです。がんは、本人が無自覚のうちに取り返しのつかないところまで悪化するものなのだと痛感しました。
私のように後悔する結果になってほしくはありません。ぜひ健康診断やがん検診に行ってください!
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費用面では、特にがん保険に救われる結果となりました。保険金を受け取ったのはこれが初めてでしたが、保険はピンチに陥ったときにとても頼りになる存在なのだと実感できました。
どれくらいの保障内容が必要かは各人によって異なりますが、家計を支えている人は特に、医療保険やがん保険への加入を検討してみてはどうでしょうか。
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今回急にがんになり、結果的に手術のみで経過観察に入ることができました。つらい判断があったので手放しでは喜べませんが、心底「まだ死ねない!!!」と思った数ヶ月間でした。
私は卵巣やリンパ節を取り去ってしまったので、今後も骨粗しょう症や心筋梗塞、リンパ浮腫などになるリスクがあります。でも、どんな形でもいいから長生きして、自分らしく生きていきたい。そのためにはやっぱり経済的な基盤が必要になるので、これからもさまざまな案件を通して経験を積み、末永く働いていきたいと思います。
自営業者のための「がん」サバイバルガイド
(執筆:金指歩、編集:夏野かおる)