実質週休3日も可能。Sprocketの「休日を自分で決める」制度が法律逆算型でおもしろかった

働き方の多様化が進み、フレックスタイム制やリモートワークを導入する企業も珍しくなくなった昨今。「法定休日を自分で決める制度」を取り入れているのが、CX改善プラットフォームを提供する株式会社Sprocketです。

同社では、法定休日(週の休日)を自分で決める制度により、「平日は差し込みタスクが多いので、土日に集中して仕事を進める」「平日にディズニーランドへ行きたいから、そのぶん土日に働く」など、それぞれのライフスタイルに合わせた働き方を実現しています。実際、前事業年度には社員27名が計116回、この仕組みを利用したのだとか。

唯一無二な社内制度を持つ企業に、企業カルチャーを醸成するコツを聞く連載企画「すごい社内制度」。今回は株式会社Sprocket HRディレクター・佐藤登俊さんに、法定休日まで社員自身に委ねる制度が生まれた背景や、「社員を信用して決定権を渡す」という組織哲学、自由な働き方を成立させるルールやカルチャーについて伺いました。

株式会社Sprocket HRディレクター・佐藤登俊氏
株式会社Sprocket HRディレクター・佐藤登俊氏

求人広告・コールセンター業界で約15年間、営業・マネジメントに従事。2020年に決済代行を手がける株式会社DGフィナンシャルテクノロジーで人事へキャリアチェンジし、採用・労務・評価運用・組織開発など人事領域全般を担当。株式会社ギャプライズなどデジタルマーケティング企業2社で人事責任者を歴任後、現在は株式会社SprocketのHRディレクター。IPO準備と並行して労務・制度設計を担うほか、AIを活用した人事業務の仕組み化にも取り組む。

法定休日を自分で決める? Sprocketの自由な働き方

――Sprocket様では、法定休日を社員自身で決められるそうですね。大胆な制度ですが、この制度を思いついたきっかけについて聞かせてください。

佐藤登俊さん(以下、佐藤):
前提としてSprocketでは「一般的な会社がこうだから、うちもこうしよう」といった制度の作り方はしません。まず「自分たちはどういう組織でありたいか」という理想があって、一般的なやり方と合わない部分があれば、制度として整えていきます。

――理想の組織像から、逆算して制度を考えるんですね。

佐藤:
根底には、社員を「管理する対象」ではなく、「対等な仲間」と捉えるSprocketの文化があります。

▼Sprocketが考える「仲間を信頼する組織」(note記事)
https://note.com/sprocketrecruit/n/nd088df64dff4

佐藤:
Sprocketでは、社員全員が「プロであること」「事業成長にコミットすること」「大人であること」を満たすよう求めています。この3つの条件を満たしていれば、大幅な裁量と自由度を持って働くことができます。

働く時間や場所を細かく管理するのではなく、「自分のパフォーマンスを最大化できる働き方は、社員自身が一番わかっている」「会社は、社員が成果を出すために、パフォーマンスを最大化できる環境をつくる」という考え方で、社員と向き合っています。

佐藤:
働き方についても、成果が出ていれば働き方は問わない勤怠スタイル(フルフレックス・リモートワーク)です。今回はこれに加えて、法定休日も社員自身で決められるほうがよいと考えたわけです。

――あまりにも自由な働き方で、イメージが湧きづらいです。改めて、Sprocketの勤務時間について教えてください。

佐藤:
まず、弊社はフルフレックス制ですので、月のトータルの労働時間だけが決まっており、そのなかで自由に働き方を組み立てていくことになります。「今日は長めに働こう」「この日は休もう」といった調整を、自分自身で行います。

私自身も、「天気がいい日に釣りに行こう」と決め、天候に合わせて勤務日をずらすことがあります。曜日ではなく、空模様に合わせて休みを取れるのは、かなりありがたいですね。

次に法定休日ですが、労働基準法では、企業は必ず「週に1日以上」の休日を与えることとなっています。これが「法定休日」です。

通常、多くの会社ではこれを「日曜日」に設定していますが、弊社ではこれを自己申告制としたことで、「私は、毎週水曜日を法定休日(必ず休む日)にしよう」などと決められるようになったわけです。

とはいえ、そもそも弊社では、月のトータルの労働時間さえ満たしていればいいわけですから、たとえば週に4日、10時間ずつ働いて、残り3日(法定休日+2日)は休み、のような働き方(週休3日)にもできます。反対に、法定休日だけ休んで、残りの6日間は短めの時間で勤務する、というスタイルも可能です。

押さえておきたいキーワード「フレックスタイム制」「法定休日」

ーー「フレックスタイム制」とは?
フレックスタイム制とは、一定期間の総労働時間をあらかじめ定め、その範囲内で労働者が日々の始業・終業時刻を自主的に決められる制度です。

「毎日9時から18時まで」のように一律の勤務時間を定めるのではなく、自分の生活や仕事の状況に合わせて勤務時間を調整しやすくなるのが特徴です。

ーー「法定休日」とは?
労働基準法では、企業は原則として週に1日以上の休日を労働者に与える必要があります。この法律上確保しなければならない休日が「法定休日」です。

たとえば土日休みで、日曜日を法定休日、土曜日を法定外休日としている会社の場合、日曜日に勤務させると原則35%以上の割増賃金が必要になります。一方、土曜日は法定休日ではないため、休日労働としての35%以上の割増賃金は発生しません。

――休みの日までずらせるとは驚きです。組織の理想像をとことん追求したのですね。

佐藤:
それもそうですし、従業員側からの「土日に働きたい」ニーズも大きかったんです。

家庭の事情もありますし、お客さまの業務スピードに合わせると、土日に働いたほうが効率が良いケースもあります。あとは単純に「土日はどこへ行っても混んでいるから、土日に仕事をして平日に休みたい」という人もいました。

――納得です。この仕組みはどのくらい利用されているのでしょうか?

佐藤:
ルールを作ったあとも、やはり土日に休む人のほうが多いのですが、前事業年度では27名が計116回利用しました。

ちなみに、この制度には会社側のメリットもあります。平日はどうしても、社内連絡への対応など、差し込みの仕事が増えますよね。そうすると、時間を取ってしっかり考えたい仕事の優先順位が下がってしまうんです。そういう仕事を土日に集中して進められることで、業務の質も上がっていくんですよ。

休む曜日を選べる仕組みが、社員も会社も動きやすくする

――でも、そもそもフルフレックス制なら、法定休日まで変えなくてもいいはずですよね。人事の都合を考えれば、「日曜日で固定」したほうが楽なのでは。なぜ、法定休日まで変えられるようにしたのでしょうか?

佐藤:
そこには「割増賃金」の問題が関わっていました。

労働基準法では、法定休日に勤務をさせた場合、「休日労働」という扱いになり、35%の割増賃金を支払わなければなりません。このため、「自分の都合で日曜に働きたいだけなのに、割増賃金が発生すると、会社に負担をかけてしまう」と遠慮してしまう社員がいました。

佐藤:
このような遠慮が発生すると、「自由な働き方」が実現しにくくなります。

そこで、あらためて法律を確認してみると、法律で定められていたのは「必ず週に1日、休日を設けること」で、「必ず日曜を休日にせよ」とは書かれていませんでした。

だったら法定休日を自分で決められるようにして、「申し訳ない」と思わない制度にすればいい。そう考えて、法定休日を動かせるようにしたんです。

さらに、SprocketのサービスはWeb上で365日動いているので、いつトラブルが起きるか分かりません。当然、土日にトラブルが起きる可能性もあります。

それならば、「土日は全員休み」と固定するよりも、働く曜日に柔軟性を持たせて、土日でもすぐ動ける社員がいるようにしたほうが合理的でした。

社員の生活の自由度が上がり、会社としての対応速度も上がる。それならば、やらない手はなかったんです。

フルフレックス勤務を支えるSprocketのルール

――ここまで自由度が高いと、問題なく仕事が回るのか気になります。制度を導入して、何か変化はありましたか?

佐藤:
それが、意外と何も変わらなかったんですよ。会社の雰囲気や仕事の進め方が大きく変わったわけでもない。ただライフスタイルの自由度が上がっただけです。

――意外です。「みんな好きな日に休みはじめて、モラルが崩壊するのでは?」と想像していました。

佐藤:
繰り返しになりますが、Sprocketでは、仲間である社員たちに「大人であること」を求めています。これはつまり、自分の仕事に責任を持つ、ということですね。

休むこと自体は何も問題ありません。ただ、たとえば締め切り直前なのに本人と連絡が取れず、お客様に迷惑をかけてしまうような働き方は、責任感があるとは言えませんよね。

連絡が取れなくても問題ないように、仕事をきちんと整えたうえで休む。それができる社員ばかりだからこそ、大きなトラブルにならないのだと思います。

――自由は、仕事人としての責任と表裏一体なのですね。

佐藤:
そうです。たとえば、「嫌な会議があるから、その日を休みにしてしまおう」という逃げ方も、フルフレックス制ならできてしまいます。こういう社員ばかりだったら、これほど自由な制度を継続するのは難しかったかもしれません。

だからこそ、事前に「『自由』を守るためにどう振る舞うべきか」を社員と共有しておくことが大切なんです。Sprocketではこの前提について、入社時にきちんと合意しているので、モラル崩壊を防げています。

「反対/強い反対」制度が実現する質の高い意思決定

――ちなみに、「法定休日を変えられる」制度について、反対の声は出なかったのでしょうか?「同僚がいつ出勤しているか分からない」など、面倒だなと感じる人もいたのでは。

佐藤:
とくに反対の声はありませんでしたね。

Sprocketでは社員を「一緒に事業を成長させていく仲間」として対等に捉えているので、どのような意思決定であっても、社員一人ひとりが「反対」と「強い反対」を表明できるようにしています。

通常の「反対」は、意見をきちんと聞いたうえで、最終的には担当者が判断するもの。一方、「強い反対」が出た場合には、一度立ち止まって関係者を集め、懸念点について改めて議論することが求められます。

こういう仕組みを取り入れているので、起案する側は、「強い反対」が出ないように気を配るようになります。Sprocketが前提としている考え方に合致しているかどうかを考え、想定される疑問や懸念を事前に整理し、しっかりQ&Aも用意する。勢いで起案することがないので、「なんとなく不安」という反対意見も出づらいのです。

法定休日の変更についても、「自分で物事を決めるのが苦手な人は、どうしたらいいか分からなくなるのでは」という懸念が出たくらいで、「反対」も「強い反対」も出ませんでした。

――日頃からしっかり、社員一人ひとりと対等なコミュニケーションをされているからこそ、質の高い意思決定が実現できるんですね。

佐藤:
採用の段階からしっかり前提を共有することも、我々にとっては大切です。弊社代表の深田が担当する最終面接は、お互いの理解を深めるために、時には3時間ほどかけて対話させていただく場合もあるんです。しっかりと時間をかけて、候補者とSprocketのカルチャーが合うかを確認しているんです。

自律して働ける人を採用し、入社後も判断基準を共有し続ける。その土台があるからこそ、社員を信じて決定権を渡せるんです。

▼Sprocketのユニークな採用活動(note記事)
https://note.com/sprocketrecruit/n/nde71e1e50483

定年制まで廃止。Sprocketが社内制度を「減らす」理由

――法定休日以外にも、Sprocketならではの制度はありますか?

佐藤:
難しいですね。そもそもSprocketでは社員の裁量が大きいので、わざわざ制度になっていないものも多いので。

コロナ禍でリモートワークが増えたときには、社員同士のコミュニケーションを促す制度を設けてみたのですが……1年ほど続けたあと、とりたてて議論をすることもなく、自然と消えていきました。

結局、責任感を持って仕事を進めようと思えば、自ら必要なコミュニケーションを取りにいくことになります。会社からわざわざ仕掛ける必要はなかったんでしょうね。

――やっぱり、ここでも社員一人ひとりがプロフェッショナルとして自律していることが大きそうですね。

佐藤:
「自律」につながる話だと、Sprocketでは2026年1月に定年制を廃止しました。

――定年制を! なぜ廃止することになったのですか?

佐藤:
就業規則を見直していて、ふと疑問に思ったんです。

Sprocketではメンバーに「会社の成長にコミットすること」を求めていますが、年齢を理由に「ここから先はコミットできません」と会社側が区切ってしまうのは、おかしくないかと。

定年制があった頃は、定年後も1年更新で働き続けられる制度にしていました。でも、よく考えたら「定年を設けなければならない」なんて法律はない。だったら、そもそも廃止すればいいんです。

▼Sprocketの定年制廃止について(note記事)
https://note.com/sprocketrecruit/n/na2da3c5fa985

――どこまでも結果にコミットする姿勢が通底しているんですね。

Sprocketに学ぶ、就業規則と社内制度の見直し方

――ここまでの事例を踏まえて、他社の人事担当者にアドバイスするとしたら、何を伝えたいですか?

佐藤:
まずは、自社の就業規則を一度ちゃんと見直してみてください。

就業規則や会社の制度って、創業当時になんとなく決めて、なんとなく継続されていることが多いんです。厚生労働省の「モデル就業規則」などをそのまま使い、いわゆる“お約束”の文言で作ったようなケースですね。

多くの会社で法定休日が日曜日なのも、まさにモデルがそうなっているからです。あらためて法に立ち返ると、日曜日に固定しなければならない理由はなかった。

もちろん、法律で定められていることは守らなければいけません。一方で、法律で定められていない部分については、「このルールは、本当に自分たちの会社に必要なのか?」と考えてみる余地があります。

モデルはあくまでモデル。本来の就業規則は、会社の実態や目指す組織像に合わせてカスタマイズしていくべきものです。ひとつひとつ、「そもそも、これは何のためのルールなんだっけ?」と理由を考えてみるだけでも、多くの発見があるのではないでしょうか。

(取材・編集:夏野かおる、執筆:北村有)

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